魔法少女リリカルなのは~踏み台、(強制的に)任されました~   作:妖刀終焉

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久しぶりの連続投稿です。今日は筆が進む進む。

第10話をどうぞ


第10話

『飢えなきゃ勝てない。気高く飢えなくては』

 

 とある元天才ジョッキーが鉄球使いへと放った言葉だ。人は厳しい環境でこそそれに耐えるべく進化を遂げるのだ。逆にそれがなければ退化していくのみ。動物園のライオンがいい例だ。むやみに怒らせたりしない限りは檻の中で寝ているか見物客を眺めるだけで襲ってくることはない。そのライオンをサバンナに返したら生存競争に耐えられずに死んでいくだろう。動物園では狩りなどしなくても飼育員が餌を持ってくる。その日々が続いていくうちに狩りの仕方を忘れてしまったのだ。

 

 そう、俺は飢えるのだ。飢えて飢えてポイントを手に入れるのだ。

 

 俺達はアースラの中へと案内されて盆栽、ししおどし、茶釜と外国人が日本を勘違いしたような茶室に通される。途中でユーノが人間だったことが明かされてなのはは驚いていた。そして俺は「ユーノはいつもなのはの着替えとか見てたんじゃねーの?」とか聞こえるようにボソッと呟いてやった。なのはも覚えがあるようで顔を真っ赤にして「ユーノ君のスケベ! 変態!」と罵詈雑言のオンパレードでユーノの精神にダメージをあたえてた。

 

「ようこそ皆さん。私は次元航行艦『アースラ』の艦長、リンディ・ハラオウンです」

 

 お茶とお菓子を出された。

 

「さあ、お話をしましょうかっとその前に……」

 

 リンディさんの目線が折木に向く。折木は先ほどクロノにそのフルフェイスをとるように言われたが断固としてそれを拒否していたのだ。

 

「そのフルフェイス脱がないかしら? 暑いでしょう?」

 

「いえ、結構です」

 

「どうしても?」

 

「はい」

 

 そんなことを言ってる間に俺は折木の後ろに回り込む。

 

<マスター危ない!>

 

「えっ?」

 

 デバイスが今になって気がついたようだがもう遅い。俺は折木のフルフェイスを掴んで引っ張り挙げた。そして折木の目をぱちくりした顔が晒される。

 

 ざ ま あ、プークスクス。

 

「あっ! 和人君!」

 

「てめぇだったのか!」

 

 俺も今初めて知ったかのような反応をしておかないと怪しまれるから内心笑いを堪えて驚いておく。

 

「ううっ」

 

「和人君も魔導師だったんだね」

 

 急いで両手で顔を覆い隠すももう遅い。リンディさんもクロノも折木の顔をバッチリ拝んだだろう。

 

「えっと……二人はお知り合いなのかしら?」

 

「ち、ちが「はい、同じクラスの友達なんです」……はぁ」

 

 意外性のあった自己紹介は終わった。しかし折木は自身も目的を話さず、フェイト達の居場所についても口を割らなかった。リンディさんも無理に聞き出すつもりもなさそうで、話は先へと進む。ユーノとなのははこれまでジュエルシードを集めていた経緯を話していた。

 

 ちなみに俺と折木のデバイスの出所も聞かれたが、俺は「拾った」と答えて、折木は「元々両親が魔導師で今は亡くなっている」と答えている。

 

「……それで僕は地球に降りてジュエルシードを集めていたんです」

 

「そう。立派だわ」

 

「だが、無謀でもある」

 

 リンディさんは褒めるがクロノは少しきつい言葉を言われ項垂れる。一歩間違ったらユーノは死んで事実を知る者はいなくなり被害が今以上に増えたかもしれないのだ。

 

 そしてリンディさんやクロノからロストロギアというものを説明された。ロストロギアというものは簡単に表現すると異世界で高度に発達した魔法技術の遺産のこと。管理局はロストロギアには危険なものも含まれているのでそれを回収して管理する仕事もある。別に何でもかんでもロストロギア扱いしてぶんどっていく訳じゃあない。

