D.C.Ⅲ M.K.S “魔法と霧と、桜と騎士と” 作:瑠川Abel
主のいない一室―――女王陛下の王室。リッカ・グリーンウッド、そして対面に出雲秋鳴。二人の間に置かれている、古ぼけた木箱。
蓋は開かれ宝物のように、煌びやかな宝石たちによって装飾された、宝剣。
「『永遠』の概念を持つ、かつて円卓の騎士の一人の武器。朽ちることも欠けることもない剣」
「そうよ。かなり苦労したのよ?」
「ありがとう。最高だ」
「素直に礼を言われるとなんだか不気味ね」
苦笑するリッカと、手に取って感じる宝剣の力に感激する秋鳴。
神話の世界の、誰かが語るだけだった物語の中でしか存在していなかったモノ。
それは、湖畔の騎士が携えていた星によって造られた神剣。
「アロンダイト……」
「しっかし豪華よねぇ。宝石ばっかり散りばめられて」
「……いや、この宝石はアロンダイト自体を『圧縮』するために造られてるな。誰が何を思ってそうやったかはわからないが……まあ、封印を解く必要はないか」
「圧縮? どうして?」
「俺に聞くなよ。まあ無難に考えるなら……『これがアロンダイトですよー』ってわかりやすくするためか?」
「女王が管理している『エクスカリバー』は封印も何も完全に派手よ?」
「あれは鞘まで含めて一つの概念だろ……これとはちょっと毛色が違う」
とにかく、と煌びやかな鞘に納められたアロンダイトを携えて、秋鳴は封じられていた木箱を担ぐ。
「女王陛下には内緒だぞ?」
「わかってるわよ……アンタの頼みごとだったら笑顔で了承するかもしれないけど報告もせず取り寄せたんだから何かしらの処罰は受けちゃうでしょうし……アンタも誰にも話しちゃだめよ?」
「俺は大丈夫に決まってるだろ」
「サラとかにぽろっと話すでしょ」
「何故そこでサラが出てくる」
「あら、最近ずっとお気に入りなんでしょ? この後昼食一緒にするとも聞いてるわよ~?」
意地の悪い、人をからかう表情になる。アロンダイトに関わって多少なりとも緊張していた空気は瞬く間に四散して、いつもの二人へ戻る。
秋鳴としては真実のことなので否定したりはしない。こういった手合いには過剰なリアクションをしないのが鉄則なのだ。
「そうだよ。昼はサラと楽しくデートだよ」
「……惚気られちゃった。つーまんない」
「お前だって清隆でも捕まえて飯でも食ってこいよ。お前が言えばほいほいついてくるだろ?」
「ちょっと、清隆をどう思ってるのよ」
「リッカの犬」
「違うわよ……はぁ、アンタって人を見る目ないわね」
「ほう。ではリッカは清隆のことをどう思っているのかな?」
「そりゃ、少しはましな男性とし……って何言わせるのよ!?」
「っち、引っかからなかったか」
「アンタね……」
「はっはっは。とりあえず学園に戻るか」
私はもう少しやることがある、とリッカに告げられ、秋鳴は一人王宮を出て学園への帰路へつく。
。時刻は昼食の一時間ほど前。歩いても間に合う時間だ。
「何喰うかな……」
サラとの昼食を考えて、ふと頬が緩んでいることに気付いた。
いけない、と。騎士である人間が昼間の往来でにやけていては不気味でしょうがない。
「……気になってるなぁ。そりゃ」
はっきりと、決まっている思いはある。
出雲秋鳴という人間は、サラ・クリサリスという人間を守りたいという思いだ。
それが好き、という恋愛感情かどうかは、秋鳴は理解できない。
何分ロンドンに来てから、いや、来る前から―――恋愛という感情とは無縁だった。
ずっと一人で生きてきて。ロンドンへ来て友人を得て、ようやく人らしく生きるようになって。
もし、これが好きという、恋愛感情だというのなら。
「……素敵だな。それって」
サラの笑顔が浮かぶ。その笑顔が見たくて、ついつい足早になってしまう。
約束の時間まではまだまだある。思い浮かんだサラの笑顔を噛み締めながら、秋鳴はゆっくりとフラワーズへ向かった。