同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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見学(出撃デモ)

「……ということで、工廠の案内を終わりたいと思います。○○高校の皆さん、お疲れ様でした。服や頭は入り口でさっとホコリを払って行ってくださいね。そのままだと汚れちゃいますよ。」

 明石からの工廠の説明が終わった。このあとはどこへ行くのか三千花らが楽しみにして待っていると、提督は明石と何かを話し始めた。二人は時々視線を那珂のほうへ向けている。那珂はその視線に気づくと?を頭に浮かべた。那珂本人にも何が始まるのかわかっていない。

 明石と話し終わった提督が口を開いた。

「さて、次は訓練施設と出撃用水路を見ていただきます。まずは出撃用水路から行こうか。」

 そう言い終わると、提督は那珂に向かって言葉を続ける。

 

 

「じゃあ那珂。出撃してくれ。」

 

 

 

「……へっ!? 今!?」

「そう。今。」

 口を開けてポカーンとする那珂。提督は一言で肯定し、そんな那珂の表情を気にも留めない。

「き、聞いてないよー!!」

「そりゃ、君には話してなかったし。」

「うう~ずるい~! ひどいよ提督ぅ~!」

 

 事前に教えてもらっていなかった突然の出撃の指示に不満ブーブー垂れてぐずる那珂。その不満を見透かしていたのか、提督は那珂をうまく言いくるめる。

「何言ってんだ。今後はもしかしたら緊急の出撃だってありうるかもしれないんだぞ?その時のための練習練習。あと学校のみんなにかっこいい出撃を見せるいい機会じゃないか。」

 ニヤニヤしながら指を指して言う提督の説得にノって、三千花や書記の二人も追い打ちをかける。

 

「そうよなみえ。あなたの出撃見せてよ。」

「そうっすよ!会長のかっこいい出撃みたいっす!」

「会長、これもちゃんと録画しておきますので、頑張ってください!」

 そんな三人と提督をジト目で睨む那珂。提督と明石は学校の三人に輪をかけてニヤニヤしている。こいつら図りやがってゆるせね~という心中な那珂だったが、出撃シーンは確かにいい報告材料になるだろうと考えて無理やり自分を納得させることにした。

 

「わかった~わかりました!やりますよやればいいんでしょ~。」

「じゃ、那珂ちゃん。こっち来て艤装つけましょ~。あ、学校の皆さん、艤装身に付けるところも撮影しておいたほうがいいですよ。」

 明石は那珂を工廠へ再び入るよう促し、那珂はそれについて行った。

 

 

--

 

 工廠の一角で那珂が艤装をつけ始めた。その様子を書記の三戸と和子はタブレットとデジカメでそれぞれ撮影をする。

「うぅ~……。なんか見られたらいけない部分撮られてるみたいで恥ずかしいなぁ~。アイドルの裏っかわって撮られるもんじゃないっておばあちゃんも言ってたぞ~」

「頑張れ、未来の艦隊のアイドルさん。」

 以前那珂が言っていた艦隊アイドルにわざと触れて提督がからかうと、那珂はプリプリ怒って恥ずかしがる。

 

 珍しく素で恥ずかしがっている親友の様子を目の当たりにした三千花は提督のそばに行って提督に打ち明ける。

「なみえの本気で恥ずかしがるところ、久々に見ましたよ。西脇提督、あの娘の今の様子結構貴重ですよ~。」

「ははっ。そうなのか。じゃあ俺はじっくりネットリと眺めておこうかな?」

「提督さんも好きですね~」

 肘で提督の腕をつっついてお互い笑い合う提督と三千花。そんな二人の様子に気づいた那珂はグッと睨みつけたが、二人はそんな視線は気にも留めない。那珂は諦めて本気でため息をつきつつ、艤装の装着を続ける。

 

