IS/Zero   作:小説家先輩

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第六話 再会

一夏が代表に就任してから数日が経過し、切嗣とセシリアは最近一夏と箒などから愚痴を聞かされることが多くなっていた。それぞれーーー

 

「委員の仕事が大変だから、手伝ってくれ」

 

「一夏とISの練習をする時間が減ってしまった、どうしてくれる!」

 

とのことであるが、今回は切嗣とセシリアの責任が大きいため2人とも何も言うことは出来ない。がしかし……

 

「ていうかアンタ一体何者なのよ!?ISを動かせる唯一の男って一夏だけじゃなかったの!?一夏は一夏で幼馴染である私を差し置いて、知らない女といちゃついてるし……」

 

現在、切嗣は2組の中国代表候補生からの質面攻めに困惑しているところである。

 

「……」

 

「ちょっと!?人の話聞いてる!?」

 

(中国からの転入生……。もしかすると代表候補生なのだし、近接近用の格闘技として中国拳法でも習っていたりするのだろうか。もっとも僕自身は中国拳法と聞いて、嫌な思い出しかないのだが)

 

「へぇ~。人が話している時にそんな態度とるんだ………頭にきた」

 

不意に頭部に悪寒が走ったため切嗣は上半身を仰け反る。すると先程まで頭があったところを凰の右足が通過していった。そしてよく考えれば、攻撃を避けるまででやめておくべきだったのかもしれない。切嗣は鈴のハイキックを上半身を反らして避けると、鈴の軸足に足払いをかける。すると、ドスン!といい音を立てて鈴は床に転んでしまった。

 

「いたた……。あんた、いきなり何すんのよ!」

 

「えっと……すまない」

 

「何がすまない、よ!だいたい「鈴、お前パンツ見えてるぞ?」!?」

 

「な!?」

 

一夏が話題に入ってきた。がしかし、一夏の目線は鈴のスカートの中に固定されていた。一方、鈴は俯いて何かを呟く。

 

「……ない」

 

「?」

 

小さい声で呟いているせいか、切嗣は鈴の言葉をあまり聞き取る事が出来ない。

 

「あんたのせいでこんなことになったんだからね!ぜったいに許さない!」

 

切嗣はすかさず一夏の方を見て、状況を判断し、決断する。その後は一瞬だった。

 

「そう言えば、一夏が学校で凰の事をずっと気にしていたな。だから僕なんかに構ってないで、一夏にいっぱい甘えさせてあげたほうがいいと思うが」

 

「い、一夏が!?メールじゃそんなニュアンスなんて全然なかったくせに、本当は私のことを気にしていてくれたんだ♪」

 

切嗣のとった行動、それは一夏を鈴に売ることだった。一方の一夏はそんなことは言っていないとばかりに切嗣に非難の目を向けてくるが、無視を決め込み早足でその場をあとにする。教室からは一夏の断末魔が響いたような気がしたのは、気のせいだろう。

 

 

翌日、4時間目はグラウンドでISの実習授業が行われていた。

 

「今回はISの展開について学ぶことにする。織斑・セシリア・衛宮の三名は前に出ろ」

 

千冬に名前を呼ばれた3人が千冬の前に出る。

 

「これからお前らにはISを展開し、上昇してからの急降下、そのあとは射撃武器および近接武器の展開をしてもらう。それでは……始め!」

 

千冬の合図で3人はISを展開し始める。がしかし━━━

 

「織斑!遅い!せめて衛宮くらいのスピードで展開できるようにしろ!!」

 

「馬鹿者!グラウンドに穴を開けてどうする!」

 

「織斑!近接武器の展開が遅い!メインの武器を一秒以内に展開できなくてどうする!!」

 

一夏が大炎上を起こしていた。

 

 

「……よし!今日の授業はここまで!織斑は自分が開けたグラウンドの穴をきちんと埋めておくように!」

 

授業が終わり、一夏は自分が地面に落下することで作ってしまった穴を埋める事になってしまったため一人で作業を行っていた。そして、一段落したところで鈴が一夏に声をかける。

