IS/Zero   作:小説家先輩

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第三話 入学

切嗣は入学試験の合格通知を更識家の屋敷で受け取っていた。

 

「で、どうだった?お姉さん、結構気になってたんだよ?」

 

更識が切嗣の背中に抱きついてくる。

 

「ああ、楯無さんたちのお陰で合格していたよ」

 

切嗣は特に反応を示さずに冷静に返す。いつもなら、このあと更に胸を押し付けたりして絡んでくるところなのだが、今日の楯無は何も言わずに切嗣の背中から離れる。不思議に思った切嗣が振り返ると、楯無は笑顔で切嗣の方を見ていた。

 

「やっぱり、お姉さんは今の君の方が年相応でいいと思うよ」

 

「…………」

 

「いつか切嗣くんが自分のことについて話してくれるのを、お姉さん待ってるから」                                       

「…………」

 

春休みも終わりを迎えようとしていた。

 

 

4月、切嗣はIS学園に入学した。どうやら切嗣の他には男子生徒は一人しかいないようで、周りは全員女性。だがしかし、もうひとりの男性IS操縦者の織斑一夏と違い、切嗣がISを使えるということはごく一部にしか知られていないため、クラスでどういう事になるかは言うまでもない。 

 

「「………」」

 

周りからの視線が集中する。どうやらもうひとりの男性操縦者である織斑一夏も珍しいものを見るような目で切嗣の方を見ていた。

 

「━━みやくん、衛宮くん」

 

副担任の山田真耶の自分を呼ぶ声に切嗣は顔を上げる。            

「か、考え事をしている最中にごめんね?でも、今は自己紹介中で『あ』から始まって『え』なんだけど………」

 

真耶が申し訳なさそうな顔で切嗣を見つめる。どうやら彼女はこれが素の状態の様だ。

 

切嗣は立ち上がって自己紹介をする。

 

「………衛宮切嗣です。特技は、射撃です」

 

「しゃ、射撃って言うと、クレー射撃のようなものでいいのかな?」

 

真耶が困惑した表情で切嗣を見る。学生の特技が射撃というのは少し変に感じられるのだろう。

 

「……まあ、そんな感じです」

 

切嗣がそう答えると、一瞬クラスに沈黙が流れる。

 

「つ、次は『お』なので織斑くん、お願いします」

 

「は、はい!俺の名前は━━」

 

そんな感じで自己紹介は進んでいった。

 

 

自己紹介が終わり、切嗣は机に座ってこれからの過ごし方について考えていた。すると、一夏が声をかけてきたので、切嗣はそちらの方に顔を向ける。

 

「なあ、衛宮」

 

「お前は……織斑か」

 

「ああ、クラスの自己紹介でも言ったが俺の名前は織斑一夏。この学校の中で男子は俺たち2人だけだし、仲良くしようぜ。切嗣」

 

そう言うと、織斑は切嗣に右手を差し出す。

 

「こちらこそ、よろしくな織斑」

 

切嗣は右手を出して、一夏と握手をした。しかし、一夏は怪訝そうな顔をしている。

 

「俺もお前のことを切嗣と呼んでるんだし、お前も俺のことは一夏と呼んでくれよ」

 

「すまない。これからよろしくな、一夏」

 

切嗣は、改めて握手している一夏の右手に力を込めた。

 

「……衛宮」

 

ふと後ろを振り向くと、クラスメイトの篠ノ之箒が立っていた。どうやら先の一件以来、箒はどこか切嗣に対して苦手意識を持ってしまっているようである。

 

「一夏に用事があるのだが、連れて行ってもいいか?」

 

「別に、僕は構わない」

 

切嗣の答えに満足したのか、篠ノ之は一夏の手を引いて廊下の方へと歩いて行った。

 

「ちょっとよろしいかしら?」

 

「……?」

 

顔を上げると、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットが立っていた。

 

「貴方もこの学校に入学していたのですね、衛宮切嗣」

 

「……君は、セシリア・オルコット」

 

「あの時は、私のピンチを救っていただき本当にありがとうございました」

 

「……別に、感謝される謂われはない。それに、僕にそんなことを言われる資格は━━━」

 

僕の言葉を遮るように、授業開始のチャイムが鳴る。

 

「?まあいいですわ。それでは、また後ほど」

 

オルコットはそう言うと、自分の席へと戻っていった。

 

 

「そもそも、ISの基本的な運用には原則として国家の認証が必要であり……」

 

一時間目はISに関する基本知識を学ぶ授業である。

 

「ここまでで、わからないことがある人はいませんか?」

 

真耶が生徒の方に振り返って聞く。真耶の教え方は学園内でもかなり丁寧な部類に入るので、わからない人間などいないはずなのだが……例外のない法則はない。

 

「はい、先生」

 

「ど、どこがわかりませんか、織斑くん?」

 

