同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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初めての入渠(入浴)

 時間を忘れて演習試合に熱中して取り組んでいた一同。気がつくとなんだかんだで1時間近くやっていた。終了した直後はまだ15分ほど余っていたが、真夏の日中の気候とそれに影響される疲れを各々感じていた。第2戦をする気力が残っていない那珂たちは喧嘩仲裁の後、鎮守府寄りの突堤の先で数分間休憩を取っていた。

 

「それじゃー皆、鎮守府戻ろっか。大丈夫かな?」

「えぇ。時間もいい頃合いだものね。」五十鈴が腕時計を見た後同意する。

「はい。結構熱い戦いできたと思ってますし満足満足。てかぶっちゃけ汗かいて身体が火照って暑っ苦しくて仕方ないんですよね。さっさとお風呂入りたい。」

 川内の言葉の最後の要望にコクコクと頷く神通と不知火。

「あたしもあたしも。アハハ!さみってば鼻の穴にまでペイント弾ついてる~!」

「むー……ゆうちゃんだって口の端についてるペイント固まりかけててしゃべりづらそーだよ?」

 五月雨と夕立はすっかり仲直りしたのか、全身真っ白になっている互いを見てクスクスアハハと笑い合って茶化しあう。その様子を見て那珂は、喧嘩するほど仲が良いということわざは本当なのだなと微笑ましく感じ、もはや二人の状況を憂いてはいない。

 

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 那珂たちから二人分離れて突堤に腰掛けていた神通と隣りに座っている不知火がふと上空を見ると、偵察機が自身らの上空を通り過ぎ、町の方へ旋回して飛んで行くところだった。

 それを見た後不知火は確認のため神通にチラリと視線を向ける。その視線に気づいた神通は僅かに戸惑いの表情を浮かべた後自分の仕業ではないという意味で頭をブンブンと振って否定する。

 二人は気づいたが、那珂たち他の6人はおしゃべりに熱中していたため気づいていない様子だった。神通と不知火はひとまず気にしないことにした。

 

 

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 工廠に戻り、艤装や機材を全て片付けて本館に戻ろうとする那珂たち。訓練終わりの那珂たちのそれぞれの格好を見た明石や技師らは苦笑しつつもねぎらいの言葉をかける。

「それにしてもみなさん見事にボッロボロですねぇ~。五月雨ちゃんと夕立ちゃんにいたっては頭から爪先までペイントで真っ白ですねぇ。そんなに熱中してたんですか?」

 明石のやんわりとしたツッコミに珍しく夕立もバツが悪そうに俯いて照れている。友人の代わりに五月雨が説明する。

「エヘヘ。私とゆうちゃんは……なんと言いますか、訓練そっちのけで対決しちゃったっていうか……。」

 その説明も照れが混じっていてまともな説明ではない。見かねて那珂が訓練の一部始終を交えて説明した。それを聞いた明石は再び苦笑しつつも、もはやその内容には深入りせずに二人の格好だけを心配するに留めるのだった。

「そ、そうですか。二人がそこまでするのは珍しいですね~。ともあれ早く身体綺麗にしてきたほうがいいですよ。完成したばかりのお風呂を楽しんでいらっしゃいな!」

「はい!」

 五月雨と夕立はもちろんのこと、那珂たちも元気に返事をして工廠を後にした。

 

 

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「そーいえばさ、お風呂で使う石鹸とかシャンプーとかまだ買ってないよね?どーする?」

 本館手前あたりでふと思い出したことを口にする那珂。一同はハッと気づいて足を止める。

 工廠を出る前に洗浄水と乾燥機でざっと服装だけを綺麗にした一同。ペイントによる汚れの度合いが高い五月雨・夕立・川内・五十鈴はそのままではショッピングセンターに行くにはかなり気まずい状態だ。

 比較的服装がまともな状態な那珂・神通そして不知火と村雨が買い出し係を担当することにし、五月雨ら4人を待機組とさせた。

 

