IS/Zero   作:小説家先輩

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更新速度は一週間毎くらいを目安にやっていきたいと思っています。


第一話 邂逅

鳥のさえずりと眩しい太陽の光を受け、切嗣は目を覚ます。

 

「ここは……!?」

 

そこは先程まで士郎と話していた武家屋敷ではなく、どこかの公園のようだった。最も一度死んでいるはずなので目を覚ますという表現はおかしいのだが。切嗣は自分の身に起こったありえない事象について“魔法使い”と呼ばれる4人の関連を疑う。がしかし魔術師でもなく、あくまで魔術を道具として使う“魔術使い”の切嗣をそのような奇跡を使ってまで蘇らせるメリットがないことを考えると、その可能性は否定するしかない。

 

(なぜ、僕はこんなところで寝転んでいるのだろう)

 

傍らに目を向けると見覚えのある黒のアタッシュケースが置かれており、中にはかつて“正義の味方”として活動していた頃に使っていたトンプソンセンター・コンテンダーが分解された状態で入っていた。しかも、よく見てみるとグリップ部分に聖杯戦争時の切嗣の令呪と同じ形をした紅いエンブレムが彫り込まれている。その紅いエンブレム(後に、それが大騒動を引き起こす)が何を意味しているのか?この時点の切嗣には理解することができなかった。

 

「これは一体……?」

 

切嗣はふと自分の身体に何とも言えない違和感を感じ、近くの水溜りを覗き込む。

するとそこには

 

「なんでさ……」

 

十代の頃の自分の姿が映っていた。

 

念のため、体内に解析の魔術をかける。その結果、“正義の味方”の頃と同じように使えるようだったため、切嗣はとりあえずここがどこなのかを確認するために公園を出た。しばらく街を歩いていると、切嗣の姿を見るやいなや周りの女性から「喉が渇いたから飲み物を買って来い」だの「肩がぶつかって痛むから治療費をよこせ」だの理不尽な要求をされたが、切嗣は黙って通り過ぎた。市街地を適当に彷徨った後、街で得た情報を整理するため、公園に戻ってベンチに座る。ベンチに座りながら街で手に入れた地図を確認していると、若い女性が金色の長い髪を棚引かせながら歩いている。切嗣はその女性をぼうっと眺めていたが、女性は切嗣の視線に気がつくと切嗣の方を一睨みした後、足早に立ち去ってしまった。

 

そのことに切嗣は多少落ち込みながらも、思考を切り替える。テムズ川などのいくつかの地名によってここが英国のロンドンであることはわかったものの、魔術協会総本部である時計塔が存在しない。それらの事実からおそらくここは平行世界か何かなのだろう、と切嗣は結論づけた。

 

(………さて、当面の問題は衣食住をどうするかだな)

 

ベンチから立ち上がり、公園の入り口に向かおうとしたところで車のエンジン音と悲鳴が聞こえたため、切嗣は音のする方へ急ぐ。

 

 

一体何故こんなことになってしまったのか。目隠しをされ猿轡を噛まされながら、車の荷台に詰め込まれたセシリア・オルコットは憤りを感じていた。両親の死後、金の亡者と化した親類から度々財産を分けるように要求されていたが、セシリアはそれを全て断ってきた。

 

(だからといってこのような強引な手段に出るなんて!許されるわけがありませんわ!!)

 

現在ISを持っていない以上最悪のことも想定しなければならない。

最悪の事態。それは暴走した親族が自分からISを奪い取り、『亡国機業』に持ち込むこと。それだけはオルコット家当主としてなんとしても防がなければならない。親族の中に『亡国機業』との関連性が疑われる者がおり、秘密裏に調査をさせていたものの、調査をさせていた者が忽然と姿を消し、山奥や海中から変わり果てた姿で見つかるようになってから調査をやめさせていた。

 

(けれど、これほど早くに行動に移してくるとは……)

 

ISを持っていればこんなことにならなかったと言う悔しい気持ちを抑えられず、セシリアは手錠をはめられ、拘束されている手を指が白くなるくらい握りしめていた。

 

 

公園の入口の方から、けたたましい車のエンジン音と女性のものと思われる悲鳴を聞き、切嗣は駆け出す。切嗣が入り口に到着すると、数人の黒服の男たちが先ほどの若い女性を黒いワゴン車に乗せて拉致しようとしていた。そして、攫われようとしている先ほどの金髪ロングの女性と一瞬だけ視線がぶつかる。気のせいかその目が切嗣に助けを求めているかのように見えた。先ほど自分に対し露骨な嫌悪の視線をぶつけてきた女性が目の前で攫われようとしている。本来なら関わり合いになるのを避け、何事もなかったかのように日常生活に戻るべきではないか。しかし、かつて“正義の味方”を志したこの男に、そのような行動が取れるはずはなかった。

 

(こんなことをしても、僕はもう正義の味方には戻れないのに……!)