「えっと……全部です」

 

一夏の発言で教室に気まずい空気が流れる。

 

「そ、そうなんですね。織斑くんの他に誰か分からない人はいませんか?」

 

山田先生がほかの生徒に呼びかけるが、誰も反応しない。

 

「……お前はそもそも、入学前に配られた冊子をちゃんと読んできたのか?」

 

「あぁ、あの分厚いやつなら古い電話帳と間違えて捨てました」

 

その直後に、一夏の頭に出席簿が振り下ろされる。あまりの痛さに、一夏は目を瞬きさせた。

 

「……再発行してやるから、一週間で全部覚えて来い」

 

「一週間でなんて━━」

 

「いいな?」

 

「……はい」

 

一夏は椅子に座ったあと、頭を抱えていた。

 

「……では次に━━━」

 

その後、授業は滞りなく進んだ。

 

 

「なあ、切嗣」

 

授業が終わり、休み時間になったところで隣の一夏が話しかけて来る。

 

「どうしたんだい、一夏?」

 

「お前、あの授業の内容を全部理解できたか?」

 

「……全部を完璧に理解した、というわけではないが大体は理解できた」

 

そう答えると、一夏は更に凹んでいた。

 

「お前も俺と同じ条件のはずなのに、なんでお前だけそんなに理解できるんだよ」

 

「なんでと言われてもな……強いて言うなら更識先輩につきっきりで教え込まれてたから、かな」

 

一瞬、教室が静まり返る。気のせいか切嗣に向けられる視線が先ほどとは比べ物にならないくらい強烈に感じられる。

 

「お前……今なんて言った?」

 

「だから、更識先輩につきっきりで教え込まれていたと……」

 

「「えぇぇぇぇ!?」」

 

気がつけば、切嗣と一夏の周りに大量のクラスメイトが集まっていた。

 

「生徒会長とつきっきり!?」

 

「なんて羨ま、ゲフンゲフン、ハレンチですわ!」

 

「これはどうやら衛宮くんに詳しく話を聞く必要があるわね」

 

「……すまないが、ちょっとトイレに」

 

なんとなく不穏な空気を感じた切嗣は一夏との話を切り上げ、廊下の方へ歩き出そうとした瞬間━━━

 

「「待てぇぇぇぇ!!」」

 

教室からすごい数の女子が追いかけてきた。切嗣は何とか撒くことには成功したが結局、この騒動は休み時間が終わるまで続くことになる。

 

 

2時間目。織斑先生の授業であったが、今回はクラスの代表を決めることになった。

 

「さて、お前たちも知っていると思うが、まずはこのクラスの代表を決めなければならん。

 

今回は自薦他薦問わず立候補したあと、投票で代表を決めることにする」

 

早速、女子から推薦のための手が上がった。

 

「はい、私は織斑君がいいと思います。」

 

「私も織斑君がいいと思います」

 

(どうやら一夏が人気のようだ。僕個人としてはあまり目立ちたくはないので、一夏には悪いが、彼に面倒事を引き受けてもらおう。)

 

現在の流れでは票は一夏に流れる、と読んだ切嗣はこれ幸いとばかりに外の景色を見ながら別の事を考えていた。すると―――

 

「私はえみやんがいいと思うよー」

 

布仏本音の意見を皮切りに、次々と票が切嗣の方に流れ出す。

 

「私も衛宮くんがいいと思います」

 

「布仏さんもああ言ってるし、私も衛宮くんにしようかな?」

 

どうやら代表は切嗣か一夏のどちらかで決まりそうになっている。一方、当事者である切嗣は内心困惑していたが━━━

 

「ふざけないでくださいまし!!」

 

オルコットはそれ以上に不満を持っているようである。

 

「なぜクラスの代表にイギリスの代表候補生である私セシリア・オルコットが推薦されずに、よりにもよって男なんかが推薦されるのです!?ISの事を学ぶためとは言え、このような極東の時代遅れの島国で勉強すること事態不愉快だと言うのに!!」

 

「イギリスだって毎回メシがまずい国ランキングで一位をとってるじゃないか!」

 

「なんですって!?あなた、私の祖国を馬鹿にしていますの!?」

 

「そっちが言い出してきたんだろ!!」

 

「よろしいですわ!それならイギリスの代表候補生として貴方に決闘を申し込ませていただきます!!」

 

「おう!望むところだぜ!!」

 

こうしてセシリアと一夏の対決が実現することになった。

 

「話はまとまったようだな。では衛宮とセシリアと織斑は最初に誰と誰が戦うのかを決めろ」

 

千冬はそう言うと、机の下からくじが入った箱を取り出す。

 

「この中に3つのくじがあり、ひとつだけ当たりが入っている。そしてその当たりを引いた者が、来週の月曜日の試合で土曜日にある外れ組の勝者と激突することになる」

 

