戦姫絶唱シンフォギアー狂ったココロー   作:マンセット

3 / 16
第三話 過去と友達

私は、クリスとの会話に暫く打ちひしがれていた。

最初はどうしてそんな酷い事が言えるのだろうと思った。

けど、違った。

 

酷いのは私だ。

私が未来を傷つけるんだ。

どうして思いつかなかったのだろう?

いつも一緒にいるから?

陽だまりの様だと思っていたから?

それとも…、2年前のあの日から?

 

元々未来とは大分仲が良かったけど、あそこまで

親しくなったのは2年前の事件以降だと思う。

 

2年前のあの日、私は確かに救われた。

でも、元々2人で見に行くはずだったライブだ。

未来が悪いわけじゃないけど、結果として私だけ

向かって事故が起きた。

 

今にして思えば、未来が気に病むのも当然だ。

でも、私もあれから色々あった。

とてもじゃないけど、支えてくれる未来の事を気に

かける余裕なんてなかった。

 

そして、今の関係になった。

私の一番の友達、掛替えのない唯一無二の親友。

 

でも、その関係に私が甘えてるとしたらどうだろうか?

本当は居るだけで未来を苦しめてるんじゃないだろうか?

 

確かな事は、私は今捕らわれの身である事。

そして、その事が間違いなく未来を苦しめると言う事だけだ。

 

こんな事を考えていると、ふとクリスの事が気になった。

どうして、私にこんな質問をしたのだろう…と。

 

 

「ねぇ、クリス」

 

「なんだ、間抜け」

 

「私はクリスの質問に答えたんだから、今度は私が質問してもいいんだよね」

 

「っ。…あぁ、かまわないぜ。何が気になったんだ?」

 

 

私に質問する気力なんてないと思ってたのだろう。

ニヤニヤと、私を眺めていたクリスは一瞬だけ驚いてから返事をしてくれた。

 

 

「どうして、私が気が付かない事を教えてくれたの?どうして、こんな質問をしたの?」

 

「どうして…、か。それはな、てめぇのその歪んだ顔が見たかったからだよ」

 

「え?」

 

「私はてめぇの「私善人です」って面が歪む事に、心から楽しめるんだよ。あ、勘違いする

なよ。別にお前が特別嫌いって訳じゃないし、嫌っても無い。」

 

「なら、どうして!」

 

「いうなればこれは私の性分、あたし自身腐ってるとしか言いようがないが、直す気なんて

ないね。そうだな、一つ昔話をしてやろう」

 

「昔…話?」

 

「そうだ。とある少女の話。もしかしたら、ただの心優しいくて弱かっただけ

かもしれない女の子の話さ」

 

 

そうして、クリスは私に昔話を始めた。

 

 

「その少女にはとても優しい両親が居た。有名だが、時間の限りかまってくれる優しい

親だ。だけど、その両親は死んだ。いや、殺された。」

 

「殺されたって…」

 

「バル・ベルデ共和国って国に行った先で…な。しかも、危険な場所に娘を連れて行って

たもんだからさぁ、大変。少女は哀れ悪い人たちに捕まり、乱暴されてしまいました」

 

「乱暴って…酷い!」

 

「あ?そんな所に居る方が悪いんだよ。両親は好きだったが、やった事は最低だと

今でも思ってるさ」

 

「そんな…」

 

「日々乱暴される少女、でも少女はそれが嫌じゃなくなっていった。あ、別に感じてた

とかそんな生々しい話じゃないからな」

 

「何で嫌じゃなくってたの?そんなのおかしいよ!」

 

 

クリスの口から聞かされる衝撃の出来事。

私には想像も出来ない事だけど、それ以上になんで嫌じゃなくなったのかが気になった。

 

 

「少女は心にある歪みを持ってた。それは人を傷つけたい、苦しめたいという心だ」

 

「そんな…!」

 

「少女自身、その心には気が付いてなかった。恐らくあんな事がなければ気づきも

しなかったはずだ。でも、少女に否応も無しに気づかせられた。欲に塗れた大人たちのせいでな」

 

「でも、それだけじゃ嫌いにならない理由にならないはずだよ!」

 

「何言ってるんだ?あたしに気が付けない感情を教えてくれたんだぞ。寧ろ感謝したい

くらいだね」

 

