同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

110 / 213
 川内と神通の訓練も大詰め。艦載機、偵察機の操作訓練、対空訓練。そしてバリアを使った防御と回避の訓練で二人の基本訓練は全課程を終えようとしていた。

【挿絵表示】



川内型の訓練4
四人だけの日


 翌日、那美恵が凜花と待ち合わせをしていつもの時間の9時前に鎮守府に行くと、すでに本館の扉は開いていた。

「あれ?もう開いてる。」

「昨日から提督来るようになったのだし、多分もう来てるのでしょうね。」

「あ、そっか。あ~、そうすると執務室もう使えないね~。」

「そうね。というかしれっと普通に執務室行くのやめない?私たちには待機室があるんだから。」

「エヘヘ。なんか数日執務室を我が物顔で使ってたらついつい自分の部屋みたいな感じになっちゃってさ~。那珂ちゃんうっかりしてたよぉ。」

「まぁ、設備一番充実してる部屋だものね。気持ちはわからないでもないわ。」

 凜花は那美恵の気持ちを理解できたし、実のところ便利な執務室をもうちょっと使いたいという気持ちがあった。しかしそれをそのまま口にすると隣を歩いているある意味悪魔から何を言われるかわかったものではない。結局凜花は適当な相槌を打つのみに留めた。

 その後二人は更衣室で着替え、那珂と五十鈴に心身ともに切り替えてから本館を後にした。

 

 

--

 

 工廠の事務室から出てきた明石に尋ねてから那珂たちは神通の側に向かうと、神通は演習用水路で砲撃の訓練をしていた。先日と同じ光景で訓練する後輩の姿を見て、那珂は強く感心する。

 

「おはよ~神通ちゃん。今日もここで砲撃の自主練?」

「はい。なにか……掴めそうな気がしたので、重点的にやってみようかと。」

「うわ~もう素晴らしくてあたし何もいえねーや。うんうん。神通ちゃんはそのまま突き進んでくれるといろいろ任せがいありそうだよ。」

「私もたまに自主練はしてたけど、あなたには負けるかも。」

 先輩二人からべた褒めされて神通は両腕を下ろして顔をうつむかせて照れまくっていた。

 

 その後水路から上がり、艤装を片付けようとする神通。那珂はそれを制止した。

「あ、神通ちゃん。それらそのまま端っこにでも置いといていいよ。」

「え?で、でも……。」

「今日は砲撃の訓練の続きするつもりだからね~。」

「はい。それでしたら。」

 神通は頷き、自身の艤装一式を交渉の技師たちの邪魔にならぬよう、かつ自分のものだとわかりやすくなるよう、水路の脇の段差のところにまとめて置いておくことにした。

 

 そして一旦3人は本館に戻った。執務室には行けないため待機室で川内を待つ3人。那珂は念のためとして神通に川内へと連絡を入れさせ、直接待機室に来るように伝えた。

 その後川内は20分ほど経ってから到着した。4人揃ったので工廠に向かい、入り口付近で改めて整列して那珂はこの日の訓練内容を伝えた。

「よっし。それじゃあ今日は午前中はまた砲撃訓練。もうガンガンやっちゃおう。」

「やったぁ!また砲撃!今日こそ疲れなくなるまで慣れてやるんだぁ~!」川内は鼻息荒くして意気込んだ。

「川内ちゃん頑張ってね。神通ちゃんに追い抜かされないよ~に。」

「え?ど、どういうことっすか?」

 那珂の言葉を聞いて途端に焦りを見せる川内。それには五十鈴が答えた。

「神通はね、毎日いろんな内容を自主練してるのよ。今日は砲撃をしてたわ。こういうまめなところで差はついていくものよ。」

「ま、マジで!?」

 川内が神通の方を思い切り振り向いて視線で問いただすと、神通は俯いてやや上目遣いになって照れながらコクリと頷いて言葉なく肯定した。川内はその返事を見て口をあんぐりと開けて唖然とする。そしてほどなくして川内にキリッとした表情になる。湧き上がったのは対抗心だった。

「くっ!絶対負けてられない!!」

「うんうん。そのいきそのいき。」

 

 やる気をみなぎらせる川内と、照れながらも以前とは違って態度の端々に自信を身に表し始めている神通。そんな後輩二人の姿を那珂は満足気に見つめる。

 そして4人は自身の艤装と的を運び出してもらい、演習用水路から飛び出していった。

 

 

--

 

