戦姫絶唱シンフォギアー狂ったココロー   作:マンセット

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第十三話 あたしの帰る場所

 

 

「ここ…は、病室か。あたし、生きてたんだな」

 

 

あたしが目を覚ました時、事件から一ヵ月過ぎていた。

一時は危篤状態が続いたらしく、響に泣きつかれてしまった。

 

事件の事を響から聞いたがフィーネは死亡、最後の抵抗で月の欠片を

地球に落そうとしたが響達が軌道をそらした事で阻止されたらしい。

フィーネが最後に何を話したのかは、響は教えてはくれなかった。

 

フィーネが死んだ、響から聞いても正直な所実感がわかない。

なにせ本人の死体も見てない上、フィーネの話を信じるならいつかまた

復活するって話だしな。

 

次に気になったのはあたしの事だ。

てっきり裁判なり色々あると思ってたんだが、まさかの御咎めなしだった。

イチイバルを取り上げられても無く、響と離れ離れになっても無い。

 

正直な所あたしが言うべき事じゃないんだろうが、甘すぎないだろうか?

そんなあたしの疑問に答えてくれたおっさん、風鳴指令の話だとどうも昔

あたしの保護を命じられた最後の生き残りらしく、随分あたしの事を気にし

ていたらしい。

 

親切の度が過ぎる気もするが、あたしに不都合がないのだからその好意は

ありがたく受け取るべきだろう。

 

 

 

 

 

俺は事件の後、事後処理に追われていた。

なにせ、国が秘匿していた対ノイズ兵器であるシンフォギアで月の破片を止め

更にその原因だって完全聖遺物の力だ。

止めに黒幕が特異災害対策機動部二課の人間なのだから、忙しくないわけがない。

俺の進退云々以前に、大規模な国際問題に発展した。

 

まず、米国が激しく非難しそれに乗るように近々国家や野党等が便乗。

一時は二課の存続も危うかった。

だが、米国の提案に乗る事によって米国の態度が一転し、そこに意外にもEU連合が

便乗した為首皮一枚で解体を免れた。

米国の一転した要求の方は日本のシンフォギア技術を求め、便乗したEU連合の方は

喪失したデュランダルの代償として更なる不良債権の肩代わりを日本政府に飲ませた。

 

これによって情勢は一応落ち着きを取り戻したが、今度は俺の進退の話になった。

話し合いの結果、後任がおらず今の混沌とした情勢で下手に首を挿げ替えるのは拙い

との判断で、問題が無いわけではないが俺が続投する形となるようだ。

 

最後に雪音クリスの件で少々揉めたが、彼女は誘拐され利用されただけで最終的には

こちらの味方をしてくれていたからと無理を通して、何とか保護観察は着くが概ね無罪

を勝ち取る事ができた。

その事を彼女に話したが、最初は信じてくれず少し問答が続いた。

 

 

「で、おっさん。あたしの裁判はいつになるんだ?目が覚めたんだ、当然あるんだろ?」

 

「裁判?何のことだ、君は俺達に協力した協力者じゃないか」

 

「おいおい、冗談はやめてくれよ。あたしが裁判も無しで野放しになるわけがないだろ」

 

「暫く監視は着くだろうが、君は自由だ。勿論、今後は二課に協力して貰う事になるがね。イチイバルも検査が終われば君に渡す予定だ」

 

「それ本気で言ってるのか?あたしは響を攫ったしデュランダルを奪ったんだぞ!」

 

「だが、響君は無事戻ってきたし、君もあの戦いに参加してくれた。おかげで俺は

擁護しやすかったよ」

 

「…なんでだ?なんであたしなんか庇ってんだ?」

 

 

彼女にしてみてれば、俺の行動は理解できないようだ。

確かにあれだけの騒ぎ、普通に考えれば見ず知らずの人間に擁護されるなんて

思っても無いだろうな。

だが俺には理由がある、後悔と言ってもいい理由が。

 

 

「昔、君の保護を命じられたからな」

 

「昔って、あたしがフィーネに攫われて行方不明になった時か?」

 

「そうだ。もっとも、もう俺一人になってしまったがね」

 

「何年前の話だと思ってんだよ!」

 

「関係ないな。引き受けた仕事をやり遂げるのは大人の務めだからな」

 

 

俺の言葉に、彼女は随分迷ってるようだ。

そして暫く考えた後、その重い口を開いた。

 

 

「…こんな時、あたしはどうすればいいんだよ?感謝の言葉でもいえばいいのか?」

 

「なに、俺がしたい事をしたんだ。君が気にすることじゃない」

 

「クリスだ。雪音クリス。何とでも呼べよ、ただしちゃんずけはやめろよな」

 

「了解だ、クリス君。俺は風鳴弦十郎。特異災害対策機動部二課の司令官だ」

 

「風鳴?」

 

「君は翼の事も知ってたな。俺は翼の叔父だ」

 

