同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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那珂と明石による艤装の説明が続きます。


- コレさえ読めばあなたも艦娘になれる・・・かも!?


基本訓練(艤装説明・概要~腕部操作)

 工廠に来た5人。那珂は早速明石を呼びに工廠の奥へと入っていった。明石は事務所内にいた。

 

「明石さん。」

「あ、那珂ちゃん。はい、なんでしょう?」

「これから訓練始めますので、よろしくお願いします。」

「わかりました。じゃあいつものように○○さんに艤装を出してもらってくださいね。」

「はい。……それと、お願いがあるんですけれど。」

「ん?なにかな?」

「もしお時間あるならぁ、艤装の説明で協力していただきたいんですけど。よろしいですか?」

 技術的な説明をするのが大好きな明石は那珂の依頼に身を乗り出さんばかりの勢いで二つ返事で快く承諾した。

「えぇ、いいですよ。ただ午後は提督からちょっと別件でお願いされてることがありますので、あくまでも午前だけですけど。」

「あ、はい。午前だけでも全然問題なっしです。」

「それでは、艤装のことならこの明石にどーんとお任せあれ、です!」

「さっすが頼もしい~!」

 那珂はパチパチを拍手を明石に送る。明石の強力なサポートを受けられることになった那珂はその場でガッツポーズをし、明石の手を引いて事務室を出た。事務所を出た那珂と明石は技師のもとに行き艤装を運び出してもらい、外にいた川内たちと顔を合わせる。

 明石の姿を見た川内や五十鈴はすぐに会釈をして挨拶をする。神通は隠れながらそっと頭を下げ、夕立にいたっては片手を前に出して友人と接するかのようなラフな挨拶で済ました。

 

「おはようございます、皆さん。那珂ちゃんからのお願いを受けて、今日は私もお二人の訓練にちょっとだけお付き合いします。皆さんよろしくお願いしますね!」

「はい!明石さんもいるなんて今日は頼もしいですよ~」

 川内の感想に隣りにいた神通はコクコクと頷いて同意を示す。

「それじゃあ皆、行こー!」

 那珂は全員を引き連れて工廠と演習用プールの間にあるスペースへと行った。そこはちょうどプール施設の高めの壁により、日陰ができている場所だった。そして5~6人ならばバラけて座り込んでも十分余る場所だ。全員その場に適当に座り、那珂の説明開始を待った。

 

 

--

 

「さて、今日まず説明したいのは、これです。」

 そう言って那珂は自身の着ている制服を指差した。一箇所だけでなく、様々な箇所を次々に指差していく。

「それって……今あたしたちが着てる制服ですか?」

 川内は那珂が指で掴んで指し示した部位を見て言った。神通も首を傾げて那珂を見る。

「うん。これも川内型にとっては立派な艤装なんだよ?特にあたしが説明したいのはぁーこれ。グローブ。」

 那珂は自身の左腕を真横に上げ、右手でもって左手の手のひらから二の腕にかかるグローブの口までをすぅっと撫でて示した。那珂は目を細めて艶やかを出していたが、あえて五十鈴は無視した。川内と神通はそもそも那珂の腕に注目していた。

 外したとすぐに察した那珂は聞こえないように小さくため息をつき、次は足元に置いていた部品を掲げる。

「で、これがグローブの上につけるカバー。これに主砲・副砲や艦載機を発着艦させるレーンがついたこれらのパーツをつけます。」

「こんな……小さい部分にですか?本当に、付けられるのですか?」

「うん。この後付けてみせるね。それからえーっと……五十鈴ちゃん!主砲とかって五十鈴ちゃんのも取り付けられるんだっけ?」

 軽快に返事し、そのままの勢いでパーツについてのおまけ知識を言おうとしてみたがわからないところがあり、とりあえず五十鈴に尋ねる那珂。しかし尋ねられた当の五十鈴自身も、質問にはっきり答えられるわけではなく、戸惑いを隠せないでいたためにスッと受け流すことにした。

「あんたにわからないこと私にわかるわけないじゃない。艤装のことならやっぱり明石さんに聞かないと。」

 

「そーだね。それじゃあ明石さん!お聞きしてもよろしーですか?」

「はい、できますよ。一般的に言うと互換性があるといいますね。五十鈴ちゃん、ちょっとライフルのパーツを貸してくださいね。」

 明石は一行の一番後ろに一人だけ立っていた。那珂から質問されて夕立や川内たちが座っている間をすり抜けて五十鈴のところに行き、そしてパーツを受け取る。五十鈴は明石が何をするのかわからないためとりあえず頷き、流れを任せることにした。

 明石は五十鈴からライフルの艤装のパーツを受け取ると、銃口の場所に相当するプレートに付いていた単装砲をカチリと回してから取り外した。

「お次は……そうですね~。川内ちゃん、グローブカバーを借りますよ。」

 そう言って川内の近くにあったグローブのカバーを手に取り、先に五十鈴のライフルから外しておいた単装砲を、川内のグローブカバーにあった4つの端子のうち手の甲に一番近い位置のコネクタに置き、カチリと深く回して取り付けた。

 

「はい。五十鈴ちゃんから川内ちゃんの艤装へ単装砲を付け替えました。端子が共通していますので、軽巡洋艦同士なら問題ありません。あとは一部の駆逐艦と重巡洋艦の艤装とですね。」

「おぉ~~!!」

 川内は素直に感心の声を上げ、近くにいた神通も声こそ出さないが、生で見る艦娘の艤装の取り扱いの様子に興味津々といった色の目をしている。

「はい!ほら二人とも。明石さんに拍手!」

 那珂の合図でなんとなしにパチパチと緩い拍手をする川内と神通。それを受けて明石は

「いやいや!これくらいで拍手なんてやめてください恥ずかしい! も~、ほら那珂ちゃん、バトンタッチです。続きの説明してください。」

 と言い、頬を僅かに朱に染めながら照れてはいたがほのかにドヤ顔気味だった。

 

