同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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 緊急の出撃はやがて神奈川第一鎮守府の艦娘達との合同任務にまで展開していく。神通はそこで、神奈川第一鎮守府の神通と出会う。ベテランそうで凛とした大人の女性。かたや自分は根暗な女子高生だと勝手に比べて憂鬱になるが、その出会いは・・・。


神通たちの戦い

「はい。……は? あの、提督。これで三戦目だったんだけど。私達艦娘は単なる移動でも蓄積すると地上移動するのより疲れるの、分かってるわよね? で、詳細は? ……えぇ。えぇ。神奈川第一の人たちが? はい、分かりました。さすがに次で終わりにしてほしいわ。うん、それじゃあね。」

 

 神通は、通信を終えた五十鈴が振り向いたその瞬間、あることわざが思い浮かんだ。振り向いた五十鈴の顔がややウンザリといった表情になっている。

 

「もう感づいてると思うけれど、お次の現場が決まったわ。」

「また……ですか。」

「えぇ。またよ。お隣の鎮守府、つまり神奈川第一の艦隊が風の塔で警戒態勢を取っているらしいわ。合流してあちらの作戦任務に加わって欲しいそうよ。」

 

 よそとの合同任務と聞き、神通は身構える。そして再び緊張で身をこわばらせた。それは五十鈴にはあっさり見抜かれ、やんわりとフォローされる。

「まぁそう固くならないで。別に怒られに行くわけじゃないんだし。あっち主導なら私達は従って動くだけでいいんだから楽なものよ。」

「そ、それはそうですが。」

「とりあえず行きましょう。」

 

 五十鈴の言葉に相槌を打って表向きは納得の様子を作るも、内心は不安で胃がキリキリ痛むような錯覚を覚えながら一路、アクアラインに沿って移動し始めるのだった。

 

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 神通と五十鈴は木更津側から伸びるアクアラインに沿って移動していた。浅瀬がかなり沖まで伸びる海岸線、神通たちはなんとなしに海を眺めつつ、ようやくアクアラインの真下まで来た。

 そのまま沿って進もうとしたところ、南西から嫌な影が近づいてきたのに気づいてしまった。気づきたくなくても否が応でも気づいてしまうそれは、この日初めて見る軽巡級だが、野良であるために提督からの情報がなく、この時の二人にはすぐに判別つかなかった。

 

「え!?あそこにいるの……深海棲艦よね?」

「えぇと……私にもそう見えます。」

「潮がまだ引いてるから沿岸間近に行く恐れはないけれど、今日だけで4回目よ。これだけ多く目撃するのはなんかおかしいわね。」

 五十鈴はそう口にする。神通も同じように感じていたので相槌を打つ。そして思考を切り替えて戦闘準備を取り始める。さすがに4度目となると、言われなくてもなんとなくタイミングがわかってくる。

 神通が構えると、五十鈴はそれをチラリと見て音を出さずに微笑み、そして真面目な表情に戻った。

 

「風の塔に行く前にもう一戦よ。今度のやつは……遠目から見てもでかいわ。私が先陣切って切り込むから、あなたは距離を開けて援護してちょうだい。あなたの狙いやすいやり方でね。」

「……はい。」

 

 それ以上の会話は、二人には不要だった。

 

 軽巡級は思いの外硬く、砲撃ではなかなか傷がつけられなかった。そして大気中に飛び出ると燃え上がって火の玉になる体液を放つので安易に近づけない。このままではらちがあかないと判断した五十鈴は、干潟に追い込んで動けなくし、魚雷で撃破しようと提案した。

 その作戦は成功し、辛くも軽巡級を撃破した二人は深い溜め息をつき、踵を返してようやくアクアライン沿いに戻ることができた。

 

 神通たちがその後風の塔に到着した時、昼をとうにすぎていた。風の塔の一角、桟橋が設置された場所で数人の艦娘が待っていた。

 

 

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「あなた方に状況をお伝えしておきます。」

 

【挿絵表示】

 

