同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

17 / 213
弱まる艦娘たち

 戦場の並びとしてはこうなっていた。(深海凄艦=敵)

 

前方:

 敵重巡級x1

 天龍(小破)、吹雪、深雪(小破)、

 白雪(中破)、龍田

 敵軽巡級x2

後方:

 那珂、時雨、夕立

 敵重巡級x1、敵軽巡級x1

 五十鈴、五月雨、村雨

 

 

「あ、雨だ……」と五月雨。

「ちょっとまずいわね。」と五十鈴も何かが気になった様子。

 

 一方の那珂たちも。

「雨かぁ。このまま長引くとまずいかもね。」と那珂。

「なんで?」

 とよくわかってない様子の夕立。それに対して那珂が説明をした。

 

「艦娘の艤装からは電磁バリアが出てるでしょ。それは雨みたいな継続して水がかかる状況だと効きが弱くなるってさ、提督から借りた本にあったから。」と那珂。

「そーだっけ?あたしよく覚えてないっぽい。」

「僕ら艦娘にとっては大事なんだからさ……ちゃんと覚えておこうよ。」

 曖昧な発言をする夕立に時雨が突っ込んだ。

 

 

 艦娘の艤装は、様々な攻撃をしかけてくる深海凄艦に対抗するために専用の最新型の電磁バリアが組み込まれている。2000年代も50~60年経つ頃には、かつて映画やアニメなどで登場したような完全な電磁バリアとはいかないものの、かなり近い形で現実のものとなっている。

 深海凄艦が放つ特殊な体液や砲弾のようなものは装着者の100cm~50cm以内に近づいた時点で高確率で破壊・消滅させて直接被弾する危険性をかなり減らせるようになっている(すべてではない)。深海凄艦の体当たりなど物理的な攻撃に対しては直接的な効果はなく防ぎきれないが、触れれば多少は弾いたり、電流でビリっとしびれさせてひるませる程度には有効である。

 

 艤装の電磁バリアの装置から放出される電流を安全に受信するチップを衣類に仕込み、その箇所を部分的な電磁バリアにさせられる仕組みも採用されている。

 そのため(一部の艦娘では制服が支給されているが)艦娘の着用する服は基本的には動きやすいもの、チップを取り付けられるだけの布地があるなら自由とされている。(戦闘中の衣類の破損を補償するため(特に学生艦娘)どういう服を着て出撃するかを事前に申請する必要がある)

 

 ただし艦娘の艤装の電磁バリアには弱点もある。水しぶきなど瞬間的に濡れる程度であればすぐに電磁バリアの機能は復活するが、雨天などの継続して濡れるシーンでは電磁バリアは受信するチップ等含めてショートするおそれがあるため自動的に無効化されるか、最小限の出力にまで落ちるようになっている。

 大体の艦娘は雨天時の防御能力の減退までは知らないという人がほとんどだが、勤勉な人物であればそこまで調べて艦娘をするので一部の艦娘たちはそれを踏まえて出撃任務等に挑んでいる。

 

 

 

 鎮守府Aの場合だと、那珂、五十鈴、五月雨、時雨の4人がそれに気づいていた。

 

 

「隣の鎮守府の人たち、もちろん知ってますよね……?」

 不安げに五月雨が言う。

「さあね。自信家の人があちらさんにはいるようだから私達が余計な口出ししなくていいんじゃないの。」

 五十鈴は冷たく言い放つ。

 

「隣の天龍さんたち、大丈夫かなぁ?」

 五十鈴とは違い、隣艦隊の心配をする那珂。

「一応通信して確認しておいたほうがいいのでは……?」

 時雨も心配になったので提案した。

 

 

 気になって那珂が天龍と龍田に通信してみると、天龍は息を飲むような様子をしたのが呼吸で読み取れたので、おそらく知らなかったか忘れていたことが伺えた。一方で龍田は知っているようだった。それから隣艦隊の状況を聞くと、小破2人、中破1人とのことだった。防御能力が弱まってしまっているこの状況は、隣艦隊にとってはかなりまずい状況なのは瞬時に理解できた。

 

 早く隣艦隊の支援に行ったほうがよいのはわかっていたが、那珂はひとまず自分たちに任された敵を倒すのが先だと判断し、五月雨にそう伝えた。

 

 

 五月雨から通信があり、どちらを撃破すべきかと那珂は聞かれたので那珂は五月雨を学ばせるためにあえて突き放すようなアドバイスをした。

「うーんとね。五月雨ちゃんたちとあたしたちと、深海凄艦の距離あるでしょ?目視でいいからさ、どっちがどういう位置関係か判断してターゲットにしてみよっか。」

 そういうと五月雨は少し考えたのち、軽巡級を狙うと言ってきた。

「わかった。じゃああたしたちは大きい方を引きつけて2匹の距離を離すようにするから、その間に速攻で撃破できるようにしてみてね~」

 

 五月雨たちが軽巡級を狙うというので、那珂たちは重巡級に射撃をして引きつけることにした。時雨、夕立とともに五月雨たちとは逆方向に行くようにポイントを慎重に絞って射撃する。弾薬の残量も気にしなければならないのであまり多く撃つことはできない。

 那珂たちは数発だけ重巡級の本体を狙ってみたが、やはりカツンカツン!と弾く音しか聞こえない。装甲である鱗だが甲羅だかソレが軽巡級以上に硬いのが見受けられた。

 

 

 射撃を行なっていると、突然重巡級が口を大きく開け、舌を筒のように丸めて何かを吐き出してきた。それは吐き出すというよりも、発射や砲撃したという表現がふさわしい行動であった。

 

 

ボフン!!!

