D.C.Ⅲ M.K.S “魔法と霧と、桜と騎士と”   作:瑠川Abel

34 / 36
33-未来のために、今やるべきこと

「終わらせるんだ。この過ちの世界を。そして願うんだ。未来を」

 

 

 

 とある教室を貸しきった秋鳴は、まず信頼が置ける守と葵、そしてリッカに言付けを頼んだ。

 それは、自分たちが信じられる人を集めてほしい。

 秋鳴の願いに集ったのは、葛木清隆をはじめとした、数人の男女。

 そして、巴とシャルル。少なからず、あの時の霧による昏睡事件にかかわった人たち。

 集った顔ぶれを見渡し、十分だ、と秋鳴は確信する。

 隣のサラが、ぎゅっ、と秋鳴の手を握る。

 怖いのか、それとも。

 

「今回は集まってくれてありがとう。まず改めて真実を述べさせてもらう。『カテゴリー4』であり騎士の、出雲秋鳴だ」

 

 その言葉に首をかしげ、何を言ってるんだ、と呟く声も聞こえてくる。

 だが秋鳴は、迷うことなく真実を告げる。

 それは、己の罪。

 

「この世界は、無限にループしている」

 

 この世界の成り立ちを。

 

「何度も何度も、記憶を巻き戻され、時間を巻き戻され、同じ季節が繰り返されている」

 

 自らの罪のこと。

 

「これは、『永遠に訪れない五月祭(バルティナ)』という禁呪」

 

<世界を繰り返す、永劫の魔法>

 

 生きたいと望み、命を求めて知らぬ少女を犠牲にしたこと。

 

 霧によって人々の黒い感情が増幅され、今このロンドンが危ない状態にあること。

 

「年が明けた日、魔法使いたちが昏睡したのも、それが原因だ」

 

<ロンドン中の人々から力を集め、霧によってそれを纏めて>

 

 葵の運命のこと。

 

「俺たちは、葵の運命を変えたかった。死ぬという理不尽から」

 

 それに立ち向かうことを諦めた二人の騎士と魔法使いのこと。

 

「だけど、俺たちは未来を変えられなかった。だから世界を閉じ込めることにした」

 

 黒騎士の正体のこと。

 

「黒騎士は、消えることを恐れた俺自身の影。呪いによって自棄になった俺の、本心」

 

<纏められた意思は力を生み、黒騎士を介して秋鳴へ>

 

 自分のこと。

 

「俺は、自分が死にたくないから葵と守を利用した」

 

<だからこそ彼は、この世界でカテゴリー5となった>

 

 そして、未来に立ち向かう決意をしたこと。

 

「でもそれじゃ駄目なんだ。世界は自分ひとりのものじゃないって、俺は気付けたから。そして、俺は俺として、人として生きてもいいって言ってくれる人がいたから」

 

 語られる内容は、荒唐無稽な、突拍子もないことと思われるくらいな真実。

 語り終えた秋鳴は、己の感情の高ぶりを抑えるそぶりすら見せず、ただ。

 

 

 

「信じてほしい」

 

「わかりました」

 

 まっさきに、清隆がうなずいた。

 呆れたような表情で、リッカ、そして姫乃と次々に集った人たちが頷いてくれる。

 ああ、いい友人を持った、と自覚する。

 

「……なるほどね。これで全部繋がったわけね」

 

「そういうことだ。すまんな」

 

「謝るな。いろいろ責めたい事もあるけど、アンタが全部悔やんでそれで未来を生きたいって望んだってことは理解したから」

 

「……そうだな」

 

「そ・れ・に。愛しい愛しいサラの説得で未来を望んじゃうとか案外ちょろいってこともわかったしね~」

 

「え、あ、あのその」

 

「サラ。気にすることはない。確かに俺はサラのおかげで立ち直れた。だから胸を張ってほしい。君は一人の魔法使いを救ったんだ」

 

「先輩……っ」

 

「……ところでまた名前で呼んでほしいんだけど」

 

「だ、駄目ですっ! みんないます!」

 

「みんながいなければいいんだな?」

 

「うえぇっ!」

 

「惚気るなっ! さっさと本題に入るわよっ!!」

 

 手を叩いてゆるくなった空気を四散させる。

 おどけた態度で秋鳴は、簡単に、簡潔に、事態を収拾させる答えを告げる。

 

「この禁呪は、簡単に言えば霧を消してしまえばいい。だが前回は強引に消そうとしたために、黒騎士の中の執念が霧を存在させた」

 

「つまり霧を説得しろってこと? 話もできない相手をどうするのよ」

 

「黒騎士は、俺自身だ。説得とかそういうのではなく、もっと単純に―――」

 

 ギィ、と、扉が開く音がした。

 一同が扉のほうを向くと、そこには小さな桜の枝を携えた、さくらの姿があった。

 

「人々の、明日を望む感情を集めて、霧へぶつけるんだ。さくらが持っている桜には、その力がある」

 

 そして彼は。

 

 

 

「『永遠に訪れない五月祭(バルティナ)』は消える。そして時間軸はこの禁呪を発動した瞬間まで巻き戻るだろう。簡単に言えば、この魔法を使ったことが『なかったこと』になるってことだ」

 

 当たり前のように、彼は答えた。

 それはつまり。

 

「出雲さん、それは……」

 

 清隆の言葉を、リッカが繋げる。

 

「アンタ、自分がかけられたっていう呪いまで戻ってくるのよ? それに、サラと出会ったことだって―――」

 

「覚悟はしてる。決意もできてる。俺は、呪いを乗り越えて、またサラと出会う。記憶がなくったって、絶対。絶対にサラとまた出会ってみせる―――!」





 ロンドン中が桜の花びらに包まれたとき、すべての霧が消滅する---。

 手を重ね、約束する。

 また会おうと。

 唇を重ね、最愛の少女を抱きしめる。

 彼女の家を継ぎ、繁栄させると。
 その暁には、自分とずっと一緒にいてほしいと。

 少女は涙を、青年は未来を。
 そして、霧は消える。


 約束を。


 桜が咲いたら、約束のあの場所で。
 いつか、何処かで。桜はきっと、その願いを叶えてくれる。


次回、最終話「君に捧げる愛の魔法」

 ―――夢が、覚める。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。