戦姫絶唱シンフォギアー狂ったココロー   作:マンセット

12 / 16
第一二話 落日

 

 

 

あの歌が、私に再び戦場に立つ力を与えてくれた。

立花も私と同じように、歌によって復活したのだろう。

だが、雪音の姿は空には無かった。

 

下を見るとフィーネと、少し離れた場所に倒れる雪音の

姿を見つけた。

私が気を失っている間、何があったか分からないが雪音

はその間戦っていたのだろう。

ならば、託された私達が負けるわけにはいかない!

 

 

<貴女の野望もこれで御終いよ、観念なさい!>

 

「念話までも…。限定解除されたとは言え、たった2人で何ができる!」

 

 

そう言って、フィーネは手に持つソロモンの杖からノイズを

次々に展開してくる。

芸の無い事をしてくれる、まさか世界に蔓延るノイズの災禍

は全て彼女の仕業だとでもいうのか・・・?

 

 

<まるで全てのノイズを私が作り出した…、とでも言いたそうな顔だな>

 

<ここまでノイズを使役しておいて、違うと言い張るつもりか!>

 

<ならば教えてやろう、ノイズとは何なのかを>

 

 

それから語られるフィーネが言うノイズの真実とは、昔の人間が同じ

人間を殺戮する為に生み出した兵器と言う事だった。

嘘か誠かは分からないが、その言葉を信じるなら彼女はただ作られた

兵器を取り出し利用してるだけと言う事になる。

 

人が人を殺す為だけに作りしもの、ノイズ。

その事実に立花は少なからず衝撃を受けているようだが、呆けている

暇はない。

説明して満足したのたか、フィーネは突如ソロモンの杖を天に掲げ

まるで無尽蔵と言わんとばかりのノイズを街に解き放ったからだ。

瞬く間にノイズに埋め尽くされる街、もはや数える事は不可能と

言っていい。

 

 

<貴様たちにとって雑魚に過ぎぬノイズでもこれだけ居れば、物足りない

等と言う事もなかろう?>

 

<立花、まずは街のノイズを片付けるぞ!>

 

<分かりました、翼さん!>

 

 

フィーネを無視するわけではないが、街に溢れかえったノイズを無視する

事もできず、私は立花と2人でノイズを掃討しに向かった。

限定解除されたギアは私達を重力の鎖から解き放ち、高レベルのフォニック

ゲインから放たれる攻撃は普段と比べ物にならぬ程の威力でノイズを殲滅し

ていく。

 

私達がノイズを殲滅している間、フィーネは動かず此方の動きを見続けて

いるようだった。

一体何のつもりかと思ったが、街のノイズを8割程を掃討した時新たな

動きを見せた。

自身の持つソロモンの杖を腹に突き刺し、自分に向けてノイズを放ちだし

たのだ。

この突然の暴挙に、私も立花もその動きを止めざるを得なかった。

 

 

「ノイズに取り込まれてる?」

 

「違う、ノイズを取り込んでるんだ!」

 

 

ノイズと混ざり合いドロドロの液状となったフィーネだったものは、その身体の

一部をカ・ディンギル向かわせ、何かを回収してからその体を形成させていく。

少しして出来上がった身体は、巨大な赤い竜の様な異形の姿だった。

その禍々しい姿の一部が開くと、内部に一体化したフィーネが姿を見せた。

 

 

<逆さ鱗に触れたのだ、相応の覚悟は出来ておろうな>

 

 

そう言って、竜の先端より放たれた一撃が私達を襲う。

突然の攻撃だったが、回避する事に成功するもののその衝撃は凄まじく

更に避けた攻撃は街に当たり、大きな被害を及ぼした。

 

 

「街が!」

 

「何という威力、だがこれ以上はやらせない!」

 

 

私は逸早く態勢を立て直すと剣に力を籠め、フィーネに対し必殺の一撃を放つ。

 

               [蒼ノ一閃]

 

普段とは比べ物にならぬ程の攻撃の筈だが、赤き竜の部分に当たった攻撃の被害は

瞬く間に再生していく。

立花も私の攻撃に続きその拳で攻撃するが結果は同じ、攻撃された個所から一瞬で

再生する性能はノイズを基に作られた身体とはとても思えぬものだ。

己が力を見せつけ優位に立ったと確信したフィーネは、私達をに勝ち誇るように

言葉を発した。

 

 

<いくら限定解除されたギアであっても、所詮は聖遺物の欠片から作られた玩具!

