同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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 川内と神通は続く。雷撃訓練メインのさなか、訓練とは別方向の展開が那珂たち川内型の三人を待ち受けていた!それは、川内型の艦娘のあるべき姿に近づく一歩でもあった。

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川内型の訓練3
雷撃訓練


 次の日、連絡通り凜花はいつもの待ち合わせの時間には来なかった。そのため那美恵は一人でいつもの朝早い時間に鎮守府のある駅に来た。久しぶりの一人での出勤とあって黙々と歩き、バスに乗り継ぎ鎮守府へとたどり着く。

 

 出勤してきた那美恵はいつもどおりグラウンドで走りこみをしている幸を見かけられるのかと思っていたが、グラウンドでは幸の姿は確認できない。本館裏口の扉付近を見ても幸の荷物は見当たらない。さすがに休みも必要かと思って幸探しをひとまず諦めて着替えに行くことにした。

 本館は元々開いており、工事の現場作業員が数人通り過ぎる。那美恵は通る人全員に笑顔で挨拶をして彼らのいる1階を通りすぎて2階の更衣室へ向かった。

 着替えて那珂になり、工廠へと明石や技師たちに挨拶をしに行く。当然工廠もすでに空いており、女性技師がたまたま外に出てきたところに出くわす。

「あ、○○さーん。」

「あら、那珂ちゃん。おはよう。」

「おはようございます。」

「そうそう。さっき神通ちゃん来たのよ。」

「え、そうなんですか。プールにいるのかぁ~?」

「違うわ。出撃用水路で空撃ちしてるわ。」

「え?せっかく的の使い方も教えたんだからもっと広いところでやればいいのに……。」

「まぁまぁ。それにしても彼女ほんっと勤勉よねぇ。声かけてあげてね。」

「はい。」

 女性技師に挨拶をして別れた那珂は出撃用水路へと向かい、神通に声をかけた。

 

「おっはよ~神通ちゃん。今日も朝から精が出るねぇ~」

 やや大きめに那珂が声をかけると、撃ち方をやめた神通が振り返って返事をした。

「はい。おはようございます。」

 挨拶を交わしあった那珂は神通とその回りをキョロキョロして尋ねた。

「今日の自主練は砲撃?」

「……はい。復習したかったので。」

「今日は何時頃からやってたの?」

「つい……20分ほど前からです。」

「そっかそっかぁ~。も~神通ちゃんはいい子でだ~いすき!」

 真面目な神通の密かな熱いやる気に那珂は満面の笑みで彼女を褒めた。那珂から褒めてもらった神通は恥ずかしそうに消えるような声ではにかみながら感謝を口に表した。

 その後水路から上がった神通は那珂に手伝ってもらい片付けを済ませ、そして二人は本館へと向かった。

 

 

--

 

 執務室へと足を運んだ二人は軽く雑談をしながら川内の到着を待つことにした。ふと那珂は思い出す。提督が今日から来ること、五十鈴が今日の訓練には参加できないこと等を伝えると、神通は相槌を打って特に声に出さずに了解する。

 その後残りのメンバーである流留が来たのは9時半過ぎのことだった。やっと学習した彼女は那珂たちのいる執務室に入る前に更衣室で着替えてしっかりと川内になって那珂たちの前に姿を現す。那珂は遅れてきた川内にもその日の提督のこと、五十鈴のことを伝えて改めてその日の訓練内容を伝えて号令をかけた。

「それじゃあ今日はメインの武器の一つ、魚雷を実際に使ってもらうよ。これは訓練用の魚雷でも結構強力だから準備がいろいろ必要なの。プールじゃ厳しいから海に出てやるよ。覚悟はいいかな?」

「はーい。あたしはむしろ狭いプールより広い海で訓練したいです!」

「私は……どっちでもいいです。」

 二者二様の反応だった。

 

 早速工廠に行った那珂たちはやっと出勤してきていた明石に話を取り付けた。

「そうですか。それじゃあ3人の艤装の魚雷発射管に訓練用の魚雷差し込んでおきますから、3人は訓練用の的を運びだしてきてもらえますか?今日はちょっと別件で忙しくなるので自分たちで準備から片付けまでしてもらえると助かりますので。」

