記憶喪失な雪風と勇者王(改訂中)   作:蒼妃

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第1話

Another Side

 

 

翌日。

 

 

朝食を終えた雪風と初霜は、教導を担当する艦娘に言われた通り、夢幻島近海に存在する訓練海域にやってきた。訓練海域は防潜網が張られており、敵潜水艦の侵入を防いでいる海域である。

 

 

「来たわね。」

 

 

すでに訓練海域では、2人の教導を担当する艦娘――満潮が待機していた。

しかし、主砲や魚雷は身に付けておらず、背中の艤装を装着しているだけだ。

 

 

「GGG海上機動部隊隊長、満潮よ。アンタたちの教導を担当するわ。」

 

 

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

「じゃあ、早速訓練を始めるわ。しっかり付いてきなさい。」

 

 

そう言って、満潮は巡航速度(18ノット)で海上を航行。

雪風と初霜もその後を追いかけるように航行する。

そして、基地がある夢幻島から数海里程離れた所で満潮は足を止めて振り返る。

 

 

「多分、知らないと思うから説明するわ。規則で許可なく、此処から先に行くのは禁止されてるから、気をつけなさい。」

 

 

「あの……どうしてですか?」

 

 

「防潜網はこの辺りまでしか張られていないのよ。此処を越えると、潜水艦の奇襲も警戒しなくちゃいけないのよ。」

 

 

そう言って、満潮は再び海上を進み始める。

先ほどは夢幻島から遠ざかるように航行していたが、今度は夢幻島に近づくように航行する。しかし、ただ航行するだけではなく、満潮は32ノット(約65km/h)――朝潮型駆逐艦の最大戦速――で航行する上に左へ、右へと舵を切るのでそれについていく2人は堪ったものではない。

 

 

「へぇ……振り切るつもりで航行したのによくついて来たわね。

 さすがは歴戦の駆逐艦と言った所ね。」

 

 

「雪風は、何も覚えてないですけどね~」

 

 

「そっちの事情はちゃんと知ってるわよ。

 記憶喪失だから、不安だったけど、問題ないみたいね。」

 

 

実は、全ての艦娘が生まれた時から自由自在に航行できる訳ではない。

統計的に艦艇時代が長い船になる程、適応が早く、それこそ訓練なしに艦娘の身体で自由自在に海洋を航行できる。

初霜もかなり長い艦艇時代の経験があるので、自由自在に海洋を航行できる。

 

 

「じゃあ、今度は砲撃の訓練よ。」

 

 

現在位置から少し離れた海上を指差す満潮。そこには、2つの的が用意されている。

 

 

「航行しながら砲撃して、的に命中させなさい。もちろん、最大戦速で。」

 

 

そう言って、満潮は2人の邪魔にならない位置まで後退する。

初霜と雪風は主砲を手に持ち、言われた通りに最大戦速で航行しながら、的を狙う。

2人はほぼ同時にトリガーを引き、炸薬を抜いた訓練用の弾頭を放つ。

しかし、そう簡単には当たらず、弾頭は的に掠りもしなかった。

 

 

「まっ、最初だから仕方ないわね。ほら、もう一回よ。」

 

 

「「はい !! 」」

 

 

満潮の指示に従い、同じような訓練をもう一度行う。

 

そして、2人の砲撃訓練は、正午の鐘が鳴り響くまで続けられた。

1回目、2回目と最初は楽だが、回数を重ねていくと疲労が溜まっていき、回数が5回を超えると疲労はピークに達した。

唯一の休憩時間は消費した模擬弾を補給する時間だけだ。

 

 

「お昼の時間ね。後片付けは私がやっておくから、艤装を外して、食べてきなさい。午後からは座学だから。」

 

 

「「は、はいぃ………」」

 

 

午前の訓練が終わると、2人は疲労と空腹でヘロヘロだった。

そのまま海面に腰を下ろしたくなるが、一度腰を下ろしてしまうと、しばらく起き上がれなくなる可能性があるので、ふらふらになりながら基地に向かう。

 

 

「ふぅ……途中で根を上げると思ったけど、意外と根性あるのね。」

 

 

2人が基地に戻るのを見送った満潮は海上で一人呟いた。

そして、使った的を回収しながら波止場に戻ると、一人の男性が待っていた。

明るい茶色の長い髪を持ち、黄色のチョッキを羽織った男性だ。

 

 

「初日の教導、お疲れさま。ほら、飲み物。」

 

 

「ありがと、凱。」

 

 

明るい茶色の長髪の男性―――獅子王 凱から艦娘用の燃料が入ったドラム缶(500ml)を受け取り、口を付ける満潮。

 

 

「あの2人はどうだった?」

 

 

「予想以上に根性があったわ。それに、才能もあるわね。

 まあ、前世の経歴を考えたら、才能がない方がおかしいけど。」

 

 

「終戦間際まで生き残った船と終戦後も活躍した船だからな。」

 

 

「才能があるのが羨ましいわ。それで、凱は何しに来たのよ ? 」

 

 

「雷牙おじさんに満潮を連れてくるように頼まれたんだ。

 “アレ”を使ってからメンテナンス受けてないだろ ? 」

 

 

「あ~……そういえばそうね。

 仕方ない。座学の方は朝潮姉に任せましょうか。」

 

 

そう言って、満潮は波止場に登り、凱と一緒に基地へ戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪風 Side

 

 

「もぐもぐ……午後の座学、何時からでしたっけ?」

 

 

「もぐもぐ……一四○○からよ。」

 

 

一四○○……午後2時からですか。

座学までに30分くらいは休憩できそうですね。

 

 

「ゴクゴク……ふぅ、ごちそうさまです。」

 

 

GGGの食事は、どれも美味しいです♪

本来、艦娘は普通の人と同じような食事は必要ないのですが、きちんと味覚は備わってます。なので、人間と同じ食事は嗜好品でしかありません。

ですが、長官の方針でGGGに所属する艦娘は人間と同じ食事をとることになっています。

その代わり、出撃がない日は畑仕事の手伝いとかしなければなりませんが。

 

 

「ごちそうさまです。人間と同じ食事って、何だか新鮮ね。」

 

 

「艦娘と人の距離を広げないため、だそうですよ?」

 

 

このGGGでは、艦娘であるわたしたちは人と同じ扱いを受けています。

何故かは分かりませんが、ここの人たちは、私たちのことも人として見てくれています。

長官の影響……なんでしょうか?

