IS/Zero   作:小説家先輩

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ファッ!?(驚き)


第十八話 撃墜

切嗣たちが教職員用の部屋に入ると、そこには大量の資料や機械が運び込まれ、さながら小さな司令室と化しており、真耶もすでに待機していた。千冬は切嗣たちに席に着くように促し、全員が席に着いたのを確認すると、重い口を開いた。

 

「……これからお前たちに、特別任務を与える」

 

「特別な……任務ですか?その内容は一体……?」

 

質問をするセシリアに、千冬は首を横に振る。

 

「悪いが、これは重要機密扱いの情報だ。従ってお前たちが任務を受けるつもりがないのなら、話をすることは出来ない。そしてもし外部に漏れることがあれば、お前たちにはそれ相応の処分をくださなければならなくなる。今の話を聞いて、任務を受ける気が無くなった者はいないか?」

 

千冬の問いに全員が力強く頷く。それを確認しつつ、千冬は話を続ける。

 

「……お前たちの意見は分かった。それでは話を続けよう。実は先ほど、ハワイ沖で演習中の第3世代型軍事用IS『銀の福音』が暴走し、現在は海上を日本に向かって航行中だそうだ。我々の任務は航行中の『銀の福音』に接近し、これを捕獲・もしくは撃墜すること。作戦開始時刻は今から二時間後とする。それまで各自心の準備をしておくように、解散!」

 

千冬が部屋を出ていった後、切嗣たちはお互いのISの性能の確認を始める。真っ先に意見を出したのはセシリアであった。

 

「……それで今の私たちの兵力を分析すると、遠距離タイプが私とラウラさんと切嗣さん。そして近接近タイプが一夏さんと箒さんと鈴さんで、オールレンジタイプがシャルロットさんになりますわね」

 

「そうだな。だから基本的な戦法としては、僕ら遠距離組が援護射撃を支援しながら近接近組がヒット&アウェイを繰り返すことになる」

 

「……だがしかし、敵が射撃型の場合はどうする?いくら我々の援護射撃があっても、相手は軍事用ISだし、装甲も速度も桁違いのものがあるぞ」

 

切嗣の案にラウラがすかさず反論する。

 

「いい質問だね、ラウラ。その場合は僕も近接近に加わる。そしてシャルロットも加えて5人での近接近戦に持ち込むつもりだ」

 

切嗣はラウラの頭を撫でる。ラウラはくすぐったそうにしながらも、切嗣の好きにさせていた。がしかし、セシリアが待ったをかける。

 

「……こほん!なるほど。近接近5射撃2の近接近メインに切り替えるわけですね」

 

「あぁ、そういうことだ。質問がないのならこれで大まかな役割分担は済んだし、後は各自で武装のチェックをするなりしておけばいいんじゃないか」

 

「……待て、衛宮」

 

切嗣が立ち上がり、部屋を出ていこうとしたところで箒が声をかける。

 

「……接近戦に関しては私と一夏が入れば十分だ。敵は軍事ISで移動速度もかなりのものだし、正直スピードで劣るお前たちと一緒に戦うのは私と一夏にとって足枷にしかならない」

 

第四世代機と言う強大な力を手に入れたことで慢心したらしく、箒はいつもに比べて饒舌になっている。この失敗が許されない状況で、連携を乱しかねない言葉に切嗣は一抹の不安を覚えていた。

 

「……分かった、好きにするといい」

 

「待ってください、切嗣さん!」

 

切嗣の後を追いかけるように、セシリアやシャルロット達も部屋を出ていった。切嗣たちが出て行ったところで、一夏が箒に食ってかかる。

 

「……箒。あんな言い方しなくてもいいだろ!」

 

「私は事実を言ったまでだ。敵は第3世代型とは言え軍事用ISであり、セシリアたちが近接近戦に加わったところでスピードについてこれない奴らを、私たちがかばいながら戦わなくてはいけなくなる。軍事用IS相手にそんな無謀な真似はできない」

 

「……あっそ。じゃあ勝手にすれば?私は私でやらせてもらうから」

 

「接近戦は私と一夏に任せておけ。お前は私たちの援護に回ってくれればいい」

 

「ふんっ!」

 

そして鈴も不機嫌そうにしながら自分の部屋に帰っていく。一方、別の空き部屋にて切嗣たちは会議を開いていた。念のため、ラウラが盗聴器や隠しカメラの存在を確認したが、幸いそのようなものが仕掛けられていなかった。