 

切嗣は内心毒づきながらも黒いワゴンが急発進した後、近くに停めてあったバイクに手をつけていた。

 

黒いワゴン車に気がつかれないように、切嗣は距離を保ちつつ追跡する。しばらくして、黒いワゴンは倉庫街に停車した。切嗣はワゴンが停車したのを確認し、近くの路肩にバイクを停車した。なお、バイクは先ほどかなり無茶なやり方でエンジンをかけたので、鍵は壊れてしまっている。切嗣はセシリアがどこに収容されたかを確認すると、近くにある木材の陰に隠れながら、救出する手順を考えていた。

 

「目的地についた。車から降りろ」

 

若い女性の声がして、セシリアは両脇を抱えられながら車から降ろされた。

 

「お前たちは倉庫の入口を見張っていろ」

 

「了解しました」

 

四人の黒服うちの二人が女性の命を受け、入口の方へ向かっていく。複数人による犯行。この時すでに、セシリアは組織的な犯行、すなわち亡国機業によるものだとあたりをつけていた。

 

倉庫の中に入ると、目隠しと猿轡を外され、ようやく視界が戻ってくる。

 

「そこに座れ」

 

女性の言う通りに資材の上に座る。

 

「……セシリア・オルコット。単刀直入に言おう。お前が持っているISをこちらに渡せ。そうすればお前の命だけは助けてやる」

 

「ふざけないでくださいまし!あなたこそ、この私にこんなことをしておいてただで済むと思っているのですか?私の携帯にはGPS機能がついており、一定時間こちらからの連絡が無い場合、警察に連絡することになっておりますのよ!」

 

女性の要求にセシリアは睨みつけながら拒絶した。

 

「別にお前の意思など関係ない。お前が応じるまでこちらは『交渉』するまでだ」

 

「なにが『交渉』ですか!こちらの意思を無視して無理やり従わせようとしているだけのくせに!やりたければ好きなだけ殴ればいいですわ!!そんなことをされても私は絶対に応じませんから!!」

 

「……わかった。おい、お前たち」

 

女性は黒服の男たちの方を向くと、淡々と指示を出す。

 

「こいつをお前たちの好きにしていいぞ」

 

「「なっ!?」」

 

セシリアだけでなく話を聞いた黒服たちも驚いたようで、

 

「流石に、それは―――」

 

「自分には―――」

 

と最初は遠慮していたものの、

 

「……やらないのであれば、今お前たちをここで消し炭にしてもいいんだぞ?それと一ついいことを教えてやろう、セシリア・オルコット。お前の携帯はお前を拉致した際に、公園のなかに放置してきた。あと、お前が靴の中に仕込んでいた発信機もきちんと廃棄しておいたからな」

 

女性が脅しをかけると

 

「……済まねぇな、お嬢ちゃん。恨むんなら俺らではなくあの人を恨んでくれよ」

 

と下卑た笑みを浮かべながらセシリアの服に手をかける。

 

「いや……や、やめて!誰か……誰か助けて!!」

 

服を破られ、下着にも手をかけられたセシリアの悲痛な叫びが倉庫内に響いた。

 

そのころ切嗣は人質を救出する算段がたったので、目標が閉じ込められている倉庫の入口を確認する。入口には二人の黒服がサブマシンガンを持って、警備しており正面突破はほぼ不可能な状況だ。それを確認し、切嗣は倉庫の裏側に移動。そして拾った石を床に落とし、物陰に隠れた。すると、入口の方から黒服の一人が周囲を警戒しながら、やって来る。黒服が石に気がつき、拾おうとしゃがみこんだところで、切嗣は後ろから黒服の右腕の関節を極め地面に叩きつける。叩きつけられた際に頭部を強打したのか、それきり黒服は動かなくなった。

 

「何の音だ!?」

 

もうひとりの黒服が気づいたらしくこっちに来る。

 

