IS/Zero   作:小説家先輩

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すみません、編集の都合上いつもよりかなり短めになってしまいました。


第二十九話 接敵

一夏と楯無が無人機と奮戦している一方で、切嗣も侵入者との戦いに巻き込まれようとしていた。

 

学園内での行事が行われている時を狙った様に起こる襲撃事件に対し、切嗣はアリーナのメンテナンスルーム付近で待機していた。程なくして突然鳴り響くアラート音と勝手に閉まり始めるシェルター。

 

(やれやれ、次はどんな相手が来ることやら……)

 

自律起動するゴーレムにISを纏った侵入者。前回の襲撃を踏まえても、あまりの襲撃の多さに内心苛立ちを露わにする切嗣。がしかし、間もなく何者かがメンテナンスルームに侵入して来た。

 

(相手はどうやら一人。少し様子を見るか……)

 

そんな切嗣の思惑を知ってか知らずか、侵入者は切嗣の存在に気づかない様子で、持っていたカバンの中からノートパソコンを取り出し、学園内のサーバーにアクセスし始めた。

 

(やはり僕の存在には気づいてないみたいだな)

 

切嗣は胸のホルスターからコンテンダーを取り出し、出来るだけ物音を立てないようにしながら侵入者の背後に回り込む。

 

「……やはり現れたか、衛宮切嗣」

 

「!!」

 

そう言い終えたところで、侵入者のキーボードを打つ手が止まる。

 

「……今から僕の質問に答えてもらう。君に拒否権はない」

 

いきなり自分の名前を読んだことに内心驚きながらも、侵入者の様子を確認しつつ尋問を始める切嗣。

 

「もし私が黙秘したら?」

 

「心配しなくていい。その時は君の頭に大きな穴が開くだけだ」

 

「……そう」

 

目の前の侵入者に動揺は見られない。どうやらこういった状況には慣れているらしい。その事により一層警戒を強める切嗣。

 

「お前は篠ノ之束の部下なのか?」

 

「……答えるつもりはない」

 

「どこで僕の情報を手に入れた?」

 

「マスターから貴方に関してのパーソナルデータは入手済みだ。貴方は私がゴーレムを陽動に使い、本命であるここに乗り込んでくることを想定していたはず。それを見抜いていたマスターは敢えてその作戦に乗ることで、単身向かって来るであろう貴方を討つことにした」

 

「……もし僕が複数人で待ち伏せしていたらどうするつもりだったんだ?」

 

「その時は仲間を排除してから、貴方を相手にすればいいだけの話。いくらか腕に覚えがあるみたいだけど、IS学園の一生徒である貴方たち相手に不覚を取るとは思えないから」

 

そしてゆっくり切嗣の方に振り返る侵入者。その黒と金の眼が切嗣の方に向いていた。

 

「そういう訳で、マスターの命により貴方を拉致させてもらう」

 

「やはりアリーナでの破壊工作はあくまで囮、と言う訳か」

 

「それを今からやられる貴方に言う必要はない」

 

「……来い」

 

目の前から消える侵入者。すかさず切嗣は後ろに蹴りを放った。

 

「!?」

 

思わず防御する侵入者。明らかに隙を付いた筈であった。しかし、それを見切ったかのような切嗣の反撃に驚かざるを得ない。

 

「今の攻撃を見切られるなんて……」

 

「この程度の速さなら……見切れる」

 

「実戦経験はあるようだな。やはり貴方はマスターにとって危険な存在。全力で行く」

 

互いに距離を開ける二人。しかし、依然として互いの間合いに入っている事に変わりはない。

 

「ふっ!」

 

「!!」

 

次に仕掛けたのは切嗣だった。相手の側頭部を狙ったハイキック。すかさず女性は腕で防御しようとするが、途中で蹴りの軌道が変わる。彼の本当の狙いはそこではなかったのだ。

 

「くっ!?」

 

切嗣の蹴りが侵入者の膝に当たる。切嗣の放った蹴りは的確に膝の靭帯を損傷させていた。想定外の苦痛に対し、思わず苦悶の表情を浮かべる侵入者。しかしそれで攻撃の手を緩める切嗣ではない。足に意識を集中させたところで、ガードが緩んだ頭部へのハイキック。何とかガードしたものの、ガードをその衝撃を殺しきれずに頭部にダメージを負ってしまう。

 

「その圧倒的な近接戦闘能力。貴方は一体……」

 

「もう一度聞く。お前は篠ノ之博士の部下か?」

 

「答える訳にはいかない……!!」

 

痛む身体を動かしながら、切嗣に攻撃をしかける侵入者。だが、損傷した膝を庇いながら戦っているためか、威力のある打撃が撃てない。一向に有効打が撃てない事に焦ったためか遂にパンチが大振りになってしまう。無論、それを見逃す切嗣ではなかった。

 

「!?」

 