「何があるんですか?」

「えぇ。もうまもなく新しい艤装が届くので、届いた艤装の動作確認や艦娘の採用試験の準備です。打ち合わせするので今日は提督も来られますよ。」

 那珂が軽く問いかけると、サラリと口にする明石。その説明を聞いて那珂は合点がいった気がした。しかし五十鈴がなぜ提督の出勤を知っていたのかまでは関連付けて理解するには至らしめることができそうにない。あまり気にするほどでもないとして頭のスイッチを切り替えた那珂は川内と神通を連れ、明石に促されたとおりに工廠の一角へと訓練用の的を探しに行った。

 

 的を運んでいると、神通がポソリとつぶやいた。

「あの……。もし訓練用の魚雷が的ではない別の物や場所にあたるとどうなるのでしょうか?」

 神通は抱いた疑問をそうっと那珂に伝える。

「うんまあ、それなりにぃ~事故になりますな。」

 那珂は神通たちから気まずそうに視線をそらして言った。普段はおちゃらけて不安を一切感じさせない明るさの先輩の雰囲気が変わったことに神通はもちろんのこと、さすがの川内もなんとなく違和感を持った。

「な、何か……あったのですか?」

恐る恐る尋ねる神通。それに那珂は同じような口調になって答えた。

「うん。実はね……あたし演習用プールの壁に当てて壊したことあったの。 」

「「え゛っ!?」」

 我が耳を疑った川内と神通は若干裏声気味の声をあげる。

 

「演習用プールの隣は空母艦娘用の訓練施設で、今はすでに出来上がってて問題ないんだけど、あたしが着任したてのころはまだ工事途中だったの。訓練中に方向誤って撃ちだしちゃって完成間近だった仕切りに当てて……ね。さすがのあたしも焦ったよ~。でも提督は笑って許してくれたけどさ。頬引きつってたのがすげー印象深かったよぉ~。どうもあたしの前は五月雨ちゃんたちもやらかしてたらしくて、そういう事態には慣れてたみたい。」

 静かに、淡々と述べる那珂の経験談に神通も川内も苦笑するしかなかった。しかしそれと同時に、先輩でさえやらかすのだから自分らなぞ確実だろうと恐れを抱いた。

「アハハ……。そりゃ提督も災難ですねぇ。那珂さんでもドジしたことあるのが新鮮だ~。」

「せ~んだいちゃ~ん?」

 凄む那珂。川内は悪びれた様子もなく片手を那珂に向かってプラプラさせながら軽い謝罪をする。

「アハハハ、ゴメンなさ~い!」

「……でもあたしたちも絶対誤って壊しそうで怖いです。だったら私も……海に出て訓練したいです。」

「プールの壁は一応丈夫には出来てるらしいんだけどね……。それ以来、雷撃訓練は極力海に出てやることって決まったの。」

 3人ともバイトをしていない収入なしの高校生の身であるため、ふとしたヘマで鎮守府の施設を壊して弁償、という悲劇になりたくなく、意見は完全に一致した。

 訓練用の的を台車で出撃用水路の前まで運び出す。その後明石から訓練用の魚雷の予備も受け取った那珂は二人に預けていた的と魚雷の予備を小型のボートに入れて、先に川内と神通を出撃用水路から発進させた。その後ボートを片手に持ったひもでひっぱりつつ、自身も発進した。

 湾を出た3人。着いたのは湾と川を出てすぐの、浜辺よりも手前にある堤防沿いの沿海だった。ボートを適当な消波ブロックに紐で括りつけた那珂は、その場で川内たちの方を向き説明を始めた。

 

 

--

 

「それじゃあ二人とも。これから雷撃の訓練を始めるよ。いいかな?」

「「はい。」」

 

 返事を聞いた那珂は自分の腰にある魚雷発射管の本体を手動で回し、自分が撃ちやすい向きにした。それを見て川内と神通も準備をし始める。

「二人とも、魚雷発射管の使い方はおっけぃかな?」

「昨日の今日ですし、さすがのあたしも覚えてます。」

「問題ありません。」

 それぞれの返事が返されると、那珂はウンウンと頷いて話を進めることにした。

 

「うっしうっし。それじゃー早速始めましょ。」

 那珂はボートから的を持ち上げ、その場から50mほど沖へ向かって海上を進み、的を浮かべた。そしてすぐ的の背面にあるスイッチを入れる。すると的からはわずかに電子音が鳴った。那珂が的から手を離すと、的は潮の流れに流されることなくその場に固定されたかのように浮かびとどまった。的はわずかだが小刻みに動いている。