 目の前の艦娘は神通。といっても自分のことではない。神奈川第一鎮守府から出撃してきた、軽巡洋艦艦娘、神通だ。同じ制服で同じ艤装つまり武装。

 何もかも自分と同じだが、違う点もある。当然、担当している人物が違う。高校生で割りと低身長である自分とは違って身長が高く、すらっとしていて美しい。年頃は大学生かそれより少し上だろうか。前髪は長いため、鉢巻をしてわずかにたゆみを持って押し上げられ、そして横に流されている。そしてよく見ると自分の制服や艤装と違う部分がある。ちょっと豪華だ。

 物腰は穏やかそうだが、喋り方の端々に機敏さが感じられる。ほのかに冷たさも感じられた。なにより、神通を見る他の艦娘たちの顔がこわばっているかあるいは尊敬の眼差しを燦々と送っていることで感じ取れる。

 

 

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 神通は五十鈴とともにアクアラインの途中にある風の塔、その一角にある桟橋に神奈川第一鎮守府の艦娘らとともに、旗艦たる人の説明を聞いていた。顔合わせをして艦名を聞いた瞬間、“あ、自分と同じ艦だ”と感じた。制服と艤装が同じという担当艦でかたや新人、かたや大人の女性で回りから尊敬されていそうなベテラン旗艦。勝手に比較してしまい、気まずい、肩身が狭く感じる。

 

 自己紹介をして神奈川第一の神通も何か思うところがあったのか、鎮守府Aの神通にこう指示してきた。

「あら、あなたも神通担当なのですか。そう……。通常、同じ艦隊に同じ艦がいるのは望ましくありません。ですが合同任務ではまれにあるそうです。紛らわしいので、申し訳ございませんがあなたには別の呼び方を提案致します。」

「別の、呼び方……ですか?」

 チラッと五十鈴を見るが、我関せずというか口出しできないからゴメンなさいという心の声が聞こえそうな沈黙を保っていた。

 

「千葉神通ということに致しましょう。千葉第二鎮守府出身ですので、分かりやすいと思うのですが、いかがでしょうか?」

 ネーミングセンスとしてそれどうなの、と真っ先に思ったが、神通という艦名をまったく変更されてしまうよりかはアイデンティティが保たれてマシか。そう判断した神通はコクリと頷いて承諾した。

 

 神通の側に寄ってきた五十鈴は肩に手をポンと載せてこう言った。

「まぁ、仕方ないわ。頑張りましょう、千葉神通。」

「(キッ)」

 目を細めて睨みつけるが五十鈴は動じない。もちろん、冗談で言われていることくらいはさすがに神通も理解していたので、五十鈴が軽く肩をすくめたのを見てため息を吐き、それ以上のツッコミは止めておいた。

 

 

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 その後神奈川第一の神通は全員を見渡せる桟橋の上に上がり、説明を始めた。五十鈴と神通はようやく現在の状況を把握した。

 

 東京湾の各所で深海棲艦の出現が多発している。

 五十鈴たちがなんとなく感じていたことは、神奈川第一の艦娘らにとってすでに事実だった。

 

 神奈川第一の調査では今日未明から、普段深海棲艦を見ない東京湾の一部の海域で異形の存在を発見。退治したはいいが、帰還する途中でも発見が相次いだ。通常、東京湾でも深海棲艦は少なからず確認できるが、この日は普段の3~4倍ほどの頻度とのこと。

 神奈川第一では昨日から二十数名ほどの艦娘が館山で開催されるイベントのため出払っており、残りの人数で少人数制のチーム分けし、臨時で警備範囲を広げて東京湾各所を回っているという。

 

 神奈川第一鎮守府の主担当は神奈川の相模灘以東の海岸線全域と、中ノ瀬・浦賀水道の航路の常時警備だ。担当範囲の関係上、海上自衛隊や米軍への協力もすることがある。

 風の塔に集まったのは旗艦神通含め、3艦隊計12人。鎮守府近辺と二大航路の警備に必要な人数を残すと、それが出撃可能な人数の限界だった。

 加えて、神奈川第一の提督も外出しており指示系統・判断基準が秘書艦に一任されている。今日未明から舞い込んでくる目撃報告の処理の対応にオーバーフロー気味な鎮守府司令部のため、現場の指揮や担当海域の割り当ては現場の最高権力者たる旗艦に任された。