 プールの中央に集まった4人はプールの端に的を投げ放ち準備をする。

「今日は的をランダム移動モードにしよっか。動く的を狙ってみよう。距離はぁ~そうだねぇ。最初は20mから。周囲2~3mは自由に動いて撃ってみてね。」

 那珂の説明に真っ先に色めきだったのは川内だった。川内は自身の右腕を上げ各端子を見ながら言う。

「よっし、練習しがいある!!今日は全部の端子にはめちゃおうかなぁ~。」

 川内とは違って神通の反応は明るくない。

「動く的……うぅ……苦手です。」

「え~二人の反応はごもっともです。でも実際深海棲艦は動くんだからさ。動く的に命中させられるようにしないといけないでしょ。まぁでも雷撃よりかは当てられると思うから、引き続き張り切ってまいりましょ~。」

 そんな異なる反応を示す二人に那珂はフォローすべく声をかけ、川内と神通を的に向って構えさせる。川内の背後には那珂が、神通の背後には五十鈴が立って監督することにした。

 

 

--

 

 この日先陣を切ったのはやはり川内だった。川内は右腕の4つの端子に4基の主砲パーツを取り付けている。そして各パーツの砲身を的のいる範囲に向けて全門斉射した。

 

「おぉ!?動くようになっただけで全然違う!この!この!当たれぇ~!」

 川内は最初は手の甲にあたる1つ目の端子に取り付けた単装砲のみで砲撃していたが、命中させられないことに苛立ち始め、4基全てで砲撃し始めた。4基の砲身・砲架いずれも微妙に方向を変えて的がどの位置にいてもとりあえず当たるようにしていたため、結果として毎回当たるようにはなったが外す砲撃も多いといういわば保険をかけつつの大雑把な砲撃になってしまっていた。

 那珂はその砲撃の仕方に思うところはあったがあえて注意やアドバイスをしないで黙って見ていることにした。

 

「ん?あれ?砲撃できない。弾出てこない?」

 川内は自由に撃ちまくり、しばらくして弾が出なくなったことに気がつく。右腕のパーツの異変に気づき左手首につけていたスマートウォッチでステータスを確認すると、弾薬の欄がEmptyという表示になっている。

「ねぇ那珂さーん。あたしの弾薬エネルギーなくなっちゃった。どうしたらいいんすかぁ?」

 後ろを振り向いて那珂に向って宣言+尋ねる川内。それに那珂はため息混じりに答える。

「……うん。そりゃね、4つ同時にそれだけ撃ちまくってればなくなるよ。ていうかね川内ちゃん、けっこ~無駄弾撃ってるの気づいてた?」

 この日の訓練開始当初からの川内の様子を見ていた那珂は薄々予想出来ていた展開がまさに今起こっていることに呆れながら言った。

「え?あれだけでもう無くなるんですか!? 川内型のエネルギー少なくないっすか!?」

「まぁ訓練中だし満タンではなかったにしろ、うちらの弾薬エネルギーはこのグローブカバーの生地の中と各砲のパーツ、コアユニットに予備が少しと、意外と最大量は少ないよ。……てか川内ちゃん、艤装装着者概要の教科書キチンと読んでないでしょ~?」

「へ? あ……。」

 那珂の発言を聞き、察しの悪い川内でもさすがにまずいと感じたのか歯切れ悪くなる。その様子を見て那珂はため息をついた後説明を続ける。

「まぁ川内ちゃんは実際に体験して覚えたほうが合ってるかもね。そもそもあたしたち川内型は最大火力で連発して戦うよりも、全方向に適度に攻撃して回りを支援することに長けた艦娘だからね。単純なエネルギーの量で言ったら五十鈴ちゃんの艤装のほうが多いよ。」

「うー……なんかスッキリしないというかもったいないというか。」

「……いいからさっさと工廠行って弾薬エネルギー補充してもらってきなさ~い!」

「はーい。」

 

 那珂がピシャリと注意すると、川内は特に悪びれた様子もなくその場からスィ~っと移動し、工廠へと戻っていった。

 

 

--

 

 一方の神通は動く的を目で追っていた。そして両腕を伸ばして構える。神通は左右の腕に連装砲のパーツを取り付けていた。神通は両腕を完全に同じ高さにし手を両親指が隙間に差し込める分だけ離して拳を並べたような状態にして構える。その構えをしてしばらくして気がついた。両腕で同じ的を狙う際は、1番目の端子に取り付けたほうが的の位置や距離感を掴みやすいかもと。手首の少し手前に位置することになる2番目の端子の連装砲では、視認できる位置と距離、砲身から発せられる弾の最終的な角度がやや予想しずらいと感じた。

グローブカバーと主砲パーツの紹介当時言われた、臨機応変に取り付ける箇所とパーツを変えられるように慣れようという那珂からの言葉を思い出す。

 

「いきます。」

 

 誰に向かって言ったわけでもない掛け声の後、神通は砲撃し始めた。

 

 

ドゥ!ドドゥ!