切嗣は素早く物陰に隠れる。幸運にも黒服はすぐ近くにいる切嗣のことに気づかず気絶している仲間のところに近づく。切嗣は気配を殺し黒服の後ろに近づき、頚動脈を締めて気絶させた。入口の黒服を排除することには成功したものの、肝心な中の様子が分からないため、切嗣は光の漏れているドアと壁の隙間から中の様子を伺っていた。すると、主犯格と思われる女の指示で人質が乱暴されそうになっていたので、黒服達から奪ったサブマシンガンの安全装置を解除し倉庫内に突入するタイミングを伺う。そして犯人たちの意識が完全に人質に向いたと同時に、倉庫内に突入した。

 

完全に不意を付いた切嗣の奇襲により、残りの黒服を倒すことに成功したものの主犯格の女性は素早くISを起動し、展開することで弾幕を完全に遮断していた。

 

「……一体どこの馬鹿が仕掛けてきたかと思えば、ISも持てない男が一人で乗り込んでくるとは。よほど死にたいらしい」

 

「……」

 

「あ、貴方は!?」

 

セシリアは驚いていたが、それも仕方がないだろう。なぜなら自分を助けに来たのが警察や家の者ではなく、先程公園で見かけた覇気のない何処にでも居そうな青年だったのだから。

 

「その娘を離してもらおう」

 

切嗣は相手を睨みつけながら話す。

 

「その前にお前は何者か答えろ。もし答えないのならば……」

 

女性は自分の専用機であるサイレント・ゼフィルスのメイン武器である大型ライフル“スターブレイカー”を構える。

 

「お前を消し炭にするだけだ」

 

「……」

 

それに対する切嗣の返答は無言。

 

「……だんまりか。まあいい、どうせお前もすぐにこいつらの仲間入りするんだからな」

 

女性は切嗣に向かって引き金を引きビームを発射した。

 

 

(なんだあれは!?)

 

切嗣は表情を変えないものの、内心相当焦っていた。何せ元の世界ではアニメやSF小説などでしかお目にかかれないレーザー兵器を平然と使われているのだから当然の反応だろう。切嗣は相手がライフルを構えているところを見て、メインの武器はあのライフルだと判断する。

 

「ハァ、ハァ……ぐっ!」

 

「さっきまでの動きはどうした?あれで私の攻撃を避けていただろう?そら、もう一度やってみせろ」

 

必死で攻撃を避ける切嗣に、嘲りの視線を向けながら女性は切嗣の動きを観察する。満身創痍の切嗣に対し、女性は傷一つ付いていない。

一体どれくらい逃げ回っただろうか?今のところ銃口の角度からビームが飛んでくる場所はある程度予測することが出来たため、直前に障害物に隠れることでなんとか直撃は避けている。が、近くにビームが着弾した衝撃で置いてあった資材に激突し、肋骨が何本か折れたのに加え、壁に打ち付けられた時に頭を強打したらしく、視界がぼやけている。切嗣自身もおそらく次が限界だろうと考えていた。

 

「障害物のある室内とは言え、生身でIS相手によくここまで持たせたな。残念ながら私には制約がかけられているためISを使って人を殺すことはできない。だが━━━」

 

女性は近接戦闘用のピンク色のナイフをこちらに向け、満面の笑みを浮かべながら━━━

 

「死なない程度に甚振ってはいけないとは言われていないからな」

 

そんなことを平然と口走る。

 

「ではまず、その右腕を頂くとするか……」

 

女性がナイフを構えてゆっくりこちらに近づいてくる。

 

(クソッ!こんなところでやられるわけには………)

 

『力が欲しいか、正義の味方』

 

満身創痍の切嗣の頭の中に謎の声が響く。そしてその言葉が聞こえてきた瞬間━━━

 

「な!?……グァァァァァ!!」

 

体中に激痛が走り、まるで剥き出しの神経をそのまま弄られている様な錯覚を覚える。これに近い感覚を上げるとするならば、始めて魔術回路を動かす時のものだろう。切嗣があまりの痛みに発狂しそうになった時、胸ポケットにあるコンテンダーのエンブレムが眩い光を放つ。まるでそれ自身が自分を使えと切嗣に命じるかのように。

 

(なんでもいい!この状況を乗り切る力を僕にくれ!!)

 

切嗣は藁をも掴む思いでその胸ポケットのコンテンダーのグリップを握る。そして切嗣はまばゆい光に包まれた。

                            

 

(一体何が起こった!?)                         