 数分後、那珂は艤装の装着が完了した。艤装を身につけた那珂に三千花が質問する。

「ねぇ、艤装って重くないの?」

「ううん。そんなに重くないよ。那珂の艤装は制服以外で外側で身に付ける物少ないからね~。」

 装着した本人に続き、明石が補足説明をする。 

「艤装はね、担当の艦によって形も大きさもまちまちなの。那珂ちゃんの艤装は、軽巡洋艦の艦娘の艤装の中でも、とにかく身軽さ・細かい作業ができるよう行動力重視で作られているのよ。その分防御が弱いけどバリアを出力する受信チップは多めだし、今のところうちの那珂ちゃんならそれを補って余りある性能発揮して活躍できてるし、ベストフィットしてると思いますよ。」

 

 那珂の艤装は見るからに重量ありそうな白露型(五月雨以前)と違い、その制服も艤装の一部とされているため、外部ユニットたる機器が少ない。そのためいざというときに身代わりにできる外装が少なくベースの防御性能が低い。その分装着者の身体能力をフルサポートして自由に動いて活動しやすく設計されている。奇抜な動きをすることのある那珂にとってはふさわしい艤装と制服なのだ。

 

「へぇ~そうなんだ。普段と何が違うの?」

 と三千花が那珂の肩や腕に触れる。それに続いて和子も那珂の腕や腰、腰に付いている魚雷発射管に触る。(三戸はさすがに触れるのをためらった)

「今は同調してないから普段のあたしそのままだよ。だけど同調始めると、あたしはスーパーガールになるのだ~」

 両腕でガッツポーズをする那珂。那珂と三千花がふざけあっていると、ここでもやはり明石が補足説明をする。

「3人とも。那珂ちゃんが同調始めたら彼女にうかつに触れちゃダメです。那珂ちゃんや川内っていう姉妹艦の制服含めた艤装はね、ほぼ全身電磁バリアで身を固めるから、素肌以外のところ触ったらダメ。本人が意図的に機能をオフにしてくれないかぎりは本当に危ないからね。あと、装着者本人の腕力や脚力も大幅にアップするから、同調し始めたら周囲に気を配るよう、注意しています。」

 

 明石の言葉には真剣味がある。本当に危ないのだと、三千花らはその空気だけでも艤装の取り扱いの注意具合を感じられた。

「とはいえ今日はデモンストレーションなので、電磁バリア関係はこちらで機能をオフにしちゃいます。だから安心して那珂ちゃんにペタペタ触ってもいいですよ。」

 明石の一言にホッとする三千花ら。

 

「じゃ、那珂ちゃん。出撃行ってみようか。今日はどうする?屋内からやる?それとも外からする?」

「撮影してもらいたいので、今日は外の水路から行ってみま~す。」

 

 出撃用水路は2段式になっている。艤装が運び出せるくらいの重さなら自力で運び、外の出撃用水路の脇で艤装を身につけ同調開始して水路から海へと出て行く。それ以外の大きさやその他条件によっては、工廠の中にある屋内の出撃用水路から出られるようになっている。艤装を外まで運び出さずともクレーンで運ばれてくる艤装を一人ひとり順番に身につけていくことにより流れ作業で連続してスムーズな出撃に臨める。ただ、厳密な条件分けではなく、あくまでも目安である。

 水路は全部で3つ。屋内と屋外は別々というわけではなく、すべてつながっている。そして3つの水路は小さな湾へと流れ出て、さらには川へと出て、最終的には海へと流れていく。

 

 一行は工廠の最南の扉から出て外の出撃用水路に向かう。

「結構軽やかに歩くのね。」

 三千花は那珂が思ったより軽やかに歩く様を見て感想を述べた。

「あたしはね。けどさっき会った時雨ちゃんや夕立ちゃん、もう一人村雨っていう娘は、駆逐艦っていって、あたしとは種類が違うんだ。その娘たちの艤装はかなり大きいの。だから時雨ちゃんたちは同調して周りに気をつけて歩いて外の水路に行くか、屋内で艤装装備させてもらって出撃するの。そのままでも歩けないこともないみたいだけど、中学生の力じゃ同調してないと相当つらいみたい。」

 那珂は艦娘たちの出撃時の苦労を語る。三千花はそれを聞いてふぅんと、艦娘になる人たちって大変なのねとさらなる感想を口にした。

 

 

--

 

