IS/Zero   作:小説家先輩

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第四話 夜襲

翌朝、切嗣の部屋の前に一人の女性が立っていた。セシリア・オルコットである。彼女は切嗣と一緒に登校するべく切嗣の部屋を聞き出して、迎えに来たのだ。

 

(昨日は話の流れで戦うことになってしまいましたが、一緒に学校に行くくらいは構わないでしょう)

 

切嗣が起きたのか部屋の中から音がした。オルコットはふと悪戯を思いつくと、廊下の隅に隠れる。

 

(衛宮さんが出てきたところで、後ろから声をかけたらどういう反応を示すかしら)

 

そんなことを考えていると、切嗣の部屋のドアが開く。それに応じてセシリアも出ていこうとしたが、そうはならなかった。

 

「もう、切嗣くんはお寝坊さんなんだから♪」

 

「待ってくれ、大体昨日寝かせてくれなかったのは更識先輩じゃないか」

 

「細かいことを気にしてたらモテないぞ♪ほら、さっさと行くよ」

 

「勘弁してくれ………」

 

というのも部屋の中から切嗣と楯無が一緒に出てきたからである。実際にはそんなことはなかったのかもしれないが、セシリアからは更識と切嗣が仲良く腕を組んで歩いているように見えた。

 

(……私がどんな気持ちでここに来たのかを知らずに、ほかの女性とのうのうと学校に登校するとはいいご身分ですわね)

 

セシリアは激しい嫉妬の炎を燃やす。

 

その一方、何も知らない切嗣はセシリアが教室に入ってきたのを見て声をかけるが、

 

「…………」

 

セシリアは切嗣の方を一瞥すると、何事もなかったかのように自分の席に着いた。そして一時間目の授業が始まったが、当然のごとくセシリアが切嗣の方を睨みつけている。

 

(クラスの代表を決めるための戦いとは言え、あそこまで憎しみのこもった視線を向けられる覚えはないんだが……)

 

切嗣はなぜセシリアにそんな視線を浴びせられているのか理解できずにいた。切嗣が前を見ると、一夏も同じような状況に陥っているらしく、箒が一夏のほうをじっと睨みつけていた。

 

(僕には特に心当たりはないが、早いところセシリアに謝っておかないとな)

 

そんな感じで時間は過ぎていった。

 

 

四時間目が終わり、昼休みになったので切嗣は購買で買ったパンを屋上で食べている。ふと、切嗣が時計を見ると、授業開始30分前になっていた。

 

(次の時間はいつもの教室だから、25分は寝られるな)

 

そう考えた切嗣は壁にもたれかかりながら、目を閉じて昼寝を始める。

 

 

「こんなところにいましたのね……探しましたわよ、衛宮さん?私、今朝のことについて━━━」

 

切嗣を探して屋上に来たセシリアは切嗣が壁に寄りかかって寝ていることに気づいた。

 

「………全く、しょうがないですわね」

 

セシリアは切嗣の隣に座り込むと、彼の頭を膝のところに乗せた。

 

(こうしてみると、寝顔は可愛いらしいですわ)

 

そんなことを考えながら、セシリアは切嗣の頭を撫でる。

 

 

切嗣が目を開けると、視界が90度回転していた。

 

(どうせ、楯無さんあたりが僕を驚かせようとしているんだろう)

 

そう考え、切嗣は寝たふりを続けていた。すると頭上から声が聞こえ、

 

「貴方には感謝してもしきれないくらいの恩がありますわ」

 

膝枕をしているのがオルコットだと分かり、切嗣は進退窮まっていた。

 

(オルコットに謝らなければ)

 

そんなことを考えているあいだも、独白は続く。

 

「本当であればあんな冷たい態度をとった私のことなど放っておくのが普通なのに、貴方は見返りも何一つ求めずにわたくしを助ける為に死地に飛び込んできました」

 

そして、セシリアは切嗣の上半身を持ち上げ、頬に軽く口づけした。

 

「これはほんのお礼ですわ」

 

セシリアはスカーフを外すと切嗣の頭をそっと持ち上げて、地面と切嗣の頭の間にスカーフを敷く。

 

「それではまた後ほど」

 

セシリアはハンカチを拾い上げ、ゆっくりと屋上の出口の方へ歩いていく。

 

「今のは一体……」

 

後には呆然とする切嗣が残っていたが、時間を確認すると体を起こして教室へと戻っていった。

 

 

放課後、切嗣は一人アリーナで対セシリアへの訓練をしていたが、どこから話を聞き付けたらしく、楯無が切嗣のもとへ近寄ってきた。

 

「なんか面倒なことになっちゃったみたいだね~」

 

「……あの時、布仏さんが僕に一票を投じなければこんな事にはならなかったはずなんですが」

 

切嗣は訝しむように視線を楯無の方に向けるが、楯無は意味深な笑いを浮かべながら切嗣に返事をする。

 

「?私が仕組んだとでも言いたいの?いくら私が本音ちゃんと多少仲がいいと言っても、クラス代表で誰を指名するかなんてそこまで強制する権限はないよ」

 

「…………」

 

もっとも楯無が本音にそんな指示を与えていたと言う明確な証拠がない以上、楯無のことを追求することは出来ない。切嗣はこれ以上の追求は無駄だと判断すると、気持ちを切り替える。

 

「━━━まあ、いいです。どうせ聞いたところで素直に教えてくれるとは思いませんから」

 

「……なんだ、つまんない」

 

「何か言いました?」

 

「いいや、別に。ところで、きりちゃんはセシリアちゃんのISのタイプが遠距離・中距離・近距離のどれかは分かっているの?」

 

「いえ、特には」

 

切嗣の返事に何か思うところがあったようで、楯無はいつもの微笑を浮かべると話を続ける。

 

「なんだ、知らなかったんだ。セシリアちゃんのISの事を知りたい?知りたい?」

 

「その情報を知る代わりに、どんな見返りを要求されるか分かったものではないので、遠慮しておきます」

 

「そっか、そこまで頼まれちゃしょうがない。特別に教えてあげよう」

 

「いや、あの━━━」

 

「いい?そもそもセシリアちゃんのISのコンセプトは、BT兵器を搭載する━━━」

 

切嗣の言葉を無視して楯無は解説を続ける。仕方がないので、切嗣は楯無の解説が終わるまで聞いていた。

 

 

「━━━つまり、セシリアとの戦いでは近接近戦になったときがチャンスと考えていいんですね?」

 

「そうだね。彼女自身の本国での模擬戦の戦い方を見てみると、遠距離で相手を極力近寄らせないようにして、動きを止めたところを自分のライフルで狙い撃ちするのが彼女が最も得意とするやり方みたい。だからきりちゃんの対策としては彼女にその戦い方をさせないようにすればいいんじゃないかな」

 

「そうは言っても、彼女も近接近戦に対してなんらかの対策を立ててくるだろうからな……」

 

「━━━さて、私は伝えるべきことは伝えたからそろそろ自分の部屋に戻るよ。それじゃあ、あとは自分でよく考えてみてね♪」

 

「……最後までやりたい放題ですね」

 

楯無は自分の仕事は終えたとばかりに、軽やかにスキップをしながら出口の方へ歩いて行った。

 

「━━━どうしたものか」

 

一人アリーナに残された切嗣は黙々とセシリアへの対策を考えていた。

 


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