戦姫絶唱シンフォギアー狂ったココロー   作:マンセット

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第二話 心の切開

「お望み道理連れてきてやったぜ。今は牢屋でお寝んねしてるはずさ」

 

「そう、ご苦労様」

 

「で、あんなの攫ってどうするんだ?まさかこんなところでバラすなんてねーよな?」

 

 

あたしは自分が思った疑問をぶつけてみる。

別に殺しが気になるわけじゃない、ここでやられると臭いが残るのだ。

それに…、まだあいつで「あたし」が楽しんでない。

殺るにしても後にしてほしいものだ。

 

 

「そんな面倒な事しないわよ。ただ、ちょっと向こうでは出来ない実験をするだけ」

 

「へ、そーかい。あたしはこれからどうすればいい?」

 

「そうね…、まだ少し準備が残ってるから適当にあの子で遊んでていいわよ」

 

「そいつは嬉しいねぇ、いい暇つぶしが出来そうだ」

 

 

どうやらあたしは運がいい、フィーネの機嫌もいいようだしたっぷり遊べるだろう。

どんな事をしてえぐれば、あの「私善人です」って主張している顔を歪ませてくれるのだろうか?

 

 

 

 

私が許可を出すとクリスは嬉々としてあの子の元へ向かっていった。

 

 

「どおして、あの子はあんなに歪んでるのかしら」

 

 

そう呟き、私は自嘲した。

どうしてもこうしてももない、私がクリスを歪めたのだから。

ただ、私のせいだけじゃない。

クリスの方にも問題があった。

 

私がクリスを攫ってきた時、道具として鍛えるはずの彼女に興味を持った。

理由は簡単、その心が歪なのだ。

クリスは確かに善人であった。

だが、内面には自分でも気づかない程の「闇」を抱えていた。

それが「あの環境」で開花しかけていたのだ、興味を持たぬわけがない。

 

 

「まるで、心の原石だったわね」

 

 

親から貰った善人の心と過酷な環境で芽生えた黒い心、両方育てたらどうなるだろうか?

その結果があの子だ。

あの子は人を慈しみ悼む心がある。

それと同時に、人を傷つけ苦しめる事にも喜びを感じる酷く歪な心を持ってしまった。

 

間違いなく「善」ではない。

だけと私程「悪」でもない。

 

 

「ただの道具のつもりだったのに…」

 

 

本当に、見てて飽きない子だ。

あれはまるで歪んだ鏡といってもいい。

 

「あの鏡」の方が今のギアよりよほど似合っている。

案外、向こうの方が適合係数が高いかもしれない。

あれを米国に渡したのは間違いだったかもしれないわね。

 

だけど、私の目的の為には躊躇なくすりつぶせる程度だ。

でも、出来る事ならしたくは無い。

 

 

「本当に、この身体になってから私はどうかしているわ」

 

 

そう一人呟きながら次の行動の為、私は準備を進める事にした。

 

 

 

 

 

「おい、起きな!間抜け!!」

 

「っ…。ここは?」

 

「よーやく目覚めたな、この間抜け。よぉこそ、私達のアジトへ。歓迎するぜ」

 

「貴女は…」

 

 

どうやら、あたしの事をなんて呼んでいいのか困ってるようだ。

ま、名乗るなとフィーネに言われてるわけじゃない。

この程度なら教えてやるか。

 

 

「そういや名乗ってなかったな。ここにはてめぇしかいないんだ。特別に教えて

やるよ、あたしは雪音クリス。ちゃんずけで呼びやがったらぶん殴るからな!」

 

「っ!クリスは…、どうして私を攫ったりしたの?」

 

「そんな事あたしに命じた奴に聞きな。ま、これから楽しい実験の日々ってのは保障し

といてやるが」

 

「じ…、実験?」

 

「そうさ、いい子ちゃんなあんたが泣き叫ぶような実験だろうよ」

 

 

その様子を想像したのだろう、間抜けの顔から血の気が引きその間抜け面が更に

際立って行った。

その様子にあたしは興奮したが、ここで逆上されても困る。

釘を刺すと同時に、少しは安心させてやらないとな。

 

 

「変な事考えるんじゃねーぞ、もし暴れたりしたら小日向未来って奴に被害が及ぶんだからな」

 

「!!未来には手を出さないで!」

 

「てめぇが暴れなきゃ、ださねぇよ。それに安心しな、別にぶち殺したり手足をぶった切ったり

はしないはずだぜ。せいぜい怪しい薬と電気攻め位だろ」

 

 

