同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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幕間:那珂の人脈作り

 鎮守府にいる各校の集団は待機室で昼食を取り、各々会話を交えてお互いの交流を少しずつ深めていた。提督と妙高は退出際に2~3世間話をして一旦別れて執務室へ戻っていた。なお、この日は後に妙高も訓練に加わるため、それまでの時間という制限付きで妙高が秘書艦を担当することになっていた。

 

「あたし、先に演習用プール行ってます。神通も行く?」

「はい。」

 そう言って川内と神通は一足先にプールヘ向かい、来るべき那珂との演習試合の時間に向けて肩慣らし・事前の訓練をし始める。そのため待機室にいる同高校のメンバーは、那珂と顧問の阿賀奈のみとなった。

 

 

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 那珂が五十鈴、良・宮子と話していると、阿賀奈が不安そうに話しかけてきた。

「ねぇねぇ光主さん。ホントーに内田さんたちと戦っちゃうの?」

「はい。」

「先生がちゃんと説得したのに、なんで戦うことになるのぉ~?」

 不安半分不満半分込めた口調で阿賀奈が言う。それに那珂は一瞬視線を泳がせながら答えた。

「あたしはどっちでもよかったんですけど、彼女なりの気持ちの切り替えなんだと思いますよ。」

「それにしたって……。」

「こればかりは川内ちゃんの気持ち次第ですから、あたしとしてはああやって受け入れるのが精一杯でしたよ。でもどうせ演習試合するなら気持ちよくしたいですし、ああしてあたしも気持ちよく受け入れられたのは、先生が彼女を説得してくれたおかげだと思います。」

「え、そう?ウフフ~。これくらい顧問として当たり前よぉ~。」

「ホンット、先生がいてくれて助かりました。ありがとうございます!」

 深くお辞儀をする那珂。阿賀奈は手を当てて胸を張ってふんぞり返りながら得意気に言った。

「ま、任せなさ~い!なんか先生、あなた達がちょっと見ないうちにたくましくなっちゃって驚いちゃった。だから、先生ももっともっと頼ってもらえるよう頑張るからね!」

「はい! 先生があたしたちの学生生活を守ってくれてるって実感できると安心できます。」

「ウフッフ~。も~光主さんったらぁ。先生に頼りすぎてだらしなくなっても知らないわよぉ~。」

「「アハハハハ!」」

 阿賀奈の自尊心を満足させ、自身もひとまずの事態収束に本気で安堵の息を心の中で吐く。

 その後とりとめのない会話を阿賀奈とする那珂の様子を側で見ていた五十鈴はなぜか呆れた顔をしていた。

 

 阿賀奈がより一層ふわっとした雰囲気で那珂から離れて他の教師のもとへ行くと、そのタイミングを見計らって五十鈴は那珂にそうっとつぶやいた。

「なんだか……妙な先生ね、あの人。見てるこっちが気が抜けるというかちょっと不安になるような。あなた本当に頼ってるの?」

「え? ん~ウフフフ。」

 那珂は笑うことで明確な答えをしない。五十鈴は怪訝な顔をして再び呟く。

「はぁ……まぁ他校の事情だからいいけどさ。あんたのことだから先生まで馬鹿にしてるんじゃないかって勘ぐっちゃったわよ。」

「なにおぅ!? あたし、先生をそんな風に思ったことは……ないよぉ!」

「変な間を作らないでちょうだい。変な間を。」

「アハハ!」

 五十鈴の的確なツッコミに那珂はケラケラと笑うのみ。

「まぁまぁ、りんちゃん。うちにだってああいう頭お花畑そうな先生いるじゃん。」

 と会話に割り込んできたのは黒田良だ。五十鈴の数倍、そして明らかに不安なんてありえないような明るい声でしゃべる。

「アハハ。黒田さん意外と辛口なんですかぁ?」と那珂。

 それに答えたのは五十鈴だ。

「違うわ。こいつったら基本何も考えてないお馬鹿なのよ。人の評価なんて一切気にしないの。だからなんでもあけすけに言うところがあるから私も宮子も大変なのよ。ね、宮子?」

「う、うん。りょーちゃんはもうちょっと周りの空気を読んだほうがいいよ……。」

 同意を求められた副島宮子も弱々しいながらツッコミを入れる。

「アハハハ。適当に気をつけまーす。あ、そーだ那珂さん。あたしのことは良でいいよ。あ、今度から長良って艦娘かぁ。じゃあ長良でもいいよ!」

「それじゃあさしずめ宮子は名取って呼べばいいところね。」

 と相槌を交えて言う五十鈴。それに宮子は頷いた。

「あ……う、うん。那珂さん。私は宮子でも、今度から名取でもいい……ですよ。」

 これから着任するニューフェイスの二人の言葉を受けて那珂は新たな出会い、そして人脈の拡大に顔を喜びで思い切りほころばせつつ返事をした。

「うん!同じ学年同士、同じ軽巡同士仲良くしよーね、りょーちゃん、みやちゃん!」

「「うん!」」

 那珂と良・宮子がすでにいい雰囲気を醸し出しているのを、五十鈴は那珂より控えめながら喜びと気恥ずかしさの混ざった表情で眺めていた。

 

