IS/Zero   作:小説家先輩

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(二次創作SS)流行らせコラ!


第三十七話 地獄

ナタリアとのつらい別れを見て、これが彼の抱える闇なのだ、と私は認識していた。しかし、その場面が終わった後もまだ回想が続いている。本来ならば、現在の彼の年齢とほぼ同じであるはずこの場面で終わりのはずなのだ。にも拘らずまだ回想は続く。

 

(おかしい……この時点で彼の年齢は16~17歳だったはず。なのに、なぜこの記憶は続いてるの?)

 

そんな私の中に芽生えた疑問とは関係なく場面は進んでいく。ナタリアを失った直後、彼はしばらく紛争地帯に身を置いていた。そして彼は魔術使い、あるいは正義の味方として彼は1を捨て9を助けること、により一層特化していくことになる。ターゲットが人ごみの中に紛れるのなら周囲の人たちもろとも爆殺し、人質をとるのなら人質ごと抹殺する。

 

彼は決してどんな誘惑や罵倒にも負けず、自分の仕事を黙々とこなしていた。全てはより多くの人を救うために。当然そんな彼のやり方は認められるはずもなく、いつしか彼は『魔術師殺し』と言う蔑称で呼ばれるようになっていた。

 

(これが『魔術師殺し』の背景……)

 

やはり私はショックを隠せない。私も暗部として仕事をしていく中で、人を殺めたことはあったが、彼が殺してきた人数は私なんかの比じゃなかった。ただひたすらに理想を追い求めながら、少しでも多くの人を救うために、彼は人々を殺し続けていたのだ。

 

そんな彼に転機が訪れる。うわさを聞きつけたドイツの富豪であるアインツベルン家が破格の契約金で彼を雇うことになった。そしてその条件と言うのは―――

 

(60年に一度開催される、何でも願いをかなえる力を持った聖杯を巡って争う『聖杯戦争』……ね)

 

正直胡散臭い話だ。がよく考えてみると魔術があるのだから、そんな話があってもおかしくはないのかもしれない。結果として彼は婿養子として迎えられ、その家の”女性”であるアイリスフィールと婚約し、子供をもうけた。

 

(あれ?私の知る彼の見た目ってどう見ても17歳よね?ひょっとして、まさかの学生結婚!?しかも子供まで!?それに奥さん美人すぎでしょ……。でも彼の見た目はすでに20代後半……これは後から彼に話を聞かなきゃ)

 

頭の隅でそのようなことを考えながら、私は彼の記憶をたどっていく。

 

 

聖杯戦争が始まる数ヶ月前から、彼は自分の妻であるアイリスフィールとともに、敵となりうるマスターに関する資料を調べ、個別の対策について作戦を練っていた。

 

「言峰綺礼……こいつは危険人物だ」

 

彼は資料をみながらそう呟く。篠ノ之博士を謀殺した男。どうやら彼と言峰の出会いはこの時点から始まっていたようだ。

 

(この時からすでにヤバいやつとして認知されていたのね……。これからはこいつと戦わなきゃいけなくなるんだろうけど……正直こんなやつ相手にしたくないなぁ……)

 

彼の言葉を聴きながら、私はいずれ戦うことになるであろう男の名前を心に刻み付けることにした。

 

 

アインツベルンの敷地内にある教会の一室のようなところで、彼は水銀(?)で魔法陣のような物を作っている。その様子から察すると、霊的な何かを呼び出すつもりなのだろう。

 

「アイリ、その聖遺物を陣の中心においてくれ」

 

「……分かったわ」

 

アイリと呼ばれた彼の奥さんは、彼の言葉に頷くと、陣を壊さないように慎重に移動し、陣の中心に聖遺物と呼ばれた剣の鞘を祭壇の上に置く。そして準備が整ったことを確認すると、彼は呪文を詠唱し始めた。

 

「―――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うのならば応えよ」

 

詠唱が始まり、魔法陣の中心が光り出す。成功すれば聖遺物に関係のある英雄を呼び出すことが出来るらしいが……どこまで信憑性があるかは分からない。私は半信半疑でその様子を見つめる。