 

「これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます」

 

「君たちは今回のことを忘れて、それぞれの世界に戻って元通りの世界に戻るといい」

 

 なのはは反論しようとするもクロノに「一般人が出る幕じゃない」と正論を言われて黙る。その一般人に数年で追い抜かれるクロノェ……。

 

「まあ、急に言われても気持ちの整理もできないでしょう?一度家に帰って、今晩4人でゆっくり話し合うといいわ。その上で、改めてお話ししましょう」

 

 やっと来たか。俺はこのためだけにここに来たと言っても過言ではない。

 

「あのさあ、何で話し合う必要があるんだよ?」

 

 俺が口火を切る。

 

「一般人の出る幕じゃないんだったら別に話し合う必要なんてないわな? デバイス没収して諦めさせるなんなりすればいい」

 

「た、確かに……」

 

「そうだな」

 

 ユーノと折木が俺の言葉に頷く。

 

「……何が言いたいのかしら?」

 

「はっきり言わせて貰おう。リンディさん、アンタは俺達から協力を申し出るように誘導してるんじゃないですか? 協力して欲しいんなら堂々と頼んだらどうです?」

 

 俺はドヤ顔でそう言ってやった。さあ論破しやがれ。

 

 これはよくありがちな話だ。確かになのはは魔力も高く才能もある。管理局は人材不足だとよく言われているし喉から手が出るほど欲しがるだろう。しかしそれはあくまで育成枠(・・・)としてだ。今の今まで魔法なんて知らなかった少女を即戦力にしようなどと俺でも思わん。リンディさんだってそうだろう。しかもこれからジュエルシードなんて危険物を集めるのだからなおさらチームワークの訓練を受けていないなのはを進んで加入させるとは思い難い。

 

 人が人を選ぶにあたって最も大事なこと。それは『信頼』だ。頭がいいとか才能があるとかは二の次だ。今日会ったばかりの少女を信頼できるかと問われれば否だと答える。実際なのははフェイトのためとはいえ勝手な行動をとっている。結果上手くいったとしてもそれはあくまで結果論だ。

 

「そうですか、嫌なら別に無理強いはしませんよ。確かにあなた達は強いですけどそこにいるクロノも私の息子だということを差し引いても優秀な魔導師です。彼一人でもきっと残りのジュエルシードを集めてくれるでしょう。どうぞお引取りを」

 

 リンディさんは全く表情を崩さず涼しい顔で俺を論破した。流石にその若さで(年齢知らんけど)戦艦一つ任される人だ。たかだか少し未来を知っているだけのガキに言い負かされるなどありえんことだ。

 

 クロノをチラッと見たら顔を赤くして口元が少しにやけていた。この頃のクロノは中学生くらいだったっけ。自分が力入れてる分野で母親に褒められれば嬉しくもなるよな。

 

 俺が固まっている間になのはとユーノは自分から手伝わせて欲しいと志願。折木もフェイトが気になると言ってフェイトについて聞き出さないことを条件にアースラに協力することになる。ついでに俺も協力することにした。

 

 

 

 

 あれから俺達は3個のジュエルシードを、フェイト側は2個のジュエルシードを手に入れて残りは6個。海にあるジュエルシードのみとなった。

 

 海上での6個のジュエルシードの暴走は原作と違ってなのはとフェイト、そしてそれをサポートした折木によって封印され、半分ずつ分け合う。俺はとりあえず連れ戻そうとしてたクロノを邪魔してた。

 

 そして舞台はいよいよ佳境に差し掛かる。なのはとフェイトの決闘が始まった。俺、折木、ユーノ、アルフは手を出さない正真正銘二人のガチンコバトルだ。

 

「受けてみて……ディバインバスターのバリエーション。これが私の全力全開! スターライトォブレイカーーーー!!」

 