 那珂は川内と神通に合図を送り、残りの的を自分のいるポイントまで持ってこさせた。残りの的は左右5mほど間隔を開けてさきほどと同じようにスイッチを入れて浮かばせている。その後ボートのある位置まで二人を手招きしながら戻った。

 

「それじゃあまずはあたしがお手本見せます。よーく見ててね?」

 那珂の言葉に川内と神通はゴクリと喉を鳴らした後「はい」と返事をした。

 その瞬間、那珂の表情からは普段の調子づいた軽い雰囲気は消えた。今まで見たことのない先輩の真剣味のある表情に川内と神通は息を潜める。単なる真面目とは異なる鬼気迫るものがあった。二人はまだ実感はないが、これが一度でも戦場に立ったことのある艦娘の顔なのかと想像する。

 

 那珂は真ん中の的をずっと見ていた。距離にして約50m。あまり有効射程距離が伸びない訓練用の魚雷とはいえ、 50mというのはあまりにも近すぎる距離だ。事前にインプットした制御を再現し終えたとしても外す可能性は低い。だからこそ外してしまったら後ろにいる後輩に示しが付かない。

 

 艦娘の魚雷は撃ちだすとコントロール下に入る前に軽く12~13m程度進む。実戦用の魚雷あるいは環境によりその距離は変化する。魚雷が着水すると重みや勢いにより海中に沈む。そこから急速に浮上しつつ前に進む。沈み方が深ければ浮上するためにエネルギーを余分に消費する。自然の浮力でもって浮かぶこともあるが、スタートダッシュの時点でエネルギー波を発して素早く沈んでしまうため、大体のケースで自然の浮力では足りない深度になる。

 そして制御を再現し始める際に角度により想定距離が大きく変化してしまい、結果として威力が減退した状態で無駄に距離が出てしまう。想定したコースが間延びし、命中率も変化する。また、艦娘の魚雷発射管とその装置の装備位置の影響もある。

 浅く沈むように撃つことで、沈んだ後浮かぶために消費するエネルギーを節約でき、角度・距離そして破壊力を保てる。ただし扱い易さは艦娘の艤装により差がある。一番扱い易いのが、那珂たちはまだこの時点では知らなかったが、不知火ら陽炎型の艤装、その次に五月雨以前のナンバリングの白露型向けに設計された太ももに装備する魚雷発射管装置であり、その次が腰につける川内型、向きが固定でその他外装に連なる形で腰とふとももの付根付近に位置する形になる五十鈴と続く。そして現時点で鎮守府Aに配属されている中でもっとも雷撃で調整しづらいのが、背中に背負う形になる五月雨であった。

 

 川内型の艤装をつけている那珂が浅く沈ませるように撃つには、腰を低くして身をかがめて魚雷発射管がなるべく海面に近い位置に来るようにし、真正面に近い斜め下向きに魚雷を発射する必要がある。なおかつ、魚雷のエネルギーの出力開始タイミングを早める必要もある。

 経験者といえば聞こえはいいが、光主那美恵自身が変身している那珂は激戦区担当の鎮守府に所属するような屈強な軽巡洋艦艦娘、那珂ではない。艤装の真の力を発揮できたともてはやされてはいるがよくてせいぜい1ヶ月目の自衛隊員に毛が生えた程度の戦闘レベルの艦娘となった女子高生である。

 慢心せず、とにかくやるのみと那珂は気持ちを切り替えて意気込んだ。

 口を開けて大きく深呼吸をして酸素を取り入れる。潮の香りがかすかに鼻をかすめた。口以外でも酸素を取り入れていたのに気づく。その直後、那珂は右腰の魚雷発射管を前方斜めに向けながらしゃがみこんだ。艤装の足のパーツから制御される浮力を保つために足を開いてバランスを取る。

 

「そーーれ!!!」

 

 掛け声とともに那珂は魚雷発射管の一番目のスイッチを押した。押す前にスイッチに触れながら、魚雷の軌道をわずかに右にカーブさせて進むようイメージをしていた。

 那珂の右腰の魚雷発射管から発射された1本の魚雷は海面との距離が短く、かつ斜め前に向いていたおかげで沈むよりも早く的めがけて前進し始める。魚雷は那珂がイメージしたとおりの軌跡で急速に那珂から離れていった。

 そして……

 

 

ドオォォーーーーン!!!!