 

「―――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

詠唱が終わった。すると突然陣の中心から風が吹き荒れ始め、視界が奪われる。そして風がやんだ後、陣の中心にいたのは鎧を纏った端正な顔立ちの少女であった。

 

「こいつが……アーサー王、だと?」

 

思わず彼の口から言葉が漏れる。私も内心同じ反応だった。こんな少女があの“アーサー王”だなんて、にわかには信じることが出来ない。が、少女は彼の言葉に反応することなく、まっすぐ彼のほうを向いて口を開く。

 

「―――問おう。貴方が、私のマスターか」

 

「………」

 

彼女の言葉に彼は答えを返すことなくその場を後にする。なぜ彼はセイバーに声をかけなかったのか、このときの私には分からなかった。

 

 

初めてセイバーを召喚して以降、彼は露骨にセイバーを避けるようになったようで、聖杯戦争の舞台となる日本の冬木市に行くときですら、妻であるアイリにセイバーのことを任せ、自分は先に部下である舞弥とともに現地入りを果たしている。

 

 

聖杯戦争が始まると、彼は敵が拠点にしている大きなホテルの外で舞弥と連絡を取りあっていた。

 

「―――では、手はず通りに」

 

「了解」

 

彼が通話を終了した瞬間、付近のホテルの一室から火の手が上がり始める。いくら相手が潜んでいるとは言え、本当に火災を起こす気なのだろうか。私が考え事をしている間も状況はどんどん進んでいき、出口から出てくる宿泊客が居なくなったため、全員外に出てきたかを確認するべく従業員が宿泊客リストで点呼を取り始めた。

 

「……頃合か」

 

彼はそう呟くと、携帯でどこかに電話をかける。その瞬間、地下駐車場に仕掛けていた爆弾の起爆装置が作動、瞬く間にビルが煙の中に包まれ、瓦礫の山へと変貌を遂げてしまった。幸いなことに宿泊客(ごく一部を除いた全員)はビルの外に退避していたために爆発に巻き込まれることはなかったが、敵の魔術師がどうなったかは分からない。

 

(ホテルの中にいる人ごとビルを爆破するんじゃないかと思ったけど……どうやらその心配はなかったみたいね)

 

「……僕もぬるくなったものだ」

 

冗談も休み休み言え!と毒づきつつも内心私は胸をなでおろしていた。少なくとも、私が見たナタリアと別れてすぐの彼ならば、躊躇なく宿泊客ごと相手を抹殺していただろうから、それに比べれば幾分マシなのだから。

 

 

今度は彼(アインツベルン)が所有する城にて、先日戦った魔術師との戦いが繰り広げられていた。

 

正統派(?)である敵の魔術師に対して、彼はあくまで銃器などを駆使しての戦いを貫く。初めこそ彼を侮っていた敵も、コンテンダーの一撃を肩に受け、全魔力を自分の魔術礼装に注ぐ。それこそが彼の狙いであるということに気づかずに。

 

(あの魔術師にとってはきりちゃんは相性最悪なんだろうけど……それにしても戦上手だね)

 

ケイネスと呼ばれた敵の魔術師は良くも悪くも純粋(?)な魔術師であったためか、予想外の事態などに対して、かなり弱いらしい。案の定、頭に血が上った相手は彼の放った起源弾に対し―――

 

「馬鹿め!二度も同じ轍は踏まんぞ!!」

 

起源弾を弾くのではなく、礼装であるスライムのような何かを用いて受け止めた上で、包み込んで防ぐ、と言う戦法をとった。この戦法は一般的な銃弾に対しては有効だったのかもしれない。しかし―――

 

「うぐあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

起源弾が礼装に包み込まれた途端、その効果により体内の魔術回路がズタズタに引き裂かれ、いびつな形で再結合が行われる。その負荷は魔術回路を行使していればいるほど効果が大きいらしく、最大限に魔術回路を活用していたケイネスは、暴走した魔力に体を蝕まれ、口から大量に吐血した後、地面に倒れ伏した。それと同時に魔力供給が切れた礼装も形を失い、床に飛び散る。