 

「箒さんはあんな風に言ってらっしゃいましたけど、大丈夫なのでしょうか?」

 

セシリアが心配そうに、切嗣に話しかける。予想通り、切嗣から帰ってきた返事は決して芳しいものではなかった。

 

「正直、今の篠ノ之は自分の実力を過大評価しすぎていると思う。あの慢心が事故に繋がらなければいいが……」

 

切嗣たちは、心配しながらも黙々と状況の分析に勤んでいた。

 

 

午後8時20分、少し早めに集合した専用機組は緊張した面持ちで出撃の合図を待っていた。すると、ほどなくして千冬が現れ、作戦について話し始める。

 

「……先ほど、教員たちで話し合った結果、高機動戦闘が可能なオルコット・衛宮・篠ノ之の3名で高速移動中の『銀の福音』に接敵して相手を迎撃。可能であれば捕獲を担当してもらうことにする」

 

「その決定、待った!」

 

千冬の発言に、束がすかさず反論する。千冬は嫌そうな顔をしながらも、束の意見に耳を傾けた。

 

「……またお前か、束。今我々は急いでいるんだ、巫山戯るのはその格好だけにしてくれないか」

 

「もうっ!ちーちゃんにそんなことを言われるなんて束さん傷ついちゃうよ……。でもこれを聞いて同じことを言えるのかな……?」

 

「……何が言いたい?」

 

「……実は箒ちゃんのISはパッケージ換装なしでそのまま高速戦闘が出来るんだよ♪」

 

束の思いがけない発言に、千冬は驚きの表情を浮かべる。

 

「なんだと!?……その設定にどれくらいかかる?」

 

「15分もあればイケるかな」

 

「分かった。では内容を変更し、織斑と篠ノ之両名が敵戦力との交戦及び可能であれば捕獲を担当。残りのメンバーは指示があるまで待機しておけ」

 

「「了解(しました)!!」」

 

「……悪いな箒。少しの間だけ頼むぜ!」

 

「女の上に男が乗るなど私の矜持が許さないのだが……仕方ない。今回は特別だぞ?」

 

作戦の都合上、移動の全てを箒に任せるので、一夏は箒の背中に乗る形になる。

 

(しかし、箒のやつは大丈夫なのか?何かあったら俺がフォローしないとな)

 

一夏の思いを知ってか知らずか、箒は話を続ける。

 

「それにしても、たまたま私たちがいたことが幸いしたな。私と一夏が力を合わせれば出来ないことなどない。そう思わないか?」

 

「あぁ、そうだな。しかし、先生たちも言ってたとおりこれは実戦なんだ。何が起こるかわからないから、十分に注意して━━━」

 

「無論、分かっているさ。ふふ、どうした?怖いのか?」

 

「そうじゃなくてだな━━━」

 

「安心しろ。お前を目標まで運んでやるから、大舟に乗ったつもりでいろ」

 

箒のセリフに一夏は不安を隠せないでいた。すると一夏のプライベートチャンネルに千冬からの通信が入る。

 

「お前たちも知っての通り、今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心がけろ」

 

「了解」

 

「それと、篠ノ之はどうやら専用機を手に入れたことで浮かれているらしい。いざとなったらお前がフォローしてやるように。では健闘を祈っているぞ」

 

「分かりました」

 

一夏は通信を切ると、離陸時の衝撃に備える。

 

「では、始めろ」

 

千冬の合図で一夏と箒は一気に急上昇する。箒は一夏を載せているにも関わらず、ものの数秒で高度500mに達した。

 

「衛星とのリンクを確立……情報照合完了。目標の現在位置を確認━━━一夏、一気に行くぞ」

 

「お、おう!」

 

箒はそう言うなり、紅椿を加速させる。一夏はその凄まじい加速に驚いているが、急に箒から目標を発見したとの報告が上がる。

 

「見えたぞ、一夏!目標との接触まであと10秒」

 

一夏は戦闘に備えるべく、自分の武器である『雪片弐型』を握り締めた。

 

 

敵が見えた瞬間、一夏は零落白夜を発動。瞬間加速も発動し一気に間合いを詰める。がしかし、一夏の刃が銀の福音に触れそうになった瞬間、福音は最高速度のまま一夏の方に反転し、後退の構えを整える。

 

「敵機確認。迎撃モードに移行。“銀の福音”稼働開始」

 

