D.C.Ⅲ M.K.S “魔法と霧と、桜と騎士と”   作:瑠川Abel

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13-手掛かりは?

「包帯包帯をっ。お薬をっ!?」

 

「あーサラ、慌てんなって落ち着けって」

 

「見てるだけで酷いんですよ!? なんでそんな平気そうな顔してるんですか!?」

 

 左腕を隠すように連行されて、気付けばサラの部屋で手当てを受けている。簡単だが治療魔法をかけ、痛みを誤魔化す魔法を重ねてかけてあるので必要以上に治療する必要はないのだが、何故だか秋鳴はそれを彼女に告げずにいた。慌てふためく彼女を見て、秋鳴は微笑みを必死に隠している。

 ここまで心配してもらえるのは嬉しいことだし、心配させてしまい申し訳ないとも感じているが……サラの反応が好きで、ついつい放置してしまっている。

 何とか薬を揃えてきたサラが万遍なく左腕に塗りたくり、包帯を巻いていく。サラの手が触れると激痛が走り、表情が歪むとサラが泣きそうな顔をする。

 空いている右手でそんなサラの頭を優しく撫でて、治療を続けさせる。秋鳴が最近なんとなく思っていることだが、何事にもサラに「やり遂げた」という思いをさせてあげた方がいいと感じている。サラの生まれから、彼女がどんな人生を歩んできたかはわからない。でも、少なくとも秋鳴は彼女の行動全てを『認めて』いる。

 

「……これで、ひとまずっと」

 

「おぉ、ありがとうな」

 

「い、いえ……これくらいしかできないので……」

 

「充分だよ充分。痛みも和らいだし。サラは凄いなぁ」

 

「す、凄くないですよっ。普通のことですっ」

 

「そうかなぁ」

 

 感謝の意を込めて、もう一度頭を撫でる。我に返ったのか、サラは顔を真っ赤にして飛び跳ねる。

 

「い、いきなり何するんですか!?」

 

「え、嫌だったか? 感謝の気持ちを少しでも表そうかと思ったのだが……」

 

「……い、嫌じゃ、なかったですけど……」

 

 顔を真っ赤にさせて、もじもじと不安そうに身体を揺らすサラ。視線は落ち着かなく行ったり来たり、何度も秋鳴の右手を、潤んだ瞳で見つめている。

 秋鳴はくすりと微笑んで、何も告げずサラの頭に手を乗せた。撫でるわけでもなく、ただ、乗せるだけ。

 

「……さ、三分だけ」

 

「ん?」

 

「三分だけ……なでなで、してください……」

 

 最後の方は消えてしまいそうなほど小さな声だったが、顔を真っ赤にしつつサラは顔を背けるのであった。

 

 ………

 ……

 …

 

「真面目な話をするわよ。秋鳴」

 

「なんだよいきなり。サラの頭撫でるの三分経ってないのに」

 

「いちゃつくのはいつでもできるでしょう」

 

 二人の甘い空気を壊したのは、真剣な表情のリッカ。突然サラの部屋の扉を勢いよく開けて二人の間に割って入った。

 リッカが秋鳴に尋ねたいこととは―――昼間の、秋鳴の単独行動時に遭遇した黒騎士のことである。

 サラを同席していいのか、と視線で語りかけるとそれを察したリッカは学園長室、つまり生徒会室で話をすることを提案した。

 明りもつけず、用意しておいたらしい蝋燭の明かりだけが唯一の照明となる。

 表情こそ読めないが、恐らく真剣な表情をリッカはしているのだろう。

 

「……それで、黒騎士って何なの?」

 

「俺も確証はないが……恐らくは、地上に広がる魔法の霧が関係している」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「確証はないんだがな……」

 

「聞かせて」

 

「あいつが俺を狙ってるってこと。俺が魔法の霧の調査のためにが風見鶏に来てから姿を現すようになり、黒騎士の言動からそう判断している」

 

「……黒騎士は、どうしてあんたを?」

 

「知るか。『探している』とか『飢えている』とか呟いてたらしいが後輩の騎士の話じゃ一般の奴らじゃまともに遭遇してないらしいしな」

 

「実質黒騎士と戦ってるはアンタだけ、ってことね」

 

 黒騎士の正体―――については秋鳴も何も掴んでいない。ただ、素顔に見覚えがあっただけで、それが誰かは未だ思い出せないでいる。

 引っかかっている。黒騎士の言葉と、あの素顔が。だが黒騎士をどうにかするのではなく、秋鳴がしなければいけないのは魔法の霧を消失させる方法だ。

 だが解決の目処は未だ立っておらず霧の正体すら掴めていない。

 もし、本当に黒騎士と魔法の霧に関係があるのであれば―――あちらから接触してくる要因が何かしらあるはずなのだ。

 そしてそれが、秋鳴に関係しているということでもある。

 

「簡単に答えは出てこないな……」

 

「そうねぇ。私としてはあの魔法の霧が何を齎しているかすらわかってないから困るのよ。今のところ被害がないとはいえ、ね」

 

 霧がもたらす影響についても日々調査は続いており、担当であった秋鳴にはある程度の情報は届くようになっている。

 結果から言えば、秋鳴は魔法の霧が及ぼす影響を知っているし、それがどれほどの脅威になるのかも理解している。だから手がかりを求めて風見鶏まで来ているのだ。

 

「ああ、そうだ。リッカ、一つ頼みたいことがあるんだが」

 

「何よいきなり」

 

「お前のツテで手に入れて欲しいものがあるんだが」

 

「私を頼るってことは、聖遺物とか存在するかすらわからない伝説級のものかしら?」

 

「ご名答」

 

 鋭い痛みが走る左腕を抑えながら、秋鳴はリッカに大胆な頼みごとをする。以前から自分が使うと壊れてしまってばかりで、いよいよ装備のことが不安になってきていた。

 女王に頼むことも可能だったが、秋鳴が頼もうとしているのはこのイギリスの伝説に関わるものであったから押収されてしまう可能性すらあるもの。

 それは。

 

「精霊が造り上げたと言われている……伝説の剣。湖畔の騎士に与えられたとされる―――」


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