同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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就寝

 工廠で艤装を片付けた那珂たちは工廠の戸締まりをした明石と一緒に本館に戻ってきた。すでに他の技師たちは退勤していていない。

 大して汚れてはいないが潮風と若干の水しぶきにあたっている一同は当然お風呂で頭がいっぱいである。出撃していない明石も夕食を食べ終わった後の少女たちの夜間訓練準備と工廠の戸締まりなど最後の一仕事を終えた後なので入りたくて仕方がなかったが、それよりも責任ある大人として少女たちの今夜の寝床の確認を優先させた。

 

 先に入浴を済ませた那珂たちが提督と明石に案内されたのは1階の和室だった。9人分の布団がまだ丸まって置いてある。提督が布団の側に立って那珂たちの到着を待っていた。

 

「お風呂ゆっくり浸かってもらってるところ悪かったね。寝るのはこの部屋を使ってもらいたいんだけど、ここに8人9人は狭いと思うから部屋割りして誰がどこで寝るのか決めてくれ。」

「それはいいんだけど、あぶれた人はどこに寝るの?」

 那珂の当然の質問にその場にいた少女たちがウンウンと頷く。

「2階にも和室があるだろ?そっちと分けて使ってくれ。」

「な~るほどね。そっかそっか。そしたら早速決めよっか。どーするみんな?」

 那珂の音頭で8人はぺちゃくちゃと相談し始める。完全に蚊帳の外の提督と明石はしばらくその相談という名のおしゃべりを見守っていた。そのうちに二人のことを思い出した那珂が話題を提督と明石に振る。

 

「そーいや二人はどこで寝るの?まぁ提督はどこかそこら辺で寝転がってもらうとしてさ。」

「俺そこら辺なのかよ!?」

「そ・れ・と・も~。あたしたちの誰かに混ざって寝る~?」

「お、おいおい……そういうのは勘弁してくれよ~。」

 その場にいた誰もが那珂のいつものスイッチが入ったことを察した。察したが自分らに直接絡まなそうなので口を挟まずに黙って見ていると那珂は想定通りの茶化しの言葉を投げつけて提督をたじろがせている。そのうち提督は自分で那珂の口撃包囲網を脱出した。

「いいんだよ俺は。普通に執務室で寝るから。ホラホラ君たちで寝る部屋さっさと決めなさい!」

「は~~い。」

 

 ほのかに小寂しい表情を含んだ笑顔で那珂は返事をし話題を軌道修正することにした。

 思考を切り替えた那珂は部屋割りの提案を述べ始める。那珂が提案すると、唯一不満を持った五十鈴がツッコミを入れ、最終的には次の構成になった。

 

1階和室:村雨・不知火・神通・五十鈴

2階和室:那珂・川内・夕立・五月雨・明石

 

 那珂としては一緒に寝床で語り合うのに五十鈴も欲していたが、五十鈴は那珂の最初の提案を聞いて、絶対寝させてくれない駄目メンバーばかりだと瞬時に判断して提案に対案を出したのだった。しぶしぶながらも那珂は納得の意をみせる。

 部屋割りに全員承諾したところで2階和室に5人分の掛け布団と敷布団を運び入れ、寝る準備を完了させた。

 本格的に寝る準備の前に、思い思いの時間を過ごす那珂たち。何人かは明日の朝ごはんのために提督を連れて買い物に出かけたり、また何人かはロビーのソファーに腰掛けて携帯電話を操作したり本を読んだり、おしゃべりをしている。

 そうして過ごしているうち、気づくと午後10時を過ぎていた。

「それじゃー4人ともお休み~!」

「神通と一緒に寝られないのは悲しいけどまぁいいや。夜中起きたら遊びに行くわ。」

「え……いや。別に遊びに来なくても……。」川内の言葉を真に受けた神通は普通に受け答えした。

「ふわぁぁ……悪いけどさっさと寝させてもらうわ。」

 すでに眠りかけてウトウトしていた五十鈴はうるさそうな3人に邪魔されないことが明確になっていたのでその表情が安堵に包まれている。那珂はそれを見て寝させねーよとばかりに脇や肩をツンツン突いて別れの言葉代わりにするのだった。