 

女性が切嗣を追い詰め近接戦闘用のナイフを取り出して近づいた瞬間、切嗣の胸の部分が光り出す。そしてその身体には漆黒のISが展開していた。                          

 

(ISは女にしか使えないはずじゃなかったのか!?)                                       

突然の事態に、女性はいらだちを抑えきれず舌打ちする。予定ではセシリア・オルコットからISを強奪したあと本人を殺し、すぐに撤収する手筈だったのが切嗣のせいで全てが台無しになってしまっている。がしかし手段がないわけではない。要は切嗣という不安要素をこの場で排除してしまえば良いのである。

 

(だが、やつの様子を見る限りISを起動したばかりのようだし、片付けるなら今……!)

 

そう思い、女性はシールドビットを展開しようとした。すると突然         

 

「……状況が変わったわ。急いでもどりなさい、M」             

 

通信画面に映し出された顔を見て、Mはさらに苛立ちを覚える。あともう少しのところまで敵を追い詰めているのに、それを中止しろと言われれば怒りを覚えるのも無理はない。自然と画面の向こうの相手に対し、Mは怒りをぶつける。          

 

「……どういうつもりだ、ミューゼル。まだ任務は達成されていないぞ!」  

 

「たった今情報が入ったのだけど、どうやらロンドン市警がこの事件を嗅ぎつけたらしく、特殊部隊をそちらに差し向けたようなの」                  

 

「そんなもの、私一人で片付けてやる!」                  

 

「黙っていうことを聞きなさい、M。これ以上言う事を聞かないのなら………殺すわよ?」 

                              

「……了解」                                

 

Mと呼ばれた女性はできるだけ感情を抑えて返事を返す。Mの不自然なまでの態度の変化が、組織内における上下関係を如実に表す。彼女の通信相手はいつでもMを殺すことができるのであろう。

 

一方で切嗣はMと対峙しておりその様子を注意深く見ていたが、彼女は不意に不快な表情を見せると、唐突に切嗣に呼びかけて来た。   

 

「……非常に不服だが、今回は撤退することになった」        

 

「……」                               

 

対する切嗣は沈黙を貫いたままだ。                         

 

「……次にあったときは、お前の巫山戯たISごと塵に返してやるから覚悟しておけ」   

                               

Mは入口をライフルで破壊し、飛び去っていった。

 

Mが去ったことに、切嗣は内心安堵していた。今のところ切嗣の武装といえば黒服から奪ったサブマシンガン一丁しかない(切嗣は武器の呼び出し方を知らない)ため、                            

 

「君も早くここから立ち去ったほうがいい。そのような格好でここにいたら、犯罪に巻き込まれるだろうから」                       

 

切嗣は捕らわれていた女性に声をかけると、そのまま立ち去ろうとした。が、そこでセシリアから声がかかる。    

 

「……貴方に話がありますの」

 

 

暗い倉庫内で衛宮切嗣とセシリア・オルコットはお互いに向き合って話をする。                      

 

「先程は、私を助けていただきありがとうございました」         

 

「…………」 

 

セシリアの言葉に切嗣は黙秘を貫く。確かに状況だけを見れば、切嗣は危機に瀕していた女性を助けた勇敢な青年だろう。がしかし━━━                               

「もしよろしければ、私セシリア・オルコットになぜ男性である貴方がISを使えるのか私に教えていただけませんか?」               

             

「……IS?何のことだい?」                             

        

「こんな時に冗談はやめて頂けませんか?私、面白くない冗談は好きではありませんの」  

 

切嗣の発言にセシリアは苛立ちを覚える。いや、セシリアでなくとも同じ感情を持つだろう。なぜならこの世界において「IS」と言う言葉が持つ意味を知らない人物など、おおよそ存在し得ない。つまりセシリアにとって目の前の男性は自分をからかっているか、重度の世間知らずとしか思えないのだから。                                   

 

「……すまない」                             

 

「……どうやら本当に知らないようですわね。なら私がISのことについて教えて差し上げましょう」 

 

どうやら後者のようらしい。申し訳なさそうに英語で謝罪する切嗣にセシリアは呆れた様子でため息をつくと、ISのことについて説明を始めた。                                             

切嗣とセシリア・オルコットが倉庫内で話をしている頃、切嗣たちのいる倉庫街の入口に一台の黒塗りのワゴンが止まる。まもなくドアが開き、中から降りてきたのは二人の女性。一人はIS学園生徒会会長であり、裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部「更識家」の当主である更識楯無。もう一人はis学園で整備課に所属する布仏虚。彼女は更識家に代々仕える「布仏家」の者である。                            

 

「………イギリス代表候補生が拉致されたと聞いて、駆けつけてみたものの、どうやら出遅れてしまったみたいね」                          

 

更識楯無が口元を扇子で隠しながら呟く。彼女が広げた扇子には「残念」と書かれているが、その目にはまったく悔しがる様子はない。      

 