福音から聞こえてきた抑揚のない機械音声が聞こえた瞬間、福音は体を一回転させ零落白夜の刃をあと数ミリという所で避ける。

 

「箒、援護を頼む!」

 

「任せろ!」

 

零落白夜を発動しているため、時間がかかれば不利になることが分かっている一夏は一気に福音に斬りかかる。しかし、福音は一夏の剣をすれすれのところで避ける。

 

「っち!」

 

残り時間が少なくなり、焦った一夏の刀が大振りになる。そしてそれを福音は見逃しはしない。福音の背中についている銀色の翼の装甲の一部が翼を広げたように開く。そこには開いた砲口があった。

 

「!?しまっ━━━」 

 

砲口から打ち出された高密度のエネルギー弾は白式の装甲に着弾した瞬間、一斉に爆発する。一夏はダメージを喰らいながらもなんとか態勢を立て直す。

 

「箒、左右から攻めるぞ。左を頼む!」        

 

「了解した」

 

箒と一夏は回避行動を取りながらも連射をやめない福音に左右から斬りかかるが、福音の背中のスラスターは多方向推進装置らしく、複雑な動きで一夏たちを翻弄する。

 

「一夏!私がやつを引きつける!」

 

攻撃が当たらない現状に業を煮やした箒は二刀流で斬撃と刺突を繰り出す。紅椿の性能を存分に使った箒の猛攻にさすがの福音も防御を使い始めた。

 

(これはいけるか!?)

 

一夏は一瞬だけ笑みをこぼすが、そこに福音の反撃が待っていた。

 

「La……♪」

 

甲高い機械音声がしたかと思うと、ウイングスラスターが開き36門の砲口が姿を現す。そこから大量のエネルギー弾が発射された。

 

「やるなっ……!だが、甘い!」

 

箒はそれを紙一重で避け、迎撃をする。刹那、福音に隙ができた。しかし、一夏は福音に攻撃せず、零落白夜と瞬間加速を使いながら海面方向に向かう一発の光弾を切り裂く。一夏の予想外の行動に箒は戦闘中であるのにも関わらず、一夏に説教をすることに意識を取られてしまう。

 

「何をやっているんだ、一夏!どうしてせっかくのチャンスだったのにアイツを攻撃しなかった!?」

 

「船がいるんだ!海上は先生たちが封鎖したはずなのに━━━」

 

「巫山戯るな!だいたいこの海域は現在封鎖中のはずだ!そんな所で漁をしている連中のの事など知ったことではなかろう!だいたいお前は━━━」

 

「箒!危ない!」

 

一夏の声に箒が振り返ると、そこには全ての砲口を箒の方に向けてエネルギー弾を発射する福音の姿があった

 

「くっ、間に合え━━━!!」

 

一夏は残りのエネルギー全てをスラスターに落とし込み、箒と光弾の間に入り込む。その瞬間、一夏の姿が爆炎に包まれる。そして、それが収まったのと同時に一夏は煙を纏いながら海上に向かって落ちていった。

 

「一夏ぁぁぁぁぁ!!」

 

箒は慌てて一夏のところに降下し、海上に叩きつけられる寸前で一夏を拾い上げる。

 

「大丈夫か、一夏!?」

 

「……」

 

箒は一夏の脈を計るが、かなり浅くなっており、出血しているためか、顔色も悪くなっている。

 

「よくも私の一夏を!許さんぞぉ!」

 

箒は安全な場所に一夏を退避させると、赤椿の要である展開装甲をエネルギースラスターモードに切り替え、一気に福音に斬りかかる。がしかし、福音はそれをあざ笑うかのように巧みに箒の斬撃を回避する。

 

「えぇい!一夏の仇!」

 

「……」

 

そこで流れを切るかのように、箒に緊急通信が入る。

 

「……篠ノ之、そこまでだ。今すぐ戦闘を中止し、織斑を回収して今すぐこちらに戻って来い」

 

「しかし!」

 

「……私に同じことを言わせるな」

 

「……分かりました」

 

箒は作戦を中止し一夏を回収すると、宿泊地の方へと飛び去っていった。本来ならば、暴走している銀の福音がここで追撃を仕掛けてくると予測されたが、不思議なことに箒が追撃を受けることはなかった。まるで操り人形のように、福音は箒が飛び去ったのを確認すると、箒達に背を向け再び航行を開始した。

 




「締切相手に勝てるわけないだろ!」

作「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前(強がり)」

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