 

冷酷無比な殺し屋。それがこの戦いを見たうえでの彼に対する印象であった。周到に準備した上で、相手に本来の力を出させないようにし、焦れた相手が隙を見せたところを容赦なく叩く。本当に彼が味方でいてくれてよかった。もし彼が敵対していたら……目の前に倒れ伏しているケイネスの姿が将来の自分の姿になっていたかもしれない。

 

「あ……うぅ……」

 

「………」

 

すでに虫の息であるケイネスに止めを刺すべく、もうひとつの愛銃であるキャリコM950を構え、彼に向けて引き金を引く。が―――

 

「させるかっ!」

 

「!?」

 

その銃弾は突然現れたランサーが槍を回転させることですべて防がれてしまった。

 

「…………」

 

「今ここで俺が貴様を殺すことは容易い。が、今回は騎士王の気高さに免じて、殺すのは勘弁しておいてやる。せいぜい自分のサーヴァントに感謝することだ」

 

切嗣を睨みつけながら、ランサーはケイネスを抱えあげると、窓ガラスを突き破って外へと脱出していった。

 

 

それから始まるキャスターの討伐。彼はキャスターのマスターの性格を予想し、混乱時に人通りの多い場所に出てくると考え、海魔の出現ポイント付近に待機していた。そして予想通りにキャスターのマスターと思しき人物が現れたため、スナイパーライフルで肝臓部に2発の弾丸を撃ち込んで射殺。いつもどおりに彼は仕事をこなす。

 

 

再び場面が変わり、今度は視点が室内に移る。が、瓦礫が散乱していることから私は廃墟であると結論付けた。出来る限り音を立てないようにして廃墟の中を進んでいく。すると前方に車椅子に乗った金髪の男性を発見する。間違いない、ケイネスだ。どうやらこちらの様子には気づいていないらしい。彼は気づかれないように懐からメモ用紙を取り出してケイネスのほうに向けて、投擲。投げられた紙はゆらゆらと飛んでいき、ケイネスの足元に落ちる。

 

「……?」

 

ケイネスは紙を拾い上げ、ゆっくりとこちらに向き直る。そして彼が抱えている人物に目を向けた瞬間、驚愕の表情を浮かべる。

 

「ソラウ……!!」

 

彼が抱えている人物。それはケイネスの許婚であるソラウだった。彼女はケイネスから令呪を奪い取った後、舞耶に拉致されたうえで片腕の肘から下を切り取られ、意識を失っているみたいだ。

 

彼は謎の図形や文字が書かれた羊皮紙をケイネスに渡す。どうやら何かの契約書らしい。その内容に目を通し終えたケイネスの表情は苦悶に満ちている。

 

ケイネスは再び考え込み始めるが、どうやら相当迷っているらしい。その後、しばらく考えていたケイネスであったが、覚悟を決めたようで、署名欄に自分の名前を書き始める。

 

 

―――サインが終わり、彼は契約書(?)を受け取る。そして、ケイネスは自分の手の甲にある令呪を使って最後の命令を出した。

 

「ランサーよ……令呪をもって命ずる―――自決せよ」

 

「がっ……!?」

 

その瞬間、私は自分が目を閉じていなかったことを後悔した。ランサーの槍が自身の体を貫いたのだ。ランサーの表情を見る限り、まったく想定外の事態であったことは容易に想像できる。そして、自分の身に起こったことをようやく理解したランサーは辺りを見回し、憎むべき仇敵を見出した。

 

「貴様らは、そんなにも!そんなにも勝ちたいか!そうまでして聖杯が欲しいか!この俺がたった一つ抱いた祈りさえ踏みにじって!貴様らは!何一つ恥じることはないのか!」

 

ランサーはなおも言葉を続ける。時折見せていたクールな表情は鳴りを潜め、周りにいる全員にありったけの恨みをぶつけながら……消滅した。

 