 自分が使える中で最強の技を使った後というものは必ず隙ができるというもの。だから最強の技を使うのであれば必ず相手を仕留めなくてはならない。フェイトはなのはを仕留めきれずに逆にバインドに捕まりスターライトブレイカーの餌食となる。これはアカン、間近でみるとものすごい迫力でとてもとても人に向かって撃っていい魔法には見えない。

 

「ん?」

 

「何だ? 雲が……」

 

 俺と折木が空を見上げるといつの間にか暗雲が立ち込めている。そこから紫色の雷が走りフェイトを襲う。

 

「フェイト!!」

 

 折木が急いでフェイトの元へ駆けつけふらつきながらも飛び続けているフェイトを支える。そうしているうちにフェイトの持っていた9個のジュエルシードは上空へと吸い込まれていってしまった。これは見逃さないと時の庭園までの座標を特定できないからな。今頃エイミィがジュエルシードの行く先を辿って座標を割り出しているだろう。

 

 一行は一先ずアースラへと帰還した。フェイトは折木やなのは達の懇願もあって拘束されずに手厚く保護された。

 

 アースラの前の画面には先に突入した部隊が見える。そこで彼らが見たのはフェイトそっくりの少女が円柱のガラスケースに液体とともに入れられている光景。少女の名はアリシア・テスタロッサ。フェイトの元となった人物で、とある事故で既にこの世を去っている。

 

 プレシアは紫の雷で突入部隊をあっという間に殲滅しアリシアが入っているガラスケースを愛おしそうに見つめる。

 

 プレシアはきっとこの光景をフェイトが見ているだろうと喋りかける。もう終わりだと、フェイトはアリシアの代用品にすらなれなかったと、お前はもう要らないと高笑いしながらフェイトへ叫んだ。

 

「もう止めてよ!」

 

「プレシアァ!!」

 

 なのはは泣きながら、折木は憤怒の表情でプレシアを見ている。

 

 このときプレシアは本当はどう思っていたのか、俺はプレシアではないからわからない。本当にフェイトを憎んでいたのかもしれないし、本当は愛していたからこそ自分と一緒にいてはいけないと突き放したのか。真意はこれから確かめに行くとしよう。

 

 プレシアはフェイトが集めたジュエルシードを発動させて次元震を引き起こす。そのチカラであらゆる秘術があるとされる伝説の都『アルハザード』へ行きアリシアを蘇らせることこそプレシアの真の目的だった。

 

「あ……あぁ……」

 

 真実を知り、プレシアに見捨てられたと知ったフェイトの目は光を失っている。

 

 心だ! 今の彼女には心が必要なんだ!

 

「フェイト!」

 

「あ……オリト……」

 

 折木はフェイトの両肩を掴み、優しく微笑みかける。

 

「もう和人でいいよ。……フェイト、お前は人形なんかじゃない」

 

「え?」

 

「何度でも言うぞ、お前は人間だ。たとえアリシアのクローンとして生まれたんだとしてもだ。少しの間だったけどお前と一緒に過ごした日々は偽者なんかじゃない! お前はお前だ! フェイト・テスタロッサだ!」

 

 うん、熱い言葉だね。お兄さん泣きそうだよ……主に出る幕がないことで。クールに去りたいところだけどそんなわけにはいかないし。

 

「……ねえ和人。私はどうしたらいいのかな?」

 

「それは誰かに聞いちゃいけないよ。自分で決めるんだ。フェイトはどうしたい? このままだとお前の母さんは何処かに行っちまうぞ」

 

<ウジウジしてても何も始まりませんよ。全てが終わって後悔してからでは遅いんです>

 

「それは……嫌だ。母さんとちゃんと話がしたい!」

 

「そうか、なら一緒に行こう。俺もお前の母さんに物申したいことが山ほどある」

 

「そ、それに母さんに和人のことも紹介したいし……」

 

 フェイトさん顔を赤らめていらっしゃるー。折木はすでにフェイトにもフラグを立ててたのか。それとも弱ってるところに優しくされてコロッと落ちたのか。

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「う、ううん何でもない! 急ごう!」

 

