戦姫絶唱シンフォギアー狂ったココロー   作:マンセット

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第八話 カ・ディンギル

 

 

ヘリで戻る途中、私は雪音クリスを尋問した。

立花が止める為力に訴える事は出来なかったが、彼女は

意外な程素直に話す。

だが、それは私達の耳を疑うような話だった。

 

 

「櫻井女史が今回の黒幕…、フィーネだと?」

 

「ああ、間違いないね」

 

「嘘…。だって、了子さんと全然雰囲気が違うじゃないですか!」

 

「おいおい、響は本当に気が付いてなかったのかよ?」

 

 

彼女は呆れた様に立花を見ているが、正直な所信じがたい。

私達が纏ってるシンフォギアは、櫻井女史の提唱する「櫻井理論」に

基づいて作られている。

 

もし彼女の話が真実であるなら、一連の騒動は盛大なマッチポンプの

可能性が出てくるのだ。

いや、可能性ではない。

正真正銘、マッチポンプであろう。

 

では、それを身に纏い戦ってきた私達は何だ?

出来の悪い道化ではないか。

 

本部で何が起こってるにせよ、私は櫻井女史に問いたださねば

ならないようだ。

事が公になれば、叔父様どころか二課の存続だって危うい。

それに彼女が言う櫻井女史の目的…

 

 

「『バラルの呪詛』に『カ・ディンギル』か。一体何を指している?」

 

「放逐されたあたしが、知ってるはずねぇだろ。想い人ってのもわかんねぇん

だぞ。想像できんのは、あんた達の本部で『カ・ディンギル』とやらを作ってる

って程度だしな」

 

「その様な怪しげな物作っていたとして、誰も気づかぬわけがない!」

 

「さぁね。案外、小さい物なのかも知れねぇ。あんた達のトップに気が付かれて

それを取りに襲撃したって線も有るぜ。」

 

 

…なるほど、彼女の言葉も一理ある。

「櫻井理論」を提唱した女史には、本部で最先端の異端技術(ブラックアート)を

研究しているのだ。

あそこの設備でしかできなかった物も、きっとあるはず。

叔父様に悟られたから、それを取りに襲撃を行なうのもうなずけなくはないが…

一通り彼女から聞いた私は、意味も無い思考の渦に捕らわれていった。

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、クリス。私が皆を説得できなかったから…」

 

「馬鹿、何言ってやがんだ。あたしは十分響に助けられてるよ」

 

 

人気者はあたしの答えに満足したのか、考え事をしてやがる。

そのおかげで、響とまともに会話できるのだが…いきなりこれだ。

悪いのは全部あたしなのに、響が落ち込んでしまった。

 

 

「でも、私がもっt…」

 

「それ以上言ったら怒るからな。何度でも言ってやる、響は悪くない。こんな

あたしを、助けようとしてくれてるんだしな」

 

「クリス…」

 

「それにフィーネは事を起こしたんだ。もう義理立てしなくてもいいだろうさ」

 

 

フィーネが何をするのかは分からないが、もう十分黙っていたのだ。

あたしに逃げ道がない以上、喋ったところで問題ないだろう。

どうせ肝心な事は知らないのだ、今更の話である。

 

 

「後は、響達がフィーネのやる事を止めるのを待つさ」

 

「クリスは?」

 

「あたしか?響には手錠が見えないのかよ。あたしは響達の上の判断待ちだろな」

 

「そう…だよね」

 

 

もっとも、あまり楽しい結果になるとは思えないけどな。

今から戦いに向かう響に、余計な心配をかけたくないからあたしは黙っとくが。

 

そして、この会話を最後にあたし達が乗るヘリは沈黙に包まれる。

現場までの話題が無いのだ、当然だ。

もっとも、その沈黙は直ぐ破られたんだが。

ヘリで進むあたし達の目に、奇抜な模様の建造物が姿を現したからだ。

 

「何、あれ…?」

 

「あれは、塔か?」

 

「おいおい、リディアンっての何時の間にあんな悪趣味な塔を建造したのか?」

 

 

そう、パッと見は塔に見えるのだが尺度がおかしい。

明らかに他の建造物より抜きんでている。

しかもその方角は目的地、私立リディアン音楽院なのだ。

 

おそらく、あれがフィーネの行った『カ・ディンギル』なのだろう。

あんな馬鹿でかい建造物がどうやって出来たのかは疑問が残るが、それは

今考える事じゃない。

『バラルの呪詛』とやらを壊す一品らしいが、いよいよ嫌な予感がしてきた。

 

 

「おい、人気者」

 

「なんだ」

 

「正直に答えろ。あんた、響と二人であれを壊せるか」

 

「無論…と言いたいが、やってみないと分からない。で、何が言いたい」

 

「あたしを連れてけ、何なら首輪でも付けるか?」

 

「ふざけるな!」

 

「ふざけてなんかねぇよ。アレはなんだか知らないが拙いだろ。響と2人で

止めれる保証はあるのか?」

 

 

今まで育ててもらった恩もある、出来ればフィーネとは戦いたくなかった。

だけどアレは別だ、なんだか知らないけど響と人気者の2人だけで行かせる

と拙い気がする。

だからあたしは、ダメ元で人気者に対して協力を申し出てみた。

 

 

「しかし…!」

 

「今更逃げねぇよ。そんな事したら響が悲しむじゃないか」

 

「クリス!」

 

「こ、こら。こんな時に抱き着くな、響!」

 

 

あたしの言葉に感激でもしたのか、響が抱き着いて来た。

別に嫌ではないが、時と場所を選んでほしい。

恥ずかしさもあり、身動ぎしてなんとか響から離れる事が出来た。

 

 

「ったく、今そんな事してる暇はねぇだろ?で、どうするんだ」

 

「…いいだろう。だが、逃げる事は許さない」

 

「あったり前だ、誰が逃げるかよ」

 

 

人気者もあの塔のヤバさを肌で感じ取ったようだ。

あたしを開放した場合のリスクと、これからの戦闘を事を考えたのだろう。

多少の逡巡の末、あたしの協力を受け入れた。

手錠が外され自由になる両手、後は仲良くギアを纏って突っ込むだけだ。

 

 

「…よし、あたしの準備は出来たぜ。あの悪趣味な塔の破壊ついでに、フィーネの

奴の面でも拝みに行くか」

 

「ふん、立花共々足を引っ張るなよ」

 

「おいおい、あたしはともかく立花は仲間だろ?もう少し優しくしてやれよ」

 

「私は大丈夫だよクリス。それより、今は皆の所に行かないと!」

 

「先に行くぞ、遅れるな!」

 

「あ、おい!ったく、あいつカルシウム不足なんじゃないか?」

 

「そんなこと言っちゃだめだよ、クリス。私達も急ごう!」

 

「そうだな、遅れたら煩そうだ!」

 

 

フィーネとこれから対峙するのに、あたしの心は落ち着いている。

響がいるおかげだ。

あたしは響を助けたい、響は皆を助けたい。

人気者は良くわからないが、助けたい気持ちはあるはずだ。

だから、フィーネには悪いがその企み、あたし達が阻止してやる!

 

 


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