同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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五月雨と村雨、到着

 3人が工廠の前まで戻ってくると、そこには長い髪の少女がぽつんと立っていた。誰かを待っている様子が伺えた。お互いに気づいた当人たちは、特に言葉を発するわけでもなく軽く会釈をする。

 3人の後ろから来た提督に気づくと、その少女はまっしぐらに提督に駆け寄ってやっと声を出した。

 

「あの、提督! 遅くなってゴメンなさい!」

「あぁいやいや、大丈夫。それよりも自分の用事はもう大丈夫なのかい、五月雨?」

「はい!今日は私や真純ちゃんのクラスが体育館とかの掃除担当だったので……。でもちゃんと終わらせてきたので!」

「そうか。ご苦労様。」

 提督はそう言ってねぎらいの言葉をかけながら五月雨の頭を軽く撫でた。五月雨は知らない3人がいたので恥ずかしげにしながらもニンマリと喜びを顔に浮かばせる。

 

「紹介しよう。こちら、光主さんと同じ高校の生徒会の皆さんだ。さ、自己紹介を。」

 促された五月雨は改めて三千花らに向いて自己紹介をし始めた。

「あの! 五月雨っていいます。鎮守府Aの秘書艦です。」

 

【挿絵表示】

 

「五月雨、自己紹介はもうちょっと詳しくしようか。」

「え?あ……はい。」

 提督から指示を受けた五月雨は三千花らの方に向き直して自己紹介を続けた。

「早川皐月(さつき)っていいます。○○中学校の2年生です。実はですね、私この鎮守府の一番最初の艦娘なんです!それでですね!うちには私と同じ学校からなんと! 3人も艦娘になっていましてですね!それというのが……」

 ついでに仲間の紹介をしようとしたが、その前に三千花が正解を言ってしまった。

「あ、知ってるよ。時雨ちゃんと夕音ちゃんでしょ?」

「俺達、来る途中に会って一緒にきたんすよ。」

 

「え……そうだったんですかぁー。」

 自慢気に友人を紹介しようとしたがすでに知られていたため顔を赤らめたのち、シュンと凹む五月雨であった。

 三千花らと五月雨が自己紹介しあっているうちに工廠から那珂と明石が出てきた。五月雨が出勤してきているのに気づいた那珂は時雨のときと同様に駆けて行って彼女の手を掴んでブンブン大きく振って挨拶をする。

「あのぅ、那珂さん。もしかして……見学ほとんど終わっちゃいました?」

 五月雨はおそるおそる今の状況を那珂に尋ねた。

「大体ねー。まーでもここからは五月雨ちゃんも一緒にいこ?」

 下手に包み隠さず正直に言ってしまうと五月雨が凹むと思い、続きがあることを匂わせつつのフォローをした。那珂の気づかいを理解しているのかいないのか五月雨は普段どおり元気よく返した。

「はい!よろしくお願いします!私、頑張っちゃいますから!」

 

 那珂と五月雨の掛け合いを見ていた三千花は、清純そうな容姿にぽわ~っとした雰囲気、そして挙動にいちいちドジっ子臭のするその様に、来る前に那美恵が言っていた言葉を思い出していた。

 友人のあの様子を見ると、女同士だけどあれは惚れる。いや、惚れるというよりも母性本能というか姉ごころ、言い換えれば妹萌えのような感情を掻き立てられるそんな娘だわ。あとで那美恵に土下座なりして謝りたい。

 そんなことが三千花の頭の片隅に浮かんだ。

 

 那珂や三千花らが様々な反応を見せつつ小休止がてらおしゃべりしている中、提督は再び明石と何かを話し始めた。五月雨はそれに気がついて、提督のそばにチョコンと立って静かに話を聴き始めた。

 その後、五月雨からえー!?という間の抜けた悲鳴が飛び出して那珂たちの耳に飛び込んできた。何事かと聞き耳を立てる那珂。あと残すは訓練施設だけなので、そこに関することだろうと思っていたところ、それは正解だった。

 提督から発せられた言葉は那珂と五月雨をまたも驚かす。

 

「見学の最後として、ちょうどここに艦娘が二人揃ったことだし、○○高校のみなさんにはぜひとも艦娘たちの演習試合を見ていただこうと思います。」

 そういう提督のそばでは若干涙目になっている五月雨が那珂に視線を送った。那珂は五月雨の視線を見て?を頭に浮かべ続けている。そんな五月雨をよそに提督は言葉を続ける。

「本当なら団体戦でやったほうが見応えがあるんだけど、なかなかどうして、五月雨も意外と根性ある娘でね、那珂と五月雨ならきっと皆さんの参考になる試合になると思います。」

「あの……提督。せめてますm…村雨ちゃんも連れてきていいですか? 私一人で那珂さんとは……。」

 提督は不安がる五月雨の提案を聞き入れることにし、本館にいる村雨を呼び出した。

 

 

--

 

 数分後、工廠に村雨が姿を現した。

「ねぇ提督さぁん。本館に時雨たちの姿が見えないんですけど?」

「ん?あぁ。俺たちがほかを見学してる間に出撃したんだろう。」

「そうですかぁ。あと本館今誰もいないんですけどまずくないですかぁ? 今日は妙高さんも出勤してきてないようですし。」

 そう村雨が言った妙高は、鎮守府Aの唯一の重巡洋艦の艦娘である。那珂は偶然にも会うタイミングがなかったのでどういう人なのかわからずじまいでこの2ヶ月経っていた。

 

「あ!そうか。そりゃまずいな。」

 村雨から本館の様子を聞いた提督は顔を明石のほうに向ける。

「明石さん。このあとの演習試合の段取りとかお願いできるかな? 俺本館に戻ってなきゃいけないからさ。」

「はい。任されました。こっちは私が仕切っておきますからお戻りになられて結構ですよ。」

「ありがとう。……それじゃあみなさん。演習試合が終わったら本館に戻ってきて下さい。それで俺から最後の説明と質疑応答で、見学を終わりたいと思います。」

「「「「はい。」」」」

 

 挨拶もほとほどに、提督は人が誰も居ない状態の本館に駆け足で戻っていった。その様子を那珂ら7人は眺めていた。

 

「で、私なんで呼ばれたんですかぁ?」

 当然の質問を誰へともなしに投げかける村雨。それに五月雨が答えた。

「あのね真純ちゃん。これから那珂さんと演習することになったの。私と組んでくれないかなぁ?」

「え゛、 今から!?  また急ねぇ……。いいわよ。協力したげる。」

 驚いたが、さすがに五月雨一人で那珂と戦わせるのも酷だと思い、村雨はニコッと笑ってOKを出した。友達が快く承諾してくれたので五月雨は胸元に手を当ててホッと一安心する。その様子を見て明石が音頭を取り始めた。

 

「村雨ちゃんも了承したということで、じゃあ3人とも。艤装付けて演習場に行って下さい。」

「「「はい。」」」

 明石を先頭に那珂・五月雨・村雨は工廠に入っていった。それに続いて三千花らもついていった。

 


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