戦姫絶唱シンフォギアー狂ったココロー   作:マンセット

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第十話 絶唱

私達は月を穿つと言う了子さんを止める為、翼さんとクリスの

3人で了子さんに挑んでいるが、了子さんは私達相手に余裕すら

見せてくる。

この間にもカ・ディンギルの準備が進んでるのに…!

 

焦る思いとは裏腹に、了子さんに抑えられてる私達の後ろから

クリスがミサイルによる援護をしてくれた。

更に、それだけじゃなくて直接カ・ディンギルに対してもミサイル

を撃ってくれたのだ。

 

だが、カ・ディンギルを狙ったミサイルは了子さんに撃ち落された。

だけど、それは本命じゃなくて了子さんを狙っていたはずのミサイル

が、クリスを乗せカ・ディンギル上空へと向かっていく。

 

月との間に立ちふさがるクリス、でもカ・ディンギルの準備は正に

その瞬間に整ってしまう。

もう私達にはどうする事も出来ないのかと、絶望感が胸に広がったが

違った。

 

絶望はその先にこそあったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「この歌は…、まさか!」

 

「絶唱…?っ!クリス、歌っちゃ駄目ぇ!」

 

 

カ・ディンギル上空から聞こえてくる歌声。

それはクリスの絶唱の歌声だった。

 

絶唱…。

その攻撃力は絶大だけどバックファイアによるダメージが

自身をも蝕む諸刃の剣。

私が見たことがあるのはわずか1回、奏さんが歌った1回だけだ。

 

奏さんは絶唱を歌ってその命を落とした。

そして今、クリスがその絶唱を歌おうとしてる。

私の脳裏には、クリスが死ぬ最悪の未来が頭をよぎる。

だから、私は必死にクリスに制止の声を上げたが…無駄だった。

 

ついに発射されるカ・ディンギルの一撃。

それを迎え撃つクリスの絶唱。

せめぎ合う2つのエネルギー。

 

だが、地に根を下ろす巨大なカ・ディンギルによる一撃は

その膠着状態を脱し、クリスやその後ろの月目がけて突き進む。

そしてついに…、クリスを飲みこみ月を穿った。

 

 

「クリスぅぅぅ!」

 

 

カ・ディンギルの一撃を食らったクリスは、消滅こそ免れたものの

地球の重力に引かれ、地面に叩きつけられた。

後ろの月もクリスの決死の行動により、その射線がそらされ月が

欠ける程度で済んだ。

だが私はその事に、目の前が真っ暗になった。

何故、こんな事に。

どうしてクリスがあんな目に。

クリスは無事なのか?

もしかして…

私の脳裏に最悪の瞬間がよぎったが、その光景は了子さんの声で

遮られた。

 

 

「無駄な事を、誰があの1撃で終わると言ったのか」

 

 

無駄?

クリスのした事が無駄?

貴女が…、貴女がそれを言うのか!

 

私の中に黒い感情が駆け巡る。

その感情は私を塗りつぶし、私を突き動かそうとするが

私は止めなかった。

 

それだけあの言葉は許せなかった。

いや。

許す気なんてない、許せるはずがない!

そうして、私の意識は闇に落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

クリス、何処までも馬鹿な事を。

私の心中は今、複雑だ。

 

私は目的の為カ・ディンギルを動かし、月を穿つ一撃を放った。

そしてクリスはそれを止める為、絶唱を使った。

あの子の適合係数はそんなに高いとは言えない、そんな子が

絶唱を使いカ・ディンギルの一撃を貰ったのだ。

恐らく生きてはいまい。

 

別にカ・ディンギルは1度限りの兵器ではない。

だから、クリスがした事は全くの無意味であり私の目的になんら

支障は無いのだが、私の心は荒れている。

 

私は少ない可能性だが、事を起こした場合死んでほしくないからクリス

を放逐し、更にクリスが気に留めていた融合症例第一号、立花響も開放

したのに全部無駄になってしまった。

 

開放したら必ず私の前に立ちふさがるであろう彼女、そしてそれに

惹かれて私の前にクリスが立ちふさがるのはある程度予想していた。

だけど、この結末までは予想できなかった。

 

何故、こんなにもクリスを気に留めるのだろう?

何故、あの時クリスを放逐したのだろう?