相手の伸びきった腕に自分の左腕を絡みつかせる切嗣。途端に驚愕の表情に変わる侵入者。そうして、前体重になっている相手の頭を上から思い切り地面に向かって押し付ける。空中で一回転する侵入者の身体。そして、勢い良く地面に叩き付けられた。

 

「がっ!!」

 

「……」

 

何とか受け身は取ったものの硬い地面に叩き付けられた為か、衝撃で動けないでいる侵入者に切嗣は銃口を突きつけた。

 

「これが最後のチャンスだ。お前は篠ノ之博士の部下なのか?」

 

「……」

 

切嗣はなんの感情も感じさせないガラスの様な眼で眼前の侵入者を見据える。切嗣から放たれる圧倒的な殺意を受けた為か、思わずつばを飲み込む侵入者。

 

「答えないのか……なら」

 

「!!」

 

撃鉄を起こし、引き金に手を掛ける切嗣。がしかし━━━

 

「なに!?」

 

戦いは意外な形で終わることになる。突然吹き飛ぶ入り口のドア。そこから姿を現したのは、いるはずのない二体目の無人機であった。

 

「二体目……だと!?」

 

切嗣の困惑をよそに左手から熱線を放つ無人機。やむを得ず物陰に避難した切嗣の近くに熱線が当たった。そのため一瞬侵入者の姿を見失ってしまう。そして視界が戻った時には、既に侵入者の姿はなかった。

 

「僕もぬるくなったものだ……くそっ!!」

 

破壊されたドア付近を確認しながら、切嗣は自嘲気味に呟く。彼の言葉尻からは普段の冷静さは影を潜めており、侵入者を捕縛できなかった自分への怒りがあった。

 

 

翌日、簪は一夏のお見舞いをする為に街の病院に向かったが、集中治療室にいる為に面会を断られてしまい、途方に暮れながら帰路についていた。

 

(結局、あの時私は何も出来なかった。私には姉さんのような実力も無く、かと言って一夏くんの様な勇気も無い。こんな私って……生きている意味あるのかな)

 

そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にか公園に来ていた。携帯を確認してみたところ寮の門限までにはまだ時間があったため、簪は近くのベンチに腰を下ろす事にした。

 

そうしてなんとはなしに辺りを見回していると、公園の入り口から黒いカソックを纏った聖職者と思しき男性が歩いてくるのが見えたため、ふと興味を持った簪はその男性を注目し始める。

 

男性は暫くそのまま歩いていたが、簪の視線に気がつくとゆっくり彼女の方に歩いて来た。男性は簪のベンチの所まで来ると彼女に話しかけ始めた。

 

「失礼、隣に座ってもよろしいですか?」

 

「え、はい……どうぞ」

 

了承を得たところで、男性はベンチに座った。そして長い沈黙。それに耐えきれなくなったのか、簪が場所を変えるべく立ち上がろうとしたところで、男性の方から話しかけてきた。

 

「貴女は……何か悩んでいる事はないですか?」

 

「!!」

 

突然の質問に、簪は思わずビクリとしてしまう。がしかし、これは自分の問題であり、他人に話せる事柄ではない。それが見ず知らずの者であるのなら尚更だろう。

 

「いいえ……別に。それに、あったとしても貴女に話すつもりはない」

 

「……」

 

知らず、言葉がキツくなってしまう簪。元々切嗣がISを起動させた時点で、既に簪は日本代表候補生になっていたのだ。にも関わらず、楯無との訓練や彼自身の常軌を逸した鍛錬により、僅か数ヶ月後には学園内でも屈指のIS操縦者になっていた。ロシア代表の姉だけでなく、つい数ヶ月前まではISと言う言葉すら知らなかった男性。そのような人物にすら実力で抜かれてしまった自分自身への憤怒もあったのだろう。冷たく突き放してしまった事に、若干の罪悪感を覚え、そのまま立ち去ろうとした簪の背中に男からの言葉が投げかけられた。

 

「では、貴女は自分自身を変えたいと思いませんか?」

 

「どういう、事?」

 

男性の意味深な言葉に耳を傾ける簪。がしかし、男性は簪の言葉に答えることなく席を立ち上がると入り口の方へと歩き始める。

 

「待って!!」

 

「……」

 

気づけば、簪は男性の背中に向かって呼びかけていた。この男は心の問題を解決する鍵を持っているかもしれない。簪にとってその様な重要人物を逃す訳にはいかない。男は振り返ると、簪に向かって何かを投げてよこして来た。どうやら名刺らしい。裏返してみると、何処かの住所が書いてある。

 

「これは……?」

 

「私はいつもその場所にいる。何か聞きたい事があればそこに来ると良い」

 

そう言い残し、男性は今度こそ簪の方を振り向く事なく歩いていく。空は茜色に染まり、太陽は傾きかけていた。

 

「いけない。そろそろ帰らなくちゃ」

 

今度こそ、簪は学園への帰途についた。

 


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