 

 

 しかし動く的はそれをかわす。かわすというよりも、当たらなかった。神通の狙いは的がそこにいたという現状を踏まえたうえでの砲撃だった。そのため当然当たらなかったが、神通はそれを理解できないでいる。

 

「くっ……。」

 

ドゥ!

 

 また外す。三度砲撃、四度、五度砲撃しても当たらない。動くだけでこれほど当たらないものなのか。いきなりではないが、今の自分には動く的は無理だ。そう悄気げる。

 その時五十鈴が後ろから声をかけてきた。

「ねぇ神通。もうちょっと自分自身に少し動きをつけてやってみなさい。あっちでしきりに動きまわってる川内みたいにね。」

 そういって五十鈴が示した方向、つまり隣を見る神通。そちらでは川内が一度に4基のパーツから豪快に撃ちだして的を攻撃している様を確認できた。プラス、川内はしゃがんだり那珂ほどではないが軽くジャンプして左右に移動しながら撃っていた。

 

「さ、さすがにあんな動きは……。」

「まあ、あの娘は少々動きすぎな感じもするからあんな真似をする必要はないわ。自分に動きをつけたうえで、相手の動く先を狙うのよ。」

「動く先……。」

「そう。あなたの撃ち方は、的がいた場所を狙っているわ。それじゃあいつまでたっても当てられない。的の動く先を予想して、そこを狙うのよ。」

「予測して……なるほど。」

「先日みたいに集中して狙えばいいというわけではないから、自分も動きつつ相手の動きも予測して素早く撃たないといけないの。それが瞬時にできるようになってこそ、深海棲艦を仕留められるのよ。」

 

 五十鈴のアドバイスに神通はハッとする。まさに目からうろこという表情を浮かべて俯く。数秒後、顔を上げて五十鈴に視線を向けた神通の顔は、目に力が入っていた。

 

「も、もう一度やってみます。」

「えぇ。」

 

 五十鈴のアドバイスを受けて神通は珍しくハキっと返事をして背を向け、再び的へと立ち向かっていった。五十鈴はそんな神通の背中を見て、数日前までへっぴり腰で水上移動もままならなかった彼女の姿がウソのようだと、そしてわずかずつではあるが那珂とも川内ともそして自身とも違う艦娘らしさが身につき始めているという好ましい評価をした。

 

 

--

 

 その後神通は五十鈴からのアドバイスを踏まえ、今まで直立で撃っていた自身の上半身をわずかに左右に反らして撃つようになった。そしてもっとも重要である予測。

 的が自身から見て左側に移動した時はすぐに撃たず、右に引き返して戻ってくるであろう位置に砲身と腕を固定して撃つようにした。逆もその然り。体勢が変わると腕への力のかかり方もや狙いの定めやすさにくさが変化したのも理解できた。ようやく撃ち慣れた感覚がリセットされたように神通は感じたが、そのリセットされた状態もすぐに自分の支配下に収めるべく、神通は目の前の状況を数秒~数十秒観察してから砲撃する。

 

 一方の川内は工廠へ戻って弾薬エネルギーを補充してもらったあと、右腕のパーツを1個減らし3つの主砲パーツで砲撃訓練の残りの時間を進めていた。パーツを3つにしたことは彼女なりの反省点を踏まえた結果で、この後の彼女の撃ち方は数分前よりも落ち着いた頻度になっていた。

 控えめになったのは一度に撃つ数と僅かな振る舞いだけで、川内のアクションは非常に忙しないものなのは一貫して変わらない。

 そんな川内の砲撃は、ゲームを得意とする彼女ならでは、那珂・五十鈴から教わるまでもなく的確な狙い方をしており、成長度は神通よりも早い。

 その後正午までの時間、川内と神通の砲撃訓練は続いた。

 

 

--

 

 午前の訓練後、本館に戻った4人は昼食を済ませ、待機室で午後の良い頃合いまで屋内作業としていた。この日執務室では提督は工事関係者と打ち合わせや諸々の確認作業をしているため、さすがの那珂も執務室に行くのをためらい、待機室で川内たちを自習させていた。

 昼食が終わり、まったりとおしゃべりをしながら4人で休憩している最中、川内はハッと思い出した表情になり隣に座っていた神通を見て言った。

「そうだ。神通さ、今日の髪型前のままじゃん。なんで昨日してもらったのにしてこないの?」

 ストレートな物言いな川内の言。神通はそれを受けて、せっかくのまったりムードの油断しきった夢心地な雰囲気から一気に現実へと引き戻されてしまう。焦りが湧き上がってきたのを感じて始め、数秒返答が出てこず口をパクパクさせた後、ようやく川内に対して言葉を返し始めた。

