D.C.Ⅲ M.K.S “魔法と霧と、桜と騎士と”   作:瑠川Abel

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8-夜半の出会い

「ん……?」

 

「あ、起きました?」

 

「……サラ、か。あれ……」

 

 目を覚ました秋鳴は、自分の置かれている状況に困惑する。彼は大浴場に向かったはずで、風呂の中でサラとバッタリ会ってしまって、そこで意識を失ってしまったはずなのだ。なのに、今の彼はシャツもズボンもしっかり来て、ラウンジのソファで横になっている。

 

「あぁ先輩、起きましたか」

 

「葛木、清隆」

 

 覚醒した意識は思考を巡らせて、事の顛末を理解させる。きっとすぐに着替えたサラが清隆を頼ったのだろう。

 同じクラスメイトで秋鳴のことを知っているとすれば、当然のことか。二人に呼び出されたのか、起き上がり冷えた紅茶を飲み干すと廊下の先から慌てた表情でリッカ・グリーンウッドが姿を見せる。

 

「容体はっ?」

 

「……問題ない。少し休んで回復した。ったくだらしねーな。カテゴリー5とあろう者が湯あたりしちまうとは」

 

「本当に、面倒なことは起こさないでよ……なんでシャルルじゃなくて私が駆り出されたのよ」

 

「はは、咄嗟にリッカさんの顔が浮かびまして」

 

「あら清隆。こんな深夜まで私を想ってくれてるなんて、嬉しいわねっ」

 

「えっ! あ、あぁ違うんですっ。変な意味で想ったりしたわけじゃなくて!」

 

 清隆をからかうリッカをしり目に、心配させてしまったとサラに向き直り、謝罪する。

 

「すまなかったな」

 

「いえ。本当に大丈夫ですか?」

 

「ああ。それと……すまんな、覗くような形になって」

 

 思わず頭を抱えて唸ってしまう秋鳴を見て、サラは顔を赤くして俯いてしまう。

 それもつかの間、頭をぶんぶんと振って、必死に気にしてません。と叫ぶ。思わず叫んでしまったのか、清隆とリッカの目がサラたちに向けられる。

 

「そういえば、どうしてサラは大浴場で秋鳴を見付けられたの?」

 

「え、えとえとそれは……っ」

 

「しかも清隆が言うには、秋鳴は全裸でサラもお風呂上りぽかったっていうじゃない……」

 

「ちょ、り、リッカさんそれはっ!」

 

「混浴はさすがに見逃せないわよ?」

 

「こ、こここ混浴ぅっ?!」

 

「……ばーか。ちげーよ。俺がサラに気付かず入っちまったんだよ。サラは完全被害者だ」

 

「……あら」

 

「せ、先輩……っ」

 

「だからサラ、ごめんな」

 

 もう一度謝って、まるで小さな子をあやすようにサラの頭に手をのせて、ゆっくりと撫でる。

 あ、と小さな声。目を細めて嬉しそうにサラが微笑んで、秋鳴は人心地つく。

 

「じー……」

 

 と、そんな二人をテーブルの下から覗く二つの目。薄い水色のカチューシャを着けた金髪の小さな女の子が、二人を見上げていた。

 

「清隆、リッカ。この人たちは?」

 

「あ、あぁさくら、起きてたのか」

 

「起きてたよっ。だって暇なんだもーん」

 

 にぱ、と太陽のように笑う少女、さくら。十一月が始まったばかりの日に、清隆とリッカに保護された少女。

 風見鶏が保護することになってからも、清隆やリッカに一番に懐いている少女。

 

「初めまして。サラ・クリサリスです」

 

「出雲秋鳴だ。これでもカテゴリー5やらせてもらってる」

 

「カテゴリー5??」

 

 秋鳴の言葉に首を傾げるさくら。この程度のことも知らないのか、と呆気にとられる秋鳴と「記憶喪失なんですよ」とフォローを入れる清隆。

 まあいいか、とカテゴリー5について簡単に説明を始める。

 

「いいか、魔法使いってのは己の実力や研究成果によって、階級を与えられるんだ」

 

「それが、かてごりー?」

 

「ああ。一般の魔法使いが1。これは名乗っても全然偉くもないし大したこともない。で、魔法使いとしての実力や名声を得ると共に、カテゴリーはランクアップしていく」

 

 秋鳴の説明は、実におおざっぱだ。元々秋鳴自身も深く理解していない制度であり、気付けばカテゴリー5の地位にいたというのが現状だ。

 

「カテゴリー4以上は、もう凄腕の魔法使いと認めても構わない」

 

「おぉー……じゃあ。リッカと秋鳴は凄く偉いんだね!」

 

「偉いというか……まあ、間違ってないわよね」

 

 さくらの言葉を訂正しようとしたのだが、自分に与えられている特権のことを思い出して苦笑いしてしまうリッカ。

 リッカ凄い、とさくらがリッカに飛びつき、抱き留めたリッカはそのままさくらの頭を撫でる。

 同じ髪の色、瞳の色を持つ二人の少女。傍から見れば親子のようにも見える。

 

「まるで清隆が父親なようだ」

 

「なんでですかっ!?」

 

「あら清隆、私の夫は嫌なの?」

 

「か、からかわないでくださぁぁぁいっ!」

 

 秋鳴とサラと、二人して笑い、夜は更けていく。サラを部屋まで送っていくと、改めて大浴場へ向かい、今度はきちんと誰も入浴していないことを確認してから秋鳴は身体を休めるのであった。


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