 明石と川内たちがそんなやり取りをしていると、一人だけ駆逐艦の夕立が質疑応答に加わりだした。

「へぇ~そんなことできるっぽい? ねぇねぇ明石さん、あたしの艤装の単装砲も川内さんたちに貸して合体させることできるの?」

 その質問にも明石は落ち着いて答える。

「残念ながら、そういう単装砲・連装砲という主砲はいわゆる一体型というもので今のようなことはできないの。ですけどそのまま渡して使ってもらうことならできますよ。そこはほら。普通の銃と同じ要領です。ですから2~3回練習すれば大抵の人は問題なく使えるようになるかと。」

「あ、なるほど~。それは艦娘の艤装として共通ってことなんですね。ていうかあたしたち川内型の仕組みが特殊なのかな?」

 夕立の代わりに相槌を打ち理解を示す那珂。明石はニコリと笑って頷いた。

 

「それじゃあ、あたしと夕立ちゃんが例えば出撃して、夕立ちゃんがやられてピンチになった時は、夕立ちゃんに近寄って彼女の主砲を借りてその場であたしが敵を華麗に撃破!!することもできるってことかぁ~~」

「もー、川内ちゃんったらぁ、それって漫画ネタぁ?」

「アハハ、どーでしょう?ね、夕立ちゃん!!」

 川内は那珂の軽い問いかけを適当に流し、立ち上がってその場でポーズを取りながら想像を語り、ゲームやアニメのキャラのごとくアクションをした。すると夕立もノリ出し立ち上がってキャッキャと騒ぎ始める。

 二人とも那珂が進行のためにやんわりと口を挟んでいることを完全に無視してノリ合う。

「アハハハー!川内さんヒーロー!あたしはヒロインでお姫様っぽい~~」

「それで、あのね二人とも…」

「おぅ!あたしに任せてよ!」

「それで……ね?」

 単装砲を取りつけたグローブカバーを手に持ち射撃する真似をして遊び出した川内と夕立を見て、那珂は大きめにコホンとわざとらしい咳払いをして注意を引き冷たい視線を送る。

「コホン!!! 川内ちゃん……夕立ちゃん。あたし、説明続けていい、かな?」

「うっ……!は、はい。」

「ほら夕立、こっち来て座ってなさい。」

「っぽ~い……」

 那珂の冷やかな表情を見てさすがに五十鈴も焦ったのか、中腰で立ち上がって夕立を元いた場所へと肩を抱いて連れ戻した。

 普段ちゃらけているが、真面目モードの時に邪魔されると怒る。怒らせると怖い・ヤバイと五十鈴は直感した。人は見かけによらない、五十鈴だけでなくその場にいた面々はそう感じるのはあまりにも容易かった。

 

 

--

 

「それでは続けるね。今さっき明石さんがしてくれたとおり、主砲や副砲など武器には互換性があります。つまり貸し借りして臨機応変に戦いに臨むことが可能なのですよ。んで、あたしたち川内型ではそれら装備するのはこのグローブカバー。ここに片方につき4つまで取り付けられるの。何をつけるかは自由。全部つければ無敵なんだけど……扱いなれるまでは片方に1つずつにしたほうがいいかもね。」

 なるほどと頷いてさきほど明石が取り付けた自身のグローブカバーの単装砲を眺める川内。神通はというと、ノートを持ってきておりそれにメモ書きをしている。メモ書きを終えた神通が手を挙げて質問をした。

 

「あの……主砲はなんとなくわかったのですが、引き金はどうやって引くのですか?」

「待ってました!次その説明しようと思ってたの。神通ちゃんタイミングいいね~。実はカバーの手の平に当たる部分にね、こういった細い部品が付いてます。」

 そう言って那珂が大げさにその部位を掴んで川内達の前にグッと突き出して見せたのは、4つの隣接したボタンと少し離れた位置にある大きなボタンのあるバンド状のような部位だった。

「これらのボタンは、それぞれ端子につけた主砲・副砲や艦載機の射出機に連動してます。こうやって手につけて、押しながらこうやって動かすと、その部位の装備を動かすことができるの。」

 那珂は右腕にグローブカバーを取り付け、親指の付け根付近に位置している4つのボタンのうち一つを押して、まだ主砲などがが取り付けられていない端子部分の内部の管だけを回してみせる。

 

「那珂ちゃん。せっかくなので単装砲でも取り付けてみましょう。」

 傍から見ると説明と実演がわかりづらいことを察したのか、明石はそう提案して脇に置いてあった別の単装砲を那珂に手渡す。那珂はそれを受け取り、さきほどの明石と同様に単装砲をカバーの端子に取り付け、改めてスイッチ部を人差し指で抑えて手首を動かし始めた。すると取り付けたグローブの単装砲の砲塔は彼女の手首の角度分回転し、砲身も角度を変えて動く。それを見てようやく川内と神通はスイッチの意味を理解した。

 

【挿絵表示】

 

「人差し指から小指にかけて4本の指の付け根あたりにスイッチが来るように装備することになります。各端子に付けたパーツを動かすアクションスイッチというボタン4つで、それから人差し指の付け根の脇のあたりに来る大きめのスイッチがトリガースイッチって言って、いわゆる引き金なの。ただこれだけ押しても発射とかしないよ。4つのボタンのうち発射したいパーツに対応するボタンも合わせて押さないといけません。」

 那珂は弾薬のエネルギーが入っていない単装砲を誰もいない方向に向けて、説明どおりにスイッチを押して擬似的に発射した。

 

 

ポゥン!!

