D.C.Ⅲ M.K.S “魔法と霧と、桜と騎士と”   作:瑠川Abel

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12-影を掻き消す極光

 振り下ろされる剣。彼はそれを完全に見切って回避する。薙ぎ払われる剣戟を、彼は回避する。黒騎士から放たれる全ての攻撃を彼はいとも容易くかわしていく。

 黒騎士に焦りの表情は見えない。彼としても決定打を欠いている今の状況は不味いのだが、黒騎士の底が見えない以上深追いもできない。

 墓石の十字架に立つ。不思議と、黒騎士も墓石を巻き込んで攻撃してはこない。何が意味があるのだろうか。

 

「随分手を抜くんだな」

 

『ボクニモ理由ハアッテネ』

 

「へえ。是非とも聞かせてもらいたいものだ」

 

『ココハ、友達ガ眠ッテルカラネ』

 

「……へえ」

 

 距離を取り、黒騎士から出てきた言葉に興味がわく。何も考えていない愉快犯か遺体を利用しようとする犯罪集団かと思えば、どうやらそうではないらしい。

 

「奇遇だな」

 

 一歩、彼は詰め寄る。

 それを、黒騎士は―――仮面の下で、口元を歪ませた。

 

「誰が眠ってるとかは興味ないが―――ここを荒らされたくないのは、俺も同じでね」

 

 彼の、出雲秋鳴の魔力が膨れ上がる。誰も見ていないからか、それともここでの戦闘がそもそも気に入らないのか。

 場所を変えようという秋鳴の提案を、黒騎士は断る。ここでなければならない理由があると。

 会話の不意を突いて秋鳴が唱えるのは即席の魔力弾。予科生でも扱える程度の魔法だが―――桁が違う。

 一つ一つに殺傷力を。削る力を。そして数を。同時にコントロールする必要なんてない。与える指示は簡単でいい。

 その数、百を超えて。

 

「『大いなる―――』」

 

 武器を持って戦うだけが、『騎士』ではない。

 『騎士』である以前に彼は。

 

「『―――天極』」

 

 『カテゴリー5の魔法使い』なのだ。

 閃光が轟音と共に黒騎士を襲う。『影』とも言うべき黒騎士の存在を否定するかのような閃光の濁流。

 だが『影』は消えない。光りある限り、影は、存在するからだ。

 

『エヘヘ』

 

 無機質な、笑い声。

 黒騎士が握る剣が、気付けば両方の手にそれぞれ握られる。

 そして眼にもとまらぬ速さで閃光を弾いていく。魔力反射を定着(エンチャント)させた剣なのだろうか。

 

「……それでも、遅い」

 

 光の球体が数を増す。秋鳴も黒騎士を殺すつもりはない。話が出来る程度の身体を残すつもりだ。

 不思議と、冷静に、そして、冷酷に。秋鳴は、目の前の存在を徹底的に傷つけることが目的となっていた。

 

『グ、ウォ……』

 

 次第に、黒騎士でさえ対応できなくなる。

 それでも、閃光は増え続ける。まるで、彼がどこかで黒騎士の存在を認めたくないかのように。

 

「消えろ」

 

 ぽつりと、彼の口から零れた言葉。

 

「消えろ。(マモル)

 

『……エヘ』

 

 嗤った。仮面の下で。(マモル)と呼ばれた存在は、確かに嗤った。

 まるで、名前を呼んでもらうためにここに来たかのように。名前を呼んでもらって、喜んで。

 『影』は光に呑まれて消える。何も残さず消える。黒騎士は光の濁流に飲み込まれて、消える。

 仮面も兜も鎧も何もかも残りはしない。全ては霧のように粒子状になって消える。

 黒騎士の消滅を確認して、彼ははっと我に返る。噴き出してきた汗がキモチワルイ。

 

「……あれ、俺は……」

 

 ―――イキタイ。

 

 ドクン、と心臓が脈打つ。

 痛い、と感じて左腕の異常に気付く。自分が無意識ながらに放った『大いなる天極』の代償を。

 安いものか、と彼は思いのほかあっさり受け入れた。自らの左腕が火傷まみれになっているというのに。

 激痛はするものの耐えられないレベルではない。まあ誰かに叩かれればかなり痛いだろうが、ひとまず刺激しなければ日常生活を送るのに問題はないだろう。

 墓地を出たところで、リッカからシェルへ連絡が入る。重い気分で応じると、犯人は全部捕えたと告げてきた。

 そうか、と返すと。リッカが珍しく秋鳴をからかうように茶化してくる。あれだけ大口を叩いておいて犯人を一人も捕まえていないのだから当然だろう。

 

「……はぁ、やれやれ。じゃあ俺が勝手に動いた責任くらいはとろう」

 

『あら、随分あっさりしてるわね。難癖でもつけてくると思ったのに』

 

「ちょっとやりすぎて左腕がやばいだけだ」

 

『左腕って……あんた、どうしたのよ』

 

「あー……説明が面倒だ」

 

『説明しなさい』

 

「嫌だ」

 

『そっちに迎えも行かせたんだから! さっさと話しなさい!』

 

「場所教えたはずじゃないんだがな……」

 

『アンタが使った魔法がどれだけ周囲に影響与えてたかわかってないの……? アンタがいる墓地一体、太陽でも出てたかのように眩しかったって苦情が凄かったのよ』

 

「あー……はいはい」

 

 『大いなる天極』は、確かにそれほどの魔法だったことを思いだす。左腕一本を犠牲にして安く済んだと彼は錯覚しているが、そもそも魔法の使用代償として肉体を消耗させている時点で異質なのだ。魔法は魔力―――精神力を消耗するものだというのに。

 そして、それだけの代償を持つ魔法がどう呼ばれているかも、彼は理解しているはずだった。『禁呪』と呼ばれるほどの、封印され秘匿されるべき魔法。

 失われた魔法。

 

「あ……先輩!」

 

「サラ、か」

 

『アンタの最近お気に入りの娘よ。なんか文句ある? 私はサラから聞くから、上手く誤魔化すか適当に説明しておきなさい』

 

 まいった。と秋鳴は降参するしかなかった。真っ先に左腕を見て慌てふためいたサラを見て嘘などつけるはずがなかったからだ。




補足。


予科生であれば、魔力を変換させて作り上げる所謂『魔力弾』は初歩の初歩ともいえます。
ですが今回秋鳴が使用した『大いなる天極』は魔力弾の威力、速度、数が時間経過とともに加速度的に増え、対象を完全に消失させるほどの威力にまで発展する―――いわば、魔法によって造られる『太陽』。故に、禁呪であったりします。

代償が安いと言ってるけど左腕一本が安いなんて普通言わないからな?!
実際『やりすぎてない』レベルで使ってるから被害も出てないだけで。

偉大なるテュポーンだが知らんがあんなの全力で放ってロンドンが沈むんだし!
大いなる天極も本気の本気で使うと都市一つくらい光になるからね!?
秋鳴馬鹿だろ!?(ry

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