 一旦待機室まで戻った那珂たちは訓練終わりを伝えるため執務室に行き提督に事の次第を報告する。

「……というわけで、本日の演習は終わりだよ。」

「そうか。ご苦労様。川内と神通はどうだったかな?良い演習試合になったかい?」

 提督の問いかけに川内と神通は思い切りコクッと頷いて答える。

「うん!今までの訓練の中で一番楽しかった!ゲームっぽいというか普通のスポーツの試合みたいでいいねぇ。やっぱ実際に身体を動かすのは違うよね。なんか充実ッて感じ!」

「私も……皆のおかげで動けるようになりましたし、楽しかった……です。」

「それはなによりだ。確かに君たちは結構動けるようになってたね。」

「え?」

 提督の言葉に那珂たちは呆けた一声をあげる。

「あぁいや。実は明石さんに頼んで偵察機で君たちの演習の様子を撮影してたんだよ。」

「な~んだ!そーだったの!?全然知らなかったよぉ~。」

「うん。いつの間にやってたの、提督?」

 那珂と川内が声を揃えて驚きながら問う。村雨や五十鈴らもそれに乗る。

「これも艦娘の訓練の貴重な映像資料ってことでさ、盗撮みたいでゴメンな?」

 提督から納得できる弁解を聞いた那珂らは本気でその行為を咎めるつもりはなかったため、適当な軽口で提督を茶化してその場の会話を流す。

 誰もが思ったのは、見ていないようで意外と自分たちのことを見てくれている、信頼できるおっさん(お兄さん)だということだった。

 

 

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「それにしても五月雨と夕立はまだペイントが落ちきってないようだね。それに顔も……それはそれで可愛いけど。」

「ホラ提督ってば!女の子の顔見て吹き出すなんてしつれーだぞ?早くお風呂入らせてよね?」

 言葉の最後にプッと吹き出す提督。自分らに言及された二人は顔を真赤にして照れて身体をモジモジさせて縮こまる。そんな二人の代わりに那珂が冗談めかしてふくれてツッコミを入れた。

「あぁゴメンゴメン。皆疲れてるだろうと思って、先にお湯張っといたぞ。けど石鹸とかそういうの買ってないから……」

「あ、それはダイジョーブ。あたしや神通ちゃんたちで買ってくるから。それまでは五月雨ちゃんたちには待っててもらうの。」

 那珂から分担を聞いた提督はニコッと微笑んで納得の意を表情で示した。

「そうか。それなら任せるよ。君たちの気に入った物を買ってくるといい。経費で落とせるから領収書はキッチリもらってきてくれよ?」

「はーい、わっかりましたー。」

 

 軽快に返事を返し、那珂たちは未だ提督が残る執務室を後にした。

 

 

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 その後待機組の五月雨ら4人を残してショッピングセンターに行った那珂たちは、入浴に必要な道具を買って鎮守府に戻ってきた。8人は各々のバッグから着替えを持ち、ウキウキした表情を浮かべて足取り軽く浴室に赴く。

 脱衣室に入った一同は改めて部屋の中をざっと見渡し、着衣を置く簡易的な棚の前に立ち並んで脱ぎ始めた。

「いや~鎮守府の中で更衣室以外で裸になるのってドキドキしますな~。」と那珂。

「アハハ。でも安心して思いっきり脱いでお風呂に入れますよね!」

「(コクコク)」

「新しいお風呂ってなんだかワクワクするわね。」

 川内・神通そして五十鈴は思い思いの反応を返す。

 一方の駆逐艦・中学生組も4人思い思いの言葉を交わしながら衣服を脱いで入浴の準備をしていた。

 

 威勢よく脱いで真っ先に裸になった那珂と川内が揃って浴室の扉を開けて入った。お湯で発生した湯気と熱が脱衣室に漏れ出て、モワッとした空気が那珂たちの後ろに続こうとしていた神通や五十鈴らの全身に絡みつくように当たる。

 夏場ではあるがその熱い空気は嫌な熱さではなくむしろ気持ち良い熱さだ。これから始まる癒やしの時間を期待させる。

 

 

【挿絵表示】

 

「うわぁ~!改めて見てもやっぱりちょっとした旅館のお風呂並の広さだよね~素敵!」

 那珂が入室一番に感想を口にすると、それに川内、夕立が続く。

「これだけ広いと走りたくなりません?」

「あ!分かる分かる!あたしも走りたいっぽい!」

「おっし夕立ちゃん!行くかいね?」

「おー!」

「ちょっと二人とも!滑って転んだら危ないよ!初めての入浴で怪我したらもったいないからね。」

 足を今すぐ駆け出しそうなくらいバタバタさせる夕立。川内も身体を思い切り動かそうとするが、すかさず那珂からの真面目なツッコミが入ったのでその行動はキャンセルさせられる羽目になった。

「え~!でもはしゃぎたくなりません?」

「まぁ気持ちはわかるけどね~。」

 川内の密かな誘惑をサラリとかわすも、実は那珂もまんざらでもないといった表情ではにかむ。

「あんた先輩なんだから……あんたまでやらないでよね?」

 真面目な注意のその後にウズウズしているのが感じ取れたため、五十鈴は那珂を至極真面目にツッコむのだった。

 

