同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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新たなる出会いと変化

 三人でこの1時間弱の雷撃訓練の評価を語り合っていると、消波ブロックのある堤防の向こうから声が聞こえてきた。

「お~い。那珂。川内。神通。」

「「「?」」」

 

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 那珂たちがその声の発せられた方向を振り向くと、そこには提督が堤防の向こうから上半身を見せていた。

「あ!提督! おはよー!」

「おは~、提督。」

「……おはようございます。」

 それぞれ挨拶を仕返すと、その隣には那珂たちの見知った顔と知らぬ顔が2つあるのに気づく。

 

「あ!!五十鈴ちゃん……とどなた?」

「おはよう、那珂。」

 五十鈴が挨拶をし返す。その直後那珂の質問に提督が答えた。

 

「紹介するよ。こちら、五十鈴……五十嵐さんの高校の同級生、黒田さんと副島さん。」

 提督から名を触れられた二人は自己紹介をした。

「はじめまして!あたし、黒田良といいます!!りんちゃん以外の艦娘の人って初めて見ました!うわぁ!りんちゃん、みゃーちゃん、すごいよ艦娘!海の上浮いてるよ!!」

良と名乗った少女は自己紹介も早々に那珂たちの方や提督、五十鈴の方をくるくる見回してせわしなくリアクションを取っている。

「落ち着きなさい!恥ずかしいでしょ同級生として。」

良の後ろにいた五十鈴が彼女に言葉だけでピシリと突っ込んだ。

「そ、そうだよ……りょーちゃん。あ、あの……私は副島宮子っていいます。○○高校の2年です。あのあの……よろしくお願い……します…ね。」

 提督と五十鈴に隠れるように立っていた少女が弱々しいながらも同じく突っ込みつつの自己紹介をする。

 

 そんな3人の掛け合いを見て那珂は以前自分が同高校の仲間を見学させたときのことを瞬時に思い出した。

 そうか。以前は見学をさせる立場だった自分が、今度は見てもらう側になったんだ。立場の変化にわずかに寂しさを胸に感じた那珂は、表には出さずに普段の調子で見学者に対して挨拶をし返した。

 

「はじめまして!あたしは軽巡洋艦那珂担当、○○高校2年の光主那美恵です!」

「はじめまして~!同じく○○高校の1年、内田流留でーす!軽巡川内やってます。」

「は、 はじめまして……軽巡洋艦神通です。同じく○○高校の1年生、神先幸と申します。」

 

 那珂たちも自己紹介し終えると、提督が良と宮子の二人に向かって解説をした。

「さっきすごい爆発音がしたでしょう?彼女たちは今訓練中でね、雷撃といって、魚雷を撃つ訓練をしていたところなんですよ。」

 提督が説明をすると言い終わるが早いか、良がぴょんぴょんと跳ねて驚きを口にしだした。

「へぇ~!すごいすごい!あたしも艦娘やってみた~~い!ねぇねぇりんちゃん!りんちゃんもやったことあるんでしょ!?」

「えぇ、あるわよ。けど大したことないわ。艦娘になったらこれが普通よ普通。」

 冷静に応対する五十鈴だが、わずかに口の端がつり上がってややドヤ顔になっている。

「へぇ~!りんちゃんもすごいなぁ~。あたしもできるかなぁ?」

「……その前に二人は試験に合格なさいな。」

「……えっ!?やっぱり……私もやらなきゃ……ダメだよね……?」

 はしゃぐ良に突っ込みながらも返す勢いで影に隠れていた宮子に催促する五十鈴。

「当たり前じゃないの。二人が協力してくれるっていうからこうして見学させてあげてるのよ。それにね……」

 

 愚痴が止まらなくなった五十鈴は提督や那珂たちが見ているにもかかわらずクドクドと二人に向かって口撃し始めた。そんな様子を見た提督が焦って五十鈴に言った。

「お、おいおい五十鈴。落ち着きなさい。ほら、那珂たちも見てるから……!」

 