 ふと那珂は思い出したことがあり、神通に一言声をかけておいた。

「……って感じだから。そうなると4人の中で頼りになるのは神通ちゃんだけだからね。いちおー忠告というか、警告というか。」

「アハハ……覚えておきます。」

 苦笑いしかできそうにない那珂の忠告に神通は口を挟まずただ頷くだけで済ませる。一方で中学生組も各々言葉を掛けあって自分たちの寝床へと向かって行った。

 

 

--

 

 1階和室に戻ってきた神通たちは4人とも早速寝る準備を整え始めた。比較的穏やかな性格の少女たち。比較的社交的な村雨も、実は微妙な人選だと感じていた1階和室メンバーのため思うように喋り出せないでいる。準備をする最中の会話はほとんどなく進む。

 パジャマやジャージ・半袖短パンなど四者四様な寝間着になった。布団を敷いて4人がそれぞれのペースで寝る前のひとときを過ごしていると、神通は隣に布団を敷いて寝ようとしていた不知火がリュックサックからどでかいものを出したのに真っ先に驚いた。

 

「え……不知火ちゃん?それって……?」

 不知火は珍しく頬を僅かに染めて恥ずかしそうにモジモジさせている。その恥じらい方は歳相応と言うべきか、ともかくめちゃ可愛い。そう神通は感じた。

 続きを聞く前に本人がスパっと答えた。

「謙治くんです。」

 

「え?だれだれ!?けんじくんって誰!?」

 

 いつも一緒にいるメンバーがいないために手持ち無沙汰に携帯電話をいじっていた村雨が、突然聞こえてきた男性と思われるその名に素早く反応してきた。

 村雨は五十鈴とともに神通と不知火に頭を向けて寝るよう布団を敷いてる。そのためこの4人が何か話そうとするには、枕ごしに部屋の中央を全員で向く必要がある。それまで天井を向いて携帯電話をいじっていた身体をクルリと回転してうつ伏せにし、枕に顎を乗せてその視線を向かいの不知火に向けた。そのあまりの反応の素早さに神通は他人ながらたじろいでしまう。

 不知火が言及したその名に興味津々になった村雨の目に飛び込んできたのは、人間の3~4歳児くらいはあろうかというサイズの熊のぬいぐるみだった。

 

「へ? 不知火さん……それは?」

「だから、謙治くんです。」

 

 素っ頓狂な声を上げて再び問う村雨に不知火は“謙治くん”なるぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら答えた。村雨は意外な人物の意外な趣味に萌えたが、それ以上に自分が期待していた話題ではなかったことに落胆して脱力するほうが強かった。

「あぁそう……ぬいぐるみのことなのねぇ……。」

 脱力して顔の下半分を枕に埋めたまま目を瞑るように細めて再び視線は携帯電話に移して操作し始めた。

 

 一方で不知火の意外な趣味に食いついたのは年長者の五十鈴だった。眠そうな目を擦りながらとろっとした口調で不知火(と神通)に絡み始める。

「あら?そのぬいぐるみかわいいじゃないの。なぁにそれ。お気に入り?」

「はい。とても。」

「それって、なんで持ってきたの……ですか?」

 神通が尋ねると、やはり不知火はかすかにモジモジさせてつぶやいた。

「謙治くんがないと、眠れないので。」

 鼻をフフッと吹き出しそうなくらい可愛い、神通はこの妙にフィーリングが合って普段は無愛想な少女に萌え始めていた。

「ウフフフ。かわいいわね~。ぬいぐるみを抱いてる不知火さんも。……可愛いわ。」

 五十鈴も同じ気持だったのか、神通に続いて不知火への感想を口にするが、その言動とまどろんだ瞳に若干熱が篭ってきているのに神通は気づいた。

「五十鈴さん……?」

「なぁによ神通。」

 恐る恐る、少しずつ尋ねる神通。

「……酔ってないですよね?」

 その言葉に五十鈴は憤りを見せるも、雰囲気怪しいとろっとして怒りにも満たなそうな、傍から聞いていればむず痒くなる感情の吹き出し方だった。

「未成年よぉひどいわねぇ~呑むなんてぇ天龍じゃあるまいしぃ。私は素直にぃー……そう思っただけよぅ……。」

 消えるような語尾に到達する度に五十鈴は頭をカクンカクンとさせてもはやまともに起きてるのかどうかすら怪しい状態だった。

 別れ際に那珂が、「五十鈴ちゃんは夜早いから。あとあまりに眠いと言動怪しくなるからそこんとこよろしく!」と忠告してきたのを思い出した。この事だったのかと神通は面食らう。