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 湯船に浸かる前に蛇口の前に座る那珂たち。蛇口は4基しかないため、残りの4人は買ってきた新品のプラスチック製の桶で湯船からお湯をすくい身体を流している。

 ペイントによる汚れが酷かった五月雨・夕立・川内そして五十鈴が優先的に蛇口を使っている。

 4人のうち脱衣室に一番近い端の蛇口を使って身体を流している五月雨とその隣の夕立は互いのペイントの付着部分を指摘しあううちにお湯かけ合戦になり、バシャバシャとはしゃいでいた。

 それを横目で見ていた川内だが、さすがに中学生二人のじゃれあいに混ざる気にはならず、ざっと湯で濡らした身体をタオルで軽くこすった後、他の3人より早く立ち上がって湯船へと向かう。

 五十鈴はというと、ボディーソープを使い黙々と丁寧に身体を洗っている。

 

 残る那珂・神通らは早々に湯船に浸かって早速心から癒やされていた。

「は~気持ちい~!やっぱ日本人ならお風呂にゆっくり浸かる、これに限りますな~。」

「……はい。でもその言い方はちょっとババ臭い気も。」

「おぅ!?神通ちゃんからまさかの強烈なツッコミ~!那珂ちゃんかなしぃ~~!」

「ウフフ。でも那珂さんの言うことももっともですよねぇ~。鎮守府でお風呂にゆっくり浸かれるなんて、私たち幸せですよねぇ。」

 村雨のセリフにコクコクと頷く不知火。目を閉じて身体の全神経を湯からの癒やしの効果を満喫していた。

 

 

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 その後蛇口が全部空いたので交代で那珂たちが使い始める。そして再び湯船に浸かって8人で会話をしてのんびりと疲れを取り除いて癒やしを高め合う。

 ある話題が途切れた後、全員の正面を見渡せる位置に座っていた那珂は全員にざっと視線を送り、視線移動の終点を五十鈴と川内にした。

「な、何よ?何こっちじっと見てるのよ?」

「う……嫌な予感がする……。」

 五十鈴と川内が目を細めて苦々しい表情を作ると、那珂はわざとらしくねっとりとした口調で見たまんまの感想を口にし始める。

「むーーーー。やっぱ二人ともお胸おっきいよねぇ~~~~? 何食って何をしたらそれだけなるんでしょうかね~~?」

 那珂がセリフに五十鈴と川内は敏感に反応してしまった。

「ちょ!?また胸の話!?」

「だ~か~ら!あたしそういうの意識したくないんだからやめてくださいよぉ!」

「わ、私も……よ。」

 そう言って川内と五十鈴は両手で胸を隠す。抗議の言を受けた那珂は悪びれずに感じたままを追撃の手(口)を緩めない。

「だ~ってさぁ~~。目の前に素敵な膨らみがあったらツッコまずにはいられませんよ。そうは思いませんかねぇ、神通さん、五月雨さんや。」

 

 話題に巻き込まれまいと必死に目をつぶって顔をそらしていた神通と、まさか振られるとは思っていなかった五月雨は二人揃って同じような焦り具合を見せる。

「えっ!?わ、私ですか!?」

「……う。」

「そ~そ~。同盟組みましょうや、同盟!」

 そう言う那珂を受けて神通が自身と那珂そして五月雨の胸元に視線を向けると、あまり名誉な目的の同盟ではないことがすぐに理解できた。顔が熱くなってきた感じがするが、それが湯船から発する湯気のためなのか話題のためのか、それともその両方なのかまでは理解できない。

「わ、私まだ中学2年ですし、あまり胸は……気にしてないですからぁ!」

「……私も……です!」

 二人とも先刻の五十鈴と川内のように胸元を両手で覆う。五月雨に続いて神通からの反応もあまりよろしくないことを見て感じると、那珂は仲間を村雨と不知火に求め始める。が、那珂はあることに気づく。

「ん……あれ?もしかして……村雨ちゃんも……お、大きいってやつですか!?」

「ちょ!那珂さぁん!?」

 普段余裕ある姉っぷりを見せる村雨が珍しく慌てて照れる様を見せた。頭だけ那珂の方を向いて背を向けて前面を見せないようにするも、那珂は瞬間的な観察力でその行動を逃さない。

