同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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夜戦

「……で、どうするの?また無人島の裏側まで行くの?」と五十鈴。

「うん。さっき深海凄艦と戦ったポイントの近くまでは行きたいかな~」

 

 進む間、那珂から懸念していることを聞く五十鈴。

「深海凄艦の子供ねぇ。そう考えると親が近くにいるかもしれないってのはわかるわ。ていうか、あんたあの戦いの中でよく見てるわねぇ……」

 那珂の観察力に感心する五十鈴。えへへそれほどでも~とおどけて照れ笑いする那珂。五十鈴は、那珂がおちゃらける表面の態度とはうらはらに観察力と真面目な思考、その根の部分を特に感心していた。

 

 

 日が落ちてきた。

 

 時間を確認すると6時を少しすぎる頃になっていた。目的のポイントまで来てあたりを見回したが特に異変はない。五十鈴が無駄な心配だったのよと言って帰ろうと提案するが、那珂は何かを考えているのか離れようとしない。

 

 ふと、那珂は日中の深海凄艦のことを思い出した。あの深海凄艦は目が光っていた。日中だったため皆特に気にはしていなかったが、幼生体だろうが成体だろうが、おおまかな特徴は同じだろう。あれが探照灯と同じ役割を持っていたとしたら、目立つために戦闘においては弱点となりうるにもかかわらず、生物的な特徴として深海凄艦のいずれもが持っていたとしたら、逆にそれを利用できるかもしれない。

 もしかしたら当たり前だが夜になったら寝ていて出てこないかもしれない。それならそれで仕方ない。敵は生物であって兵器を持つ人間ではないのだから。などと頭のなかで考えを巡らせる。

 

「ねぇ五十鈴ちゃん。しばらくは水面を見てて。このあたり一帯。」

「へ?海面ってこと?なんの意味があるの? ……まあいいけど。」

 五十鈴は意味がわからなかったが、あの那珂がいうことだ、なにか意味がきっとあるのだろうと納得し、それから数分間は軽く移動しつつ、海面を見ていた。実際には海面のその先、海中に目を光らせるのだ。

 

 

 

--

 

 すっかり夜のとばりが落ちていた。ちょっとした明かりでもわかるくらいだ。那珂と五十鈴はあれから30分くらいは何も起きない海面を見続けていた。やや飽きて二人ともあくびをしたそのとき、海中の奥で光る何かが見えた。

 

 

 

「「!!」」

 

 

 

 海中で光々と光るものはそんなにない。つまり深海凄艦の可能性が高い。そう考えた那珂は五十鈴に急いで指示を出した。

「五十鈴ちゃん、わるいけど静かに離れて!できれば10m以上。私はここで海面を蹴りまくって波紋立てまくるから!」

「え?え?なんで・・」

「急いで~!」

 

 五十鈴は那珂の指示どおり離れる。そのさなか、那珂がさらに指示を出した。

「あたしが合図したらー、魚雷をあたしのポイントめがけて撃ってーー!」

「は?何言ってるのよ!? そんなことしたらあんたに当たりかねないでしょ!」

「いいからー!」

 普段の様子からはうってかわって鬼気迫る様子の那珂に驚く五十鈴。とにかくそのとおりにすることにした。

 

 那珂はその間足を海面から上げては下ろして、海面を蹴る仕草をする。波紋がたつ。バシャバシャと音がたつ。つまりものすごく目立つ。海中にある光は時々その光量を減らしてチカチカしているが、だんだん大きくなってきたのがわかった。那珂の足元めがけて何かが浮き上がってこようとしてる。

 

 その様子を斜めから見る形になっていた五十鈴にも次第にはっきりわかるようになっていた。そして理解した。那珂は囮になろうとしているのだ。五十鈴は那珂の考えをやっと理解した。

 生物ならだいたいは目立つものに注目する。しないのは偏屈なやつくらいだ。深海凄艦も生物なら、気配や音のするほうに近寄ろうとするに違いない。そのもくろみは当たったのだ。那珂が音を立てまくる一方で一切音を立てず、息を殺してその場でじっとする五十鈴。

 

 次第に近づいてくる光。その光の主は、深海凄艦だった。

 まだ数mはあるが、あと少しで深海凄艦が海面から出ようとしていた。那珂はまだその場でバシャバシャと海面を蹴り続けていたが、すぐに五十鈴に向かって合図を出した。

 

 