 

 今回、五十鈴と神通が出撃してまもなく神奈川第一鎮守府の秘書艦から鎮守府Aの西脇提督へと連絡が行き、ちょうど五十鈴たちが近くまで出撃してるために即協力を結ぶことになったのである。

 現場の旗艦である神奈川第一の神通には、深海棲艦目撃報告のあったポイントに向かわせるためのチームたる艦隊の割り振りが一任されていた。編成して出撃させたはいいが、午前中だけでも中ノ瀬航路以南ではいたるところに駆けつけざるを得なかった。

 正直なところ3艦隊では足りないのが現状だった。

 そのため鎮守府Aから艦娘が加わるという情報は、実際の戦力たる艦娘がたった二人の参加であろうが願ってもない吉報には違いなかった。

 

 

--

 

 神通と五十鈴は二人で一艦隊という立ち位置は変わらず、神奈川第一鎮守府の艦隊の作戦に参加することになった。神奈川第一の神通の案内で風の塔にて軽い腹ごしらえ、弾薬エネルギー・燃料・バッテリー等の補給を受けて準備をすることになった。

 

「千葉神通さん。ちょっと、よろしいですか。」

「え、は……はい。」

 神通は風の塔から離れる際、神奈川第一の神通から声をかけられた。目の端を弱々しく下げて五十鈴にチラリと視線を送るが、五十鈴は顎と視線でクイッと指し示し、もう一人の神通へと誘導させて一歩引き気味に佇んでいる。

 よその人と折衝するのは五十鈴さんの役目だろ、と思い込んでいた神通は戸惑いながらも呼び止められた方に視線を戻した。

 

「あなたも神通ならば、あの能力は使えますか?」

「へ? あの能力って?」

「あ……そう。まだ、神通の艤装に慣れていないのかしら。」

 意味ありげに言い淀む神奈川第一の神通。神通は怪訝な顔をして暗に問いかけるともう一人の神通が再び口を開いて語り始めた。

「こうして会えたのも何かの縁でしょうし、あなたにはアドバイスとしてお伝えしておきます。神通の艤装には隠された機能があるようです。」

「え……それって?」

「私自身、試している最中ですが、確証は得ています。あなたも同じ神通になれたのなら、いずれ発見できるかと。自分の力で、それが何か見つけられれば、きっとそちらの鎮守府の艦隊の大きな力になるはずです。」

 

 チラッと白い歯を覗かせてニコリと笑ったその表情は、優しく気品が感じられ、そしてどことなく母を思わせる慈愛に満ちつつも、凛とした厳しさを伴う笑顔だった。神通は同じ艦担当者から言われたその「能力」が気になった。ここまで言われて気にならないほうがどうかしている。

 きっと川内になった流留なら、さっさと答えを教えてくれと急かしていただろう。だが自分は違う。自分を、自分の力を、自分の可能性を信じられるようになりたい。そのためには誰からどんなことを言われても、出来る限り自分だけで結果に行き着いてみせる。

 思わせぶりにクイズっぽくヒント程度のアドバイス、それは神通にとっては望むところだった。そして川内や夕立以外で、神通にもどうやらあるらしいことがわかった特殊能力。確かにそれを開花させれば大きなアドバンテージになる。

 その事実は神通の心の拠り所となった。神奈川第一の神通に向かってペコリと素直に頭を下げて感謝を示した。

 

「あり、ありがとうございます。私、自分の力でそれを発見してみます。そして、活用してみせます。神通さんは……それを今使えるのですか?」

「えぇ。従ってくれる駆逐艦の子たちが、しっかり揃ってくれさえすれば。この能力は、私だけではどうにもならないのです。もう一つヒントを言うならば、あくまで随伴艦……つまり一緒にいてくれる人たちが頼みの能力なのです。ともに戦ってくれる味方が戦いやすくしてあげるサポートも、大事なのですよ。」