 提督が両手で勢いを抑えるような仕草でなだめる。提督と五十鈴の間に立つかたちになっていた良と宮子は親友の態度に唖然としたがすぐに苦笑いに変わっていた。ほどなくして五十鈴は提督の仕草を見てようやく収まったのか、咳をコホンと一つして再び口を開く。

「え……と。その。実はね、私の学校の友人二人にも、艦娘になってもらうために試験を勧めたの。それで今日は試験の前の見学ということで案内してるの。」

「そーだったんだぁ。五十鈴ちゃんの態度がおかしかったのってこのことだったの?」

 先刻までの五十鈴の態度にあっけにとられていた那珂だったが、彼女の説明を聞き合点がいったという表情になって言葉を返す。そして五十鈴も那珂の問いかけにコクリと頷いて肯定した。

「えぇ。黙っていてごめんなさい。あなたに触発されたんだけど、真似したとか思われたくなくて……。言い出せなかったの。」

「そっか。五十鈴ちゃんにも事情があるんだもんね。そりゃ仕方ないよ。でもこれからは五十鈴ちゃんの学校から正式に艦娘を出せるってことなんだよね?おめでとー!」

 那珂が自身の時のように五十鈴こと凜花の高校と鎮守府が提携したことを祝福するが、五十鈴はもちろんのこと提督も表情を曇らせる。その後提督が重くなった口を開いて説明し始めた。

 

「実はな、五十嵐さんの高校とは提携できなかったんだよ。」

「えっ!?」

 那珂の至極当然の反応に五十鈴はさらに表情を暗くした。良と宮子は事情がすべてが全てわかっているわけではないのか、呆けたままでいる。

 

「俺は五十嵐さんの、艦娘五十鈴としての勤務状況をまとめた上で何度か彼女の高校に接触したんだけど取り合ってくれなくてね。しまいには生徒の自己責任って言われて。単純なアルバイトとしては認めるが危険のある行為には率先して協力できないって話を聞いてもらえなくなったんだ。」

「そ、そーだったんだ。ご、ごめんね五十鈴ちゃん。無神経にお祝いしちゃって。」

 那珂の謝罪に五十鈴は頭を振った。

 

「いいのよ。うちの学校はバリバリの進学校ですもの。そんな学校で私達が艦娘になるなんて勉強そっちのけと思われても仕方ないし、自己責任と片付けられて当然よ。だから私たちは非公式でもいいから、友人たちを募って密かに艦娘部というか艦娘同好会を作って活動しようって決めたの。」

 説明する五十鈴の口調には覇気はなく、聞く者を暗くさせた。返す言葉がなくなってしまった那珂はもちろん、川内と神通も後ろで黙ったままでいる。そんな沈黙を破ったのは、この空気を作った本人だった。

「でももう決めたからいいの。まずはじめにこの二人になんとしてでもなんらかの艦娘に合格してもらう。あと何人か反応良い友人いるけど、今は無理って断られちゃった。だからまずは私達3人で艦娘になる。そして学校ではうまくやりくりして見せるわ。それに普通の艦娘だから、いただいた給料はまるまる私たちの物。深海棲艦を倒してストレス発散できてお金ももらえる、いわばやりがいのあるアルバイトみたいなものよ!」

 先刻とは違い明るさはあったが、明らかに空元気で無理しているのは誰の目にも容易に理解できた。五十鈴はどこか物寂しい雰囲気を作ってしまっていた。

 提督は五十鈴の側に寄り、彼女の肩に手をそっと置いてささやく。世間一般であれば30代の見知らぬ男性が女子高生に触れようものなら拒絶反応を示されそうなものだが、このときの五十鈴は提督の行為をそのまま受け入れた。

「こうなったのは俺の努力が足りない責任でもあるからそんなに落ち込まないでくれ五十鈴。もし二人が合格できて着任したら、任務は上手くスケジューリングしてあげるからさ。」