 五十鈴は那珂からは気づいてもらえないがコクリと頷いたのち、叫んで……。

「いっけぇーーー!!!」

 

ドシュウゥゥーーー

 

 

 魚雷を発射した。それは特に異常な高速というわけでもなく、制限を越えたエネルギーがこもっているわけでもない、普通に発射された魚雷だった。精神の検知による性能変化は起きていなかったがそれなりに速度はあった。

 

 魚雷は海中の中を進み、深海凄艦が海面に出ようとするポイントめがけて大体似た速度で弧を描くように浮き上がっていく。那珂はタイミングを見計らって、海面を思い切り蹴って側転するかのように離脱した。

 その直後。

 

 

 

ズドオォォォ!!!

 

 

 爆音と、バッシャーンと水がおもいきりはじけた音が混ざって響き渡った。合わせて爆発で波が立ったので那珂と五十鈴は波に足を取られそうになったが姿勢を低くしてスケートを滑るように波に合わせて海上を移動したので倒れることなく済んだ。

 

「やったわ!かなりでかい深海凄艦だけど倒したわ!私達の勝利よ!」

 爆発のポイントから約10mほど離れた位置にいる二人。五十鈴が喜んで那珂に近づこうとすると、那珂はそれを制止した。

「ちょっと待って!まだだよ!」

 

 と言い深海凄艦に近づいていき、自身の魚雷を身をかがめて海面ギリギリにして撃ち込んだ。そうして発射された魚雷は海中にそれほど沈むことなく、ズズッと動いて逃げようとする深海凄艦に目指して進み、再び大爆発と大波を立てた。

 

 今度こそ勝利だ、と二人は感じた。那珂は五十鈴のほうを向き、最初の演習時の時にしたポーズを決めた。

「イェイ! 那珂ちゃん勝利のスマイル~!」

 

 アイドルばりにポーズを決める那珂は、彼女がみんなに話していたように、アイドルを意識したポーズで様になっていた。

 

「あんたねー、もしかして手柄横取りー?ひどくないー?」

「そんなことないよぉ!あいつがまだ生きてそうだったから追撃しただけだもん。」

 那珂の読みは当たっていたのだが、せっかく自身が攻撃して倒したのにもう一度するなんて……と感じた五十鈴は少し距離を開けている那珂に不満をぶつける。那珂はそれを手と顔をぶんぶん振って否定した。

 

 ふと五十鈴は、那珂の左腰についている魚雷発射管が背後を向いていたのに気がついた。

 

 

--

 

 

 

 その直後であった。

 

 

ズザザバァーー!!!

 

 

 那珂の背後から黒い影が海面から飛び出した。1匹目の深海凄艦とは別に、もう一匹上がってきていたのだ。完全に那珂の視界の外からの浮上であった。このままでは那珂がやられると五十鈴は焦って足で海面を蹴りだして進もうとする。

 

 

 が、当の本人は慌てる様子もなく、落ち着きはらって、深海凄艦をちら見するように首と頭だけを背後に少し回した。その直後那珂は背後に向けていた魚雷発射管から2本のうち1本の魚雷を発射した。海面に向けてはいない。海上から完全に外に出た深海凄艦の身体めがけていた。

 

 

 あれじゃ魚雷じゃなくて普通のミサイルじゃないの!と五十鈴は心のなかで突っ込んだ。

 

 

 物理的な砲弾ではなくエネルギー弾である艦娘の魚雷は海水に触れると急速に縮む性質がある。その際化学反応を起こして爆発を起こす性質が生まれ、光と熱を直接発する部分が物などにあたって光の照射口が遮られるか、もとの形状が崩れて凝縮された光と熱が拡散されると、爆発を起こす。縮む間は猛スピードを伴ってある進行方向に進む。

 もともとが強力な光と熱のエネルギー弾である魚雷は、ある程度縮んだところでその威力は多少残る。艦娘の魚雷の飛距離とエネルギー弾の収束した後の威力のシミュレーションからすると、深海凄艦に致命傷を与えるには十分な威力が残るとされていた。

 

 

 

 そんな魚雷を水に当てずに直接生物に当てればどうなるか。相当な大爆発を起こして吹き飛ぶに違いないと五十鈴は想像した。今までそんな奇抜なことをした艦娘は、艦娘制度が始まって10数年経つが居なかった。人体にあたると光と熱で消し飛ぶから安全面を強く考慮されてためでもある。