 

 そう言った後、神奈川第一の神通は神通の肩にそっと手のひらを乗せ微笑んで仲間のもとへと去っていった。

 

 同じ神通同士、耳に入れてしまうのは野暮と思っていた五十鈴は少し距離を置いていたため内容は耳に入れなかった。そのため神通の側に戻ってきた後すぐに尋ねた。

「何の話だったの?」

「え。ええと……その。同じ神通なので、艤装の使い方とかそのあたりのアドバイスを、いただきました。」

「そう。よかったじゃないの。よその鎮守府の人と知り合いになれて。」

「は、はい……。」

 まだ不確定要素が多いので言う必要もないだろうと思い、神通は能力のことは伏せ、一応の事実のみを口にした。五十鈴は勘ぐることなく頷いて神通に返事をするのだった。

 

 

--

 

 その後、神通と五十鈴は指示された海域へと向かうことになった。まずは木更津の木材港を始めとし、君津にある小糸川付近、海岸線に沿って南に下った磯根崎付近、そして浜金谷だ。

 千葉県沿いの目撃事例・連絡体制は千葉各所の海上保安部から鎮守府Aに伝わるようになっているが、協力体制以後は指示系統を神奈川第一鎮守府の秘書艦に一本化していた。そのため西脇提督は受け取った情報を自分の艦娘たちに指示はせず、まずは神奈川第一に提供した。

 改めて神奈川第一の秘書艦~神通を経由して、次の(千葉県の)現場を指示されるという、連絡体制の手間が生じてしまっていたが、現場にいる神通と五十鈴にとってはさほど問題とは感じないどころか、そのあたりの運用の手間があったとは夢にも思わない。

 

 二人は一箇所が終わったら神奈川第一の神通および秘書艦に連絡し、すぐに次の現場を指示された。それを繰り返して転戦していくうち、千葉県沿いをかなり南下してしまっていた。

 そのことに気がついたのは、時すでに日が落ちかけ、あたりはほのかに朱が薄く混じりはじめていた頃だった。

 

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 完全に夕方の気配で包まれた海上、南に視線を向けて左手の方角に漁港や内房なぎさラインが小さく臨める海上のとあるポイントにて、次の現場の指示を求めた二人はようやく一息つける指示を聞いた。

 

「……はい。えぇ、了解致しました。現在は……緯度○○、経度○○の海上です。え、一番近い署が? はい、わかりました。近くの海上保安署に寄ってみます。お疲れ様でした。」

 五十鈴が通信を切る。隣でジッと聞いていた神通は五十鈴の顔を見上げる。すると五十鈴は溜め息を吐いてから説明した。

「どうやら一段落したみたい。これで緊急の任務は終わりだそうよ。現地解散で以後は西脇提督の指示に従うようにって。念のため一番近くの海上保安署に寄って報告しなさいってさ。」

「一番近くって……。」

「木更津の南では館山分室らしいわ。」

「館山……あ!」

 神通がハッと気づいたことは五十鈴もすぐに気づいたことだった。

 皆がいるその場所。新人の訓練を優先してあえて自分が行かなかったイベント事が開催されている町だ。神通は急に鼓動が速くなった気がした。もしかしたら皆に会える。そう思うと、途端に安堵感も倍増、湧き上がる喜の思いでバクバクし始めた心臓を手で抑えて、五十鈴に言う。

「那珂さんたちに、会えるでしょうか?」

「そうね。のんびり移動しながら、提督に聞いてみましょうか。」

 神通は五十鈴の気の抜けた声での提案に、コクリと頷く。

 二人は鋸南町の保田漁港付近にいたため、15ノットで飛ばせば30分ほどで館山に到着できる。夕焼けを背に、すっかり辺りが暗くなった海上の現在位置から南下するため、コアユニットに念じて、主機を再稼働させた。


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