 

「お疲れ様、一夏。はい、ジュースとタオル」

 

「…ありがとう、鈴。助かるぜ」

 

「どういたしまして。だって私、中2の頃に一夏と約束しちゃったし……」

 

「ああ、あの酢豚を毎日無料でおごってくれるってやつだろ?」

 

「……え?」

 

一瞬、一夏は周りの温度が数度ほど下がったような錯覚に陥る。今は春シーズン真っ只中のであり、鳥肌が立つことなど普通ならありえないはずなのだが……。

 

「いやぁ、鈴が毎日酢豚を無料で作ってくれるなら食費が浮いて助かるぜ」

 

「…………」

 

何も返事を返さない鈴を不思議に思った一夏は、鈴が肩を震わせながら俯いていることに気づいた。がしかし、一夏自身その原因が自分にあるのだと気づくことはない。

 

「?どうしたんだ凰?いきなり顔を真っ赤にして?体調でも悪いのか?

 

「うっさい馬鹿!あんたなんか犬に噛まれて死ね!」

 

バシッと一夏の頬から乾いた音が聞こえた後、鈴は校舎の方へと走り去っていく。その目にはうっすらと涙が滲んでいた。

 

「……一夏」

 

「お、おう」

 

後ろから聞こえてきた声に一夏が振り返るといつの間にか箒が後ろに立っていた。強いて違うところを挙げるとすれば、額に青筋が浮かんでいるのと、彼女の体から不気味なオーラが漂っていることくらいか。

 

「一発ビンタしていいか?」

 

「え!?なんで箒に叩かれなきゃいけないんだよ!」

 

「うるさい!女を泣かせた罰だ!男なら黙って受け入れろ!!」

 

「り、理不尽だ~!」

 

そして一夏の顔から乾いた音がなった後、残された一夏の頬には綺麗な季節はずれの紅葉が2つ付いていた。

 

 

一方その頃、切嗣は一夏の手伝いでグラウンドの土を穴のところに運んでいたが鈴と一夏の修羅場を目撃したため、物陰に身を隠すとその隙間から様子を伺っていた。

 

「まったく、一夏のやつも罪作りなやつだ。よりによってあんな綺麗な幼馴染2人を怒らせるなんて……理解に苦しむな」

 

「そういうあなたこそ、もう少し自分の周りのことに目を向けてみるべきではなくて?」

 

「え?」

 

切嗣は肩を誰かに強く握られたので思わず振り返ると、そこには黒いオーラを纏ったセシリア(という名の般若)がいた。

 

「………少しオハナシしましょうか?」

 

「あれ?セシリア?なんで僕の襟首を掴んでいるんだい?ってちょ!?力つよ!!」

 

「オホホホ!さあ、校舎裏までま・い・り・ま・す・わ・よ?」

 

「~~~!!」

 

5時間目に入る直前、そこから頬に大きなもみじを作った切嗣と妙にすっきりした顔のセシリアが出てくるのを一組の生徒が目撃したとか。

 

 

深夜、切嗣は自室でISの基礎知識の復習をしていた。するとそれを不思議に思った本音が切嗣のそばに寄ってくる。

 

「えみやん、なにしてるの~?」

 

「……布仏さんか。実はISの操作方法について復習していたんだ」

 

「本音でいいよ~。それにしてもえみやんはえらいね~、こんな時間まで勉強するなんて」

 

「……僕は君やセシリアみたいに勉強が出来るわけじゃないからね。きっちり復習はしておかないと」

 

「だったらお姉さんに聞いてくれればいいのに。そしたらお姉さんがつきっきりで教えてあげるよ♪」

 

いきなり楯無が後ろから切嗣に抱きつく。

 

「……どこから現れたんですか。と言うかもう消灯時間は過ぎてますよ?」

 

「堅いことは言いっこなしだよ、切嗣くん。お姉さんは久しぶりに切嗣くんに会えてこんなに胸がドキドキしているというのに」

 

楯無は切嗣の手を取ると、自分の胸のところまで持っていく。この時に目を潤ませながら相手を見るテクニックもきちんと入れるところは更識クオリティーと言ったところだろう。