あたしの慰めにもならない言葉をどう受け取ったのかは不明だが、間抜けは少しは

落ち着いたようだった。

これなら、あたしと楽しい「お話」ができるだろう。

 

 

「落ち着いたか?なら、少し話をしようじゃないか。あんたはあたしの質問に答える。

そしてあんたが答えたなら、あたしはあんたの質問に答えようじゃないか」

 

「本当…?」

 

「あぁ。あたしは都合の悪い時ははぐらかしたり、そこだけ抜いて話すが嘘はつかねぇよ」

 

「なら、クリスは私の何を聞きたいの?」

 

「最初の質問はやっぱこれだよな。てめぇと小日向未来って奴との関係だよ。特に、てめぇが

今現在してる事を知ってるのかが興味があるな」

 

 

本当は戦う理由とか、そっちからえぐっても良かったんだがあたしは何となく気になった

こちらからえぐる事にした。

唯の親友にしては随分とご熱心みたいだからなぁ。

 

 

「未来は、未来は何も知らない…。この事は全然、何も知らない」

 

「おいおい、親友に隠し事か?いぃ身分だねぇ。それともあれか?所詮その程度

の思いだってことか?」

 

「違う!私は未来を巻き込みたくなった、ただそれだけだよ!」

 

「いいや、違わない。そもそもてめぇ、その親友の気持ちを考えたことがあるか?」

 

「え…?未来の…、気持ち…?」

 

「当然だ、親友なんだろ?まさか、何でもかんでも伝えなくても分かってくれる、何を

したって無条件で自分の傍に居てくれる…、なんて都合のいい存在と思ってるわけじゃ

ないないだろ?」

 

「あたりまえだよ!私は未来にそんな酷い事思ってない!!」

 

 

思ってた以上だ、こいつは可笑しい。

こいつの思いは本物だろう、おそらく未来って奴も同じくらいかそれ以上に思っているはずだ。

だからこそ、そこをえぐればどうなるか?

話し終え無事戻れたとして…、こいつはまだその親友とやらに変わらぬ思いで接し続けられる

のかねぇ。

 

 

「なら、どうして隠す。遊びじゃないんだ、怪我したり死ぬことだってあるだろう。そんな

時、その出来事で初めて知らされる親友の気持ちを考えたことはあるのか?」

 

「そ、それは…」

 

「ないだろうな。別に人助けが悪いなんて、あたしは言わねぇよ。多分、その親友だって

思わないだろうな。だが、これとそれとは話が別だ。お前ある日突然親友が死んで、その事

を全く知らない大人に告げられて納得できるのか?その人を恨まずにいられるのか?変わらぬ

日常を過ごせると思っているのか?」

 

「あ…、あ…。わ、私そんなつもりじゃ…」

 

「結局、てめぇは人助けしたいという自分勝手でな思いで、かけがえのない親友を

傷つける最低のヤローだって事だ。今ここにてめぇいるだけで、どれだけその親友

とやらが傷ついてるんだろうなぁ?」

 

「あ…、ああ…。ごめんなさい…、ごめんなさい…」

 

 

とうとう泣き出しちまったか。

でも、まだ私は手を緩めない。

一旦こいつの思いとやらを粉々に砕いて、どう立ち直るのか見てみたいからだ。

 

 

「あたしに謝ったってなんにもなんねーよ。それに、あんたのそれはもう病気だろ。早めに

親友を開放してやった方がいいんじゃねーのか?」

 

「開放…?」

 

「あぁ。これからも戦うってのなら、小日向未来との親友関係を解消するんだよ。そしたら

小日向って奴は大きく傷つきはするだろうが、やがて日常に戻れてお前の事だって忘れ

られるし、脅迫材料にもならなくなるだろうな」

 

「そんな…、未来と離れるなんて!」

 

「んじゃ、どーするんだよ?てめぇ、自分の為に親友を永遠に苦しめる気かよ?はたして

どっちが小日向って奴の為になるんだろうな」

 

「そんなの…、そんなの!」

 

「まぁ、時間はたっぷりあるんだ。せいぜい後悔しない様考えな。離れるチャンス

はショックの大きい最初の1回だけだろうよ。それを過ぎればずるずるとその関係

が続くんじゃないか?」

 

 

芽は撒いた、後は花をつけるのを待つだけだだけだ。

まぁ、それ以前にフィーネがこいつを開放する気がなければ意味のない話なんだけどな。

米国に売り渡すって事も十分あり得る。

そうなったら詰らない結果となるが、仕方ないだろう。

こいつの運が悪かったって話なだけだ。

 

 


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