 外の出撃用水路に着いた那珂は水路の脇のスロープから降りていく。スロープの先には水路、小型の湾へとすぐに流れ出る。スロープから足を出す前に那珂は同調を始めた。三千花らは一体いつ同調するのかワクワクしながら待っていた。傍から見ると、艦娘が同調し始めたかどうかはわからないので三千花らは全く気づいていない。

 那珂は三千花らがきっとわからないだろうと察して、足を水路に浮かべる直前に上に向かって手を振って叫んだ。

 

「みっちゃーん、みんな~! もう同調し始めたから、水に足をつけまーす! スロープ途中まで降りてきていいから、ちゃんと撮影してねー!」

「え?もう同調してるの? ……全然わからなかったわよ!」

 少しだけ文句を言いながら、三千花ら3人はスロープを降りて途中まで進んだ。那珂とは1m弱離れている。

 

 近くのスピーカーから明石の声が発せられた。

「第一水路、艤装装着者、ゲート、オールグリーン。軽巡洋艦那珂、それでは発進して下さい。」

 そのあと、提督の声も響いてきた。

「軽巡那珂、暁の水平線に勝利を。」

 那珂も真面目にその言葉を反芻する。

「暁の水平線に勝利を。」

 それは、鎮守府Aでは出撃時にたまに言われる、いわば旅の安全を祈る行為と同様のものである。掛け声をかけるのは何も提督に限ったことではなく、気になる人がいればその都度誰かがする流れである。

 

 那珂の足元に、波紋が立ち始める。ボートなどでモーターのあたりでよく見る波紋だ。波紋がある程度湧き上がったあと、それらはすべて静かに消え去った。すると那珂は水面をまるでアイススケートをするかのようにスイ~っと進み始めた。三千花らにとって(一般人や艦娘自体も)その仕組みはわからないが、その艤装が人間を船なしで海上を自在に移動させる素晴らしい機械なのだと改めて思い知った瞬間だった。

 

「もっとすごい出撃かと思ったけど、これはこれで不思議な感じで感動だ……」

 三戸は目を輝かせて、そのすべてをデジカメで撮影し続ける。

「会長、スケート選手みたいで素敵です。」

 和子は頬を少し赤らめて羨望の眼差しで那珂を見ている。

 やがてスロープのところからは那珂が見えなくなったので三千花は見える場所に行こうと二人を促して駆け出す。3人はスロープを上がりきると、工廠のほうとは逆の海に向かって水路沿いを走っていき、工廠の敷地を出て那珂が見える位置にたどり着いた。

 

「お~い!みっちゃーん!」

 水路を出て海岸線から少し離れたところで那珂は三千花たちに手を振った直後、思い切りしゃがんで力を溜めるような仕草をして、そして掛け声とともに飛び上がった。

 

「う~~~てりゃーーー!!」

 

【挿絵表示】

 

 

 艤装との同調により脚力も向上していた彼女は常人よりも、しかも常識で考えれば人間がジャンプすることなどありえない海面からジャンプした。その跳躍力と高さに、三千花たちはみな那珂のいる空中に向けて首を引いて見上げる。

 

「は、ははは……会長すげぇや。なんだあれ。」

「あんなに高くジャンプするなんて……普通の人間では考えられませんね……。」

「ちょっとなみえったら、いくら艦娘になってるからってはしゃぎ過ぎのレベルを超えてるわよ……。」

 三戸、和子、そして三千花は目の前で行われた艦娘らしいアクションその2を見て、呆れと感心が混じった感情を持って感想を口にしあった。

 そして那珂はゆっくり、そして少しずつ加速して海面に勢い良く着水した。

 

「あ、会長パンツ丸見えだわ~~」

 何気なく三戸がつぶやいたその一言に素早く反応した三千花と和子はギロリと睨みつけた。

「っと思ったけど見てません見てませんー」

 三千花ははぁ……と溜息を一つつき、那珂に向かって大声で注意した。

「ちょっとーーーー!!なみえーーー!!あんたの見えてるわよーーーー!ここからだとーーー!」

 あえて何が、というのは友人の名誉のためにも三千花は言うのをやめておいた。着水して方向転換した那珂は三千花の言うことがわからなかったのでそのままサラリと流すことにした。そのため那珂の本日の下着は、三千花・和子・三戸など、極々一部の秘密となった。