 

 

 空砲の甲高い音があたりに響いた。もちろん砲弾やエネルギー弾なぞは一切発射されていない。しかし那珂が振り向いて二人を見ると、川内と神通は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして呆けている。

 

「ちょーっとふたりとも。こんなんで驚いてたら戦いなんて勤まらないよ?」

「い、いやぁ、だって結構すごい音だったし……。」

 二人の様子を見かねた明石が二人に向かって補足を挟む。

「出撃中は耳に通信用と超至近距離の余計な雑音を防ぐための耳栓をするから、実際にはそんなに大きな音は聞こえないはずですよ。これも同調して感覚が研ぎ澄まされてるから聞こえ具合は人によるけどね。」

 那珂は明石の説明にウンウンと頷く。そしてグローブカバーの残り2つの端子に連装砲と艦載機の発射出機のパーツをはめ込んだ。

「んで、これが複数あるとします。この場合の操作は混乱しがちだからよーく練習しないといけません。あたしは……ほらこういうふうにもう使えるんだよぉ~。」

 

 得意げな表情を浮かべて那珂は右腕を真正面に差し出し、人差し指~小指の4本の指を曲げてスイッチを押し分け、手首のスナップを聞かせてそれぞれの主砲の砲身と発艦レーンを少しずつ回転させた。手の甲に近い単装砲は指先の方向に、2・3つめの端子につけた連装砲は真横に、4つ目の端子に取り付けた発艦レーンは目の前を横切る向きに方向が定まる。その仕草をゴクリと固唾を呑んで見守っている他の面々。

 その直後那珂は右手でゲンコツを握った。その瞬間……

 

ポゥン!

ポンポン!!

 

 先程川内たちが聞いたことが連続。那珂が取り付けた単装砲と連装砲から空砲から発射されて響き渡る音だ。残りの発艦レーンは艦載機たるドローンナイズドマシンを設置していないため、無反応である。

「こんなふうに、攻撃する方向をバラバラにして撃って攻撃することもできるの。これがもう一本の腕にあるんだから、まさに死角なしの無敵ヒーロー!になれるんだよ。あたしたち女だからヒロインかぁ。」

 那珂の至極簡単そうに振る舞った動きを見て、川内と神通はこんな特殊な装備を本当に使いこなせるのかと、不安と期待・高揚感がないまぜになっていた。

 そんな二人をよそに、明石が詳細に補足する。

「川内型の艦娘の艤装はね、もともとは150年前に存在した軍艦の川内型が水雷戦隊の旗艦として活躍した歴史と実績を考慮した設計思想の下、開発されたの。砲撃よし、雷撃よし、海域の立ち回りよし、艦載機の扱いよしと、川内型の担当になる人も万能選手になれるようなね。そのために艤装は他の軽巡洋艦や駆逐艦のそれよりも少々特殊な仕様と性能を持っているんです。他所の鎮守府に着任した川内型艦娘の子たちも、この艤装を使って活躍してるそうなんですよ。とはいえ本当に使いこなしてそうなのは、うちの那珂、つまり那美恵ちゃんだけだと思いますよ。」

「やだな~明石さん。照れるじゃないですか~!」

 明らかに照れていない様子でわざとらしく身体をクネクネさせる那珂。五十鈴も明石の言に乗ってきた。

「使いこなしてそうというのは確かにそう思います。だって那珂ったら、2度も魚雷を手に掴んでぶん投げているんですもの。そんな使い方艦娘の艤装の教科書に書いてなかったからびっくりしたわ。」

 五十鈴がそう呟くと明石は那珂にその行動の真偽を確認した。

「あ~そういえばそのこと、提督も驚いたそうですよ。さすが那珂ちゃん、川内型のグローブの特殊加工をちゃんと理解して使いこなしてるですね~。」

「とくしゅかこー?」

 明石が感心混じりに言及した特殊加工、那珂はそのことを頭の片隅から呼び出そうとやや上の虚空に視線を送って思案する仕草をする。が、正直明石が期待しているような理解度ではないだろうと思い、しったかしても仕方ないので、明石に説明を求めた。

「ええとですね、川内型の教科書には特殊加工としか明言されていないんですけど、実は艦娘の武器を直接手で触っていじることができるんです。例えば、那美恵ちゃんのように魚雷を手づかみにしたりね。」

「魚雷を掴む?ここにはまってるコレですか?別に普通に掴んだっていいと思いますけど?」

 川内は不思議がって問いかける。

「いえいえ。艦娘の使う魚雷は普通の艦船が使うものとは違うんです。それじゃあお次は魚雷の説明を……」

「はい!はい!あたしに説明させてください!」

「あぁはい、了解です。」

 両手を挙げて勢い良く身を乗り出す那珂を見て、明石は説明をバトンタッチした。

 

 

--

 

「艦娘が使う魚雷は、実際の軍艦が使う魚雷とは違います。」

 そう言って那珂は自身の魚雷発射管から一本魚雷を抜き取って手に取りながら説明を再開した。

「コレ見て。魚の骨だけになったような形してるでしょ?魚雷は発射して海水に触れるとね、この頭の後ろの……魚で言うとエラにあたるくぼみのところからエネルギーの光みたいなのが噴射されるの。海中に落ちたあとは基本的には一方向に進むんだけど、撃つ前にある程度方向や途中の速度を調整することができるんだよ。そしてこの先端部分が衝撃を受けたりすることで爆発を起こすんだけど、ただ衝撃与えただけじゃ爆発しないんだ。海水に触れることで爆発する要素が発生するの。それが青白いというか青緑のエネルギー光なんだよ。そうですよね?明石さん。」

 

