戦姫絶唱シンフォギアー狂ったココロー   作:マンセット

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第九話 フィーネ

 

 

 

あたし達は人気者に遅れて現場に着いたが、そこで目にしたのは

半壊した私立リディアン音楽院と、天を穿つかのようにそびえ立つ

『カ・ディンギル』の姿があった。

付近に人影は無く、ノイズも居ないこの場所はまるでここだけ別世界

のように錯覚させられる。

 

響は無事な人が居ないか声を上げ呼びかけるが、返事が返ってくること

は無かった。

いや、違う。

何処からともなく笑い声が聞こえてきたのだ。

 

あたし達は声のする方を見上げると、そこには半壊した学院の上にたたずむ

櫻井了子の姿をしたフィーネを発見したのだ。

フィーネはこちらが気が付いた事が分かるとその眼鏡を取り、髪をはだけさせ

そして、ネフシュタンの鎧を身に纏いあたしが良く知るフィーネの姿になった。

 

 

「やっぱり、一緒にいるのね」

 

「ああ、響を人気者だけに任せておけねぇからな」

 

「櫻井女史、貴女が今回の黒幕だと言うのか!」

 

「察しの悪い子ね、見てわからないの?」

 

「どうして、どうしてですか了子さん!どうしてこんな酷い事を…」

 

「クリスから聞いてないのかしら?私はこの荷電粒子砲カ・ディンギルを使い

バラルの呪詛を壊し、世界を一つに纏め再びあの御方に会うのよ!」

 

「いや、あたしもカ・ディンギルが荷電粒子砲とか、世界を纏めるってのは初耳

なんだけど。で、フィーネの本命の『バラルの呪詛』ってなんなんだよ?具体的

な事はあたしだって聞いてないぜ?もったいぶらずに教えてくれよ」

 

 

やけに饒舌なフィーネから語られる言葉には、当然だがあたしでも知らない事を

口にしてくれる。

殆どは前に聞いた通りだが、『世界を纏める』だって?

随分大げさな話になってきた。

それに『カ・ディンギル』が荷電粒子砲だなんて話、あたしは初めて聞いたぜ。

事が最後の詰めの段階だからだろうか、勝利を確信してるフィーネは隠す様子もなく

話してくれるようだ。

 

 

「そうだったかしら、なら教えてあげるわ。バラルの呪詛は、かつてあの御方に届こうと

塔を建てようとした時に受けた罰。人の身であの御方に並び立とうとして、その怒りに触れた

為塔を砕かれ、それだけでは収まらず人類のかわす言葉すら砕かれた。そう、バラルの呪詛

によって!だから私は穿つのよ!このカ・ディンギルを使い、バラルの呪詛の源である月を!

そしてその呪いを解き、人類を再び一つに纏めるのよ!」

 

「月を穿つ…だと!」

 

「そう、このカ・ディンギルならそれが出来る!だから誰にも邪魔はさせない!もちろん、貴女

達にも!!」

 

「了子さん!」

 

「ちょっと待て!フィーネお前いくつだよ?あたしにはそんなに歳がいってる様には見えないぜ?」

 

 

フィーネの目的は分かった。

だが、まだあたしには疑問が残っている。

話の内容がおかしすぎるのだ、月なんていつからあると思ってんだ。

フィーネはその疑問もさして興味が無いようで、あっさりと答えてくれる。

 

 

「私は超先史文明期の巫女。私は自分の遺伝子に刻印を残したわ。そして私の遺伝子を持つ子孫が

ウフヴァッヘン波形に接触すれば、接触した子孫にフィーネとしての記憶や能力が蘇るようにね」

 

「て、事はあれか?その体も、元の持ち主の「櫻井了子」から奪ったって事なのか?」

 

「ええ。元の櫻井了子は、正確には12年程前に死んだことになるわね」

 

「そんな!」

 

「12年前だと!まさか」

 

「そう。貴女、風鳴翼が天羽々斬を偶然覚醒させてくれたおかげで、私はここにいるの」

 

 

あたしの疑問は晴れたが、その結果は決していいものでは無かった。

フィーネの奴は肉体を奪いながら転生を続けてきた、しかも今回の転生は人気者が関わってる

らしい。

あいつは少なからずショックを受けてるようだが、何時までもフィーネが待ってくれる

なんてことはあるまい。

 

だから、あたしは響達に最後の確認をする事にした。

必要ないとは思うが、本当にフィーネと戦う気があるかどうかを。

 

 

「真に恐ろしいのは、恋する乙女って奴だって事か…。で、これを聞いた響や人気者

はどうする?」

 

「聞かれるまでも無い、防人として見過ごすわけにはいかない!」

 

「月を穿つだなんて、そんなの全然わかんないけど。とにかく今は、了子さんを止めないと

いけない事なのはわかるよ、クリス!」

 

「OK。んじゃ決意表明もさせてもらった事だし、そろそろ行かせて貰うぜフィーネ!」

 

「黙れ!誰にも邪魔はさせないと言ったはずだ!!」

 

 

あたしは響と人気者と共にフィーネに対して、いやフィーネの後ろに

そびえ立つカ・ディンギル目指して攻撃を開始しする為に駆け出した。

一方のフィーネもカ・ディンギルの発射準備を始め、あたし達を迎撃する気の様だ。

 

まずあたしが先陣を切り、腰のリアアーマーから、大量のミサイルだしフィーネに対し攻撃する。

 

            [MEGA DETH PARTY]

 

それを鞭で薙ぎ払い、撃ち落すフィーネ。

撃ち落した爆風で視野が奪われる。

それを利用し、響と人気者が突っ込んでいく。

 

響と人気者、二人掛かりでフィーネの相手をするがフィーネは余裕すら感じられる。

そして、その間にもカ・ディンギルの発射準備は整っていく。

あたしも攻撃に加わりたいが、下手に撃つと連携のとれてないあたし達だ。

同士討ちになりかねない。

 

だからあたしは、2人がフィーネを足止めしている間にカ・ディンギルを直接叩くことにした。

まず、ギアから巨大なミサイルを2本生成して1本はフィーネに、そしてもう1本をカ・ディンギル

へと放った。

 

            [MEGA DETH FUGA]

 

当然、カ・ディンギルに向かう方を無視できないフィーネはそちらを撃墜する。

あたしはその隙をついてフィーネを狙っていたミサイルに取りつき、カ・ディンギルの遥上空に

飛び月との射線に割り込んだ。

 

そこから直接カ・ディンギルを攻撃しようと思ったのだが…、カ・ディンギルの発射準備が整った

ようでその砲門から高出力のエネルギーが覗いているのがあたしの視界に入る。

もう、下手な攻撃では間に合わないだろう。

 

 

「クリス!?」

 

「何をする気だ!」

 

「…射線に入ろうが所詮は玩具!纏めて吹き飛ばしてくれる!!」

 

 

フィーネは一瞬だけ戸惑ったようだが、その攻撃が止まる様子はない。

このままではあたしごと薙ぎ払われる、だがここで逃げるのは論外だ。

だから、あたしは歌う事にした。

歌って止めれる保証は無いし、先の一戦で本調子には遠いがそれでもれしか止める手段は無い。

だからあたしは歌うんだ、これが最後になるかもしれない歌…絶唱を。

 

 

 

 

 

 


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