 

 

「初霜さん。座学の時間まで余裕がありますが、どうしますか?」

 

 

「そうですね……教室に向かいながら基地の中を見て回りましょうか。

 大まかに案内されただけで、全部の施設までは回ってないから」

 

 

「おお~良い考えですね。」

 

 

さぁ、食器を片づけて、早速探検といきましょう!!

 

 

 

■     ■    ■    ■    ■

 

 

 

お昼を食べた後、少し寄り道しながら教室に無事到着しました。

基地の中は近代的な内装なのに、座学に使う教室はなぜか木製の椅子と机に黒板と古めかしい内装になっています。誰かの趣味でしょうか ?

 

 

「2人とも揃ってますね。」

 

 

時間になって、入ってきたのは満潮さんではなく、黒い長髪の女の子でした。

 

 

「今日の座学を担当することになりました、朝潮型1番艦 朝潮です。

 本日はよろしくお願いします。」

 

 

「「よろしくお願いします !! 」」

 

 

「それでは早速ですが、この基地……GGGベイタワー基地について教えます。」

 

 

朝潮さんがリモコンを操作すると、基地のホログラムが浮かび上がりました。

古めかしい内装なのに、こういう所は近代的ですね。

 

 

「このGGGベイタワー基地は4層構造からなる基地本体と複数のディビジョン艦から成り立っています。一番関わることが多いのは、これですね。」

 

 

映し出されたのは、わたしが来る時に乗ってきた飛行船です。

 

 

「高速射出甲板空母タケミカズチ。艦娘の輸送を主な任務とするディビジョン艦です。遠方へ出撃する際は、これを使います。」

 

 

「大きすぎませんか ? もう少し小さくても大丈夫だと思うのですが……」

 

 

初霜さんがそんな質問をしました。

タケミカズチの全長は約230m。確かに艦娘を輸送するだけなら、もっと小型化できる筈です。特殊な装置を積み込んでるそうですが、それにしても大きすぎると思います。

 

 

「タケミカズチは艦娘以外にも大型の荷物を輸送できるように設計されています。

 その関係で船体が大型化していったそうです。」

 

 

「一体、どんな想定をしていたんでしょうか……」

 

 

「あとは全域装甲補修艦ウカノミタマ。艦娘の艤装の整備、補給を行うディビジョン艦でタケミカズチと共に運用されることが多いです。」

 

 

タケミカズチの代わりに映し出されたのは、中央の船体を取り巻くように4つのユニットが配置された変わった形状の飛行船です。

その全長はタケミカズチとそれほど変わりませんが、こちらはまるっこい形になってます。

 

 

「他にもディビジョン艦は存在しますが、関わることが多いのはこの2隻です。

 招集場所が艦名で指示されることも多いので、この2隻の名前と場所は覚えてください。」

 

 

「「はい。」」

 

 

「他にも基地内にはいろんな設備や施設がありますが、これは実際に自分の目で見て覚えて行くのが良いでしょう。但し、此処は立ち入り禁止です。」

 

 

そう言って、朝潮さんは基地全体図の最下層を指しました。

 

 

「この区画は基地の動力炉があるので絶対に入らないでください。

 下手をすると、基地丸ごと吹き飛ぶ可能性も存在しますので。」

 

 

「「は、はい !! 」」

 

 

冗談と思いたいですが、冗談に思えません !!

 

 

「では、次は……」

 

 

この後、朝潮さんの座学は夕方あたりまで続きました。

 




2016.4.16改訂

Gウェポンの登場を先延ばし。さらには、オリジナルのディビジョン艦を導入。(旧Verではベイタワー基地の要塞をそのまま流用。)
わざわざオリジナルのディビジョン艦を登場させたのは、原作に出て来たモノを使用すると、いろいろと不都合が生じるからです。一番の理由は、原作のモノは隠密行動に適していないということです。



ちなみに、今回名前が出て来たディビジョン艦の詳細は以下の通り。


高速射出甲板空母タケミカズチ

全長:243m

動力:ウルテクエンジン

装備:開放型ミラーカタパルト、弾丸ミラーカタパルト

兵装:ミラー粒子砲、連装メーザー砲2基

GGGが妖精の助力を得て完成させた新しいディビジョンフリート。
2種類のミラーカタパルトを搭載しており、艦娘を出撃させる場合は弾丸ミラーカタパルトを用いる。外見は、スサノオに似ている。
隠密性を高めるため、さまざまな特殊装備を搭載している。



全域装甲補修艦ウカノミタマ

全長:237m

動力:ウルテクエンジン

装備:大型クレーン、艦娘用簡易入渠ドック×2、艤装整備施設

兵装:ミサイル発射管×6、レーダー連動型機銃


GGGが妖精の助力を得て完成させたディビジョンフリート。
戦略的重要性から防御力が高められており、その堅さは新ディビジョンフリートの中で最高。形状はヒルメに酷似している。
長期戦を考慮して規模は小さいが、鎮守府と同じことができる。但し、艦娘の建造、装備の開発は行えない。
タケミカズチと同じく、隠密性を高めるため、様々な特殊装備を搭載。

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