 ここまでの説明の可不可を確認するために明石に尋ねる。それを受けて明石は那珂に向かって頷いてから説明をひきつけた。

「そうですね。那珂ちゃんよく勉強しましたね~。それじゃあ私からいくつか補足させていただきますね。いいかな、那珂ちゃん?」

 那珂はお願いしますとばかりに頷き返した。

 

「先端の突起部分の裏側から放出されるエネルギー光は、わかりやすく言うとロケットなどでいうところの噴射です。これが何を示すのかというと、海水に含まれる成分と化学反応を起こした結果なんですね。そして深海棲艦で現在わかっている生体上、やつらをひき寄せる成分を薬品の中に混ぜているので、それらが燃焼された結果でもあります。先端だけでなく、そのエネルギー光に触れても誘爆します。」

「へぇ~。すっごい。」と川内。

「ただ当てに行くだけでなく、ひき寄せて命中率を高めることができる、という仕様です。それから魚雷の注意点です。基本的には深海棲艦に効果があるように厳密に調整された破壊力を持っていますが、人体に当たっても危険です。素手や素肌でそのエネルギー光を浴びてしまうと火傷、最悪その部分が吹き飛んでしまいます。」

「えっ、吹き飛ぶんですか!? 怖い……。」

 神通が心底不安そうな声を出す。その反応をわかっているのか明石は平然と説明を続ける。

「えぇ言葉通り、えぐられたかのように肉が消えます。だから普通の艦娘の艤装は魚雷発射管から発射することしかしませんしさせません。制服が支給される艦娘の制服については万が一魚雷のエネルギーが当たっても最悪の事態にならないような加工がされています。」

 

「制服がない艦娘は?」川内が疑問を投げかける。

「あたしとか時雨とかますみんとかぬいぬいのことぉ?」

 夕立も素直に疑問を持ったために川内の言葉に上乗せして尋ねる。それに対して明石は素早く答えた。

「そういう子の場合は魚雷発射管装置と素肌との間に少し隙間ができるよう装備されるか、そもそも触れないような部位の装着で考慮されています。艤装の設計時に数百数千人ものパターンで事前に計算されてるので、体型的によほど太ってる人じゃなければ当たらないと思います。そのあたりはみなさん、艦娘の採用試験のときに体型維持を注意されてると思いますけど。」

 

「え、あたしたちそんなこと言われてないですよ。ね、神通?」

 川内がそう言い返すと神通も頷いた。その二人の反応を見て察した那珂はぺろりと舌を出して言った。

「あ、ゴメン。そのあたりのこと二人には説明してなかったよ。てかあたしも体型のことなんて単に勤務上の健康のためだけかと思ってたけど、そういう大事な意味もあったんだねぇ~」

 那珂たちのやりとりを見て明石はにこやかに笑い、そして説明を再開した。

「体型も意外と大事なんですよ、艦娘って。そしてここからが本題です。特殊加工が制服だけでなくグローブや手袋などにもかけられているのが川内型なんです。手に掴んで魚雷のエネルギーの光と熱を浴びてもまったく感じない・火傷もしない、普通の投げる道具のように持つことができるようになっているんです。他の艦種では不知火ちゃんを始めとして陽炎型の一部の艦娘のグローブ、それからあとは五月雨ちゃんと涼風という艦娘のグローブは川内型と同じく二の腕近くまでカバーできるのがポイントですね。これらの艦娘の艤装は、その活動として魚雷のような危険物を取り扱う自由な作業が行えるような設計に長けていて、そういう使い方が認められているんです。ただ、これをちゃんとわかってフルに活用してくれてる人はどうやらいないみたいなんです。みんな普通の使い方以外のことは怖くてしたがらないってことなんですかね。」

 

 明石の説明が一区切りすると、それぞれ感想を述べだした。

「へ~!さみとぬいぬいって那珂さんみたいなことできるんだぁ~。後で教えてあげよ!」と夕立。

 続いて五十鈴は再び那珂に絡めて感想を口にする。

「なるほどね。みんなやらない理由がなんとなくわかってきたわ。危険物取り扱い……ね。魚雷を掴んで投げたりとかキックして踏み台にしたりとか、普通に武器の扱い方を学んでいたらする発想がない、そんな変わった使い方なんて怖いもの。そういう奇抜な考えを実行しちゃうのはうちの那珂だけだったと。みんながしないことを平然とする、つまり変人ね。」

「エヘヘ~あんまり褒めすぎるなよ~惚れるやろ~。」

「褒めてない褒めてない。呆れてるのよ。」

 五十鈴が示したのは呆れだったが、実際は感心も混じっていた。五十鈴の言葉をツッコミとして受け取った那珂はおどけてエヘラエヘラと笑い、五十鈴にさらにつっこまれた。

 

「生で魚雷手づかみを見た五十鈴ちゃんも相当驚いたでしょうけど、後で話を聞いた私や技師のみんなはもっと驚きましたよ。まさか本当にそこまで使いこなす人がいるなんて!とね。本当、那美恵ちゃんがうちの那珂をやってくださって技術者としても最高の研究材料になってるので助かってます。感謝ですよ。」

 明石と五十鈴、そして夕立は那珂こと那美恵の鎮守府Aでの活動っぷりを知っているので、那珂の話題をネタに話に花を咲かせた。一方で学校でもまだそれほど交流の日が深くない川内と神通の二人は那珂のすごさが実感できずイマイチ話題に乗れないでいたが、那珂こと那美恵は学外でもすごい人だというのは、五十鈴たちの姿を見てなんとなく把握した気分になった。

 ただ、二人にとってすごすぎる先輩那珂はまだまだ未知の要素が多い。

 

「魚雷はさすがにこの場では発射のデモはできませんので、訓練の実技の時に確認してくださいね。」

「「「はい。」」」

 