ザパァァーーーーン!!!

 

 

 突然的のまわりに極大の水柱が立ち上がり、轟音が響いた。那珂の後ろで離れて見ていた川内と神通でも、魚雷が的に当たったのがはっきり理解できた。水しぶきが収まると、的は爆散しその場所には影も形もなかった。左右に離れて設置していた別の的は水しぶきと波によって当初の距離から離れていた。

 

「とまあ、上手く命中すればこんな感じ。」

「す……すごい! すごいですよ魚雷!!」

「……!(コクコク)」

 川内は鼻息荒くその感動を表現しまくる。神通は目の前で展開された出来事のあまりの迫力に言葉で表現できず、ただただ激しく頷いてなんとか感動と驚きを那珂にわかってもらおうとリアクションした。

「でも的砕け散っちゃったから組み立て直さないとねー。悪いんだけど一緒に拾って……くれる?」

「「は、はい。」」

 那珂が申し訳無さそうに懇願すると、川内と神通は苦笑しながらも頷いて快く手伝いを始めた。そうして的を復元し終えると二人を引き連れて50m手前位置まで戻り、準備をさせた。

 

 

--

 

「二人ともまずはそのままの体勢で撃ってみよっか。押す前に魚雷をどういうコースで進ませたいかを頭に思い浮かべてね。準備OKだったらポチッとな。そしたら魚雷は魚雷発射管から発射されて大体思い描いたとおりに動いて進んでいくよ。自分と当てたい敵の距離、方向や位置関係、それから意外と潮の流れも影響するから、今後出撃した時は、撃つ前にみんなで海の状態を認識合わせておくといいね。いろいろ言いたいけど、とりあえず最初の一発目は余計なこと気にせず頭にコースを思い浮かべたらすぐに押してみよう。」

「うー、実際操作するとなるとホントにできるかなぁ。なんかドキドキするな~。」

「あの……那珂さん。もし的から外れたら魚雷はどこに……行ってしまうんでしょうか?」

 その場の心境を述べる川内と異なり、神通は雷撃後の万が一の状況を気にした。那珂はそれにサクッと答える。

「エネルギーが尽きるまでひたすら前進するよ。で、もし途中で何かに当たったら大爆発。その前にエネルギーが尽きたら普通に海の底へ沈みます。そうなったらもう爆発はしません。えぇ、そりゃもう無駄に魚雷を1発失うことになりますなぁ。」

 

 那珂の普段の軽さが入った説明を聞いて神通は落ち着く。自分らが向いているのはその先に障害物がなさそうな方向。鎮守府Aからやや離れたところは工業地帯があり、まれにタンカーや企業の船が通る。今この訓練時は、沖には船は一切通っていない。神通はそこまで確認してひとまず安心することにした。ほっと胸をなでおろす仕草をすると、川内がそれが何かと尋ねてきた。

「ん?どしたの神通?」

「いえ。万が一外したときに危ないことにならないかと思いまして。」

「ふ~ん。まー大丈夫っしょ。沖のほう全然船通ってないし。」

「……そうですね。」

 神通が気にかけていたことは川内も多少頭に浮かんでいた懸念事項だった。しかし川内は必要以上に気にすることはないといった様子で視線を前方の的に向ける。続いて神通も気持ちを切り替えて的を見据えた。

 

 

--

 

 川内は一足早く的に向き直し、見るというよりも凝視していた。頭に思い浮かべるのは自身の腰右側の魚雷発射管からほぼまっすぐのコースで泳ぐ魚雷の姿。先日やった主砲パーツによる砲撃の訓練とは違い、手で狙っているという感覚がなく、頭で思い浮かべるだけのため川内は戸惑う。彼女は、思考する必要がある艦載機や魚雷がもしかしたら苦手と感じる自分がいることに気づいてきた。

「はぁ~。ゲームをプレイするのと同じ感じでやれれば一番いいかと思ったんだけどなぁ。なーんかやっぱ現実は違うなぁ。」

 頭をポリポリと掻きながら、念を込めたつもりでもう片方の手で右腰側の魚雷発射管の1番目のスイッチを押した。

 

「てぃ!! いっけぇ~!」

 

ボシュッ!!