何故、この結果を回避できなかったのだろう?

結局の所、私がクリスと立花響を巡り合せてしまった事が、この結果を確定

させたのだろうと判断し、自嘲した。

 

そして、私の一言で今まさに暴走しようとしてる彼女。

クリスが死んだのだ、彼女にもう用は無い。

せめてもの余興としてじゃれ合うのも一興。

何、飽きたらクリスの下に送ればいいだけだ。

そうしたら、あの子も寂しくはないだろう。

 

 

 

 

 

「無駄といったか、命を燃やして大切なものを守る事を」

 

「ええ、私にとって馬鹿な子でしかない。それに私にかまけていいのか、お前

の仲間が随分愉快な事になってるが」

 

「何!?」

 

 

私の胸には今怒りの炎が猛っている。

雪音と私の関係は、決していいものではない。

寧ろこのような事が無ければ、彼女の事でここまで怒る事は無いかもしれない。

 

だが、彼女は命を賭して月を守ろうとしたのだ。

その思いがなんであれ、その行為を無駄と言ってのけた櫻井女史…いや、フィーネ

に対して怒りが湧かないわけがなかった。

 

そんな私だったが、彼女の言葉によってようやく立花の異変に気が付いた。

私以上に雪音に親しい彼女が、怒らぬはずがない事を失念していたのだ。

その怒りはもはやとても制御できてるものとはいえず、ギアによるものだろうか?

彼女の全身は黒く覆われており、さながら人型の化物もような姿に変貌していた。

 

 

「それがクリスを…クリスの命を握り潰した奴の言う事か!!」

 

「ふん、良く吠えたものだ。貴様はクリスのなんだと言うのだ?」

 

「私は、ワタシハッ!!」

 

「立花!?」

 

 

雪音の事とフィーネの言葉によって、もはや人と言ってよいのか程獣じみた動きで

突っ込む立花。

しかし、単調な動きによる攻撃はフィーネが纏う2本の鞭によって阻まれ、吹き飛ば

される。

その行動を見たフィーネはせせら笑う。

 

 

「もはや人の姿をした破壊衝動、とでも言ったところか」

 

 

この言葉に反応してか、再度の攻撃を行なおうとする立花。

それに対しフィーネは鞭で陣を組み防御を行なう。

 

            [ASGARD]

 

鞭で組まれたと思えぬ程の防御力を見せていたが、暴走する立花の前には時間稼ぎに

しかなっていない様で、ついにその陣は崩され立花の一撃がフィーネを貫きそのまま

地面を粉砕する。

立ち込める砂埃が風に飛ばされると、そこには胸元から二つに分かれたフィーネの姿

があった。

 

だが、ネフシュタンの鎧の力だろうか?

その体はみるみる修復していき、瞬く間に元道理になった。

あれは本当に人間なのだろうか?

だが、私がその疑問を考えている暇はなかった。

 

次の瞬間には粉砕した地面から立花が姿を現したからだ。

あの様な状態、まともであるとは思えない。

私は立花を止める為制止の声を掛ける。

 

 

「もうよせ、立花!お前はその様な事をする奴ではないはずだ!」

 

 

だが、私の制止の声は立花の正気を取り戻すには至らず、彼女の意識をこちらに

向けるだけの結果に終わる。

獣じみた衝動に身を任せ、私を襲ってくる立花。

私を、それをカウンターで蹴りを入れる事で退ける。

立花は吹き飛ばされたが、危なげなく着地し闘争心を陰らせることなく再び私に

向かってくる。

 

暴走している立花を傷つける事は出来ない。

だが、この状況を打開する方法が今の私には思いつかなかった。

 

 

 

 

 

…声が聞こえる。

響の声だ。

いや、響にしてはおかしい。

響はあんな声を上げたりしない。

まるで獣のような声じゃないか。

あたしは確認しに行きたいが、身体が動かない。

身体だけじゃない、眼も見えない。

一体、あたしはどうなっているのだろうか?

なにも思い出せない。

 

だけど、あれがもし響の声だとしたらあたしは行かないと。

だってあれは獣のような声だけど、泣いてるように聞こえるのだから。

響が泣いているのなら、私が行かないといけない。

だってあたしは、響の友達なんだ。

 


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