 返事を聞いた明石は那珂へと説明の続きを促した。那珂は自分の艤装の魚雷発射管装置を両手で持ち、自分の手前に装置のお尻、つまりは発射管とは真逆の面を向けた。川内と神通は魚雷発射管装置を重そうに回転させて同じ面を探してそこに注目した。

 

「それでは続いて魚雷の撃ち方、魚雷発射管と装置の使い方するよ。魚雷を打つ時はね、この魚雷発射管のおしりにある3つまたは4つのボタンを押すの。もちろん同調してない状態で押しても発射した魚雷からはエネルギーは出てこないから、ドボンと落ちてそのまま海底へ……って感じ。この装置にも脳波制御装置がついているらしくて、発射する前に魚雷の進む方向や速度をある程度決めることができるの。提督の本業のほうでの言い方を借りるとプログラミングって言って、魚雷に動き方を覚えさせて発射して自動的に進ませるんだって。」

 川内は那珂の説明を言葉の一部で復唱するが、その口調の軽さは理解できてないという様子を見せていた。一方で神通は自分の魚雷発射管ジッと眺めている。そんな二人の反応を見て那珂は続けた。

「あとホントなら深海棲艦の生体反応を検知して自動追尾してくれるらしいんだけど、深海棲艦の生体はわからない点が多くて、自動追尾は失敗することが多いの。だからあたしたちの考えた通りの動きで制御して当てる必要があるんだよ。使い慣れれば手動でやったほうが命中率はよくなるし。」

 

 那珂の説明の後、やはりここでも明石が補足する。

「今、那珂ちゃんが説明したのが、艦娘にとって基本的な魚雷です。私達の業界での名称は"脳波制御式超小型水雷"といいます。最新のタイプでは進行方向や速度だけでなく、任意のタイミングで起爆させることができます。あと戦況によっては音響を出して跳ね返ってきた障害物との距離と位置を自動計算して追尾する従来型の誘導魚雷などもあります。ただ深海棲艦の中には音を跳ね返さなかったり雑音をやたらめったら撒き散らす個体もいるので、従来の兵器はやはり通用しないことが多いですね。それから~……」

 

 その後もノってきた明石からは様々な専門用語が混じる講釈が飛び出す。ほどなくして全員理解が追いつかなくなり、唖然とした表情を浮かべた。夕立に至っては目を点にして口を半開きにして呆けている。

 危険な流れを感じた那珂は制止すべく慌てて声をかける。

「あ、明石さん明石さん!そのくらいで結構です。そんなに言われてもわかんないですよ!」

 那珂の珍しく素に近い焦りを含んだツッコミを受けて明石は我に返り弁解した。

「あら……私またやっちゃってましたか?」

 もう余計なツッコミはするまいと明石以外の全員は言葉なくコクコクと頷いて済ませた。

 

 

 

--

 

「それじゃあ、川内ちゃん、神通ちゃん。グローブカバーと主砲と魚雷、実際にとりつけたり触ってみていいよ。教科書読みながらでもいいからね。」

 気を取り直した那珂がそう言うと、二人は早速これまで説明を受けた内容を試すべく行動し始めた。

 川内はグローブカバーを手に取り、先ほど明石が試しにはめ込んだ主砲を触ったり回そうと力を入れて触っている。川内は、ゲームやプラモ作りなど、そういった局面でも何よりもまず開封したり電源をつけ、実物を手に取ってみるタイプだった。

 一方で神通は実物を手に取るよりも先にテキストを手に取り、那珂と明石が説明した部分のページを探して読み始めた。彼女の視線はテキストとグローブカバー・主砲・魚雷発射管などのパーツを交互に行ったり来たりし始めた。

 

((うん。やっぱ想像したとおり。きれーにそれぞれ違うやり方し始めたなぁ~))

 

 二人の艤装のいじり方・実践の仕方は、那珂がこれまで想定していたようなパターンだった。ある意味安心し、ある意味で那珂は少しがっかりした。しかしながらきっと二人は学び続けたら、そのうち自身の想像から外れたことをしてくれるに違いない。那珂はそう期待を込めて見守っていた。

 

 

--

 

 川内と神通が艤装の武器パーツをいじっている間、那珂・五十鈴・夕立はその様子をじっと見ているのももったいないと思い、なんとなしに経験者組として集まりお互いをネタに話し始めた。

 

「そういえばさ、夕立ちゃんは時雨ちゃんたちとは本当に同じ地元なの?」

「うん、そーだよ。時雨はご近所さんでぇ、さみとますみんはちょっと離れてるけど同じ街に住んでるよ。」

 

 そう言って話を続ける夕立の口からは時雨たちの昔話や笑い話などが発せられ、那珂たちに時雨たちへの認識を深めるのに役に立った。すでに数ヶ月を鎮守府で共にしているとはいえ、学年も学校もそして住む場所も異なる。那珂は夕立たちについて未だに知らぬところがあるため、もっとガッツリと話して親交を深めたいと感じていた。そしてその思いは、夕立たちよりもはるかに面識がない不知火に対してもそう感じていた。

 だが、ただ仲良くおしゃべりや外出を共に楽しむのではそれではただの女子、そんな面白みのないことはしたくない。那珂は艦娘らしい仲良しを企画したかった。那珂は艦娘同士での演習を思い出す。以前見学の際にした五月雨・村雨ら、そして着任当時に五十鈴など、片方の手で数えられるほどしかしたことないのに気づいた。

 この夏休み、後輩の川内と神通の教育をしつつ、機会があればまた五月雨らと演習試合をしたいと頭の中で考えが芽生え始めた。

 

