記憶喪失な雪風と勇者王(改訂中) 作:蒼妃
雪風 Side
「ここが貴女の部屋よ。これは、部屋のカギ。」
「ありがとうございます!!」
メインオーダールームを出た後、大鳳さんに基地の中を案内してもらいました。
訓練所とか、研究所とか、艦娘の待機所とか。基地の内部はいろいろと設備が充実していました。広すぎて覚えるのが大変そうですけど……。
今、わたしが居るのはGGGに所属する艦娘が生活する艦娘寮です。
「それにしても、驚きました。この鎮守府、まさか海の下にあるなんて」
「大体の艦娘が同じ反応するわ。私も最初は驚いたもの。」
一番驚いたのはこの基地が建っている場所ですよ。
GGGの基地は、夢幻島と呼ばれる島の近くの海底80メートル地点に建設されています。
その上は、発電施設になっていて、基地の動力炉から出た余剰エネルギーを電気に変えて夢幻島に住んでる人たちに供給しているそうです。
「あっ、言い忘れてたけど、部屋は相部屋よ。今日着任した駆逐艦の子だから、仲良くしてあげてね?」
「はい!!」
「じゃあ、明日から早速訓練を始めるから、今日はゆっくり休みなさい。」
そう言って、大鳳さんは来た道は引き返して行きました。
「さて、どんな子が待ってるのでしょうか?」
大鳳さんから貰った部屋のカードキーを射し込んで、部屋に入ります。
そういえば、寮の扉はオートロックらしいです。カギを忘れて、外に出たら一大事ですね。
「お~まるでホテルみたいです!!」
部屋には、ベッドが2つ。そこそこ大きなテレビが1つ。
他にもクローゼットや本棚などなど。生活に必要な家具は一通り揃ってます。
まあ、お風呂や洗濯は寮で共用することになっているので、ありませんが。
「ふぅ……今日はいろいろあって疲れました。」
食糧を探して放浪していたら、駆逐イ級に襲われて、大鳳さんに出会って……。
この基地に連れて来られて、GGGに所属することになって。
本当に今日一日だけでいろいろありました。
「妖精さんもゆっくり休んでくださいね。」
わたしが呼びかけると、艤装妖精がひょっこり顔を出してきました。
この子にはとてもお世話になりました。妖精さんの助けがなかったら、今頃海の上で飢え死にしていたかもしれません。
――――ガチャッ……――――
「し、失礼します……」
あっ、相部屋になった子でしょうか?
「は、初春型四番艦、初霜です。」
「陽炎型駆逐艦八番艦、雪風です! これからよろしくお願いします!!」
同居人は、黒い長髪に桃色の瞳を持つ大人しそうな子でした。
あれ ? 何でしょう、この胸の奥からこみ上げてくる懐かしさは。
私は……以前にも彼女――初霜さんに会ったことがあるのでしょうか?
「…………本当に、覚えてないんですね。」
「? 何か言いましたか?」
「い、いえ!! 何でもないわ!!」
「そうですか?」
何か呟いてたような気がするのですが、気のせいでしょうか?
「あっ、私、教導担当から伝言を預かってるの。」
初霜さんから手渡されたのは、一枚のメモ用紙。
そこには、「明朝8時より、訓練を開始する。初霜、雪風の両名は艤装を着装し、訓練海域に集合せよ。なお、場所は隊員に聞けばよい。」と書いてありました。
「初霜さん、教導担当の人はどんな人でした?」
「うーん……少し、怖そうな人かしら? でも、悪い人じゃなかったわ。」
「上手くやっていけるかどうか、少し不安です……」
「だ、大丈夫よ、きっと」
明日から始める訓練が不安です……。
■ ■ ■ ■ ■
Another Side
GGG研究開発部。
GGGベイタワー基地の下層ブロックに存在する部署であり、雷牙博士が顧問を務める。
そこでは、艦娘及び深海棲艦の研究が行われる他、艦娘の特性を活かした武装が妖精と共同で開発されている。
その機密性から、関係者以外の立ち入りを原則として禁止している。
そんな場所にGGG長官秘書を務める大鳳は居た。
「満潮、此処に居たのね。」
「ん? ああ、大鳳か。何か用事?」
大鳳が探していたのは、淡い茶色の髪をお団子付きのツインテールにしている1人の艦娘。
名前は、朝潮型駆逐艦の三番艦、満潮。GGGでは、古参に分類される艦娘である。
着任したばかりの駆逐艦娘の教導を担当したり、時には研究開発部で開発された武装のテスターを務めることもある。
「新しく着任した子のプロフィールを渡しに来たのよ。」
「ああ、ありがと。」
そうお礼を言って、満潮は大鳳が持って来たプロフィールを受け取る。
「初霜に雪風……どっちも歴戦の艦娘ね。まあ、艦艇時代の話だけど。
というか、雪風は此処の所属にして良かったの?」
「ええ。艤装妖精がGGGで保護して欲しいって。」
「艤装妖精がそういうってことは……きな臭い鎮守府に居たみたいね。」
「今、諜報部が動いて調査に乗り出してるみたいよ。」
艦娘1人1人が従える艤装妖精は、仕える主が不必要に傷付くのを望まない。
雪風の場合、元の所属だった鎮守府に戻ると彼女が傷付いてしまうので、艤装妖精は主が席を外している間――メディカルチェックを受けている時――に大鳳を通じて、大河長官に保護を懇願したのだ。
「まっ、アイツの過去なんてどうでも良いわ。何かあれば、長官が動くし。」
そう呟く満潮の言葉には、長官に対する厚い信頼が窺える。
一方、大鳳は少し心配そうな表情で満潮を見つめている。
「何よ?」
「満潮、身体は大丈夫なの? この前、“アレ”を使った反動が残ってるんじゃあ……」
「凱や命にも聞かれたけど、大丈夫よ。私はそんな貧弱じゃないわ。
こいつのおかげで、他の艦娘より何十倍も頑丈な身体になってるから」
そう言って、満潮は自分の左腕を撫でた。
満潮の左腕は、肘から先が金色の義手になっており、そこに正六角形の緑色の石が1つ嵌め込まれている。
その石の名前は『Gストーン』。
Gパワーというエネルギーを放つ無限情報サーキットであり、持ち主の勇気に呼応して莫大なエネルギーを放つ性質を持つ。また、艦娘たちの
満潮はある一件で、艦娘として再起不能なほどの大けがを負った。
しかし、艦娘として戦うことを望んだ彼女のために雷牙博士と妖精たちが協力して手術を執行。それをきっかけにGストーンと
以来、満潮は駆逐艦らしからぬ性能を発揮できるようになったのだ。
閑話休題
「それは知ってるけど……やっぱり心配だわ。」
「大丈夫よ。駆逐艦の教導ぐらい、どうということはないわ。」
そう言って、満潮は立ち上がり、研究者の輪に混ざる。
「本当に大丈夫かしら?」
そんな大鳳の不安を他所に、満潮は研究開発部の職員と楽しそうに話していた。
「これの問題が解消されれば、深海棲艦の
そう言って、大鳳は開発途中のある武装を見上げた。
成人男性と同じか、それ以上の大きさの武装。
玩具のピコピコハンマーを巨大化したような外見だが、その見た目に反して、GGG鎮守府の最終兵器とも称されるほどの力を秘めている。
艦娘が使うことを前提に設計がなされたが、その反動の大きさから未だに陽の目を見ることがないその武装の名は……。
2016.3.27 改訂