「なるほどね。こちらこそ宜しく頼むぜ、風鳴指令」

 

 

彼女は羞恥でも感じているのか、少し強引な笑顔で俺の名前を呼んだ。

余り人の名前を呼ぶことに慣れてないのだろう。

だが、これからはいくらでも機会があるのだ。

少しづつ直していけばいい。

 

 

 

 

 

あたしに御咎めが無いとはいえ、個人的感情が良くないであろう人気者、風鳴先輩

とも一応表面上とはいえ和解の方はできた。

御咎めなしの上これからあたしも二課の世話になるんだ、和解できた事は

響の負担も考えるとよかった事だと思う。

 

まぁ、いきなり敵だったあたしが「風鳴先輩」なんて言った時の顔はすごい

事になってが。

一応二課の先輩であたしもリディアンに通う事になるらしいので、表裏両方の

意味で先輩なのだから呼び方は間違ってないはずなんだが、いきなりはまず

かったようだ。

 

 

 

 

 

「よ、待ってたぜ」

 

「何の用?」

 

 

私が発令所に向かう途中に彼女、雪音クリスが声を掛けてきた。

彼女に対して、私は複雑な感情を持っていた。

叔父様は二課の指令の座から降ろされず、二課も存続が決定済みとはいえ私は彼女と

三度刃を交えているのだ。

しかしながら、あの戦いでは共に轡を並べフィーネの野望を共に砕き、叔父様が擁護

した為彼女は無罪だ。

 

今は敵ではない、共闘だって状況に流された為とはいえ彼女は命まで掛けて戦った。

しかしながら、刃を交えて戦った時の暴言の数々は許せるものではない。

私はこの胸に淀んだ気持ちをどうすればいいのか。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼女は少し躊躇いがちに話を切り出した。

 

 

「あたしのガラじゃないんだが、あの時の事を謝っておこうと思ってな」

 

「不要よ、私は貴女となれ合う気は無いわ」

 

「だろうな。だが、これからは嫌でも顔を合わせるんだ。お互いの為にも和解しとか

ないと後が怖いからな。別にわたしを好きになってくれなんて、厚顔無恥な事は言う気

は無いぜ。ただ、余計な諍いを避けたいだけさ」

 

 

確かに、立花の時のように事あるごとに味方と対峙しているのは問題だろう。

それに彼女は妥協案と言うべき提案をしてきた。

この胸の気持ちが整理できるまでは、彼女の提案に乗るべきだろう。

 

 

「そうね、最低限の会話はする。それでいいかしら」

 

「ああ。あたしが悪いんだ、それで十分だ。色々とすまなかった、これからは宜しく

頼むぜ風鳴先輩。あたしの事は雪音でもクリスでも好きに呼んでくれ。あ、ちゃんずけ

だけはすんなよ」

 

「っ、いきなり何を言い出すのよ!」

 

「ん?何かおかしかったか?」

 

「貴女が先輩だなんて、似合わない事言うからよ」

 

「あたしもリディアンに行く事が決まってるだろ?二課でも学校でも、これからあんたが

先輩になるんだ。それに風鳴だけだと風鳴指令とかぶるし、先輩だけだと学校で区別で

きねぇだろ。あたしは使い分けとか苦手なんだ」

 

 

彼女の呼び方に私は驚いたけど、説明されると一応納得できた。

私の事を人気者で固定していたのも、煽りだけではなく素が混ざってたようだ。

 

 

「その説明で納得しておくわ。一応、こちらこそ宜しく頼む雪音」

 

「ああ、これから仲間って奴なんだ。期待してていいぜ」

 

 

雪音はそれだけ伝えると、私とは逆方向に歩いて行った。

恐らく、立花を探しに行ったのだろう。

私もこちらも気持ちの整理ができたとは言い難いが、立花とも早めに話し合う

べきなのだろうな。

 

 

 

 

 

最後に響だが、あたしが知らない間に友達との関係を解消してたらしい。

目を撒いたのはあたしだけど、あの歌の件もあるし花が開いてるとは思ってなかった

から驚いた。

話によると響の方から解消し、その友達小日向未来が受け入れたと言う事だ。

正直、響の性格からしたら信じられないのだが、あたしはその事に口を出す気は無い。

 

時より見せる暗い顔を見ると種を撒いたときと違い、和解した方が響にはいいのだろう

と思うが、あたしはこんな関係になるまで気が付かなかったが独占欲が強いらしい。

だから響には何も言わないし、今まで道理響がいればそれでいい。

 

 

 

 

 

あの戦いが終わった後、色んなことがあった。

まずクリスの緊急入院。

一回ギアが解除される程のダメージを負った上での絶唱は、クリスを生命の危機に陥れた。

暫くは面会謝絶が続きクリスの顔さえ見れず、私は酷い状態だったとあおいさんが教えてくれた。

 