 

 真正面に向けていた川内の魚雷発射管の1番目のスロットから、魚雷が放たれた。海中に向かってほとんどまっすぐ発射されたため、勢いは落下と潜水に向けられ、理想的なスタートダッシュにはふさわしくない状態で海面に没していった。

 

シューーーーー……

 

 海面に落ちた川内の魚雷は先端の円形の部品の裏部分から緑色の光を放ちながらほどなくして一気にスピードを上げて前に進んでいった。そのコースは川内が発射前に頭に思い浮かべていたものを再現しようとする。ただ魚雷発射管は彼女の思考を完全に読み込んで変換できなかったのか、川内が思い描いたよりも浅い角度で曲がって進み、そしてギリギリで的に当たらずそのまま的をあっという間に10m、30mと超えて次第に見えなくなっていった。

 

「あれ?当たらなかった。おっかしぃな~。もうちょっと曲がって当たるようにイメージしたはずなのになぁ。」

「イメージが足りなかったのかもね。魚雷さんが川内ちゃんをまだまだ理解してくれなかったということで。」

「理解って……なんか生き物みたい。」右頬と口端を引きつらせて苦笑いする川内。

 

 そんな愚痴にも満たない感想をいう川内に、後ろから那珂がアドバイスを告げた。

「でもこれでなんとなく感覚はつかめてきたでしょ?」

「うー。せめて魚雷発射管に入ってるあと2本は撃っていいですよね?」

 那珂は言葉に出さず、川内に向かってOKサインを出してニコッと笑いかける。川内はそれを見て鼻息をフンと一つついて再び的の方に向き直す。

 その後川内は残っていた魚雷2本を同時に撃つことにした。2本目は1本目と同じく右にカーブするコース、3本目は左に曲がり急速に右に旋回して進むイメージを明確にしてからスイッチを連続で押した。

 

ボシュッ!ボシュッ!

 

シューーーー……

 

 2本の魚雷は川内の思い浮かべたコースを忠実に再現して進んでいき、そして的の1m後ろで魚雷同士で交差するように衝突した。

 

ドッパーーン!!!!

 

 魚雷同士の爆発で激しい水しぶきが立つ。爆発の前方にあった的は激しく発生した波に揺さぶられて川内のほうへと吹き飛ばされる。

 

「あっれ!?また外した。むっずかしいなぁ?。」

 再び愚痴る川内に那珂が再びアドバイスをする。

「最初であれだけ近くで爆発させられたなら初めてとしては上々だよぉ。さ、的に当たるまでどんどんイっちゃおう。」

「はーい。」

 那珂から離れた場所から声を張って返事をした川内は一旦魚雷を補充しに那珂の側に停泊させているボートに向かい、装填してから再び位置についた。

 

 

--

 

「あれ?当たらなかった。おっかしぃな~……」

 一足早く魚雷を撃ち、ミスした川内が愚痴る。そんな姿を横目で見ていた神通は、彼女の思い切りの良さを羨ましく感じていた。砲撃はまだ手に持って扱う銃のように確かな感覚があったので慣れれば満足に扱うことができるだろうが、魚雷という一般人が扱うことはおろか日常で言及すらしない存在、しかもそれが艦娘の艤装の魚雷というさらに限定された特殊兵器を果たして自分が十分に扱うことができるのかと疑念を持った。

 先刻デモをした那珂の雷撃を思い出す。訓練用でもあのようなすさまじい威力の兵器を、実際の戦闘でもっと破壊力のある魚雷を扱うことに、張り切って訓練する意気込みよりも扱う兵器の恐ろしさが神通の思考を占めようとしていた。

 

「……なんか生き物みたい。」

 

 聞こえてきた川内のふとした言葉。神通の脳裏にその言葉が引っかかった。

 考え方を変えてみよう。

 コアユニットと同じく考えたことを理解して動く艦娘の武器の一つ、魚雷。これはペットだ。しっかり躾けて飼いならせば主人の思いを理解して動いてくれるペット。それが魚雷発射管で、魚雷はそんな愛玩するペットの行動の一つ。なんらビクつくことはない。現実のペットよろしく、この魚雷発射管と魚雷も、これから何度も使い鳴らしていけば自分の考えを理解して思いに答えてくれるに違いない。

