D.C.Ⅲ M.K.S “魔法と霧と、桜と騎士と”   作:瑠川Abel

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2-カツラギキヨタカ

「というわけで秋鳴。ついてきなさい」

 

「おう。……おう?」

 

「アンタ私の補佐するって自覚ないのね。ええわかってはいたわ」

 

「おいおいわかってはいるつもりだから青筋浮かべるな落ち着け落ち着け」

 

「そうだよリッカっ。秋鳴さんに何か失礼があったらどうするの~っ」

 

「こんな奴に失礼なんかないわよ。こんな性格歪んでる男っ!」

 

「誰がだっ!? というかシャルルはなんでそんなに緊張しているっ!」

 

「え、だ、だってカテゴリー5で騎士様といったら対応を一つ間違えれば首が飛ぶって……巴が」

 

「ニヤリ」

 

「う、嘘なのーーーー!?」

 

 挨拶回りを終えて、学園長室に戻って来た秋鳴とリッカは一息吐く間もなく移動を開始する。リッカが言うには、今度はリッカが監督しているクラスへの自己紹介をしてもらうらしい。同じカテゴリー5だからか、気さくに話し合うリッカにシャルルはまだ少し萎縮しながら注意する。が、大胆不敵な笑みを見せる巴と、ようやく騙されたことに気付いたシャルルが顔を真っ赤にしながら狭い学園長室を走り回る。

 若いって元気よねえ、とリッカが呟くと、秋鳴は咄嗟にばあさんと言ってしまい鳩尾に鋭い一撃を喰らってしまった。

 追いかけっこを続ける二人をよそに、秋鳴とリッカは学園長室を去る。

 学園長室から予科一年生たちの教室へ近くとも遠いとも言い難い、丁度いい距離がある。適当な談笑でたどり着け、長話だったら切り上げられる程度の距離だ。

 

「授業はまだだけど……ま、皆揃ってるでしょうね」

 

 先に入って説明してくる、と一方的に告げてリッカは秋鳴を置いて教室に入っていく。追いかけてもいいが、リッカに主導権を持たせてやろうと考えた秋鳴はそのままリッカの呼び声を待つ。教室内に響くリッカの声は、扉の前の秋鳴にもよく聞こえた。

 

 

 

「皆、揃ってるわねー?」

 

「リッカさん、随分早いですけど……」

 

 壇上に立ったリッカは、手をあげて意見をしてきた生徒にすぐさま答える。

 

「ごめんなさいね。皆に重大なお知らせがあってね」

 

 その一言で、教室全体がざわめく。前の方の席で大人しくしている青い髪の少女も、首を傾げている。

 

「えー今日からしばらくの間、このA組に、私の他に補佐監督生(サブマスター)が来るわ」

 

 ざわざわと、ざわめきが大きくなる。リッカはそのざわめきを手を叩くだけで制し、言葉を続ける。

 

「何かあったんですか?」

 

「いいえ何もないわよ? そうね……ま、そいつはやむを得ない事情があって、そのついでに引き受けてもらった。ってことくらいは教えられるわね」

 

 誰だろう、知ってる人なのかなー、と補佐監督生が誰かを生徒たちが各々予想する。

 上がる名前は、本科生の中で有名な人物たちばかり。もしくはカテゴリー4などの比較的有名な魔法使い。

 だが、誰の口からも秋鳴の名前が出ることはない。無理もない。『騎士』として活動している彼がこの学園に関わることがほとんどないからだ。

 出雲秋鳴は、魔法使いというより騎士というイメージが強く浸透している。

 恐らくリッカもそれを知っての行動なのだろう。生徒たちが予想しているのを微笑ましく見守っている。

 

「予想は済んだかしら? まあ、江戸川君たちみたいな日本人じゃ余計にわからないと思うけど……」

 

「ま、待ってくださいリッカさんっ! この名探偵江戸川耕介の灰色の脳細胞にかかればたちまち……」

 

「マスター。ご自分の低能さを見せびらかすチャンスだからといって無理しなくていいのですよ? みなさんすでに……」

 

 嘆く少年とその従者である人形がやれやれとため息を吐く。その近くで頬杖をついている少年はあまり興味がなさそうだ。

 

「ま、そろそろいいわよね。秋鳴、入ってきなさいーっ」

 

 リッカが彼の名前を呼ぶ。

 それと同時に、『出雲秋鳴』を知っている生徒たちは呆気にとられる。『出雲秋鳴』を知らない生徒たちは首を傾げる。

 扉を開け、秋鳴はゆっくりとリッカの隣に立つ。リッカはチョークで秋鳴の名前を大きく書くと、その隣にさらに大きくカテゴリー5であることを書いていく。

 

「というわけで、補佐監督生は私と同じカテゴリー5の、出雲秋鳴に任せることになったわ」

 

 小悪魔のような笑みで、予想が外れて残念ねと生徒たちにウィンクするリッカ。

 その隣に立つ秋鳴は、ため息を吐きつつ一歩前に出る。

 

「まあ、知ってる奴もいると思うが……そこのリッカと同じカテゴリー5。そして普段は『騎士』として行動している……出雲秋鳴だ。しばらくの間、よろしく頼む」

 

 教室中に響いたのは、彼のことを知っている生徒たちの絶叫だった。

 それもそのはず。今までこの風見鶏にいたカテゴリー5―――世界に六人しかいない最高峰の魔法使いはリッカ・グリーンウッドただ一人だったから。

 一人と出会い知り合うだけでも十二分に凄いことなのだが、それに加えて二人目と知り合うことが出来る――魔法使いとして最高の出会いだろう。

 腕を組んで立っているだけで存在感のある秋鳴は、教室の中でもひときわ目立つ。容姿は東洋人――日本人そのものなのだが、肌蹴た胸元と騎士の勲章、そして肌で感じ取れる、彼の『存在』。全てが彼を中心に動いているのではないかと錯覚しそうになるくらい、それだけ彼は、目立っていた。

 誰もが呆然とする中、秋鳴は一人の少年に気がつく。秋鳴のそんな小さな動作に気付いたリッカも小さく微笑む。

 視線の先には、頬杖をついた少年。予科一年生とは思えないレベルの、魔力を感じる。

 教室内を一瞥し、目についた生徒たちの名前をリッカに確認する。秋鳴が注目した生徒たちは、ある意味一癖も二癖もある生徒たちだった。

 

 カテゴリー4の魔法使い、葛木清隆。

 その身に『何か』を宿していると思われる、清隆の妹である葛木姫乃。

 落ちぶれた名門の希望、サラ・クリサリス。

 適当に三名ほど上げたところで、リッカにやっぱりアンタは人を見る目があるわよと珍しく褒められたのであった。




自己紹介を終え、リッカの講義に付き合った秋鳴は放課後に風見鶏へ来た目的を果たす。

風見鶏を構成する三つの島の一つ、図書館島。

連絡船を待っている間、その日に知り合ったばかりの少女と秋鳴は再会する。


……何やってるんですか、出雲秋鳴……さん。


次回、先輩って呼んでくれ

少年と少女の邂逅は、『物語』にどんな影響を与えるのか―――

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