 提督のフォローを受けて五十鈴はゆっくりと頷いて目を閉じて一つ息を吐いた。再び目を開けた彼女からは、グズッ…と鼻をすする音がかすかに発せられた。

 

 

 その後提督と五十鈴たちと2~3会話をした那珂たちは訓練を再開した。五十鈴たちは次は工廠を見学しにいくということで堤防の向かいのフェンスに付いている扉を開けて工廠の敷地内に入り、入り口へと向かっていった。五十鈴たちの後ろ姿が小さくなり、声が聞こえなくなったところで那珂たちはそれぞれ思いを口にする。

 

「なんだか、世の中うまくいってないところもあるってことなんですねぇ……」

「うちの高校はまだ……ましだったのでしょうか……」

 そう口にする川内と神通の表情は普段とは違い眉をひそめ、遠い目をしていた。那珂は視線をすでに見えなくなっていた提督や五十鈴たちの方角に向けたまま語った。

「あたしも最初は普通の艦娘として採用されてさ、学校の出席とかは一人で密かにやりくりしてたから五十鈴ちゃんの気持ちが手に取るようにわかるんだよね。普通の艦娘として採用されれば艦娘としては鎮守府や国が守ってくれるけど、普段の生活は自分たちで自主的に管理して守らないといけない。学生の身で普通の艦娘になるかもしれない2人…五十鈴ちゃんを入れて3人はきっとこれからあたしたち以上にやりくり大変だと思う。だからさ、学校に守ってもらえてるあたしたちが早く強くなって、彼女たちみたいなことになる艦娘の仲間をカバーしてあげないといけないんだってあたしは思うんだ。二人はどうかな?」

 言葉の最後に凛々しい笑顔を二人に送る那珂。そんな熱い那珂の思いが届いたのか、川内と神通は深く頷いた。

「当然ですよ。あの人たちが艦娘になったなら仲間ですし、友達みたいなもんですよ。あたしは頑張ります。友達のためならなんだってやれるってところをみせてやりますよ。」

「私も……出来る限りサポートしたいです。」

 川内と神通の思いも限りなく同じだった。突然の見学者によって二人のやる気は完全回復を超えてみなぎる。

 

「よっし那珂さん!午前残りの指導お願いします!!あたしはまだまだやれますよ~!」

「わ、私も……お願いします。」

 二人の気迫に那珂は驚きつつも喜びで顔に微笑みを浮かべ、二人に雷撃訓練の再開を指示した。

 

 

--

 

 その後午前が終わるまで雷撃の訓練をするつもりだったが、やる気充填完了にともない魚雷の消費も早まったため、正午に届く30分前にはすでに訓練用の魚雷はボートの上から無くなっていた。

「さーて、次の魚雷魚雷っと。……あれ?ない。ねぇ那珂さぁ~ん。魚雷もうないよ。」

「二人ともやる気あるのは良いけどすっげー使いまくるんだもの。30本程度なんてあっという間だったよぉ。」

 

 手持ちの魚雷を撃ち終わり、的のその後を見る必要のない神通がボートの側に戻ってきてその様子を見て戸惑う。

「ゴ、ゴメンなさい……私も、使いすぎましたか?」

「ううん。別にいいんだよ。やる気出してくれるのはいいことだしね。弾薬や資材使いまくって実際に胃が痛いのは提督や明石さんだろーし、ただの艦娘のあたしたちは気にする必要なーし!」

「使いまくってって……。そんなこと言われると……気にしてしまいます。」

「べっつにいいんじゃない?あたしたちのために用意されてるんだろーし。遠慮したら負けだよ神通。」

 妙に不安がってしまう神通に対し、川内は遠慮をする気なぞさらさらない様子を見せた。

「アハハ。川内ちゃんくらい思い切ってくれるとすがすがしくていいよね~。あたしだって遠慮してないし。神通ちゃんもね?」

「……あの……善処します。」

 