 先輩である那珂は提督の言葉を借りてプログラミングと言っていたのを思い出した。那珂が提督寄りにプログラミングと捉えるなら、そして川内が特に考えこまず平然と扱うなら、自分はこの自分の艤装を、自分の一部・ペット・相棒として捉えよう。神通の思考はそう定まっていく。

 

「……いきます。」

 

 おそらく聞こえないであろうぎりぎりの小声で開始を口にした神通は左腰側にある魚雷発射管の1つ目のボタンを押した。川内よりは海面に沿う、つまり向いているため、シュボッっと発射された魚雷は潜水することなく海面に着水し没した。川内のと異なるのは、抵抗が少なかったのと向きが幸いしたのか、海中にそれほど沈まないうちに先端の部位から噴射のエネルギー光が発してスタートダッシュ状態になり、神通の考えたコースを限りなく忠実に再現して直進していった。

 

 しかし艤装に思いをはせすぎて的に当てるコースをきちんと考えてなかった。

 

 神通が気づいた時はすでに遅く、慌てて考えて教えこんだとはいえ魚雷は入力されたコースを早々に再現し終わり、自動で向きを固定させたまま進んでいった。神通の前にあった的の手前にたどり着く頃には、右に3~4m逸れてしまっていた。

 

シューーーーーー……

 

 

 目を細めてうつむく神通。無駄に1本失うことになってしまっていた……そう悔しがっていると、直後、彼女の対象としていた的の横で爆発が起きた。川内の的の少し先で爆発が起き波しぶきが発生していた。驚いて横を向く神通。そんな彼女の視界には後頭部を掻いて自身の行為の結果に呆れている同期の姿があった。同期たる川内は、2発動時に魚雷を撃つという先に進んだ行為をしていた。

 

 川内に促した那珂は今度は神通の方を向いて口を開いた。

「神通ちゃんはコースをちゃんと考えてなかったのかな?的から結構離れちゃったよ?」

「す、すみません……。はい。」

「うーん。まぁ初めてであそこまで近くなら良いと思うけどね。あの砲撃の時みたいな集中力と観察力なら、きっと魚雷だって同じ感じで上手く扱えるようになると思うよ。だから残りの2発、同じような勢いでいってみましょー!」

 

 那珂の言葉を聞いて神通はハッとする。てっきり川内の方しか見ていなかったと思えたのに、この先輩はちゃんと自分のことも前の訓練の結果を踏まえて見てくれていた。

「が、がんばります。」

 おどおどしながらも決意を見せる返事を聞いた那珂は微笑みながら頷いた。

 

 

--

 

 その後午前中1時間ほどの間に出撃前に装備していた合計6発の魚雷を使い果たし、予備として持ってきていた魚雷を川内は6本、神通は4本消費していた。そのうち的に命中したのは川内の2発の魚雷だった。神通はいずれの雷撃も的から外れ、惜しいところで1mまで迫る距離であった。その間に二人は那珂のアドバイスにより立ち位置を変えて練習していた。

 

「うーん。今のところ2発かぁ。でも感覚はわかってきたな。頭の中で○○BOXのコントローラを使ってるイメージも浮かべたらイケそう。」

 川内はこの時代で流行りのゲーム機のコントローラを頭の中で操作するイメージもして雷撃することで、早くもコツを掴みかけていた。

「う……私、全然ダメです……。」

「全然問題ないって。神通だって結構惜しいところまで撃てたじゃん。イケるイケるよ!」

 思わずうつむいてしまう神通。そんな同期を片手でガッツポーズをして川内が励ます。

 二人の後ろで腕を組んで見ていた那珂がこの時点の評価を口にした。

「そーだねぇ。まー、川内ちゃんはさすがゲームオタク?だけあって掴みが早く異常なだけで、神通ちゃんのほうが普通の進み方なんだよ。アレですよ。大器晩成ってやつ?」

「うおぉ~い那珂さん?あたしさり気なく馬鹿にされてません?」

「アハハ。してないしてない。キニスンナー」

「むー……」

 眉をひそめてわざとらしくむくれる川内。そんな少女の様を見て那珂と神通は口を抑えたり俯きながらアハハと和やかに笑い合うのだった。

 そんな時、那珂たちがいる海の近くの堤防沿いから自分らのものではない声が聞こえてきた。

 


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