 まさか言われて1時間以内に遭遇するとは思わなかった神通はこの厄介な先輩をどうしようか、1秒で1分位悩んだ感覚の後、適当に会話を繋げてあしらってみることにした。

 

「五十鈴さんも……ぬいぐるみお好きなんですか?」

「ふぁ……う、うん。そう……ねぇ。ぬいぐるみも好きよ。」

「そう……ですか。……も?もって?」

「……さんが……好きねぇ……ふぁぁ~ふぅ……。」

「……え?」

 このまま誘導尋問的なことを続けたら何か危険な秘密を知りそうな気がしてドキドキしてきた神通はこのやりとりをやめたくなった。眠そうですね、もうお休みになっては?と言おうとしたその時、村雨がおしゃべりに介入してきた。

「今五十鈴さん誰が好きっておっしゃいましたぁ~?恋愛トークなら私も混ぜてくださ~い。五十鈴さんの好きな人って興味あるなぁ~。」

 恋愛話絡みになると五感が強くなるのか、ませた中学生の村雨が目ざとく参戦してきた。これはヤバイ。今この場で明かしてしまったらイケない匂いがプンプンする話題になりそう、神通はそう直感する。

 夢見ていたお泊り会とガールズトークだが、こと恋愛系に関してはテレビドラマでも小説でも、いつでもどこでも誰でも必ず集団の何人かは死にたくなるようなこっ恥ずかしい思いをすることを神通はそれとなく知っていた。今回は自分ではないが、仮にも尊敬している先輩の一人が半分以上無意識の状態で本人の意志に関係なくその想いを勝手に明かして、本人のあずかり知らぬところで想いの暴露の結果と噂が一人歩きするようなことがあったら?

 もし自分が曝露される側だったら絶対死にたくなる。死んでしまうかもしれない。自分がされて嫌なことはしたくない。させたくない。なんとか村雨の興味本位な尋問を阻止せねば。そう決心する神通だが、いい対処がまったく思い浮かばない。

 マゴマゴしているうちに、知ってしまった。

 

「私はぁ……西脇さんが……好き……ふぁぁ~……すぅ……」

 

 それだけつぶやいて五十鈴は眠りの世界へと旅立っていった。

 現実の世界に取り残された3人は時を止められてポカーンとしていた。

 冷や汗が出てきた神通をよそに、思わず自分の問いかけで五十鈴の想いを聞けてしまった村雨は枕に口を当てながらきゃーきゃーと黄色い悲鳴をあげ始めた。

 

「うわ~~!五十鈴さんってばマジなのかな~~?職場恋愛?結構な歳の差ですよねぇ~!?きゃー!なんかすっごいこと聞いちゃった~!」

「む、村雨……さん!」

「はい?」

「こ、このことは……3人の秘密、です。いい……ですね?」

 人のことなのに泣きそうな顔で神通は向かいにいた村雨に訴えかける。

「ウフフ。だいじょ~ぶですって。那珂さんやゆうじゃないんですし。聞いちゃったものはしょうがないですけどぉ、私は誰にも言いませんよ。そこは安心してくださぁ~い。」

 村雨の物言いに神通はホッと胸を撫で下ろす。村雨のことをそれほど知っているわけではないが、少なくともあの夕立よりかはよほど信頼できるだろう。自分の中での他人の評価を更新しておいた。

 ふと神通が隣の布団の不知火を見ると、熊のぬいぐるみの謙治に顔を埋めて耳を真っ赤にしていた。

「不知火……ちゃん?」

「!!」

 神通が恐る恐る尋ねると不知火はぬいぐるみごと身体をビクッと跳ねさせた。ぬいぐるみから顔を鼻の根元までゆっくりと離して晒し目を微かに潤ませ耳と頬を真っ赤に染めながら神通たちに言った彼女の様子は、おそらくはこの4人の中で一番純真無垢・乙女だと捉えさせるのに十分だった。

