記憶喪失な雪風と勇者王(改訂中) 作:蒼妃
雪風Side
~艦娘寮 第77駆逐隊の部屋~
久野島防衛戦の翌日。今日は第77駆逐隊全員揃って非番です。
出撃前に話していた通り、今日は第77駆逐隊全員で町に出ることになりました。
「よし、準備完了。潮、そっちは ? 」
「こっちも終わったよ。雪風ちゃんと初霜ちゃんは……やっぱりその服なんだね。」
潮さんがわたしたちの格好を見て、そう言いました。
響さんと潮さんは出撃時に着ていた戦闘着ではなく、普通の洋服です。
一方、わたしと初霜さんは戦闘着のまま。これ以外持っていないので着替えようがないんですよね。
「雪風、初霜。お金は持った ? 」
「持ちました !! 」
「袋に入れてるだけなので、ちょっと不安ですけど……」
「まあ、町に着くまでの辛抱だよ。良いお店を知ってるから。」
「じゃあ、出発しましょうか。」
「「はい。」」
出発しようと、取っ手に手を掛けた瞬間、扉が勝手に開きました。
扉を開けたのは、満潮さんと同じ制服を着たこげ茶色の髪の女の子でした。
「あら、お出かけかしら~」
「荒潮 ? どうかしたのかい ? 」
「満潮姉からGウェポンを渡すように言われたんだけど……後にした方がいいかしら~ ? 」
「大丈夫だと思うよ ? そんなに時間も掛らないだろうし。
―――という訳で1番ゲートで待ってるから、早く来てね。」
そう言うと、響さんと潮さんは先に行ってしまいました。
「じゃあ、ついて来てくれるかしら ? 雪風に初霜。
あっ、自己紹介が遅れたけど、私、荒潮よ~。満潮の妹よ~」
そう言う訳で町に出かける前にGウェポンを受け取ることになりました。
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「此処よ~」
荒潮さんに案内されたのは、基地内にある倉庫の1つでした。
GGG技術開発部が管理する倉庫で、中にはGウェポンの他にも試作段階の装備や使わなくなった装備がしまい込まれているそうです。
ただ、危険物もしまい込まれているので、関係者以外からは危険区画扱いされていると聞いたことがあります。
「ピッ、ポッ、パッ、と―――開いたわよ~」
「これが全部Gウェポンなんですか ? 」
扉の先にはいくつものロッカーが並んでいて、その中には大きな盾や砲身が複数ある銃などなどいろんな武器が1つ1つ収められています。
「そうよ~。じゃあ、この中から1つ選んでちょうだいね~。」
そう言って、荒潮さんは手近にあった椅子に座ると読書を始めました。
さて、響さんと潮さんをそんなに待たせる訳にもいきませんし、さっさと選んでしまいましょう。良いのがあればいいんですが……
「私はあっちの方を見てくるわ。」
「じゃあ、雪風はあっちの方を見てきます。」
初霜さんは第1世代、わたしは第3世代と書かれた方に進みます。
Gウェポンと言っても、その成り立ちによって3種類に分類されます。
GGGのデータバンクにあった装備を艦娘用に調整した第1世代型。
第1世代型を複数組み合わせて1つのGウェポンにした第2世代型。
そして、第1世代型に用いられる技術を参考に作られた第3世代型。
まあ、分かりやすいように分類しているだけで性能差はないらしいですが。
「それにしても、いろいろありますね。」
所属している艦娘の数に対してGウェポンの数が多いですね。
その分、選択肢が増えてわたし的にはうれしいのですが、ちょっと勿体ないような気もします。
「う~ん……おっ」
第3世代型Gウェポンを見て回っていたわたしの目に留まったのは、銀色。
斧と槍が一体化したような外形――確か、ハルバートでしたか ? ――と穂先にはめ込まれた緑色の石。その全長はわたしの身長よりも長いです。
それが収められているロッカーには、こう書かれていました。
第3世代型Gウェポン ガジェットシザーズ、と。
「そんなに重くないですね。」
実際に手に取ってみますが、それほど重くはないです。
説明書によれば、戦況に応じて形態を変えることができる武装で、ハルバートに見える今の形態が標準形態のプラズマシザーズ形態らしいです。
「うん。これにしましょう !! 」
何となくですが、わたしにピッタリなような気がします。
「雪風さん、決まりましたか ? 」
「決まりました !! 初霜さんは……決まったみたいですね。」
合流した初霜さんは、大きな盾を持っていました。
赤で縁取りされた黒い盾で、その中心にはGウェポンの象徴であるGストーンがはめ込まれています。
「第1世代型Gウェポン、プロテクトシェードです。
これで雪風さんを
「初霜さんらしい武装ですね。」
さて、早く響さんと潮さんに合流しないと……
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―――という訳で、後の手続きを荒潮さんに任せて、やってきましたアルトマーレ !!