「え……と、あの……。あんな髪のセットやったことなくて。面倒だったので……そのまま来ました。」

 神通を除いた3人はあーっという察した・諦めたという表情を浮かべてすべてを理解した。

「それじゃあ、あたしと川内ちゃんでヘアセットやってあげよ!」

「そうそう。神通が覚えられないんだったらあたしたちがサポートしてあげるってことよ。」

 那珂たちの提案を聞いた神通は照れながらも吝かではないといった表情でコクリと頷いた。それを見た那珂と川内はニンマリとし、先日村雨が置いていった一部の道具を使ってさっそく神通の髪をセットし始めた。

 

 那珂と川内も初めて他人の髪をセットするということもあり、四苦八苦した様子を見せる。神通は自身の頭であれやこれやと騒ぎながらセットを進める二人の気配の不穏さを感じ、心中穏やかではなかった。

「あ、あの……大丈夫……ですか?」

「え!?いや!アハハ大丈夫大丈夫!神通は安心してあたしたちに任せておきなさーい。」

 カラッとした言い方で返事をする川内だが、その様子には隠せていない焦りが湧き上がっていた。続いて那珂も神通に声をかける。

「そーそー。昨日の村雨ちゃんばりにはいかないけど素敵になるように髪型再現してあげるよ!」

 那珂の言葉には焦りや戸惑いはなかったのでひとまず神通は安心することにした。

 

 ボケーっと見ていた五十鈴が時計を確認すると10分少々経っていた。神通の髪型は前髪をだらりと垂らして後ろ髪は雑に2つ結んだ状態から、ドライヤーがないために代わりに横に流した前髪を横髪と一緒にピンで留め、後頭部付近の両サイドの横髪はつむじ当たりでリボンとヘアゴムで結ってまとめられ、もともとの後ろ髪は櫛で綺麗に梳かされてストレートに降ろされた状態になった。

 

「へぇ~。昨日の神通に近くなったじゃないの。那珂たちのアレンジが加わっててなんとなく良い気がするわ。」

 見ていた五十鈴が評価すると、神通の後ろにいた那珂ははにかみ、神通を促した。

「エヘヘ。そう言ってもらえるとやった甲斐があるなぁ。ささ、神通ちゃん鏡で見てみて?」

 そう言って中は手鏡を神通の前で立てる。神通は目の前に掲げられた鏡で自身を見てみた。その髪と頭の姿形は、先日村雨がセットした姿に近いものだった。五十鈴が言ったように、先日の村雨によるヘアセットに近い状態であるが、長い前髪はわずかにたわませて横髪と一緒にヘアピンで留められているなどアレンジが若干加わっており、ドライヤーがないなりに雰囲気の再現は十分だった。

「ふむふむ。これぞ那珂・川内流、神通ヘアセットアレンジスペシャルって感じ?」

「ハハ……もうちょっと良いネーミングしましょうよ。」

 

 神通は見通しが良くなった顔の額に僅かにかかる前髪を片手でそっと撫でた。村雨が提案してセットしてくれた新しい髪型。学年的には下ではあるが艦娘としては先輩の彼女がセットしてくれたものよりも、姉妹艦であり同じ学校の先輩と同級生がやってくれた今の髪型のほうが心からこみ上げてくる嬉々とした感情が何倍にも異なるように思えた。するつもりはないはずなのに、自身の髪に関わってくれた仲間たちを贔屓してしまう自分が、そして心身ともに妙に気分爽快といった感じの今の自分が愉快に感じられた。そのため那珂と川内のやりとりの最中に口を抑えて吹き出してしまう。

「フフッ……」

 その様子を背後から見ていた那珂と川内は素早く反応して突っ込んだ。

「おおっ!?神通ちゃんどーしたの?」

「やっぱ那珂さんのネーミングセンス良くないってことだよね~?」

「いえ、そうではなくて。なんか……嬉しくて。」

「?」

 疑問符を頭に浮かべて素で惚ける川内。

「んーーー、なんかよくわからないけど、神通ちゃんが喜んでくれたならそれでいいや。」

「よかったわね、神通。」

 那珂も五十鈴も神通が笑った理由ははっきりとは分からぬが、おとなしく口数が少なく感情をあまり出さない少女の笑顔に曇りがないことだけは理解できた。那珂たちもまた、自然と口をニンマリと緩ませて満面の笑みを返すのだった。

 

 その後午後の訓練では、新しい髪型で少しだけ凛々しくなった表情で臨む神通の姿があった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。