 

「!!」「!!」「!!」

 

 

 重巡級の突然の行動に回避行動を忘れる那珂たち3人。狙われたのは……時雨だった。自分に向かって何かが飛来してくるのがわかった時雨。そのままでは真正面からその何かが当たる。その何かはよくわからないが艤装のバリアが弱まった今、素肌と距離が近くて薄い学校の制服にあたるとまずいと直感で時雨は感じ、とっさに背をむける。その何かに対して、背中の艤装を向ける形になった。

 

 時雨を助けようと移動しかけた那珂と夕立だったが距離的に二人とも間に合わない。夕立のほうが近いとはいえ、彼女も時雨に対して何かをしてあげられるほどの近さではなかった。が、夕立は時雨を突き飛ばすか最悪かばうために距離を詰めようと試みる。

 

 時雨が背を向けるのと、夕立が近づいたのはほぼ同時に行われた。

 そして当たる直前時雨がふと横に視線を送ると、かなり近くに夕立が近寄ってきていることに気づいた。

 

 

ズガアァァーーン!!!

 

【挿絵表示】

 

 

 重巡級の筒上の舌から発射された何かは時雨の艤装に当たった瞬間爆発を起こした。その場には爆風が吹き荒れた。爆風で吹き飛ばされたのは直接当たった時雨だけでなく側まで接近していた夕立もで、二人とも海面に横たわるように着水する。

 

 直接被弾した時雨の艤装は表面の装甲が砕け散り、めくれ上がって内部構造もところどころ破壊されていた。艤装のコアと魚雷発射管の連動ができなくなっており全基使用不能、艤装の浮力を発生させる装置の一部も故障し、移動に支障はないが時雨は海面に浮かびにくくなってしまった。中破と判定されうる状態である。時雨本人は肉体に当たらないようにしたのが幸いしたのか、目立った外傷はなかった。背中から吹き飛ばされたときに衝撃で首を強めに曲げてしまったことによる軽いむち打ちと、強く海面に倒れた衝撃で軽い打ち身をした程度だった。

 

 一方夕立は爆風で吹き飛ばされ、なおかつはじけ飛んできた時雨の艤装の破片がスカート付近と片足の魚雷発射管にあたった。かろうじて残っていた電磁バリアで当たる速度は少しだけ落ちたがその衝撃で魚雷発射管は足から外れて無くなっていた。そしてスカートは破けてふとももがあらわになり、かすめた部分からは血がにじみ出ている。こちらは小破と判定されうる状態となった。

 

 夕立はすぐに起き上がって移動できたが、時雨は艤装の浮力が効くぎりぎりの体勢でしゃがんだまま立とうとしない。

「時雨!時雨ってば!大丈夫?ねぇ!」

 

 夕立が必死に呼びかけると反応はするが意識が朦朧としている様子。急いで那珂に大声で知らせる。通信するのを忘れるくらい夕立は慌てていた。

「那珂さん!どぉーしよぉ!!時雨が死んじゃうよぉー!!」

 

 爆風の影響を多少受けていた那珂だったが時雨が吹き飛ばされた位置まですぐに辿り着いた。

「時雨ちゃん、大丈夫?死んでない?」

「だいじょう……ぶです。ふたりとも、僕を勝手に殺さないで……ちょっと頭がふらふらするだけだから。」

 

 二人の状態を把握する那珂。夕立は1基の魚雷発射管が吹っ飛んでなくなっただけで健康状態も良さそう、まだ戦えそうだと把握したが、時雨は艤装は実質的には大破同様、本人の健康状態も思わしくなさそうで、戦闘続行は不可能と判断した。

 

「うーん……夕立ちゃん。時雨ちゃんを連れて護衛艦に戻ってくれるかな?」

「え、はい。それはいいけど、それじゃあ那珂さんは?」

「あたしは一人でも大丈夫。適当にあしらって五月雨ちゃんたちと一緒に残りを倒しておくよ~」

 さっさと行けといわんばかりに、手をひらひらさせて時雨を早く連れ帰るように夕立を促す。

 

 爆発音を向かい側で見聞きした五月雨から通信が入る。爆発から少し経ってから通信を入れたということは、その最中までは五月雨たちは軽巡級とのまさに戦闘まっただ中ということが伺えた。今は落ち着いたのだろうと那珂は推測した。

「ついさっきものすごい爆発音しましたけど、大丈夫ですか?」と五月雨。

 

「うん。時雨ちゃんが中破したの。敵の砲撃食らっちゃって。」

「え!?中破ですか!?だ、大丈夫なんですか……!?」

 一気に取り乱して五月雨が聞き返す。

「落ち着いて五月雨ちゃん。本人に外傷はないから。だけど意識がちょっとふらふらして危なそうだから護衛艦に引き返すように指示したよ。夕立ちゃんも小破してるから彼女に護衛してもらって一旦二人とも下がらせるから。ところでそっちの小型のやつはどーお?」

「問題ないわ。倒したから安心して二人を戻らせて頂戴。」

 返事をしたのは五十鈴だ。

 

 残った重巡級は那珂や五月雨たちの周りをぐるりと大きく回ろうとしている。そのため逆の方向から時雨と夕立を逃がすことにした。念のため隣艦隊の天龍にも通信する。自分らにも中破のやつがいるから下がらせたいが、素早い軽巡級に回りこまれてて逃がせそうにないとのこと。手が空く艦娘がいるなら自分らのほうの撃破を手伝って欲しいとお願いしてきた。

 彼女らはまだ、重巡級と軽巡級に苦戦しているのだ。軽巡級のほうは1匹倒していた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。