アルトマーレは夢幻島沿岸部に存在する唯一の商業区画で工業区画で生産された商品が売られています。ここで売られている商品が島の生活水準の低下を食い止めているそうです。
民間用の港もこの町の近くにあるので、ここで売られている商品が本土へ向けて輸出されることもあるそうです。残念ながら、変えるのは富裕層ぐらいだそうですが。
「最初は財布だね。いくら治安が良いって言っても、危ないからね。」
「偶によそ者が混じってたりしますからね。」
響さんが案内してくれたのは、海沿いに出ている露店街でした。
「おじさん、久しぶり。」
「ん ? おお、響嬢ちゃんじゃねえか !! 俺の商品を買いに来たのか ? 」
「用があるのはこっちだよ。昨日配属された新人なんだ。」
「ふむ。相変わらず、艦娘は可愛い子ばかりだな。
まったく、GGGで働いてる男が羨ましいぜ。俺も出会いが欲しいもんだ。」
「奥さんに言い付けるよ ? 」
「それだけは本当に勘弁してくれ。この前、半殺しにされたばかりなんだ。」
「――――っと、漫才はこれぐらいにしようか。
初霜、雪風。このおじさんの商品は、品質が良いからどれを選んでも損はないよ。」
「お値段も一律だ。手を抜いた商品は1つもないから、安心してくれや。」
うーん……いろんなサイフがありますね。
持ち運びしやすくて、使いやすいモノが良いんですが……あっ、これにしましょう。
「おっ、お目が高いね。それは今日、完成したばかりの物なんだ。大切に扱ってくれよ ? 」
「わかりました。大切にします。」
「じゃあ、わたしはこれにします。」
初霜さんが選んだのは、黒くて薄い長財布です。
真ん中に白い錨のマークが刺繍されているのが特徴的です。
「ありがとよ。この後はどうするんだ ? 」
「アルトマーレの町を案内しながら買い物。いろいろ買う物があるからね。」
「無駄遣いして泣き付いてくるんじゃねえぞ ? 」
「昔の話を蒸し返さないでくれるかな !? 」
「あはは……」
陽気なおじさんの冗談に響さんは顔を真っ赤にしながら叫びました。
潮さんは思い当たりがあるのか、苦笑いを浮かべてます。
「ほら、行くよ。」
響さんは顔を赤らめたまま、足早に露店を後にしました。
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サイフを買った後、響さんたちに案内されていろんな物を買いました。
さすがにいろんな場所を連れ回されたせいで疲れました。
まあ、一番の原因は呉服店での一件のせいですが……
「なんだい ? こっちを睨んで。」
「心当たりはあるでしょう ? 」
「着せ替え人形にしただけじゃないか。」
そうです。わたしが疲れている理由は、呉服店で着せ替え人形にされたことです。
正確な回数は数えていませんが、少なくとも10回は衣装チェンジしました。
「でも、可愛かったですよ ? 」
「初霜さんも潮さんも途中からノリノリでしたよね ? 」
目を逸らさないでください。最初は止めようとしてくれてたのに……
まあ、選んでくれた服はどれも可愛かったのでいくつか購入しましたが。
「そういえば、響さん。ずっと気になってたんですが、あの像は ? 」
話題を切り替えるように初霜さんが公園に置いてある像を指差しました。
その見た目はとぐろを巻いた龍で、コウモリのような翼が付いているのが特徴です。
これと同じ像は商店街にもありましたが、何の意味があるんでしょうか ?
「あれはこの島で信仰されてる龍神の像だよ。
GGGが本格的に稼働する以前、深海棲艦から島を守り続けたらしいよ。」
「噂によれば、その体躯は宇宙に届くほどで国1つを侵略できる規模の深海棲艦を薙ぎ払ったとか。」
「まあ、要するに昔から島を守ってくれてた神様を祀ってるだけだよ。」
「「へぇ~」」
「さて、そろそろ帰ろうか。」
「そうですね。」
こうして、わたしたちは買い物を終えて、基地に戻るのでした。
2016/5/15 改訂