記憶喪失な雪風と勇者王(改訂中)   作:蒼妃

13 / 24
“―――”から始まる文は響のナレーションと考えてください。


番外編 駆逐艦 響の過去

 

 

 

―――私は元々GGGに所属していた訳じゃない。本土のとある鎮守府に所属していた。

 

 

―――その鎮守府では、私以外にも姉妹艦の暁、雷、電も在籍していた。

 

 

―――それから私は第6駆逐隊として、戦うことになったんだ。

 

 

―――まあ、主な仕事は戦艦や空母を運用するための資材集めだったけどね。

 

 

―――それでも、第6駆逐隊の4人で活動できるだけで私は嬉しかった。

 

 

―――前世だと、4人一緒に居られた時間はとても短かったからね。

 

 

―――まあ、その話は置いておこう。私の転換点は、今から数カ月前。

 

 

―――いつものように資材を集めるため、司令官に言われた航路を航行してる時だった。

 

 

「今日は大量ね。司令官の言ってた通り、早く到着できたわ ♪ 」

 

 

燃料が大量に詰まったドラム缶を牽引する少女―暁型ネームシップ、暁は上機嫌だった。

彼女らの司令官に指定された航路を使うと、目的地に早く到着できた上、敵の襲撃に遭遇することもなかったからだ。

 

 

「でも、大丈夫なのかしら。この辺りって、敵の制海権でしょ ? 」

 

 

「司令官の話だと、航路そのものの安全は確保したみたいだよ。」

 

 

「きっと大丈夫なのです !! 危なくなったら、すぐに援軍を出すって言ってたのです !! 」

 

 

わいわいと話しながら資源の調達を終えた第6駆逐隊は、それを送り届けるため、自分たちの鎮守府を目指して航行していた。

完全に制海権を奪い返していない海域なので、普通は警戒を強めるものだ。しかし、行き道で敵の艦隊と遭遇しなかったこと、彼女たちが敬愛している司令官の命令に一抹の疑いを持たなかったことが災いして、彼女たちは警戒を緩めていた。

さらに言えば、彼女らは電探を装備していなかったために気付かなかった。

 

 

 

戦艦ル級を旗艦とする敵の編隊が近づいてきていることに……。

 

 

 

様々な不幸が重なりあった結果、ある悲劇を引き起こした。

 

 

 

「きゃあっ !? 」

 

 

「ば、爆撃っ !? 一体、何処から……」

 

 

「―――っ !! みんな、敵の艦載機だ !! 」

 

 

気が付いた時には遅かった。

 

4人の上空には、敵の艦載機が40機以上。それらがすでに爆弾を投下していた。

すぐさま、ドラム缶を切り離して、回避運動に専念する第6駆逐隊。

そして、回避しながら響は鎮守府へ通信を繋げる。

 

 

「司令官 !! 緊急事態だっ !! 敵の艦隊と遭遇した。向こうには、空母が居る !!

 すぐに援軍を寄越してくれ !! そんなに長くは持ちこたえられない」

 

 

『ああ、おかげで助かったよ。』

 

 

「えっ…… ? 」

 

 

通信の向こうから発せられた司令官の言葉に、救援を要請した響は言葉を失った。

 

 

『第6駆逐隊の諸君、感謝するよ。敵の主力を誘い出してくれたおかげで、難儀していた海域は容易く攻略することができた。替えの利く駆逐艦4隻で高難度海域を解放。

 これで私の昇進も一歩近づいた。君たちのことは忘れないよ、今日だけだがね。』

 

 

続けて伝えられた言葉は暁たち全員に伝わっていた。

それ以降、通信は繋がらなくなり、通信機からはノイズが聞こえるだけだった。

 

 

 

―――そう。私たちは敵の主力をおびき寄せる囮されたんだ。

 

 

―――航路をわざわざ変えたのも、敵の主力に気付かれやすくするため。

 

 

―――優しかった司令官は幻想で、アイツも私のことを道具のように思ってたんだ。

 

 

 

「は、はは……そっかぁ、捨てられたんだ……」

 

 

「そんな……そんなの嘘よッ !! 」

 

 

「司令官……」

 

 