「ねぇねぇ夕立ちゃん、夏休みはどこか出かける予定とかはあるのかな?」

 夕立は那珂からの質問にんーと思い出す仕草をして数秒経って答えた。

「多分遠くは行かないと思う。特に予定ないよ?」

「そっか。それじゃあさ、川内ちゃんと神通ちゃんがそれなりに戦えるようになったらさ、みんなで演習試合やらない?」

「えっ!?那珂さんたちと!?」

「そ。あたしたち、あまりお互いに演習しあった事ないと思うの。せっかく時間がたっぷりある夏休みなんだもの。艦娘らしいことを何かして一緒に過ごしたいな~ってさ。どうかな?」

 那珂の考えを聞いた夕立と五十鈴はやや呆けた顔をしながら相槌を打ったが、すぐにその表情を同意を表す笑顔に変えた。

 

「へぇ~いいじゃない。これから人も増えるでしょうし、私達は恥ずかしくないように強くなってないといけないわ。」

「うん!あたしもいーと思うよ。というかね、あたしは川内さんたちと一緒に那珂さんの訓練受けたいっぽい!!」

「おぉ~?夕立ちゃん、ものすごくやる気?」

 夕立の一言は那珂を喜ばせ、照れさせるのに十分だった。照れを隠しつつ確認する那珂。夕立はエヘヘと笑って言葉なく肯定を示した。

「そっかそっか~。でもあたし白露型の艤装のこと知らないからなぁ~。だったら雷撃訓練とかは一緒にやってみる?」

「うん!!それなら一緒にやりたいっぽいーー!」

 元気よく手を挙げてその意志をさらに強く示すのだった。

 

 

--

 

 那珂たちが会話している間、川内と神通はひたすら自身の艤装の武器パーツを触ったりテキストを読んで熱心に勉強していた。正式に艤装をいじり回せるということで二人とも張り切りの度合いは大きいものだった。

 川内は主砲パーツをグローブカバーに取り付けては外しを繰り返し、そして手のひらのスイッチと手首のスナップで細かく動かし、おおぉ!だの、うはぁ!だのといちいち感動の声をあげている。その次に川内の興味は魚雷発射管に移った。自身の魚雷発射管装置から魚雷を抜き取り、マジマジと眺めたり、那珂がしたと想像する投げ方を再現するなど、積極的に手を使って実際の感覚を覚えようとしている。

 神通はというとまだ本格的にいじることはしなかった。主砲パーツのみを手にとって360度回転させ、テキストと目を行ったり来たりさせて観察している。ある程度テキストを読み進めた彼女は、そこで初めて主砲パーツをグローブカバーに取り付けては外し、また取り付けた。川内とは異なり、神通は主砲パーツしか注目しなかった。興味を四方八方に散らすのではなく、一つ一つその構造や感触を確認している。

 

 ひとしきり驚きと感心を終えた川内が先に声を上げた。

「ねぇねぇ那珂さん!あたしこれ撃ってみたいんだけど。いいですかぁ!?」

 

 那珂は夕立たちとの会話を中断し、川内たちに面を向けた。

「ん~。それじゃあ午後は砲撃訓練にしよっか。それまではパーツの仕組みをしっかりおべんきょーしてね?」

 軽やかな口調だがピシャリとした言い方で川内に言い聞かせた。川内は先輩の指示に素直に従うことにし再び座る。怒られたり優しく叱られる引き金がまだよくわからないが、とにかく変に先輩の考えの邪魔をするのだけはやめようと頭に刻み込む川内であった。

 

 時間にしてまだ10時前後。昼食までにはまだまだたっぷり時間はある。次のパーツの説明のため、川内と神通の様子を見計らい、声をかけた。

 

 

--

 

「二人とも。それじゃあ次の説明行くよ。」

「「はい。」」

「次はね~、これ。」

 

 那珂は自分の艤装の置いてある場所に戻り、手にとったのは細長い鉄板、艦載機の発艦レーン(カタパルト)だった。

「これはね、小型の飛行機、ドローンナイズドマシンっていう言ってみればラジコン飛行機を飛ばすためのパーツだよ。」

「「ドローンナイズドマシン?」」川内と神通はハモって聞き返した。

 

「そ。」

 那珂は艦娘が使う艦載機、ドローナイズドマシンの説明をし始めた。決して自信を持って知ってるとは言えないパーツのため、時折明石に目配せをして自身の説明の箔を求めつつ続けた。

「あたしたち艦娘が使うのはね、そんじょそこらのドローンとは違うんだって。あたしが使ったことあるのは都の職員さんから借りた調査用の偵察機で、5~6kmくらいしか飛ばないやつらしかったんだけど、本来艦載機を使える艦娘に配備されるちゃんとしたやつは、15~20kmほど飛ぶものなの。」

 那珂の説明に川内は自身の持っていた知識で確認を求める。

「え、そんなに長い距離飛ばせるんですか!?ラジコン飛行機はもっと短いですよ。」

「そーそー。艦娘が使うのは業務用のちゃんとしたものだからね。」

 那珂は一言説明を終えると明石に視線を送る。それを受けて明石は説明を引き継いだ。

 

「コホン。補足説明させていただきますね。艦娘の使うドローンナイズドマシンは、艦種によって扱える種類が異なります。那珂ちゃんやお二人が使えるのは偵察機と分類されるものです。艦載機にはドローンナイズドチップと呼ばれる心臓みたいなものがありまして、高精度のカメラなど様々なユニットを接続することができます。」