 だが那珂こと光主那美恵は奇抜な発想でそれをしてしまった。

 

 那珂が空中で撃ったエネルギー弾の魚雷は、海中を進むよりかははるかに遅いスピードで深海凄艦の身体にあたった。空中で普通に発射してはそんなに飛距離が出ないため、当てようと思ったら自身と相手の距離が3~4mは近づいていないといけなかった。

 

 魚雷があたった深海凄艦からはシューっという音とともに表面が焼けただれる臭いがした。しかしそれだけであった。直後破裂する音がして熱風と煙が辺り一面に吹き荒れた。

 つまり、深海凄艦に多大なるダメージをあたえるはずもなかったが、めくらましやひるませるくらいには役に立つ。

 

 それを那珂は見届けた直後、左腕をフルに使って魚雷発射管を回転させつつ、全身を深海凄艦のほうへ向けて方向転換した。魚雷発射管が深海凄艦の方まっすぐに向いてすぐ、少し怯んでいた深海凄艦に向けてもう一本の魚雷を、先ほどと同じく空中めがけて発射した。

 

【挿絵表示】

 

 深海凄艦に当たるより前に片手で何かを投げる仕草をしたのが五十鈴には見えた。

 

 

ズガアァーン!!

ズドドォーーーン……

 

 

 先ほどと同じように単に破裂して熱風が出るだけかと思われたが、全く違う光景が目の前に展開された。なんと、大爆発を起こして深海凄艦が吹き飛んだのだ。もちろん間近にいた那珂も吹き飛ばされたが、華麗な身のこなしで空中で方向転換し、なんとか着水していた。

 深海凄艦は直接魚雷があたって爆発したため、身体の大半が吹き飛んでいた。もちろん即死である。

 

 一連の様子を五十鈴はポカーンと口を半開きにして眺めていた。吹き飛ばされていた那珂は五十鈴の後ろにいた。

 

「あ、あなた……一体何をしたの……?」

「え?魚雷撃っただけだよ~」

 吹っ飛んできた拍子で四方八方に散らばっていた髪を人差し指と中指で梳かして普段の髪型へと整えながら、あっけらかんと答える。いやそれだけじゃないだろう、と五十鈴は気づいていたことを口にした。

「いえ、あんた2本目の魚雷が当たる前に何か投げたでしょ?あれ何?」

「海水だよ。といってもほんの少ししか手元に残っていなかったけどね。」

「海水って……なんで?」

「1本めの魚雷見たあとにもしかしたらって思ってね。ビンゴだったみたい~」

 くるりとその場で回ってケラケラ笑って答える那珂。

 

 その後の那珂の説明によると、艦娘の使う魚雷がエネルギー弾形式なのはわかっていたが、その仕組がたまたま気になった。エネルギー弾なのに海中を進んで爆発するなら空中で撃ったらどうなるか?結果は先程の通り。

 

 それを目の当たりにした瞬間、エネルギー弾たる魚雷はきっと海水の中に存在するなんらかの成分と化学反応を起こして爆発する仕組みを生み出すに違いないと瞬時に推測した。人体なら吹き飛ぶのに深海凄艦はなぜ焼けただれる程度なのか気にはなったがそれはひとまず置いておき、2発目の魚雷を発射する前に事前に海水を片手ですくい上げ、深海凄艦に命中する前に海水が魚雷にあたるように投げたのだ。

 

 海中と同じ条件に達した魚雷は深海凄艦に命中して、さきほどの通りになった。ただ異なるのは、海水には一瞬しか当たっていないためその威力は減退せずに済んだ。

 とっさの行動すぎて、五十鈴には那珂が何かを追加で投げたところまでしかわからなかったので、彼女の説明を聞いて驚きを隠せなかった。

 

 瞬時の判断でそこまでわかる・できるこいつは一体何者なんだと五十鈴はただただ驚くばかりであった。そして、あぁ、この光主那美恵という娘は、きっと将来自分なんか肩を並べるのも申し訳ないくらいのすごい艦娘になるかもしれない、と嫉妬とも憧れとも、尊敬とも取れる複雑な感情が湧き上がるのを感じていた。

 

 その後、成体である深海凄艦2匹を撃破したのが決め手だったのか、週が終わるまでは深海凄艦は一切現れることはなく、那珂にとって初めての出撃任務は大成功に終わった。それは鎮守府Aにとっても大成功となった。

 


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