 

 三千花らが工廠とは逆の海沿いの道路脇に姿を表したのを確認し、那珂はスィ~と小船かサーフィンように近寄り三千花らに手を振った。お返しにと三千花、三戸、和子の3人も手を振り返し、三戸と和子は手に持っていたデジカメやタブレットを掲げて撮影しているという意思表示をする。

 3人のうしろにはいつの間にか提督と明石も来ていた。

「さ、存分に撮影してくれ。彼女が艦娘の正しい知識を普及するための礎になるなら俺にとっても、彼女にとっても願ってもないことのはずだ。」

 そう言って提督が指さした先にいる少女の水上移動とその立ち居振る舞いはそのすべてが優雅で美しく、その場にいた全員にとってその少女が夢見たアイドルそのもの、注目を浴びるにふさわしい存在に見えた。

 

 

 

--

 

 その後、三千花らは那珂にポーズをとらせたり、ある程度の距離を移動してもらいその様を撮影した。

 

「いや~艦娘ってすごいわ。知ってる人がやってるだけに感動も倍増っすわ。」

 三戸が素直な感想を口にする。それに和子と三千花も頷く。

 提督が3人の真後ろまできて、自身の感想を述べた。

「そうだろ。俺もさ、五月雨っていう艦娘の初めての出撃の様子や深海凄艦との戦いの様子を見た時感動したよ。ただそれと同時に、あんな化け物と戦うことになる人達を自分が果たしてまとめ上げることができるのか、不安も感じたね。」

 

 言葉の途中で表情を暗くする提督。三千花らは、身近な大人がふと漏らした不安を耳にして、その方向を振り向く。

「俺にとってはさ、艦娘っていうのは特別な存在じゃなくて、ともに過ごす・戦う仲間として考えたいんだ。もし他の鎮守府のように本当の軍よろしく俺が上官で、艦娘をただ戦わせるだけの部下というふうに捉えたらきっと俺は何もできなくなってしまうと思う。もちろん戦うのに統率力は必要だ。けど俺にはまだまだ力も理解も足りない。正直、俺は本業の会社で別にリーダーやったこともなく平々凡々に過ごしてきた会社員でさ。人をまとめ上げるというのがわからないし、組織を運用することの実感がないんだ。33のいい年こいたおっさんだけど、まだまだ学ばないといけないことだらけさ。」

 三千花らは黙って提督の言葉に耳を傾け続けた。

 

「ところで君たち、江戸時代にあった、○○○って組知ってるかな?」

 唐突に関係ないことを聞かれて三千花らは?と思ったが、とりあえず提督の質問に答えた。

「はい。日本史の授業で習ったことあります。」

 

 三千花らが知っていることを確認すると提督は続けた。

「身分に関係なく、志ある者は誰でも同志として扱う。その分それ相応の覚悟を決めなければいけなくて内情は賛否両論あったらしいけど、統率が取れてて当時かなり実用的な組織だったそうだ。俺はそういうのに憧れてね。光主さんを含め、五月雨や時雨たち、明石さんや他の艦娘ら、そしてこれから入ってくる人たちを、志あれば等しく共に戦っていく仲間として迎え入れたい。ただ年齢差や経験はどうしようもないから、時には娘みたいに、時には友人、時には妹や姉、そして人生の師のように、その人との関係性をなるべく大事にして接していきながら、この大事業をともに乗り切りたい。けれどもその人の生活があるから、まずは普段の生活を第一に大切にさせる。その上で海や世界を守りたいという志ある人なら、少なくともうちの鎮守府では誰でも運用に携われるようにしたい。みんなでこの鎮守府を運用して戦っていきたいんだ。」

 

「「「提督……」」」

「このこと、那珂や他の艦娘たちには内緒で頼むよ。」

 またしても熱く語ってしまった事に気づき、提督は恥ずかしそうにもこめかみ辺りを掻くのだった。

 