「あの……操作はどうやって……?」

 抱いていた疑問を神通が口にした。明石は専門分野ということで引き続き軽やかに答え始める。

「はいはい。それも説明いたしますよ。艦娘の使うドローンナイズドマシンにも脳波制御装置がついています。これは艤装のコアユニットでもおなじみですね。つまりは考えたことを機械が理解して自動で動いてくれるんです。那珂ちゃんは現場で一度使ったことあるからなんとなくわかってると思いますけど、右へとか左へとか、旋回とかそういう方向転換する考えだけを検知してくれる機能が偵察機のドローンナイズドチップに備わっています。目的のために放っておおまかに方向転換のイメージをして、撮影をさせて戻すのが基本的な使い方なんですけど、細かい調査をしたい場合はあらかじめ偵察機と通信を認証しておいたスクリーン機器に映像を映しだして、見ながら動かすこともできます。前回那珂ちゃんがしたのは後者のほうで、こちらのほうがより安全に確実に操作できます。」

 

「考えただけで……。艤装の本体だけじゃないんですね。」

 神通の口調は静かなものだが驚きを持っていた。

「那珂さん、そんなの使ったんだ。すっごーい。」

 川内はその仕組がわからんという雰囲気を出していながらも、とにかく驚きを示していた。

 

「ちなみに那珂ちゃんたち軽巡洋艦が一度に操作できる艦載機は1機まで。重巡洋艦は2~3機。空母の艦娘は一度に4機を扱えます。那珂ちゃんたちは扱えないので詳しい説明は省きますが、空母の艦娘が使う艦載機は攻撃能力を持つことを許された種類です。方向転換のイメージをしつつ、攻撃のイメージもしなければいけないので、扱いが難しいんですよ。ちなみに彼女たちにはメガネなどの装着型のスクリーンの着用が推奨されています。そうしないと複数機の艦載機を扱うのは果てしなく難しいですからね。」

 

「ほぇ~……。空母の艦娘ってあたしたちよりすごいんだぁ~。てか難しいんだ。あたし軽巡でよかったかも?」

「ウフフ。那珂ちゃんならもしかすると案外空母としてもやれちゃったりするかもですね。」

「いやいや!買いかぶりすぎですよ!」

 那珂が感心していると明石はヨイショ気味の茶化しをした。リアクションする那珂には半分本気の照れが交じっていた。

 

「それでは那珂ちゃん、説明バトンタッチです。レーンの存在意義と使い方はわかってますよね?」

「はい。お任せ~!」

 那珂は明石から説明のバトンを譲り受けて説明を再開した。

「あたしたちが艦載機を使う場合はね、このレーンから発射させます。このレーンは、あたしたちの艤装と艦載機の通信を認証するための装置も付いてます。だからこれなしで単に艦載機をぶ~~んと投げて飛ばしたって、それはあたしたちとはなんの関係のもない、ただのドローンになります。んで、ほどなくして墜落します。だって操作する人がいないだもん、当たり前だよね?」

 ペロッと舌を出してウインクをしておどける那珂。那珂の説明にピンと来たのか、川内が用語を発した。

「あ~、なんかわかってきましたよ。それカタパルトっすね?いわゆる射出機。」

「そうですそうです!川内ちゃん詳しいですねぇ。」明石が素直に感心する。

「アハハ。あたしプレイしたゲームでそういうの出てきたことあるので知ってるんです。」

「お~さすが川内ちゃん。ゲームがからむと物知り~!」

 川内が件の機器を知る原因を語ると、那珂も納得の表情を浮かべる。ゲームや漫画に絡めると途端に理解力が高まる、理由はどうあれいいことだ。那珂はそう感じて川内の評価を大幅上方修正し、そして続けた。

「実際に使うとね、頭の片隅に"あ、今この偵察機こうやって動いてるな~"って感覚があります。慣れてないと自分の頭の中に誰か別人の考えが混じってくるような違和感がすごくあると思うけど、まあこのあたりもやり始めれば問題ないと思う。あたしはいきなり実戦で本格的に使って内心ちょっとびっくりしたから、二人には実戦前に何度も練習してしっかり慣れてほしいな。」

 

 那珂の説明が一区切りした。川内も神通も主砲パーツとは違う未知の操作をすることになる機器の概説を受けて頭の中が整理できていないという様を見せている。しかしなんとか理解をしようと二人とも発艦レーンとサンプルの艦載機を交互に眺め続けている。

 

「これも実際に試すのは後日ってことでね。それまではちゃーーんとテキストも読んでお勉強してね」

「「はい。」」

 その後、またしばらく艦載機とレーンをいじらせた那珂は時間を見計らい、次のパーツの説明に移ることにした。詰め込み過ぎるのも二人のためにならないと判断した那珂は、簡単そうなところでスマートウェアの操作の使い方を中心に教えた。先ほどの主砲パーツを絡めて弾薬エネルギーや艤装の燃料エネルギーの確認の仕方を二人に説明し、午前中は終わりを迎えた。

 

 

--

 

 昼食のため本館に戻る那珂たちとは別に、明石は自社の社員と昼休憩を取るため工廠内に戻っていった。那珂たちはお昼は先週と同様に4人揃って行こうとしたが、今回は夕立がいる。そしていずれ五月雨と村雨も来る。那珂は本館に戻る途中で全員にお昼をどうするか尋ねた。

 

「ねぇみんな。お昼どーする?」

「またあのファミレスでいいんじゃないですか?」川内がまっさきに反応した。

「ねぇ夕立。五月雨たちはいつごろ来るの?」

 五十鈴が夕立の方を見て尋ねた。すると夕立は両腕をぐるぐると回して大きめの背伸びをして答える。

「わかんなーい。でもそろそろ来るっぽい?」

「あなたね……。友達ならせめて二人の予定くらい確認しておきなさいよ。」

 五十鈴の小言は夕立の左耳から右耳へと通り抜けていくだけだった。彼女の反応を見て五十鈴は注意するだけ無駄だと悟り、はぁ……と一つため息をついた。

「よっし。じゃああたしが連絡するよ。」

 執務室に戻ったあと、那珂は宣言通り早速五月雨にメッセンジャーで連絡を取った。

 

