D.C.Ⅲ M.K.S “魔法と霧と、桜と騎士と”   作:瑠川Abel

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最終話-君に捧げる愛の魔法

【君に捧げる、愛の魔法】

 

 

 

「約束をしよう。君とまた出会うために」

 

 

 

 

 

 

「先輩、準備できましたか?」

 

 リッカの研究も順調に進み。

 清隆たちのパトロールによって地上での被害はほとんど出ず。

 さくらがロストボーイであったことと、彼女を未来に送り出す魔法の準備を終えて。

 気付けば冬は終わり、春が訪れていた。

 そして、四月が終わるころ。

 

「ああ」

 

 真っ黒なコートに、真紅の外套。

 およそ騎士らしくない彼の、『魔法使い』としての衣装。

 そして、騎士としての『帯刀』。

 

「行こう」

 

 準備はできた。

 やるべきことは終わり、成すべきことも成した。

 

 ………

 ……

 …

 

 風見鶏の中央にある、一際大きな桜の木。

 リッカがさくらの持っていたさくらの枝を解析し、そして完成させた『魔法』。

 

「今から、この桜をホストにして学園都市中の桜をリンクさせるわよ」

 

 リッカが、シャルルが、姫乃が。

 清隆が、葵が、そしてサラが準備を進める。

 手持ち無沙汰の秋鳴と守は、さくらと目が合う。

 何を思い、感じたのか、さくらが微笑む。

 

「秋鳴」

 

「どうした、さくら」

 

「どうして、ボクがこの世界に呼ばれたのか、わかったんだ」

 

「……偶然じゃ、なくて?」

 

 さくらの答えは、秋鳴自身も、わかっていた。

 だけど、さくらの言葉を待つ。

 

「本来叶わないような、身に余る大きな願いを叶えてしまったボクは、その代償すべてを自分ひとりで終わらせようとしていた」

 

 目を伏せて、どこか遠くの情景を思い出すように、さくらは一つ一つの言葉を吐き出す。

 

「全部を背負い込んだボクは失敗して、そして大事な人を巻き込んで、そして」

 

 

 

「大切な、大切な願いすら失いそうになった」

 

 

 それは、葵にも、守にも、秋鳴にも通じるところがある。

 だから、だろうか。さくらが遠い未来からこの世界に来たのは。

 後悔したことを、伝えるために。

 

「未来には辛いことや、困難なことばかりあるかもしれない」

 

 

 

「だから、秋鳴も守も、未来を諦めてこの魔法を使ったのかもしれない」

 

 

 

「でも、忘れないでほしい。人の想いは、幸せな未来を望む力はものすごく強いものなんだ」

 

 

 大丈夫だよ、と続けて。

 

 

「生きることを諦めないで。心から願えば、きっと未来は、世界は変わる。君たちにとって、幸せな世界が待ってる」

 

 

 

 満面の笑みと共に、さくらの話は終わる。

 リッカに呼ばれたさくらが二人の元から去り、秋鳴と守が残される。

 

「なあ、守」

 

「どうしたんだい、秋鳴」

 

「俺は、生きたい。何を犠牲にするとか、そういうのは考えない。俺が生きる未来を求めて、抗い続ける」

 

「僕は、守りたい。葵の笑顔を。今度は自分を犠牲にするとかじゃなくて、精一杯葵の幸せも一緒に求めて」

 

 咎人たちは、未来への想いを確かめて。

 

「先輩」

 

 そんな秋鳴のもとへ、サラが来る。秋鳴の手をとって、笑顔を見せる。

 

「お兄ちゃん」

 

 そんな守のもとへ、葵が来る。瞳から涙を零しながら、兄の手を自らの頬に当てる。

 

「サラ」

 

 愛しい少女の手をとって、秋鳴は想いを込める。

 それは、至極単純な魔法。想いを形にする、魔法。

 それは、手から和菓子がでる魔法をほんの少しだけ改良した、彼だけの、一回だけの魔法。

 

「俺とサラの記憶は、巻き戻された世界ではまた一からやり直すことになる」

 

「俺は、また君と出会う。また君と出会って恋をして、君のそばにいる。そばにいたい」

 

「はい……私も、先輩と一緒にいたいです」

 

「だから、約束だ。これは、俺たちの約束の証だ」

 

 秋鳴のサラの重なった手の中で作られた、小さな蒼いブローチ。

 秋鳴は、魔法を込める。今の想いと、約束を。

 

 

 

 準備が整い、桜の花びらが光を帯びていく。

 

 

 それはゆっくりと、中央の桜から、学園の桜へと、学園都市中の桜へと、そして、ロンドン中の桜へと。

 

 

 光が集う。それは明日を望む人々の優しい想い。

 

 

 光が集う。それは幸せを望む人々の希望の煌き。

 

 

 視界を、光と桜の花びらが覆っていく。

 

 

 最愛の少女に、手を伸ばす。

 少女もまた、彼へ手を伸ばし、強く、強く、握り締める。

 

 

 

「さあ、未来へ行こう」

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

 昔々のロンドンに、一人の魔法使いがいました。

 

 魔法使いは、この世界で唯一の、最高峰の魔法使いであると同時に最高峰の騎士でした。

 

 自分が死ぬ運命を乗り越えて、誰もが憧れる地位についに実力で上り詰めた英雄。

 

 幾度の戦場を越えて。

 

 幾度の出会いを別れを繰り返して。

 

 そして彼は、運命と再会する。

 

 

 

 船の大きな揺れで、彼は目を覚ます。

 目的地に到着したようで、船内は少し騒がしい。

 他の乗客に付き添うように、彼も外へ出る。

 

「……桜、か」

 

 視界を埋めるように広がる、桜。満開の、桜。季節は夏だというのに咲き誇るその桜は、彼の既知のものだった。

 彼は、旧友との約束を叶えるために、ここに来た。

 船を下りた矢先に、彼を待っていたかのように、小さな少女が彼の前に立つ。少女の隣には、少し気が弱そうな少年。

 栗色の髪と、桜色の大きなリボン。冷めた表情というか、感情の篭らぬ声で、少女は呟いた。

 その願いを、彼は頭を下げて承諾する。

 

 

 

「……お母さんを、助けてください」

 

「『無双のアネモネ』出雲秋鳴。微力ながら、全身全霊を持ってその願いを聞き入れよう」

 

 それは、永い時を生きた英雄の新しい物語―――。

 

 

 

 D.C.Ⅲ M.K.S“魔法と霧と、桜と騎士と”




一応、これにて終了となります。ここまでお付き合いくださった方々、真にありがとうございます。


まず最初にいちゃいちゃが足りないですね、ええ。でも仕方ないんだ。ここから始まる新しい物語もあるんだ。

そして、表現の足りない部分や矛盾が多かったりと、至らぬ部分が多すぎてなにがなんだか(滝汗)

すでにツイッターのほうでは呟いたりしてますが、MKSはここで完結しません。
初音島編を予定しております。どこまでやれるか見物だなぁアハハハ(憔悴)


最後にもう一度。書き直し前の小説家になろうからも続けて読んでくださった方も、今回から入って読んでくださった方も、いろいろな感想や評価をくださった方々も、本当にお世話になりました。ありがとうございました。

次回作もよければ、ぜひとも『英雄』出雲秋鳴の物語にお付き合いください。

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