 折木はフェイトを連れて転送装置のある場所へと走っていこうとするがその前にクロノがいた。

 

「クロノ、止めてくれるなよ」

 

「勘違いするな、僕も行く」

 

「わ、私だってフェイトちゃんのお母さんに言いたいことがたくさんある!」

 

「全ては僕から始まったことだ。最後までキッチリ片をつけたい」

 

「あたしも行くよ。あんの鬼婆に一発かましてやらないと気がすまないからね」

 

 クロノの言葉を皮切りになのはとユーノ、アルフも立ち上がった。原作と違って最初からフェイトも参戦状態だ。

 

「ここまで来たんだ。最後まで付き合うぜ」

 

 正直帰りたい気持ちで一杯だけどついてかないとな。プレシアさんが実際どう思っているのかも気になるし、上手くポイントも稼いでおきたい

 

 エイミィの手腕で俺達7人は時の庭園へと転送された。

 

 

 

 

 転送された先では大量の傀儡兵がところ狭しと配置されていてそう簡単に先へ進めそうにない。ここはまだ入り口で中にはもっと大量にいることだろう。

 

「全員下がってろ。ここは俺がやる」

 

 俺はそう言って一歩前に出る。

 

「そうか、君の能力なら」

 

「そういうこと、皆は魔力温存すればいい」

 

 俺の後ろの空間が歪んで数多の武器が姿を現す。そしてそれを襲ってくる傀儡兵に向けて投擲していく。小さいのも巨大なのも宝具の雨によって次々に爆散していくき、ついでに扉もぶち壊して中にいた傀儡兵も多数破壊していった。これでもランクA以上の宝具は温存してるんだぜ、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)マジチート。

 

「ざっとこんなもんよ」

 

「……とんでもないな」

 

「あのときまともに攻撃を受けなくて本当によかった」

 

 クロノと折木以外は驚きのあまり絶句しているようだ。なのはやユーノの前でもあそこまで本気でやったことはないから無理もない。

 

「よし、先を急ぐぜ!」

 

「君が仕切るのか!?」

 

 俺達はクロノを先頭にして庭園内を進んでいく。途中で見える虹色の変な穴は虚数空間といって魔法が使えなくなるそうだ。クロノに言われるまで忘れたぜ。

 

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)で傀儡兵を破壊しまくってもどんどん出てきやがる。走りながらの投擲は結構疲れるってのに。ギルが仁王立ちしながら宝具撃ってる理由がわかった気がする。

 

 虚数空間を避け傀儡兵を倒しながら進んでいくと途中で分かれ道になっていたので途中で立ち止まった。

 

「ここから二手に分かれて進もう。やることは二つ。プレシアの逮捕とこの庭園の駆動炉の停止だ。こんな大掛かりな妨害だ。恐らく、エネルギーは駆動炉から供給されているはず。駆動炉を停めれば仕掛けも停止するはずだ」

 

 プレシア逮捕という言葉にフェイトは少し複雑そうな顔をしている。でもどんな理由があったとしても罪はちゃんと償わなければならないしな。

 

「フェイトと和人と劉牙は僕とプレシアの方へ、フェイトはプレシアと向き合いたいだろうし、和人と劉牙には僕の壁になって貰いたい」

 

「殴っていいか?」

 

「張っ倒すぞ!」

 

「冗談だ。なのはとアルフ、ついでにフェレットもどきは駆動炉へ向かって欲しい」

 

「うん、こっちは私達に任せて」

 

「誰がフェレットもどきだ! それとついでってどういう意味!?」

 

「駆動炉に行ったら鬼婆殴るの後になるじゃないかい!」

 

 それぞれ腑に落ちないことがあったが時間も無いので渋々承諾し二つのチームに分かれて俺達は最下層へ、なのは達は最上階へ向けて再び走り出す。




次で無印は最終回かな

2013 2/28 デバイスについて追加

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