 

「えみやんを弄って楽しいのは分かりますけど~、もうすぐ織斑先生が来る時間ですよ~?」

 

「えぇ!?そんなの聞いてないよ、本音ちゃん!」

 

「だって会長はそんなこと気にしている様子なかったし~」

 

「うぅ、本音ちゃんが反抗期だよ」

 

楯無は素早く身なりを整えると、あっという間に切嗣たちの前から姿を消した。

 

「ありがとう、本音さん」

 

「別に気にしなくていいよ~。えみやん何だか困ってそうな顔してたし~」

 

「ところで、えみやん?」

 

本音の声調が変わったことに気づき、切嗣は本音の方に向き直る。

 

「ん?」

 

「なんか困ってることがあったらなんでもいいから言ってね~?私も会長もえみやんのことは大事に思ってるし~」

 

「あぁ……。分かった」

 

「……それじゃあ、おやすみ~」

 

本音は自分のベットに潜り込んだ。切嗣はそんな本音の様子を確認すると、再び机に向かい始めた。ただ先程とは違うことがあるとすれば、今机でISのことを勉強しているのは学生としての“衛宮切嗣”ではなく魔術使いとしての“衛宮切嗣”となっていることぐらいか。

 

そんな切嗣の様子を本音は布団の中から心配そうに見つめていた。

 

 

翌朝、切嗣は自分の携帯が鳴る音で目が覚める。時間を確認すると9時を少し回ったところだ。

 

「……もしもし、衛宮ですが」

 

「切嗣さんですか!?私セシリアです!今日は何かご予定はありますか!?」

 

「……いや、特にはないが」

 

突然のセシリアからの連絡に内心驚きながらも、話を続ける。

 

「それはよかった♪私、日本に来て夏物の服とかをまだ揃えておりませんの。なのでもしよろしければ付き合ってくださいませんか?」

 

「……篠ノ之あたりに頼めばいいじゃないか」

 

「付いてきてくださいま・す・わ・よ・ね?」

 

これ以上いたずらにセシリアを刺激するのはまずいと切嗣は即座に判断、行くことを伝えた。

 

「……わかった。では10時に正門前に集合でどうだ?」

 

「!本当ですわね!?私10時にその場所で待っておりますので、必ず時間厳守で来てくださいね」

 

それを最後に電話は切れた。

 

「こんな早くにせっしーとデートかぁ。青春だねぇ、えみやんも」

 

「デートって……。そんないいものじゃないよ」

 

電話の内容を聞いていたのか、本音が瞼をこすりながらベットから出てきた。

 

「…一度えみやんは病院に行ったほうがいいと思うよ~?主に頭の」

 

「それは僕ではなく、一夏に伝えるべきだと思うんだが……」

 

「うんわかった~、おりむ~にもそう伝えておくよ。それじゃあお土産はケーキ2つで」

 

「お金に余裕があったら考えておくよ……。それにしても10時まであと1時間しかないのか……」

 

切嗣はため息をつきながらも準備を始めていた。

 

 

切嗣は10分前に正門に着くと、そこには何故かばっちりおしゃれをしたセシリアの姿があった。

 

「遅すぎますわ!一体いつまで待たせるつもりなんですの!」

 

「…済まない。これでも10分前には着いていたんだが」

 

「10分前では遅すぎですわ!男性なら30分前には集合場所に着いておく位の心構えでなくてどうするのです!」

 

切嗣は申し訳なさそうに肩をすくめる。

 

「……まあ、今回は私の買い物に付き合っていただくのですから、これくらいで勘弁して差し上げますわ。それでは……」

 

セシリアは切嗣の右手に自分の左手を重ねる。

 

「……これは?」

 

「勘違いなさらないでくださいね。これは人ごみの中で離れ離れにならないようにと……」

 

セシリアは顔を背けながら答える。そんな様子を切嗣は微笑ましく感じ彼女の手を握り返す。

 

「……あっ」

 

「そうだね。離れ離れにならないようにちゃんと手をつないでおかないと」

 

