レヴィとロックはロアナプラの外へと買い出しに出ていた。ロアナプラを出たとはいえ、治安が悪いことには変わりはない。幾分ましであるというだけで、世界中の無法者達の巣窟であるロアナプラの影響でここも無法地帯となっていた。
「レヴィ、どうして俺ばっかり重たいものを持たせれてるんだ?」
パソコンや車のパーツを両手に抱え、ロックはふらふらと歩いていた。こころなしかその額は汗で輝いていた。
「お前はレディに重たいものを持たせるのか?そんなんだからチェリーなんだよ」
ロックの数歩先を歩き、小さな紙袋を一つ手にぶら下げてレヴィは煙草を吹かしていた。ふらふらと歩くロックを小馬鹿にしながらふーっと煙を吐いた。
「レヴィがレディだって?それならダッチだって巨乳の美少女になっちまうよ」
ロックはそういいながら大きく息を漏らした。
「タッチが巨乳?そりゃあいいジョークだな」
レヴィは大きく笑いながら吸い殻を指で弾き、捨てた。
そして、「ただし」と言いながら次の煙草に火を着けた。
そして振り返り様にロックを睨み付けた。
「わかってるよ。レディのレヴィにはこんな重たい荷物、持たせられないよ。ここは男の俺が重たい荷物は全部持つからレヴィはその紙袋を持ってもらってもいいかい?」
ロックは両手を挙げ、レヴィを宥めるように、諦めるようにそういった。レヴィは納得したようでソードカトラスにかけていた右手を離した。
二人はならんで歩く。
「ロアナプラに戻る前に昼飯くらい食べていかないか?荷物を一度置きたいし……」
ロックはそう言いながら肩をすくめ、レヴィに提案した。
「ロック」
「なんだい?」
「今何時だ?」
ロックはちょっと待ってと言いながら自分の左手に付けられた腕時計を覗き込もうと四苦八苦した。
「ちょうど一時位だね。飯屋も空き始める時間じゃないかな?」
「OK、どこに行く?」
「この間、ベニーに旨いフォーを出す店を教えてもらったんだけど、そこにする?」
「ベニーの言うことなら嘘はねぇな。あのちびっこの言うことなら信用ならねぇけどな」
そう言いながらロックとレヴィは飯屋へと歩を進めていった。レヴィがロックの歩調に合わせながら。
「レヴィはタイラーのことが嫌いなのか?」
屋体の席につき、注文を済ませるとロックは単刀直入に聞いた。
タイラーを拾ったときからレヴィの機嫌は優れない。二、三日調子が悪いのであれば流してしまおうと考えていたが、一月以上この状態が続いている。男が触れてはいけない女性の聖域は越えていると判断したからこそ周りくどいことをせず単刀直入に聞いた。
「嫌いじゃあねぇ。ただ……」
そこまで言うとレヴィは肘をつき、そっぽを向いた。
「ただ?」
「昔からあぁ言うぶりッ子被っているやつはいけすかねぇんだよ」
「その程度のことか」
ロックは思わず吹き出した。もっと複雑な感情を持っていると思っていたが肩透かしだった。
「ロック……」
通りを眺めていたレヴィの目がロックを捕らえる。先程までと違う真剣な目だ。
「殺し屋は自分から名乗り出ないんだよ。いつも血の臭いのしない眼を一瞬だけ紅くするんだ。わかるよな」
「あの双子か……」
ロックは両肘をつき顔を沈めた。
「ジャックザリッパーは医者なんだよ。覚えときな」
そう言ってレヴィは遅れて出てきたフォーを一啜りした。
フォーをすする様子を見て、ロックもフォーを食べ始めた。そして、ロックは話を切り出した。
「ジャックザリッパーって言えば、最近物騒な話を聞くな。」
「200年前のいかれポンチ話なんて知るかよ」
レヴィは心底どうでも良さそうにフォーを掻き込んだ。
「ここ数ヵ月の話さ。毎週末路地裏で誰かが死んでいるだって。明らかな殺しなのに誰も目撃者がいない。そして、被害者の体の一部が切り取られているらしい。で、付いた通り名が『ジャックザリッパーの再来』すなわち『
「カニバリズムか?」
レヴィは途中まですすったフォーを口から垂らしていた。どうやらレヴィの興味を僅かにでも引けた様だ。
「さぁ?でも、被害者の小指とか肺とか食べられそうにないところも持っていってるからね……ただのサイコパスじゃないかな?」
ロックはそう言いながらこの町へと侵食され、冷静に状況を整理しようとする自分の心とこの町の連続殺人が平然と起きてしまう現状への溜め息をフォーと共に呑み込んだ。