D.C.Ⅲ M.K.S “魔法と霧と、桜と騎士と” 作:瑠川Abel
D.C.Ⅲ.M.K.S は依然にじふぁんの方で強引に終わらせた作品であり、このたび書き直ししつつ公開していこうと決めた作品です。
D.C.Ⅲがどんな作品か、と聞かれたら本作とは無縁の優しい物語であると断言します。
誰かが更新を期待する、誰かが少しでも感動してくれる。
そんな作品にしていけたら、嬉しいです。
なんだろう、これは。
そう呟いて、眼前に広がる桃色の花びらに視線を奪われて。
ゆっくりと手を伸ばして、それが桜の花びらだと思いだして。
なんで忘れていたんだろう。
そんな気持ちより。
なんて忌々しいんだろう。
そんな負の感情が溢れてきて。
思いつめて、自分に自己嫌悪して。
いつもそうだ。
人が綺麗というものを醜い思い、人が羨むものを否定し、ずっとずっと自分が満たされることがないことを自覚して。
何度、何度、何度。
少しだけ信じられた女性を信じて、彼女のために戦い、戦い、戦って。
そして気付けば二つもの、人々から『憧れる』称号を手にしてしまって。
手の平に残る桜の花びらを、彼は握りつぶした。
自分が異常であることを、何度も認識して。
自然と笑いが込み上げてくる。
「……くん」
誰かが、彼の名前を呼んでいる。
知っている声だ。でも彼はその声の持ち主がわからない。
「……なり、くんっ」
もう一度、名前を呼ばれる。
知っている名前だ。彼の名前だ。
「出雲秋鳴君っ!」
三度目、今までより大きな声で名前を呼ばれる。
そこで頭痛がして、自分の立場を思い出して。
ずっと、長い夢を見ていたようで。眼前の女性の声によって意識を取り戻す。
大丈夫ですか、という気遣いに。彼は微笑みを向けて大丈夫と答える。
二人の間にあるのは、信頼関係。『女王』と『騎士』という、臣下の絆。
さりとて『女王』は『女王』として彼を信頼しているわけではない。彼の人柄に、彼の実績に、そう、彼の全てを信頼している。
カテゴリー5の、『無双』の名を与えられた彼を。
「とまぁ、今回上げたのが地上に広がる霧について簡単に纏めたものだが」
「ご苦労様です」
「全然駄目だな。魔法によって発生してはいるようだが、原因も効果も掴めない」
「貴方でもわかりませんか」
「ああ。さっぱりだ。風見鶏の図書館、ならわかるかもしれないが」
「そちらはリッカさんに頼んでるんだけども、ね……」
「おいおい、『孤高のカトレア』さんでもわからないって?」
「うーん、そうですね……あっ」
『女王』としての顔ではなく、何か悪戯めいた少女のような表情をして、女性が笑う。
不意に感じる嫌な予感。こういった予感はたいてい当たるんだよなーっと、心の中で悪態を吐く。
「貴方も風見鶏に入学すれば、いえ転入と言う形にした方がいいかしら?」
「いや待ておい」
「騎士の称号、カテゴリー5の地位があれば特例でリッカさんレベルに閲覧レベルも上げられますし……」
「いやいやいや」
「いいですねっ。早速手続しましょう!」
「人の話を聞けって、リズ」
「誰か、書類を用意してくださいーっ」
「聞けよおいっ?!」
「でも、現状では八方ふさがりなんですよね?」
「うっ」
それは痛いところである。親愛なる女王陛下からの任務を受けてなお、未だに解決の糸口すら見えないとあれば騎士としての名も、カテゴリー5としての名も双方傷がつく。
魔法使いとしての肩書に興味はない彼であるが、騎士として何もできないということを認めるのは、かなり悔しい。
「……わかったよ。講義は出ないぞ」
「出ないんですか?」
「出る暇あったら資料読み耽るほうが大事だ」
「……でしたら、提案がありますっ」
二度目の笑顔に、今まで生きてきて最大級の悪寒を感じた。
そしてそれは、現実になる。
D.C.Ⅲ.M.K.S-ダ・カーポⅢ Magic Knight Story-“魔法と霧と、桜と騎士と”
『女王』の提案により、『騎士』出雲秋鳴はイギリスの首都、ロンドンの地下に広大に広がる空間に足を運ぶことになる。
目的地は、王立魔法学園。通称『風見鶏』――――
『魔法使い』を育成する、機関である。
慣れない学生服に袖を通し、慣れない桜並木を歩く。
学園の門までやってきて、知り合いの少女に出会えて彼は人心地つく。
―――久しぶりね、秋鳴。
―――久しぶりだな、リッカ。
秋鳴とは別の、カテゴリー5。
『孤高のカトレア』リッカ・グリーンウッド。
次回 『ハジマリノウタ』