ふと切嗣がセシリアの顔を見ると、トマトのように真っ赤になっていた。

 

「では本日はいかがなさいますか、お嬢様?」

 

「!もう!!」

 

こうして二人の初デートが始まった。背後に青髪の女性がニヤニヤしながら付いてきていることも知らずに。

 

 

「切嗣さんはどっちのワンピースが好みですの?」

 

「えっと……僕はこっちの白のワンピースがいいと思うが」

 

「こっちですわね!分かりましたわ♪では次に━━━」

 

もうこんなやりとりが2時間近く続いている。気がつけば切嗣の両手は紙袋でいっぱいになっていた。

 

「セシリア。もうお昼だしぼちぼちご飯にしないか?」

 

「もうそんな時間ですの?では近くのレストランにでも入りましょうか」

 

そう言うと、セシリアは店員に何やら黒いカードを見せて荷物を学校に送るように指示を出す。切嗣はスケールの違いに目を疑っていた。

 

 

昼食が終わり、切嗣とセシリアは繁華街の中を歩いている。

 

「切嗣さん、あそこのお店に入ってみませんか?」

 

セシリアが差した方向を見ると小洒落た小さな喫茶店があった。

 

「そうだね。僕も喉が渇いていたところだし、そうしようか」

 

切嗣とセシリアが店内に入ると、店内にはひと組のカップルと買い物帰りの女性がいた。切嗣はセシリアと一緒に窓際の席に座る。

 

「お待たせいたしました。アールグレイとイチゴミルクになります」

 

「イチゴミルクなんて、えらく可愛らしいものを頼みますのね」

 

「?どうした??」

 

「…いいえ、なんでもありませんわ」

 

セシリアはイチゴミルクを飲む切嗣を温かい目で見つめる。すると視線に気づいた切嗣はイチゴミルクを机の上に置くと、気まずそうにセシリアから目を逸した。

 

「そう言えば、切嗣さんに相談したいことがありまして」

 

「相談?」

 

「ええ。実は今回のクラス代表に操縦経験が少ない織斑さんが選ばれたことについてなのですが。このまま他のクラスに優勝賞品を奪われるのは非常に癪にさわるので、私と切嗣さんの2人で織斑さんにコーチとしてISの基本操作を教えることはできないかと」

 

「……それ自体には僕も賛成だ。しかし」

 

「しかし?」

 

「問題は僕らがまだISが使えない状況で、一夏に何を教えるかだな」

 

「それなら、私がISの操作を教えて切嗣さんは私の補佐をすればよいではありませんか」

 

「そうだな。とりあえず明日一夏に聞いてみよう」

 

「……少々話題を変えますが、私━━━」

 

そうしてつかの間の休日は過ぎていった。

 

 

自分の部屋に戻ってきたあと、切嗣は本音やセシリアと夕食を取るために食堂に来ていた。

 

「ほんとにお土産を買ってきてくれるなんて思ってなかったよぉ。ありがとね、えみやん」

 

「一応約束したことだから、気にしなくていい」

 

「そうですわ。同じクラスの仲間におごって差し上げる器量がなくては男としての器が知れますわよ」

 

そんなことを話していると、後ろから楯無がやってくる。

 

「いやぁ、お二人さんとも随分お熱いデートだったね。見ているこっちが赤面しそうな場面とかあったし」

 

「!?見ていらしたのですか?」

 

「うん。だって本ね……もとい信頼のできる情報筋から面白い情報が入ってきたものだから、お姉さんついやっちゃった。ゴメンネ」

 

そう言うと、楯無はポケットから2枚のチケットを取り出す。

 

「代わりと言ってはなんだけど、街の水族館のチケットが2枚あるんだよね。だから今度二人で行ってきたらどうかな?」

 

「少し考えさ「もちろんありがたくいただきますわ♪」」

 

セシリアは切嗣の言葉を遮って、楯無からチケットを受け取る。

 

そんなセシリアの様子に呆れながらも、切嗣は他の3人とカウンターの方へ歩いて行った。


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