 提督から思いを聞かされた三千花は、自身が今まで見知った艦娘の世界のことを思い出しつつ、その内容と提督からの話を頭の中で照らしあわせていた。

 

 雑誌で紹介されている艦娘たちはみな華やかで多くの人の目に留まりやすい。未だ侵攻続く世界の海を荒らす化け物を倒すために戦う艦娘たちは強くて可愛いあるいは美しい存在として興味惹かれている。ただ大多数の一般人にとってみれば、自分たちには関係ない世界での話・テレビに映るアイドルや俳優のような手の届かない存在だという扱いに近いのが現実である。しかも芸能人などのように一般的に考えて怪我や死亡事故のような危険性が低い現場ではない。表向きに知られる憧れだけでその思いを終始させる人がほとんどなのだ。結局のところ、現実味がないという一言で片付く存在なのだ。

 しかしその裏では、こうした大人たちが彼女たちのために環境を整え、見えない部分を必死になって支えている。裏を知ると途端に見方が変化するのは艦娘界隈でも同じである。

 

 戦っているのは艦娘だけではなかったのだと、三千花らはそれらを少し理解できてきた。

 

 世の常で、中にはふんぞり返って堕落した末に艦娘たちに手を出す提督、ブラック企業のような運用をして艦娘をこき使うをする提督もいる。しかしこの提督はきっと違うと三千花は感じた。初めて会って間もないにもかかわらず、心の中を三千花たちにさらすほどの馬鹿正直な誠実さを持つ人、西脇提督。普通の人達が艦娘になるように、彼もまたいきなり提督になった普通の人だった。

 

 三千花らは、この大人も自分たちと同じく悩んで試行錯誤して日々を過ごしているのだなと、身近に感じ始めていた。特に三千花は、あの出来る親友の琴線に触れる何かがこの大人の男性にある。だからこそ、親友はこの西脇提督という人を助けて尽くそうという気持ちになっているのだろう、きっと目の前の男性には那美恵が必要で、那美恵にも西脇提督が必要なのだと想像した。

 生徒会の面々も、その度合は違えど少なからず近い気持ちを抱き始めていた。

 

 しかし三千花には不安もあった。

 現実的に考えて、ただの高校生である自分たちがこの大事業に本当に貢献できるのか。また、貢献するだけの価値や将来性はあるのか。西脇提督に、親友を本当に託してもいいのか。

 三千花の心にあるのは、友人那美恵のために何かをすること。祖母が偉大だった那美恵は昔からとにかく無茶をした。偉大な祖母と父親に鍛えられたおかげで、那美恵はその無茶をそのたびに切り抜け、新たな世界を築き上げてきた。そして側には必ず三千花がついていた。だから三千花は那美恵の能力も無茶も限界も把握していた。

 

 三千花が自分の立場としてできるのは、学校から艦娘を提供できる環境を作るよう学校に働きかけること、それに協力することだ。自分が艦娘になろうという思いもないわけではないが、那美恵が艦娘部の存在を生徒会メンバーと切り離して作ることを考えていることは明白だった。その先に続くのは、新たなつながりなのだ。

 それゆえ三千花ら自身が艦娘本人になるわけにはいかない。親友を支える立場に徹する。結果的に艦娘と深海棲艦の戦いという大事業に貢献することができれば十分なのだ。三千花はそう思った。

 すべては親友である那美恵のため、というのが大前提であった。

 

((私にできるのは、どのような形になったとしても、なみえを信じて協力するだけ))

 

 

「おーいみっちゃーん!みんな~! そろそろ上がっていーい?」

「えぇ!いいわよ~! ありがとー!色々堪能したわ~!」

「えへへ~」

 左手で頭の後ろを掻いてにこやかに笑った後、那珂は元来た水路に入った。明石は彼女の艤装解除を手伝うために駆けて行って工廠に戻った。上がるために外の水路ではなく、那珂はそのまま水路を進んで工廠の中に入っていった。それを歩きながら見届けた三千花らは少し歩幅を広く歩いて工廠の入り口へと急いだ。

 


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