(これは……なかなか精神的にキツいなぁ。騎士道を重んじるランサーにとって、彼のとった行動は決して許せる行為ではないんだろうけど、この戦いはルールのある“決闘”ではなく、なんでもありの“戦争”なのだからしょうがない……)

 

「これで……お前は私たちに手出しは出来ないのだな?」

 

私がそんなことを考えている間にも、場面はどんどん進んでいく。ランサーが消えて呆然としながらも、ケイネスは彼に契約が履行されたかを確認する。

 

「あぁ……これで“僕には”君を殺せない」

 

彼は口にタバコを加えると、ライターで火をつける。その視線の先にはスコープの光が見えている。

間違いない、彼は部下を使ってケイネスを殺すつもりようだ。彼は肺で煙草を味わった後、口から煙草を離す。それが合図となり、ケイネスとソラウの身体に舞耶のステアーAUGから放たれた5・56mm弾が無数に穴を開けた。

 

「僕には、な」

 

その狙撃によりソラウは致命傷を負って即死したものの、残念ながらケイネスはそうはならなかったようで―――

 

「頼む……殺してくれぇ……!!」

 

地面に這い蹲りながら、ケイネスは自分を楽にしてくれるように彼に懇願するが、彼の返事は明確な拒絶であった。

 

「……それは出来ない契約だ」

 

そのやり取りを見ていたセイバーであったが、ケイネスの様子をみていられなかったらしく、彼の首を剣で刎ね、殺害した。

 

「衛宮、切嗣――今ようやく、貴様を外道と理解した」

 

セイバーは仇敵を見るような視線を彼にぶつける。サーヴァントとして本来のマスターとまともにコミュニケーションをとることすら叶わず、しかも騎士道に則った戦いすら目の前で汚されてしまっては、セイバーが彼に怒りをぶつけるのも無理はない。

 

「道は違えど目指す場所は同じだと、そう信じてきた私が愚かだった……。私はこれまで、アイリスフィールの言葉であれば信に足ると、その思って貴様の性根を疑うことほしなかった。だが今はもう、貴様のような男が聖杯を以て救世を成すなどと言われても、到底信じるわけにはいかない」

 

「答えろ切嗣! 貴様は妻すらも虚言で踊らせてきたのか? 万能の願望機を求める真の理由はなんだ!?たとえ我が剣が聖杯を勝ち取ったとしても、それを貴様の手にも託す羽目になるのだとしたら、私は……」

 

(暗部の長として、様々な経験を積んできた私ですら、思わず嫌悪感を催すほどの倫理観を度外視した恐ろしく効率的なやり方。彼の内面を知らない人物であったのなら、彼の事を冷酷な殺人鬼とでも称すでしょうね。しかし、私は短い期間であったにせよ彼とともに過ごしたし、彼の優しさを知ってる。そんな彼が喜んで人を殺しているように見えるの……!?)

 

確かに彼がセイバーに対して無視を貫き、冷たい態度で接していることにも大きな問題があるだろう。それでも、私は何も知らずに彼の事を罵倒するセイバーに対し、苛立ちを抑えきれない。

 

 

「―――そういえば、このやり方を君に見せるのは初めてだったね、アイリ」

 

彼はアイリスフィールに声をかける。あくまでセイバーはいない者として扱うつもりのようだ。

 

「マスターを殺すだけでは別のマスターが、そのサーヴァントと再契約する可能性がある。だから、マスターとサーヴァントを同時に始末しなければならない」

 

「それは私ではなく、あなたの言葉として直接セイバーに伝えてあげて!」

 

アイリスフィールが声を荒げて彼に反論する。このままでは空中分解が避けられないであろう状況を鑑みれば、当然の反応か。

 

「……いいや。“栄光”だの“名誉”だの、そんなものを嬉々として持て囃す殺人者には、何を言っても無意味だ」

 

「我が眼前で騎士道を汚すか、この外道!!」

 