 

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 一旦五十鈴たちから離れた那珂は新たな交流として二人の他校の教師と話をすることにした。すでに阿賀奈が側にいるため安心して近づいて話しかける。

「あの~、黒崎先生、石井先生? あたし、光主那美恵と申します。よろしくお願い致します!」

「あ、はい。よろしく……お願い致しますね。ええと……あの。那珂さんとお呼びすればよろしいですか?」と理沙。

「え~っと。はい。那珂でも本名でもどちらでも。」

 那珂がそう促すと早速とばかりに桂子が口火を切った。

「それでは那珂さん。先程の議論のリーダーシップっぷり拝見しましたわ。さすが高校生ともなると、雰囲気から立ち居振る舞いまで違いますね。」

「いや~それほどでもぉ~!」

 まったく知らない大人から褒められて素直に照れを見せる那珂。珍しく普段の事で頬を赤らめるその様は実際の歳に見えぬ幼さが垣間見える。那珂の照れる仕草を見て五月雨たちはもちろん、二人の教師もほのかにクスリと笑みをこぼす。

 ただ那珂は無邪気に笑うその裏で、この場の人間観察を始めていた。

 まずは石井桂子なる教師だ。不自然ながらも相手はかなり丁寧で物腰穏やか、そして内に秘めるものが読めない。歳は見立てでは提督・妙高と同じ年代と見た。さすがに尋ねるのは失礼なので違う切り口から探りつつ交流を図ってみようと一瞬の思考を締めくくる。

「那珂さんは、結構理想。」

「あら?意外ね。あんt……あなたがそんなに人様に熱を上げるなんて。」

 引き続きわざとらしい丁寧な口調で不知火にツッコむ桂子。すると不知火は小さくため息をついて桂子に向かって言い出す。

「先生、そろそろキモいです。普段の、方が絶対良い、です。」

「ん、なんのことかしら?智・田・さ・ん?」

 那珂は初めて桂子先生という人物の振る舞いにほころびが見えたのに気づいた。しかしそれはすぐに見えなくなる。元の不自然な丁寧さを取り戻した桂子は不知火の頬を軽くつねる。すると不知火は小さなうめき声をあげて感情的に嫌がる様を周知に晒した。

 

 

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 次に口を開いたのは理沙だ。

「あの……那珂さん? うちの子たちったら、学校でよくあなたの事話してくるんですよ。」

「え?ホントーですか?どんなお話なんでしょうか?」

 那珂は机に乗り出して大げさに驚いてみせる。その際、横目で五月雨たち4人に視線を送ることを忘れない。那珂から尋ねられた理沙はにこやかにしながらしゃべろうとする。がしかし教師たる彼女を邪魔する存在が二人。

「先生! そんなこと言うひつよーないっぽいぃぃ!」

「そ、そうですよぉ~恥ずかしいです!やめてくださ~い!」

 真っ先に抗議してきたのは夕立と五月雨だ。一方で時雨と村雨は穏やかな笑顔を作っているがあきらかに引きつった笑いをしている。そんな生徒達の様子を見た理沙はクスクス笑いながらなだめる。

「別にいいじゃないですか。学外に頼れて親しくしてくれる先輩ができるのは大変良い事……だと思います。それが、あなた達が好きで始めたことならなおのこと。ね?」

 理沙に評価されて夕立と五月雨だけでなく、時雨と村雨もまた照れつつも顔をほころばせて笑みを見せる。四人の様子を目の当たりにした那珂は茶化しの魂が疼いたので軽口を叩いた。

「あたしのどんな噂をしてるのか、あとでよーく聞かせてもらおっかな~。と・く・に、五月雨ちゃんには密着取材するよーに聞いちゃおっかなぁ~?」

「ふえぇ!?」

 那珂の言葉を真に受けた五月雨はアタフタと必死に言い訳で取り繕っていた。

 五月雨らが友人同士で仲睦まじくからかいあう中、那珂は理沙から密やかに告げられた。

「ぜひこの子たちのお手本になってください。演習試合、私も職業艦娘の目から見て参考にさせていただきますね。期待、してますから。」

「はい!」

 

 その後那珂は目の前でやり取りされる中学生4人と教師の様子を眺めていた。

 この五人には、自分の知らぬ別の物語がきっとあるのだなと感じた。彼女たちの物語に自分が果たしてどの程度影響を与えることができているのか量り知れない。公にあたる面ではみっともない様を絶対見せぬよう真面目に取り繕ってきたつもりである。

 微笑ましい目の前の光景の陰で、那珂は密かに気を引き締めるのだった。

 


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