信じていた司令官に裏切られた響たちは、絶望に打ちひしがれる。

 

 

「しっかりしなさい、3人とも !! 」

 

 

しかし、暁だけは絶望に打ちひしがれることはなく、敵を見据えていた。

さらには失意のどん底に居る姉妹を叱咤し、正気に戻す。

 

 

「絶望するのは後にしなさい !! こんな所で沈んで良いって言うの !? 」

 

 

「姉さん……あんなことを言われて、どうして平然としていられるんだい !? 」

 

 

「じゃあ、聞くわ。絶望したら、この状況を打破できるのかしら ? 」

 

 

敵の艦載機を1機ずつ撃ち落としながら、暁は語る。

響たちには、普段は子供っぽく見える姉の姿が今回ばかりは一人前のレディのように見えた。

 

 

「今は生き延びることを考えなさい。沈んだら、何もできないんだから。」

 

 

そう言いながら、暁は対空射撃を続ける。

たった1人、それも水上戦闘重視の思想から設計された駆逐艦では、雀の涙に等しい。

やがて、暁の目が敵の艦隊を捕捉した。

 

 

「戦艦に正規空母……これは逃げ切るのは無理ね。

 響、雷、電。私が囮になって、敵艦隊を引っかき回すから、その間に逃げなさい。」

 

 

「なっ !? 正気なのですか !? 」

 

 

「そうよ !! あっという間にやられちゃうのがオチよ !! 」

 

 

「何もしなかったら、このまま全滅よ。アンタたちだけでも、生き残りなさい !! 」

 

 

一方的に告げると、暁は敵艦隊の中央へ突進する。

敵陣のど真ん中に突入した暁に敵の注意は集中し、響たちへの攻撃が途絶える。

 

 

「……響、電。行くわよ。」

 

 

「「……」」

 

 

雷に促されて、響と電は立ち上がる。

そして、敵の輪を乱している暁に一瞬だけ視線を向けた後、急いで戦闘海域を離れる。

その胸に姉を置いて逃げる、という罪悪感を抱きながら……

 

 

 

―――それから私たち3人は、宛てもない海をさまよい続けた。

 

 

 

―――最初に別れたのは雷だった。艤装に異常が出て、速度が落ちてきたんだ。

 

 

 

―――次は電。まだ、この世界に生まれた間もない私を生かすための囮になった。

 

 

 

―――1人になった私は、たださ迷った。そして、生きるのを諦めた時、私は出会った。

 

 

 

―――白亜の戦艦とそれを駆る2人の戦士に……。

 

 

 

「こんな海域を誰がウロウロしてるのかと思えば……」

 

 

「艦娘……いや、もはや抜け殻か。」

 

 

失意のどん底に居た響の前に現れたのは、全長100mを越える白い戦艦。

その巨体の上には、奇妙な格好の女性と男性が立っていた。

モデル体型の女性は“ルネ・カーディフ・獅子王”と言い、雷牙博士の実の娘である。

一方、男性の方は“ソルダートJ”と言い、異世界で生み出されたサイボーグだ。

 

 

「まるで人形だな。」

 

 

生気のない瞳をしている響に向かって、ソルダートJは率直な感想を述べる。

しかし、姉妹を失い、信頼していた指導者に裏切られ、失意のどん底に沈んでいた彼女に反論するだけの気力は残っていなかった。

 

 

「言い返すことすらしないか。いや、もはや、意志すらない抜け殻か。」

 

 

「生き残ったのがコイツじゃあ、死んでいった姉妹も無駄死ね。」

 

 

ルネの言葉に虚ろな瞳の響が反応する。

 

 

「……取り消せ。」

 

 

響の脳裏に蘇るのは、暁たちと過ごした日々。

それは彼女にとって一番大切なモノであり、苦楽を共にした姉妹は宝物だ。

宝物を穢されたという事実が響の心にもう一度、火を灯す。

 

 

「取り消せぇ !! 」

 

 

響は怒りのままに12.7cm連装砲の砲口をルネとJに向ける。

補給も受けていないため、燃料も弾薬も枯渇しようとしてにも関わらず、響は戦意を燃え上がらせる。

 

 

「暁たちの死は絶対に無駄死なんかじゃない !! 私に命をくれたんだ !! 」

 

 

「ふぅ~ん……じゃあ、何で貰った命を放棄しようとしてるわけ ?