「ふ~~~~ん。そうですかそうですか。中学生のくせに夕立ちゃんと村雨ちゃんは良い具合なんですかぁ~~~。将来有望ですなぁ。」

「エヘヘ。那珂さんから有望って言われちゃった!」

「ちょっとゆう!その有望はあまり大きい声で言われたくない有望さよぉ!」

 自身のサイズや評判なぞ一切気にしない夕立は那珂の言葉をそのまま受け取って喜び、村雨は友人のあまりのマイペースさに頭を悩ます。

 もう一人、話題を振られた不知火については、もともとが無表情なのが湯気で顔が見えづらくなっていた今のこの状況のため、彼女が照れているのかそれとも困惑しているのかはたまた怒っているのか、さらにわかりづらくなっていた。全員の視線が集まってから数秒遅れて不知火は一言ボソリと言って意思表示をした。

 

「気にしてないので。」

 

 口調から表情がまったく見えずにスッパリとそう言われると、あまり接してこなかった関係だけにさすがの那珂も不知火に関してはそれ以上話題振りを続けられない。

 全く同意を得られず意気消沈する那珂に一矢報いたのは、最初に視線を送られた五十鈴だった。

 

「そんなに胸を気にしてるんなら、だ、誰かに揉んでもらいなさいよ?」

「なんですとーー!?そんな人いるわけないじゃないのー!彼氏なんていないんだぞー!?」

 五十鈴の口撃を憤りに半分くらい交えた茶化しでもって言い返す。

 こいつに半端な言い回しでは通用しない、そう感じた五十鈴はさらに口撃する。

「ふん!だったら(あんたも気になってる)例えば……に、西脇さんとか。」

 途中の言葉は最小限の声量でもって言い、最後まで言い切った五十鈴の言葉にその場にいた全員が一瞬凍りつく。そして自己解凍して本気の照れと怒りを那珂が見せた。

「い、五十鈴ちゃんのバカァーー!」

 

バシャッ!

 

「うわぁぷ!ちょ!やめ!」

 

バシャッ!バシャッ!

 

 那珂は両手でお湯をすくい上げて五十鈴に向けて投げ放つ。お湯しぶきが五十鈴の顔に何度も直撃する。余波が二人の間にいた神通にちょっぴりかかったが本人含めて気にしないことを努める。

 お湯かけ攻撃のために湯気でさらに見えにくくなっていたが、感じ取った那珂の焦りと湯気の切れ目から見えたその表情から、五十鈴はその真意を悟った。その想いの恥ずかしさを隠す行為、自分が消極性であるならば、この少女は積極性であるのだと。

 

 似た者同士、ライバル、そんな表現が五十鈴の頭をよぎる。しかしさすがに言い過ぎたかもしれない。五十鈴はそう思って宥めるべくフォローの言葉を投げかけた。

「……ゴメン、さすがに悪い言い方だったわね。でも人をからかう前に陰ながら努力でもしてみなさいっての。じ、自分で揉むのもある意味いいんじゃないかしらね?」

 フォローはしたがやはり一撃食らわせるのを忘れない。

「む~~~~、ふん!」

 五十鈴の言葉に那珂は口をとがらせてそっぽを向いてしまうのだった。

 

 

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 その後何人かの小さな会話の隙間で再び口を開く那珂。

「そういえばさ、明石さんや妙高さんは絶対大きいよね?」

「あんたまだ胸の話引っ張る気!?」

 五十鈴が激昂すると那珂は両手を振って五十鈴を制止した。

「いやいや!もうこれで終わりにするから!」

「……ったく。あの二人は大人なんだから当たり前でしょ。」

「いやぁだってさ!大人だって小さい人もいるじゃん!うちらの周りの大人の女性ってみ~んなスタイルよさげでうらやましいな~って。それだけ思ったの。」

 那珂がそう言うと、話題の矛先が自身に向いてないことを認識した川内が思い出すように話に混ざった。

「そういえば、あがっちゃんこと四ツ原先生もおっぱいでかいですよね。男子たちは全員あれにやられてる感じだったですよ。ね、神通?」

 同意を求められた神通はそんなことまで知らんと言わんばかりに首を傾けて話題に乗ることはしなかった。代わりに話題に乗ってきたのは五月雨や村雨だった。

「うちの黒崎先生はどうだったっけ?」

「そうねぇ。あの人 いつも上はふんわりしたカーディガン着てるけど、パンツルックだから割りと体型わかるわよねぇ。多分ホントにスタイルいいんじゃないかしら。」

「そうだよね~。実は私ね、黒崎先生って結構理想なんだぁ。エヘヘ。」

「そうだったの?さみってば意外ねぇ~。○○先生とかああいう感じの活発なスッキリしたスタイルの人が理想なんだと思ってた。」

 村雨が示した別の女性教師に五月雨は気乗りしない反応を示し、自身らの部活の顧問である黒崎先生についての評価を口にする。

「だって~、黒崎先生私たちの話一人ひとり真面目に聞いてくれるし優しいし。」

「え、あぁ。内面の話?あたしはてっきりスタイルの話かと思ってたわぁ。」

「先生ってば身長それなりにあってスタイルもいいからあたしも割りと好きだよ。」

 いきなり話題に混ざってきた夕立の言葉に五月雨は同意だったのかウンウンと頷いた。

 