「い……五十鈴さんは、大人、です……ね。」

 普段の彼女からは想像できないくらいか細く必死に気恥ずかしさを隠そうとする口ぶりに、歳相応の少女らしさが伺える。そんな強烈にギャップの乙女チックな様を見せつけられては神通も村雨もすっかり毒気や気持ちの硬化が解けてしまった。

 

 

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 恋愛話に対する耐性はどうやら村雨が一番高く不知火が一番低いことが、3人のその後のガールズトークで判明した。神通はというと、恋愛も一応憧れではあるが自身には体験も思いも全然無いために判断つかんということで、中学生二人(実質的には村雨だけ)の判断に委ねることにした。

 その結果、二人の中間ということで落ち着く。

 

 それぞれが寝落ちというかたちで脱落するまでの数十分間、会話の主導権はほぼ村雨が持ってボールが回され続ける。

 会話の最中で、神通は夜間訓練の時に那珂に言われた“苦手があってもいい・それぞれの得意分野だけでもいい”と解釈したアドバイスの内容を思い出していた。年上だから・軽巡だからとこんなプライベートな場でも無理に主導権を握ろうと頑張る必要はない。(そもそも主導権を握れない話題だったが)

 早速にも無理をしない交流ができているかもと心の奥底で喜ぶ自分があり、(村雨が展開する)ガールズトークの場で自然と笑顔が漏れて自分なりの会話を楽しむことができたのだった。

 その後、1階の和室は誰からともなしにいつからと気づくこともなく、寝息がほのかに響き渡る空間となっていた。

 

 

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 1階の和室で布団を敷く準備が始まる頃、2階でも那珂たち5人が準備を始めていた。寝る準備というのは名目上で、実際は寝っ転がりながらできる遊びやおしゃべりの準備が万端という状態だ。

 1階が寝静まる頃でも2階のメンツはワイワイキャッキャと割りと大きめの声で和気あいあいとガールズトークを楽しんでいる。

 会話の主導権は主に那珂と川内の間を行ったり来たりしている。その中で五月雨と夕立、そして時々明石が混じり、夜も更けているにもかかわらず黄色い笑い声が和室の外まで漏れ出ていた。

 

「いや~なんか楽しい!なんか普通の女子っぽいぞあたし!」

「あたしもあたしもっぽい!」

「あぁん!もうゆうちゃん~!枕パンパンしないでよぉ。ホコリ立つよ?」

「さみってばうるさいっぽい~。そりゃ!えい!えい!」

「わぁ~ん!?」

「「アハハハハハ!!」」

 川内がそう率直な思いを口にすると夕立が素早く反応して勢いに乗る。夕立はしばしば手足を布団の上でバタバタさせてはしゃぐため、ホコリが立つのを嫌がる五月雨がそのたびに注意する。しかし夕立はお泊り会という喜びで何かのリミッターが外れているのか、親友の注意なぞ知らんとばかりにお返しを必ずして五月雨をいなすのだった。

 

 会話の最中、那珂はふとチラリと川内の表情を見た。実に心から楽しそうに笑っている。なんの意図も混じりけもなく、くったくのないその笑顔に、那珂は一安心して思った。

((流留ちゃんはもう大丈夫かな。もともと人付き合いが得意そうだったからこうして学校外でもあっというまにみんなと仲良くなれたみたいだし。学校での問題は根本解決してないけど……流留ちゃんならきっと大丈夫。あたしだって守ってあげられるし。))

 

 少々思いにふけりすぎたのか、川内が那珂の視線に気づいた。

「アハハ……ん?どーしたんすか那珂さん?あたしの顔なんか見ちゃって。なんかおかしいところありました!?」

「いやいや!えーっと……うーんと。」

 必死に茶化しの方向を考えつつなんとか川内に言葉を返そうと思考を巡らせていると、明石の助け舟が入る。

「ウフフ。川内ちゃんすごく楽しそうですね~。ね、那珂ちゃん?」

「そうそう!そーですよ! てか一人だけ声でっかいよぉ?」

 明石の支援もあって適当な茶化しを投げかけることができた那珂。すると川内なりに周りを気にかける気持ちが残っていたのか、声のトーンを少し下げて気持ちを打ち明けそして聞き返してきた。

「あたしこういうお泊り会とかガールズトークすっごく楽しみだったんですよ!あ……でも下の神通たちに聞こえちゃったら迷惑ですかね?」

「さすがにそこまでは気にしないでいいよ~。」

 那珂の言葉に悪びれた様子なく返してすぐに川内は本流の会話に戻っていった。

 