(外道……か。まあ、“騎士王”としてのセイバーには彼や私のような狡賢いやり方は気に食わないんだろうけど、それにしても、頭が固すぎるような……)

 

「騎士なんぞに世界は救えない……。こいつらは、戦いの手段に正邪があると言って、まるで戦場に尊いものがあるように演出してみせるんだ。そんな歴代の英雄たちが見せる幻想で、一体どれだけの若者たちが“武勇”だの“名誉”だのに誘惑され、血を流して死んでいったか……」

 

「幻想ではない!!たとえ命のやり取りであろうと、それが人の営みである以上は、法の理念があるのだ!!さもなくば戦火の度に、この世に地獄が現れることになる!!」

 

セイバーの口から「地獄」と言う言葉が聞こえた瞬間、彼の口から呆れた様子のため息が漏れた。彼自身、もうまともにセイバーと会話する気はないのだろう。

 

「―――ほらこれだ。聞いてのとおりさ、アイリ……。この英霊様にとって、戦場は地獄よりマシなものだそうだ……。冗談じゃない、あれは正真正銘の地獄だ……。戦場に希望なんてない、あるのは掛け値なしの絶望だけ。敗者の痛みの上にしか成り立たない、“勝利”と言う名の罪科だ。なのに人類は、誰もその真実に気づかない……。いつの時代も勇猛果敢な英雄様とやらが、華やかな武勇で人の目を眩ませ、血を流す邪悪さを認めようとしないからだ……」

 

そこまで言って彼はセイバーに背を向ける。

 

「人間の本質は、石器時代から一歩も前に進んじゃいない!!」

 

これこそが彼の偽らざる本心だろう。何故なら、彼は人類が作り出した戦場と言う名の地獄をいくつも見てきたのだから。そして、それを半ば肯定するようなセイバーの台詞。彼にとってセイバーはまさに対極の存在なのだ。故に、彼がセイバーを毛嫌いするのも無理はないのかもしれない。

 

「……それじゃあ切嗣。あなたがセイバーに屈辱を与えるのは、英霊に対する憎しみのせい?」

 

「まさか、そんな私情は交えないさ。僕は聖杯を勝ち取り世界を救う。そのための戦いに、最も相応しいやり方で望んでいるだけさ。……正義じゃ世界は救えない。そんなものに僕はまったく興味はない」

 

彼はそこまで言った後、迎えに来た舞耶の車に乗り込むべく、ドアに手をかけた。そんな彼の背中にセイバーは声をかける。

 

「……分かっているのか、切嗣。悪を以って悪を断とうとするのなら、その怒りと憎しみは、また新たな戦火を呼ぶことになるのだぞ」

 

セイバーの言葉にドアを開けようとする彼の手が止まる。それを確認したのか、セイバーはさらに言葉を続ける。

 

「衛宮切嗣……。かつて貴方が何に裏切られ、何に絶望したのかは知らない。だがその怒りや嘆きは、明らかに正義を求めたものだけが抱くものだ。若き日の本当の貴方は“正義の味方”にあこがれていた。世界を救う英雄を誰よりも信じ、欲していたはず―――違うか?」

 

「終わらぬ連鎖を終わらせる……。そして、それを可能にするのが聖杯だ。僕がこの冬木で流れる血を、人類最後の流血にしてみせる。そのためなら、たとえこの世すべての悪を担うことになろうとも構わない―――それで世界が救えるのなら、僕は喜んで引き受けよう」

 

彼は一旦、セイバーを一瞥したうえで、再びドアを開けながら返答を返す。いや返答と言うよりも、むしろ宣言のほうが近いだろう。

 

人の力だけではなしえない恒久的平和という奇跡をなしとげるために聖杯を勝ち取る。そのためには自分が犠牲になろうとも構わない。そんな彼の決意は確かに尊いものに違いない。

 

しかし、彼は気づいているのだろうか?自分が犠牲になることで悲しむ人がいることに。再び彼に会ったら、自分がどれだけ周りの人から想われているかを教えてやろう。私は心の中でそう決意した。

 


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