D.C.Ⅲ M.K.S “魔法と霧と、桜と騎士と”   作:瑠川Abel

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17-シンジツのヒトカケラ

 秋鳴と黒騎士の、二度目の邂逅があった墓地―――そこに、少年が花束を持ってやってきた。

 戦闘の傷跡がほとんど修繕されていない墓地を迷いなく歩き、やがて一つの墓の前に立つ。

 

「やあ。久しぶり。ちょっと眠りすぎたよ」

 

 誰がいるわけでもないのに、誰が聞くというわけでもないのに少年は墓石へと話しかける。

 

「君がいなくなってから、どれほどの時が過ぎたかわからない……僕が眠っていたのもそれくらい。驚くくらいに世界は変わらないんだね」

 

 いや、変わらないのは当然か。と呟いて。

 少年の独白は、誰に届くわけでもなく。

 

「この傷は、僕の罪の証」

 

 両手首に巻かれた、包帯に視線を向ける。

 

「この墓は、君の罪の証」

 

 墓石を指でなぞり、此処に眠る友人の顔を思い出す。

 花束を供え、合掌する。

 

「この世界は、僕たちの―――罪だよ」

 

 世界を見上げて、悲しそうにつぶやいて。

 でも、と彼は繋げる。

 

「それでも、僕らが選んだんだ。後悔なんてしない。葵が自分で自分の意志で決意しない限り」

 

 包帯が、赤く、滲む。

 少年の脳裏を過ぎるのは、五月が始まったばかりのとある病室。

 そこでやつれきった親友とかわした、約束。

 三つの代償を以って完成させようとした、二人の密約。

 

 

 

『―――なあ、マモル』

 

『どうしたの?』

 

『カテゴリー4の俺たちでなら……出来るんだろう。これが』

 

 ベッドの上の少年が、光を失った瞳で大事そうに、その本を撫でる。

 それは、これから女王陛下直属の組織が回収に来る予定の魔導書。

 『禁呪』が記された魔導書。

 

『……そうだね。僕たち二人が力を合わせれば、できると思う。でも』

 

 その本に記された、【代償】

 

『俺の命を使え。命は命のはずだ。あと一か月保たない命でも、な』

 

『……君は、それでいいの? 君だって生きたいんじゃないの?』

 

『親友の妹の命のためなら―――俺の命なんて、軽いものだよ』

 

 ベッドの少年の親友である彼は、親友も、妹も、全部守りたい。

 でも、どちらかしか選べない。いや、妹しか守れない。それを理解していても、親友の選択を躊躇わせたい。

 カテゴリー4の魔法使いとはいえ、今現在、最もカテゴリー5に近いと噂されている二人の魔法使いたちでさえ、人の命は自由にできない。

 

『セレンに頼んだよ。葵のこと。葵に、この禁呪の本当の代償が記された本を届けてくれるよう』

 

『そうか……お前はいいのか、マモル。俺は存在を、お前は―――』

 

『大丈夫。君が存在を、僕が命を捧げて―――この禁呪を完成させる』

 

『……救おう。未来を求める女の子を』

 

『助けたいんだ。僕に光をくれた大切な女の子を』

 

 だから。

 少年たちは犯す。人の身で犯してはならない領域を。

 

 ………

 ……

 …

 

「僕は消えたはずなんだよ。でも僕は生きている。どうしてかずっと悩んで―――僕の魔力が根こそぎなくなっているのを知った」

 

 墓石に記された名前を、埃を落として言葉にする。

 

「出雲秋鳴」

 

 その名前は。

 

「君は死んだはずなんだよ。僕が君を埋葬した。でも君はこの世界で生きているの? 僕の力を全部奪って?」

 

 膝を付き、あふれ出る涙を堪えきれず、少年の慟哭が墓地に木霊する。

 

「代償はどうしたんだよ。僕が生きて、君まで生きている……この世界は、矛盾だらけの閉ざされた世界だ……!」

 

 ヒノモトマモルは、イズモアキナリの親友。


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