3人同時にくじを引く。そして当たりを引いたのは━━━

 

「よっしゃあ!」

 

一夏であった。

 

 

放課後、切嗣は自分の部屋の鍵を受け取るために職員室を訪れていた。

 

「失礼します。織斑先生はいらっしゃいますか」

 

「おお、衛宮か。実はお前の部屋割りについてなんだが━━━」

 

ここで切嗣に悪寒が走る。切嗣は自分の動揺を千冬に悟られないようにしながら、続きを聞く事にした。

 

「学園の事情により、お前専用の個室を用意することが出来なかった。因みにお前の相部屋のルームメイトは布仏本音。お前がよく知っている人物だろう。しかし、ルームメイトに不埒な真似をした場合には……切り落とすからな?」

 

ここで何を?と聞くほど切嗣は愚かではない。自分の部屋の鍵を受け取ると、足早に職員室を後にした。

 

「ここが1027号室………僕の部屋か」

 

荷物は部屋の中に運んであるらしい。試しにノックをするが、なんの返答もない。切嗣は鍵を開けて、部屋の中に入った。

 

(?電気がついていないのか?)

 

切嗣は壁についているスイッチを押す。するとそこには━━━

 

「おかえりなさい、切嗣くん。わたしにする?わたしにする?それともわ・た・し?」

 

痴女(裸エプロンの楯無)がいた。

 

「ただいま戻りました、更識先輩」

 

華麗にスルーを決める切嗣に対し、楯無は膝から崩れるように床に座り込む。その際、脇を意識して胸を強調することも忘れない。

 

「えぇ!?無視するの!?お姉さん、せっかく切嗣くんを元気づけようと張り切ってやったのに」

 

「そう言えば、この部屋のルームメイトはどうしたんですか?たしか規則ではルームメイトは原則同学年同士だったはずですが」

 

「会長権限」

 

切嗣は予想よりも斜め上の回答に戸惑っていた。

 

 

「━━━それで、結局何しに来たんですか」

 

「ぶぅ、お姉さんは切嗣くんをそんな風に育てた覚えはないっ!」

 

「僕は貴方に育てられた覚えはありません」

 

切嗣がため息をつきながら答える。そんな切嗣の様子を見て安心した様で更識は温かい目で切嗣を見つめる。

 

「よかった。どうやら学校では上手くやっていけそうだね」

 

「どう解釈したらそうなるんだか……。ええ、面倒見のいい先輩のお陰でうまくいきそうです」

 

切嗣の素直(?)な反応に更識は一瞬驚いた顔を浮かべる。が、すぐに言葉の意味を理解すると、意味深な笑みを浮かべた。

 

「切嗣くんにそんなことを言ってもらえて、お姉さん嬉しいよ」

 

「……そうですね」

 

「まあ、この下にはちゃんと水着を着てるんだけどね」

 

「そうなんですか。てっきりその下には何も着てないと思っていたんですがね」

 

「……え?」

 

切嗣は楯無の言葉に適当に返答を返すと、机の上にコンテンダーを置き、手入れ道具を出して整備を始めた。そんな切嗣の反応を見て楯無はしばし考え込んでいたが、いい案を思いついたようで、おもむろに立ち上がると切嗣の背中に抱きつく。

 

「こんなに色っぽい格好をしたお姉さんを無視するなんて、きりちゃんってもしかしてそっちのひ「違います」そんな必死に否定しなくても……」

 

わかりやすく反応する切嗣を楯無はニヤニヤしながら観察するが、当の本人はそれどころではない。

 

(だめだ。この人と話していると、どうも調子が狂う。こんな調子じゃコンテンダーの整備なんて出来やしない)

 

切嗣は諦めの表情を浮かべると、道具を片付けて楯無の方に向き直る。

 

「それで、今夜はどうするんです?」

 

「うーん、今夜は食堂でご飯を食べたあと、切嗣くんの入学祝いを兼ねて部屋でゲームをしようと思うんだけど」

 

「ゲーム……ですか?僕はゲーム機は持ってないですよ?」

 

「大丈夫。こんなこともあろうかと、お姉さんゲームを持ってきたんだ」

 

そう言うと、楯無は青、黄、赤、緑の丸が書かれた白いシートを出してきた。

 

「これって、まさか……」

 

切嗣は背筋に寒気を感じ、楯無に問いを投げるが

 

「そう……ツイスターゲーム!もちろんポロリもあるよ♪」

 

返ってきた答えは無情な死刑宣告だった。

 

 

翌朝、部屋から肌がツヤツヤになった楯無とげっそりやつれた切嗣が部屋から出てくるのが出てくるのが目撃された。そのせいで土曜日のセシリアとの戦いが激しい展開なるのだが、それはまた後の話。




まだまだ基本骨子(文章)の想定が甘いので、気づいたことなどありましたら、どしどし書き込んで頂ければ嬉しいです。

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