2人居た所で完全聖遺物に対抗できるなどと思うだけ無駄な事だ>

 

 

確かにこのままでは、2人で絶唱を用いたとしても倒せるとは言い難いだろう。

だが、フィーネは1つミスを犯した。

私達のギアは聖遺物の欠片からできたものかもしれないが、この場にはフィーネが

纏うネフシュタンの鎧以外に完全聖遺物があるではないか。

フィーネが手に持つ、デュランダルという完全聖遺物が。

どうやらその事に、立花も気づいたようだった。

 

 

<翼さん!>

 

「チャンネルをオフにしろ。…私が露払いをする、いけるか?立花」

 

「やってみます!」

 

「いい返事だ」

 

 

立花の覚悟を受け取り、私はフィーネに接近する。

当然私を迎撃する攻撃を放たれるが、私はそれを回避しつつ隙を伺う。

その様子を見て、立花も援護の為の攻撃を行ってくれる。

立花の攻撃に気を取られ、僅かだが隙の出来るフィーネ。

私は今解き放てる全力を剣に込め、フィーネに対して解き放った。

 

               [蒼ノ一閃・滅破]

 

会心の一撃は先ほど放った一撃より大きな被害を与えたが、その結果を

あざ笑うがごとく再生していく。

だが、私は空いた大穴がふさがりきる前に突撃した。

 

               [炎鳥極翔斬]

 

二振りの剣に炎を纏い大穴より内部に突入。

そして、その場で剣を両方フィーネに投擲、当然これは防がれるが余波に

より爆風が起こり辺りに煙が立ち込める。

私を追い出す為か、爆風によって起きた煙を換気する為か閉じていた部分を

再び開閉する。

この絶好の機会を逃さぬべく、私はフィーネがデュランダルを握る手に対して

再び必殺の一撃を放った。

 

               [蒼ノ一閃]

 

とっさの事に防御しようとするフィーネだが、その防御を切り裂き狙い違わず

フィーネの手からデュランダルを弾き飛ばすことに成功する。

空を舞うデュランダル、その先にはこの機会を待っていた立花の姿があった。

 

 

「そいつが切り札だ!勝機を零すな、掴み取れ!」

 

 

その声に呼応するかのように立花はデュランダルに近づき、ついにその手に収める。

だが、何の制御下にも置かれてないデュランダルと共鳴でもしたのうだろうか、立花

は再び黒い何かに覆われる。

だが、あの時とは違い必死に制御しようとする表情が見て取れた。

私はそんな立花の支えになる為、立花に近づき声を投げかける。

 

 

「屈するな立花!その衝動に飲まれてくれるな!」

 

 

 

 

 

私がデュランダルを手に持つと、私の意識を塗りつぶそうとする程強烈な感情が襲ってきた。

クリスが落ちて了子さんの言葉で意識が闇に堕ちた時と同じか、それ以上の強い破壊衝動。

私の思考が塗りつぶされまいと必死に抵抗するが、衝動が収まる気配は一向にみせない。

だけど、私は負けるわけにはいかない。

翼さんの励ます声が聞こえる、この下には無事な皆が…未来が居る、そして私に後を任せて

くれたクリスが居る。

私は1人じゃない、皆が居るんだ。

だから…

 

 

「この衝動に、塗りつぶされてなるものか!」

 

 

思いを束ねる事で、私の内に渦巻く衝動は一気にかき消されていく。

そして代わりに力強くデュランダルは光を増し、内にエネルギーが蓄えられる。

光り輝くデュランダルを前に、了子さんは私に問いかけてくる。

 

 

<その力、何を束ねた!>

 

<響合う皆の歌声がくれたシンフォギアでぇ!>

 

 

私はその問いに、今正直な思いを答えつつデュランダルを振り下ろした。

 

            「 Synchrogazer 」

 

振り下ろされた一撃は、赤き竜に致命の一撃を与えたことを確信する。

それと同時に、光が収まると共に私の手から失われるデュランダル。

理由は分からないけど、恐らくその役目を終えたせいなんだろう。

そして小さな爆発を重ねる赤き竜、あの中にはまだ了子さんがいる。

 

私は、了子さんを見捨てる事なんてできない!

その衝動に駆られ、私は今にも大爆発を起こしそうな赤き竜の内部を

目指して突撃していった。

そして、了子さんを救出すると同時に大爆発が起こる。

 

 

 

 

 

私は、敗れたのか。

2人を屠る為にノイズをその身に取り込み、圧倒していたにも関わらず

不用意な一言が私を敗北へと追いやった。

この身も、ネフシュタンの鎧とデュランダルとの対消滅によって長くは

ないだろう。

にも拘らず、立花響は何故私を助けたというのだ。

 

 

「お前、何を馬鹿な事を…」

 

 

私はいつの間にか、思った事を口につぶやいていた。

そんな私の問いかけに、優しく答える立花響。

 

 

「皆に言われます、変わった子だって。…もう終わりにしましょう、了子さん」

 

「私はフィーネだ」

 

「でも、了子さんは了子さんですから。クリスだって、了子さんの事を思って

るんです。だから私達、きっと分かり合えます」

 

 

クリスか…。

あの子のおかげで計画はここまで進み、あの子のせいで私の想いは潰える事になった。

あの方への想いと比べるのもおこがましい事だが、その他の人間と比べると間違いなく

情が移ったと言える子。

 

確かに、あの子なら私の事を思ってくれているだろう。

何年も共に過ごしたのだ、その程度の事が分からぬ私ではない。

だからとて、あの方への想いを諦めるなど、終わりにするなど今更出来るはずがない

ではないか。

どの道この身体はもう終わるのだ、ならば!