 アンタの姉妹を殺したのは、深海棲艦。追いやったのはアンタの司令官。

 復讐してやろうとは思わないわけ ? 」

 

 

「そうしたいけど、それはできない。私は艦娘、深海棲艦と戦うのが役目だ。

 激情に駆られて人を襲えば、それは深海棲艦と同じになってしまう。」

 

 

響の解答にソルダートJ、ルネは小さく笑う。

 

 

「ついてこい。戦士として生き、戦士として死にたいのなら。」

 

 

「アンタを案内してあげるよ。戦士の戦場へ。」

 

 

 

■    ■    ■    ■    ■

 

 

 

「そして、私はGGGに案内されて、今に至る訳だよ。」

 

 

「あ、あの……響さん。その、姉妹たちは……」

 

 

「沈んだ、だろうね。あの後、別れた地点の周辺海域を探しても見つからなかったし。」

 

 

「「…………」」

 

 

「ああ、もう乗り越えてるから大丈夫だよ。うじうじしてるのは、姉妹が望んでないだろうからね。」

 

 

そう言って、昔話を切りあげる響。

その白いに近い銀色の髪の隙間からは白いイヤ―カフスが顔を覗かせていた。

第6駆逐隊の象徴であるローマ数字の「Ⅲ」を象ったアクセサリーは今もなお、彼女と一緒にあった。

 

 

 

■    ■    ■    ■    ■

 

 

 

―――旧三重連太陽系宙域―――

 

 

 

かつて、三重連太陽系と呼ばれる太陽系が存在していた宙域。

今となっては暗い宇宙が広がっているだけだが、その真っ暗な宇宙を一隻の宇宙船が航行していた。そして、その宙域には、クリアグリーンの結晶体がいくつも漂っていた。

 

 

「やっぱり、もう何も残ってないね。」

 

 

「ソール11遊星主が消滅し、パスキューマシンによって復元された地球もない。

 残ってるのは、機械昇華を免れたGクリスタルだけだ。」

 

 

「まあ、そのGクリスタルもバラバラだけどな。」

 

 

宇宙空間に漂うクリアグリーンの結晶体は、Gクリスタルの破片である。

満潮の強大な力を与えているGストーンの原石であり、“ジェネシックオーラ”と呼ばれる特殊なエネルギーを内包しているのが特徴だ。

元々はもっと大きな塊だったのだが、とある戦いの最中、破壊されてしまい、今となってはその破片が漂っているだけ。もっとも、その破片でも十分な力を持っているのだが。

 

 

『ルネ、J。こっちは準備できたわよ。』

 

 

「OK。じゃあ、さっさと回収してベイタワー基地に帰投するわよ。

 アンタも久しぶりに姉妹に会いたいでしょ ? 」

 

 

『……そうね。』

 

 

通信が切れると、白亜の戦艦から戦闘機のようなモノが飛び立ち、Gクリスタルの破片が漂っている宙域に向かう。

 

 

「それにしても、妖精って奴は凄いね。まさか、ファントムガオーを複製するなんて。」

 

 

そう言いながら、桃色の髪を持つ女性―ルネ・カーディフ・獅子王は肩に腰掛ける妖精の頭を突く。

 

 

「白の星は、あのパスキューマシンを作り上げた星だ。その末裔となれば、複製など容易いことだろう。」

 

 

「かつてアタシたちを苦しめたモノを作り出した奴に助けられるなんて、奇妙なモノだね。」

 

 

「ふっ、そうだな。」

 

 

そんな会話を交わしていると、Gクリスタルの破片の回収を終えた戦闘機――ファントムガオーが戦艦の甲板部分に着陸する。

 

 

「ESミサイル発射 !! 」

 

 

白亜の戦艦から数本のミサイルが放たれ、宇宙空間にESウィンドウと呼ばれるエスケープ空間への入り口が出現する。

そして、白い戦艦がその入り口を潜ると、旧三重連太陽系宙域は元の真っ暗な宇宙空間へと戻った。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。