私は学校にすら通える状態ではなかったが、機密保持とか色々あってこの間は身を隠す事になった。

その後少し経ってから、面談謝絶が解けると私は毎日クリスの元に通い、面会終了時間までそこにい

る事が日課になった。

 

更にしばらくすると学校にも通えるようになったが、未来との関係は相変わらずだ。

私は未来を巻き込みたくないから、このままの関係で問題ないと思いたい。

じゃないと、今の私は未来にまた頼ってしまうから。

 

そんな状態が一ヵ月続いた後、ついにクリスが目を覚ましてくれた。

私はそれをみて思いっきり泣きついてしまったが、仕方ない事だよね。

クリスは色々心配していたみたいだが、弦十郎さんのおかげで離れ離れになる事は無かった。

 

クリスが起きて少ししてから、翼さんとも話す機会ができた。

そこで、私がどれ程翼さんを傷つけてたか知る事になる。

私の無神経な言葉の数々が、翼さんを傷つけていたのだ。

また私は気が付いてなかったのか打ちひしがれるが、そんな私を翼さんは許してくれた。

やっぱり翼さんは優しい人だ、だから今度こそ迷惑を掛けないようにしないと。

 

他には、クリスが未来の事を気にしているようだった。

多分あの戦いの時、皆の歌を聞いたからなんだろうけど私が今の関係を正直に言うと随分驚かれた。

 

 

「響、あたしを騙そうとしてるとかじゃないよな」

 

「騙すだなんて!…私と未来は今は本当に友達じゃないよ。クリスが教えてくれたんだし」

 

「じゃあ、あの時の歌は単に響を心配したから、向こうが勝手に歌ったって事か?」

 

「うん、ちゃんと話し合ってないけど多分そうだと思う。私、また未来に頼っちゃった」

 

 

私がそう言って暗い顔をしていると、クリスは励ます様に話を続けた。

 

 

「あれはしょうがねぇだろ。向こうが勝手にした事だし、それで響が助かったんだ」

 

「そう、だよね」

 

「誰が適合者ってのはまだ伏せられてるらしいが、シンフォギア自体はもう世界にバレ

たんだ。相手の安全を考えるなら響は寂しいだろうが、今のままで良いんじゃないか」

 

「だよね。人助けを辞める気は無いけど、私は未来を巻き込みたくない」

 

「ま、あたしが一緒にいるし響は寂しくないだろ?それに、あたしは仲良くって訳には

いかないが、風鳴先輩だって居るんだ。響は一人じゃないさ」

 

 

クリスは励ましてくれるが、私はその言葉に違和感を感じた。

翼さんの時だけ自分を勘定に入れてないのだ。

 

 

「クリスは、翼さんが苦手なの?」

 

「どっちかといえば双方が、だろうな。あたし達は三回やり合ってるんだぜ、一回一緒に

戦ったぐらいで納得できるもんじゃないさ。ま、長くやっていけば関係も変わるんじゃないか?」

 

「そうだよね、無理に仲良くしようとして嫌われたら駄目だよね」

 

「響にしては以外、でもないか。響も風鳴先輩と色々あるんだったな」

 

「私は翼さんと話し合って今は大丈夫だけど、時間をかける事も大事なんだね」

 

「気にするなって言っても響は無理かもしれないけど、あたしは大丈夫だからな。なんたって

響が居るんだからな」

 

 

そういって、クリスは私を小突いて来た。

照れ隠しも入ってると思うけど、私に少し意地悪しながら笑顔のクリスを見ると

安心する自分がいる。

これからもノイズとは戦っていくかもしれないけど、クリスや翼さんがいるなら私は

きっと大丈夫だ。

 

 

 

 

 

あたしの響に対してのこの胸の黒い思いは、ばれぬようしまっておいておかないといけない。

ばれてしまったら、響と一緒にはいられなくなるかもしれないのだから。

 

その後も手続きやノイズやらで色々あったが、今日からリディアンに登校する日だ。

だけど、あたしの目覚ましの電池が入ってなかった上、響も寝過ごしたせいで今は

通学路を駆け抜けてる最中だ。

 

 

「クリス、急がないと遅刻しちゃうよ!」

 

「前見て走れ、響!こけたら危ないだろ!」

 

「でも、時間が!」

 

「わかったから、前見て走れ!」

 

 

学校へ向けて、必死に走る私達。

これからどんな日常が待ってるか分からないが、響と一緒ならきっと何とかなるはずだ。

そこが今のあたしの帰る場所なのだから。

 

 

 

 




この話で1章:歪む心ー私、未来の友達じゃいられないーの完結です。

かなり駆け足で進みましたが、1章とはいえ無事完結できまずは一息つけたと
安心しました。
次章につきましては、ストック0なので時間がかかるとは思いますがなるべく早く
届ければと思っています。


では次章までしばしの別れです、ご愛読ありがとうございました。





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