 

 

「今更言葉など!」

 

「っ!」

 

私は最後の力を振り絞り立花響に、いや立花響の後ろに見える月の欠片目がけ

鞭を伸ばした。

立花響は私を攻撃しようとするが、狙いが自分でも周囲でも無い為か私を殴る

その手前で拳を止める。

 

 

「私の勝ちだ!」

 

 

その事で私は誰にも止められることなく、月の欠片に鞭を楔のように打ち込む

事に成功する。

そして、全身全霊を持ってその欠片を地球へと引き寄せた。

 

 

「月の欠片を落とす!私の悲願を邪魔する禍根は、ここでまとめて叩いて砕く!この身は

ここで果てようと魂までは絶えはしないのだから!」

 

 

そう、聖遺物の放つアウフヴァッヘン波形がある限り私は何度だって世界に蘇れるのだ。

この場で禍根を根絶やしにできれば、何処かの場所、何処かの時代で今度こそ私は世界を

束ねることが出来るはず。

何故なら私は永遠と刹那に存在する巫女、フィーネなのだから。

そんな自己陶酔している私に対し、立花響の拳が触れる事で意識がそちらに向いた。

 

 

「そうですよね。でしたら、蘇る度に私の事皆に伝えてください。世界を1つにするのに力

なんて必要ないって事。言葉を超えて私達は1つになれるって事。私達はきっと未来に手を繋

げられると言う事。私には伝えられないから、了子さんにしかできないから」

 

 

こんな状況になっても、まだ私を信じると言うのか。

そしてこの言葉、まさかあれを止めるつもりなのか。

この子はどこまで…

 

 

「了子さんに未来を託すためにも、私が”今”を守って見せますね」

 

 

その愚直なまでに素直な言葉に、今度こそ私は完全に毒気を抜かれてしまった。

そんな彼女に対しふと、私は1つ忠告を残す為に口を開く。

真直ぐな性格だと、いずれぶつかるかもしれない2人の為に。

 

 

「そう。なら、私からの最後の忠告よ。クリスとの付き合い方を良く考えて

あげる事。でないと、2人とも傷つけあうだけよ」

 

「それって、どうy…」

 

 

私は彼女の言葉を全て聞き取る前に、崩れ去ってしまった。

闇に落ちていくいく意識、月の欠片を止めれるしろ失敗するにしろあの忠告が役に立つ

事を思うばかりだ。

次に蘇る時は別な方法を探そう、そう思いながら私の意識は完全に落ちていった。

 

 

 

 

 

私とクリス、良く考えないと傷つけあうって何故思ったのか。

了子さんに問いかけたかったけど、その体は砂のように細かく砕け答えを聞けることは無かった。

この時その言葉をきちんと理解できていれば、あるいはクリスとの会話からその事に思い至って

いればあのあの結末は回避できたのだろうか?

しかし、今この瞬間私はその事にたどり着くことは無かった。

 

少しの間思考の渦に私は落ちていたが、その間にも月の欠片は地球目指して落ちてくるのだ。

疑念を振り払い、目の前の事に集中すべく翼さんに声を掛ける。

 

 

「翼さん、私行ってきますね。了子さんと約束しましたから」

 

「水臭いぞ、立花。私を置いて行く気か?」

 

「翼さん、でも」

 

「言うな、私とてわかっている。それに、立花1人に背負わせるわけにもいかんからな」

 

 

翼さんはもしかしたら失敗するかもしれない事、帰ってこれなくなるかもしれれない事を

分かった上で一緒に来てくれると言っている。

私は目頭が熱くなるのを感じながら、必死に言葉を紡ぎ出した。

 

 

「分かりました。行きましょう、翼さん!この星を守る為に!」

 

「ああ、一世一代の大舞台になるだろう。全力で行くぞ、立花!」

 

「はい!」

 

 

翼さんと私、月の欠片を止める為に天高く星々が輝く宇宙へ向けて勢いよく飛び上がっていく。

不安が無いわけではない、でも私は一人じゃない。

この胸の歌がある限り、私達は絶対この星を守るんだ。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。