 

 その後部屋の電灯を消しておしゃべりを続ける5人。そのうち真っ先に寝息を立てたのは五月雨だった。元々からして一番先に寝入りそうな雰囲気をトーク開始の数分後から醸し出していたため、想像に難くない。その次にダウンしたのは、川内と揃ってケラケラ笑って会話を楽しんでいた夕立だった。彼女は五月雨のように徐々に寝入っていったのではなく、プツリと電池が切れたかのように一言だけ言って宣言通り寝てしまった。

 

「うぅ~ん。寝るっぽい!」

 川内が喋っていると、突然そう言ってそれまで腕を組んで枕に置いていた頭と身体を仰向けにし、プスンと一つ鼻息を鳴らした。

「え?夕立ちゃん?」

 川内が確認のため呼びかけてももはや反応しない。それを見た那珂・川内・明石は顔を見合わせて苦笑する。

「中学生は二人ともダウンだねぇ~。」

 那珂がクスクスと笑いながら中学生二人の寝顔を見て言うと、反対に川内は不満気に憤りを見せていた。

「まったくもう!夕立ちゃんは最後まで起きていてくれると思ったのになぁ~~。」

「まぁまぁ。なんだかんだいってもまだ十代前半のお子様ですよ?」

 明石の言葉に那珂がウンウンと激しく頷いた。しぶしぶ川内も無理やり納得の様子を見せ、話題を転換させた。

 

「そーですねぇ。まぁいいや。なんたってあたしたちは高校生、いわば大人の女ですし。ところで明石さんは……いくつでしたっけ?」

「ううん!? お姉さんの歳なんて聞いても仕方ないでしょ~?」

「明石さんじゅうg

「はいホラ那珂ちゃ~ん!?人の年齢を勝手に言わないでくださいね~?しかもなんですかその言い方。」

 明石は自分のタイミングで年齢を明かしたかったのに、那珂が悪乗りした言い方でバラそうとしたためにすかさず口を塞いだ。

「別にいいじゃん明石さん。ここには女しかいないんだし。」

 川内もまたしても悪びれた様子なく言い放つ。明石はきまり悪そうに口を開いた。

「はいはい。私の年齢知ったっておもしろくもなんともないでしょうに……。」

 

 明石の年齢から始まった新たな会話は那珂と川内の学校の話題、社会人明石への進路相談そして明石と川内のヲタトークと流れていった。最初の方は完全に自分の流れでもって会話のリーダーを勤められていたが、川内と明石の趣味全開のやりとりが始まると途端に勢いが収縮して聞く・相槌を打つオンリーの立場に成り下がっていた。

 正直なところまったく面白くない。表情はそのままで心の中でむくれていた。

 

「ふわぁ……二人ともよく話のネタ続くねぇ~。さすがのあたしももう限界だよぉ……。」

 全く興味が持てない話題を聞き続けるうちに本当に眠気の限界が訪れてしまった那珂はとうとうリタイア宣言をした。

「え?マジっすか那珂さん!? まだ11時すぎですよ? 夜はまだまだこれからなのに。」

「そうは言いますけど、みんな今日は朝から晩まで訓練して疲れてるでしょ? ホラあの二人もすっかり寝てますし、あまり遅くまでおしゃべりしてると起こしちゃいますよ。私もそろそろ寝ないとお肌に優しくない歳に差し掛かってるので、寝させてくれると助かりますね~。」

 那珂の気持ちを自身に置き換えて明石が代弁する。

「うー。明石さんがそう言うんだったら……はぁ。じゃああたしも寝ます。」

 まだ話し足りず不満をにじませる川内だが、那珂と明石がおやすみ宣言をしたのでしぶしぶながらも二人に合わせて寝ることにした。

「それじゃ、おやすみ~。」

 と那珂。続けて川内と明石も挨拶をかけあって布団に潜った。

「はーい。おやすみなさーい。」

「おやすみなさい。」

 

 その挨拶の数分後、3人も本当に夢の世界へと旅立っていった。

 1階和室に遅れること約1時間、2階和室も5つのスヤスヤとした寝息が静寂の場を作り出していた。


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