「こんちは五月雨ちゃん。今どこ?鎮守府にはいつごろ来る~?」

 ほどなくして返事が来た。

「こんにちは!ええとですね、今ますみちゃんと一緒に地元の駅にいます。」

「ほう。それじゃあお昼は一緒に行けるかな?」

「今からですと午後1時過ぎちゃいますけどいいですか?」

「問題なっし。あたしたちもこれから着替えて駅に向かうから、待ち合わせしよ。」

「はい。了解です!」

 

 五月雨と話をすりあわせた那珂は川内たちと一緒に外に出る準備をし、五月雨たちとの待ち合わせに待ち合うよう時間を調整して鎮守府を出発した。鎮守府前のショッピングセンターからバスに乗った那珂たちは数分後駅前についた。

 まだ五月雨たちは来ていなかった。

 

「あっついなぁ~ねぇ那珂さん。さきにファミレス入っておこーよ。」

「まぁまぁ。もう少し待ってあげよ。」

 川内が愚痴と提案を口にするが、那珂は一行がいる改札前から動かないことを決めているのかやんわりと拒否した。二人の間では神通がその様子を受けてじっとしている。

 

「ねぇねぇ五十鈴さぁん。あたし買い物してきていーい?」と夕立。

「なに買うの?」

「飲み物!」

「はぁ。行って来なさい。」

「はーい!」

 そう返事をして夕立は近くにあるコンビニへと走っていく。その姿を見て川内も名乗りを挙げて夕立についていく形で駆け出していった。

「あ!あたしもちょっと買ってくる。夕立ちゃーん、ちょっと待って~」

 

「あの二人は……なんと言えばいいのか、欲望の赴くままに行動してるって感じね。」

「アハハ。それはいえてるかもね~。」

 コンビニへと駆け込んでいった夕立と川内を横目で見て五十鈴はぼそっとつぶやいた。そのつぶやきにケラケラと笑って那珂は相槌を打ち、神通は笑いを隠すように僅かに顔を下向きにして苦笑いをした。

 しばらく経って夕立と川内がコンビニから戻ってきたのと同時に天井のその上から電車の音がゴウンゴウンとした。改札口に一同が視線を送っていると、ほどなくして見知った顔が姿を表した。

 五月雨と村雨である。

 

「おーーーい!!五月雨ちゃーん!村雨ちゃーん!」

「さみー!ますみんー!」

 まっさきに声をかけたのは那珂であった。次に夕立が親しい間柄で使われるあだ名で二人に呼びかけた。他の面々は声を出さずに軽く手を振って合図を送るのみである。

 改札を通って小走りで駆け寄る五月雨と歩幅広い歩みで近寄ってくる村雨。

 

「あー、さみ多分つっこけるっぽい。」

夕立の何気ない一言に那珂を始めとして高校生組はなにもないところでそんなまさかと鼻で笑うが、次の瞬間可愛い悲鳴が響いた。

「きゃっ!?」

 五月雨は那珂たちにかなり近寄ってきたところで夕立の言葉どおりに足をつっかけて転びそうになる。さすがに完全に転ぶところまではいかずに済んで胸を撫でおろしつつ那珂たちの目の前で歩みを止めた。その後ろからはのんびりマイペースに村雨が程よい距離で立ち止まる。二人が側に来ると夕立は隠してない聞こえやすい独り言を言った。

「さみってば期待を裏切らない良いキャラっぽいー」

「えっ?」

「ううん、なんでもないよ。こっちの話ー。」

 夕立の言葉の意味がわからずポカンとした顔をする五月雨だった。

 

 メンバーが全員揃ったことで那珂が全員に向かって声をかけた。

「あとは時雨ちゃんだけど、どうしよっか?」

「あ、あの。時雨ちゃんはお家の用事でまだ帰ってこないみたいです。だから気にしないでいいと思います。」

 五月雨が説明をすると、すぐに思考を切り替えて那珂は全員に向けて言った。

「そっか。それじゃあお昼食べて鎮守府いこっか。」

 

 

--

 

 その後おなじみのファミリーレストランに行き、思い思いの食事と会話を楽しんだ那珂たちはレストランを後にし、徒歩で海岸沿いまで進み、そのまま沿って鎮守府のある海岸沿いまで歩みを進めた。

 

 

「そういえば、那珂さん。川内さんたちの訓練を監督してるってこの前メッセージにありましたけど、いかがですか?」

 五月雨が質問すると那珂は一瞬川内たちを見た後、振り向きの勢いの反動でもって五月雨の方に向きなおしてニコッと笑って答えた。

「今のところじゅんちょーかな。そうそう。夕立ちゃんにも話したんだけどさ、五月雨ちゃんと村雨ちゃんにも今後訓練手伝ってもらいたいんだ。時間があるときでいいからさ。どーかな?」

 那珂のお願いに五月雨も村雨も一切の溜めをせずに快く返事をして那珂の気持ちを満足させた。

 

「なんか……あたしたちこのあと大変な訓練になったりしませんよね~?」

 わずかにおののく川内と、その隣でさらにうつむく神通。二人の反応を見た那珂は二人に茶化しを入れた。

「それは川内ちゃんと神通ちゃん次第かなぁ~? それにしても下の学年の先輩が大勢出来てよかったねぇ~~~」

「うっ、それはそれで気まずいなぁ。」

「は……恥ずかしくないように頑張り……ます。」

 二人の反応に那珂以外の少女たちはアハハと笑い合うが、それは暖かく見守るという意味での微笑みだった。

 

 その後鎮守府に着いた一行は五月雨たち中学生組は待機室に、那珂たちは一旦更衣室に行った後再び工廠脇へと行った。夕立は五月雨たちと一緒に向かったため、午後の訓練はいつもの4人となった。

 


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