「そうですね。ですが、まだ何か手がかりが残っているかもしれません。とりあえず、現場の状況を見に行きましょう、お嬢様」      

 

「……もっとフランクに接してくれていいのに」 

 

「そういう訳には参りませんので」             

 

布仏の言葉に更識は笑顔を浮かべながら頷き、二人はセシリアが監禁されていると思われる倉庫へと足を進めた。                             

 

切嗣はセシリアから話をにわかに信じられないでいた。彼女の説明によればISとは篠ノ之束博士が作り出したパワードスーツで現在の兵器の中で最強を誇り、女性のみが使うことができる兵器とのことである。

 

(だからと言って、今の風潮がまかり通ることに疑問を感じるのが僕だけなんだろうか?)

 

切嗣はそんなことを考えながら、セシリアの話を聞く。

 

「━━━つまり、僕は本来なら存在しないはずのイレギュラーと言う事でいいのかい?」    

 

「ええ、その通りですわ。私が入手した情報によれば、男性でISの起動に成功したのは日本人の織斑一夏ただ一人という話でしたし」                  

どうやら切嗣以外にもISを起動した男性がいるらしい。彼女の話が事実なら、切嗣は世界で2番目の男性のIS適合者になる。                      

「そこで、貴方には2人目の男性のIS適合者として私と一緒にIS学園に入学してもらいたいのです」                                

「何故そんな話になる。だいたい僕はIS学園なんて知らないし、そんなところに興味は━━━」                                      

そこで切嗣は言葉を切って後ろを振り返る。突然黙り込む切嗣にオルコットは疑問符を浮かべる。                     

 

「なんですの?いきなり」                          

 

「静かにしてくれ。入口のところに誰かいる」

 

「!!」                  

 

切嗣はオルコットに近づき、耳元で彼女に呟く。彼女は何故か頬を赤らめながらも状況を理解したらしく、切嗣の背中に隠れた。サブマシンガンの安全装置を解除し、気配のする方に向ける。すると観念したのか、物陰から二人の女性が出て来た。                              

「おぉ、怖い怖い。お姉さんそんなもの向けられたら怖くて出てこれないよ」                                

 

「油断しないでください、お嬢様。この男は気配を消した私たちの存在にいち早く気づきました。かなりの実力者です」                        

「大丈夫だって、虚ちゃん。この人そんなに悪い人ではなさそうだし」       

眼鏡をかけた真面目そうな女性の問いに青髪の女性はそう答えると、切嗣たちの方を向いて自己紹介を始めた。          

 

「はじめまして。私の名前は更識楯無。IS学園で生徒会会長をしています。よろしくね」                                  

「……布仏虚。IS学園で生徒会会計をしてます」               

 

二人が自己紹介をし終えたので、一応切嗣たちも自己紹介をする。切嗣は目の前の女性達の自己紹介に関し、彼女たちが嘘をついている可能性も考慮するが、少なくとも今の切嗣に確かめる手段はない。       

 

「私の名前はセシリア・オルコット。ISのイギリス代表候補生ですわ。今年からIS学園でお世話になることになりました。これからよろしくお願いします」       

 

「……藤村切嗣だ」 

 

念のため、相手には偽名を名乗っておく。虚の方はうまく自分の雰囲気を隠しているが、青い髪の女性の方からは、戦い慣れている者が纏う濃密な気配が漂ってくる。おそらくは相当な手練。切嗣はそう判断すると、警戒を強める。                         

 

「切嗣くんにセシリアちゃんね。……ところで切嗣くんはどうして頭から血を流してるの?」                                  

そう言われ切嗣が頭に手を当てると、大量の血がついていた。どうやら先ほど資材に激突した時に、頭を負傷したようだ。

 

「ああ、これは先ほど頭を強く打った時に……!」

 

切嗣はなんとか意識を保とうとしたものの、自分の意志とは反対に意識はどんどん薄れていく。

 

━━━ケリィはさ、どんな大人になりたいの?

 

意識を失う直前、切嗣は確かにそんな言葉を聞いたような気がした。




作「今回からアシスタントとして作品制作に協力してくれることになったモッピーさんです!」

モッピー「モッピー知ってるよ、この役やってんのは本編で出番がないからだよ」

作「え?あ、あれ?モッピーさん?そ、そんなことはないよ?」

モッピー「モッピー知ってるよ、この作品では私のルートがないってこと」

作「それは……本当にすみません」

※この作品は篠ノ之箒をdisっているつもりはありませんので、あしからず

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