 

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 話を教師のことに向けて展開させている五月雨たちをよそに、那珂たちも胸の話から女性としてのスタイルやファッションの話に転換させていた。

「そういえば四ツ原先生、胸だけじゃなくて何気にスーツの着こなしもいいよね。あたし2年だからほとんど接点なかったけど、あの人顧問になってから服装見てるとなんとなくわかってきたかも。」

「あ~~。あがっちゃんセンスいいですよ。たまに私服で出勤してきますけど、そういう私服の時はすっげぇ大人の女性って感じのちょっと高貴そうな服着てますし。あの抜けてる感じに似合わず侮れませんよ、あの先生。」

「ほうほう。神通ちゃんもそう思う感じ?」那珂が尋ねる。

「え……?わ、私はあまり四ツ原先生気にしたことないので……。」

「神通ってばあんまキョロキョロ観察しなさそうだもんね。」

 川内からスパっと自身の評価に切り込まれて一瞬悄気げるが、図星だったためにそれ以上気に留めないよう適当な相槌を打ち返した。

 

「ねぇねぇ。五十鈴ちゃんの高校にもそういうスタイルやファッションセンスいい女の先生いる?」

「そうね。理想にしたいって先生がいるわけじゃないけど、良いと思える先生はいるかな。どちらかと言うと先生よりも生徒のほうで素敵で参考にしたい人が多いわね。例えば3年の先輩で可愛い私服着こなしてる人がいていいなって思うわ。」

「へぇ~~。そういえば五十鈴ちゃんの高校、制服自体もなにげにオシャレ感あるよね。あたしそっちの学校のスカートいいなって羨ましいんだぁ~。」

「数年前に大々的に今の制服に変更されたらしいのよ。それまでは進学校によくある垢抜けないだっさい制服だったらしいって。○○っていう有名なファッションデザイナーに依頼して作ってもらったそうよ。」

「へぇ~。五十鈴ちゃんの高校の制服、一度着てみたいなぁ~。」

「いいわよ。だったら今度持ってきてあげるわ。」

「あ、だったらあたしにも着させてくださいよ!実は可愛い服に興味ありです。」

 川内の要望に珍しいと感じつつも、五十鈴は二人の要望に快く承諾するのだった。

 

 

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 その後も会話が弾んだお風呂でのひとときを過ごした那珂たちは、ややのぼせた感覚を覚え脱衣室で湯冷まししてから着替えて入浴施設を後にした。

 のんびりと歩いて待機室に向かう最中、海軍・艦船周りの知識が(ゲームを通じて)ある川内が言った言葉が那珂たちの気に留まる。

「そういえば、実際の船をドックでメンテするのって入渠っていうらしいですよ。あたしたち人間でいえば、まさに入浴とか療養です。」

「へぇ~。艤装を入渠っていうのは前に明石さんや技師の○○さんが言ってたの耳にしたことあるよ。だったらさ、あたしたち艦娘の方もこれからは入浴じゃなくて入渠って言ったほうがなんかそれっぽくない?」

「いいですねぇ!なんかかっこいい!」

「にゅうきょ!かっこいいっぽい!あたしもそれ使うー!」

 気に入った様子を見せる那珂が提案すると、川内に続いて夕立もその案に乗り始める。

「アハハ。なんだか提督がたまに使う業界用語みたいで楽しそうですね~。私も使おっかな?」

 さらに五月雨もノリよく賛同する。他のメンツもはっきりとは示さなかったが、まんざらでもないという様子で那珂の提案を耳に入れていた。

 

 待機室の前に着くと、すぐに入ろうとする川内たちから那珂と五月雨が離れた。

「私、提督に今日のお仕事とかもうないか確認してきますね。」

「あ、それじゃ~あたしもこのあと皆ご飯とかどうするのか聞いてくるよ。」

「じゃあ私も付き合うわ。」

 と五十鈴も那珂の隣に移動した。

「決まったら教えてくださいね~!」

 そう言ってそのまま直進した那珂に手をプラプラと振り、川内に続いて神通らも待機室へと入っていった。

 


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