 

私はクリスが言ってる事がまるで理解できなかった。

多分、私が子供とかそんな理由じゃない。

考え方そのものが違うんだ。

 

 

「それで…、その後どうなったの?」

 

「少女は地獄に居たが、救いの手が来たんだよ。まぁ、今の私の飼い主って言ってもいい奴が

最終的にその横から掻っ攫っていったけどな」

 

「なんで、なんで攫われたの?」

 

「てめぇ、気がつかねぇとか何処までパーなんだよ。あたしが適合者だからに決まってるだろうが」

 

 

誘拐された理由が適合者だから…?

私も今、それが理由で誘拐されているけど。

その時のクリスは多分、起動すらした事が無いはずだ。

だから、私には理解できなかった。

 

 

「そんな事で…?」

 

「馬鹿かてめぇ、あたしらどんだけ貴重だと思ってるんだよ。ノイズと戦える人間、しかも

その武装は取り扱いを間違えれば大参事間違いなしな挙句に、日本にしかまだいないときた」

 

「私も翼さんもそんなことしない!」

 

「あぁ、てめぇらはしないだろうな。じゃあ、私は?まだ見ぬ別の誰かは?暴れる奴が1人でも

居ればそれは真実になる」

 

「そんな事…」

 

「無いって言いきれないだろ?まぁ、どちらかといえばこいつから発生されるエネルギーの方が

上の人間には大事だろうが。って、いつの間にか昔話からギアが危険か否かになってるじゃねーか」

 

 

クリスとの会話は昔話から逸れたものの、私には十分衝撃的だった。

確かに、この力はノイズに対して有効だ。

でも、別にノイズ以外に対してだって有効なのだ。

私はそこまで破壊をまき散らせないが、翼さんの攻撃なら戦車だって切れるかも

しれない。

しかも、変身しなければ見た目は一般人と変わらない…。

 

これで危険じゃないと言うのなら、何が危険なのだろうか?

そんな危険な物と融合した私は何なのだろうか?

私は、また気づけなかった。

 

 

「えっと…、そうだそうだ。あたしが攫われてからの話だな。攫った奴は色々歪んでる

し、あたしを駒程度にしか見てないが、あたしを育ててくれたんだ。一応、感謝してる

んだぜ?」

 

「そんなの、駒にしか見らてないなんて…」

 

「仕方ねーだろ。あたしの他に想ってる奴が居るんだ。あたしじゃまがい物にすら

なれやしねーよ」

 

「想ってる人…?」

 

「あぁ。あたしも詳しくは知らないが、これ以上話すとてめぇが逃げれなくなっちまうから

教えれないけどな。随分横道が多かったが、結論を言っちまうとあたしは、もう

どうしようもなく歪んでるって事だけさ」

 

「そんなの、悲しすぎるよ…」

 

「こんなあたしの為に悲しめるなんて、てめぇやっぱ変わった奴だよ」

 

 

クリスはそう言うけど、私は彼女がおかしくなったのは全部周りが悪いと思う。

なんで皆クリスに対してこんなに酷い事ができるの、おかしいよ。

 

クリスは両親が死んでから一人ぼっちだ。

今の彼女を育てた人だって駒にしか見てないし、こんなの悲しすぎるよ。

だから、私は自然と言葉が出た。

 

「ねぇ、クリス。私と友達にならない?」

 

「…おい、てめぇマジで頭大丈夫か?自分が今何言ってるのかわかってるのか?」

 

「わかってる。私の、この気持ちは同情かもしれない。でもクリスと友達になりたいんだ」

 

「誘拐犯と友達になりたいとか…、てめぇ面白すぎるだろ」

 

 

クリスは私が正気かどうか目を白黒させながら聞いてきたが、私は本気だ。

同情と罵られても構わない、私がクリスと友達になりたいんだ。

 

 

「いいぜ、あたしとてめぇ友達になってやろうじゃないか」

 

「てめぇじゃなくて「響」だよ」

 

「ははっ、言うじゃないか!そっから出してはやれねぇが、これから宜しくな響」

 

 

てっきり断れるかと思ったけど、それは杞憂だった。

そして、私とクリスは奇妙な友人関係となった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。