 撃つものもなくなったので那珂たちはボートを引っ張って海から鎮守府の敷地内の湾へと戻っていった。訓練を終えるつもりがなかったので水路に入っても同調を解除せずに上陸する。

「二人ともまだ訓練したいよね?」

「「はい。」」

 艦娘の出撃用水路のある区画を出て明石のいる事務所のある区画に来た那珂たちは近くで機材をチェックしていた技師に話し、訓練用の魚雷を補充してもらうことにした。その際、神通は気になっていたことをおどおどしながらも尋ねる。

「あの……訓練用の魚雷って、やっぱりその……お高いんでしょうか?」

「えっ?どうしたの?そんなこと気にして。」

 神通の質問に技師が聞き返すと、ハッとした表情になった那珂がその聞き返しに乗った。

「あっ、もしかして神通ちゃん、さっきのあたしの言葉気にしてる?」

 技師の女性が?を顔に浮かべていたので那珂が説明すると、合点がいったのか技師は納得の表情を見せた。

 

「なんといいますか、神通ちゃんは気にしぃなのね。大丈夫よそんなこと気にしないでも。訓練用の魚雷はアルミを材料にうちの工廠の3Dプリンタでも製造できるものだから、実質高いコストは中の基盤だけ。」

「そ、そうなのですか……。」

「へ~ここで製造してるんだぁ。こういうの川内ちゃん好きそうなイメージだけど、どう?」

「うーん、3Dプリンタは興味あるけどそれほどでもなぁ。どっちかっていうと三戸くんのほうが喜びそう。あ!でもなんでも作れるんならあたしたちが希望するもの作ってもらえたりしますか!?」

「ウフフ。それはどうかな~。工廠長の奈緒ちゃんやトップの西脇さんが許可してくれればね。」

「へぇ~!好きなの作ってもらえるの、艦娘の特権にしてくれないかなぁ~?」

「川内ちゃ~ん?趣味がらみで何かよからぬこと考えてな~い~?」

 欲望丸出しでしゃべる川内に那珂がツッコミを入れる。された川内は引きつった笑いでごまかし、見ていた神通と技師の女性を苦笑させた。

 

 その後訓練用の魚雷を出力してもらった那珂たちは、訓練を再開するために再び水路に降り立った。川内と神通は様々な体勢を取ってそれぞれの魚雷で雷撃した。結果は川内は1本直接命中して的を大破、神通は魚雷のエネルギー波をわずかにかすめて的を軽く弾き飛ばす程度で終わった。

 

「はぁ~。雷撃はそんなに疲れないからいいけど、頭で思い浮かべたコースと撃つ時の体勢がなぁ~。むっずかしいなぁ。全弾命中したいなぁ~。くっそう。」

「わ、私も的にきちんと当てたいです。」

「私や五十鈴ちゃんだって全弾命中はできないよぉ。そこまでプロな戦士じゃないんだしぃ。川内ちゃんは午前中だけでも3発当てられたならもう十分すぎるほどの上達だと思うよ。神通ちゃんだって五月雨ちゃんや村雨ちゃんたちくらいには上達できてるから良いと思うな。あの子たちだって雷撃の上達は十分とは言えなそうだけど、お互い得意な分野で支えあってる感じだしね。」

「ねぇ那珂さん。魚雷の自動追尾も使ってみたいなぁ~。」と川内。

「ん~~。別にやってもいいけど、訓練用の的だと確実に当たっちゃうからあんま訓練にはならないと思うよ。まぁそこらに深海棲艦が出てきたらやってもいいよ。楽ちんだから癖になっちゃうから、あたしとしては最初はなるべく手動で制御を学んでほしいなぁ~って思います!」

「はぁ。楽したいなぁ~。」

 川内の心からの要望と愚痴に神通もコクコクと頷くのだった。

 

 そして午前中の訓練を締め切り、3人はさきほどと同じ動きで湾まで戻り、出撃用水路から工廠の中へと入っていった。空腹を感じていた三人はすぐに艤装を解除して足早に本館へと戻っていった。

 


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