犯人は賢い
犯人は自己顕示欲がない
犯人は異質な何かを信仰をしている
以上。
ロックがバラライカの依頼を受け、部屋にこもってから二週間が経った。そしてこの間にも金曜日と土曜日の夜にそれぞれ二人ずつ、すなわち計8体の死体が闇の町の最も暗い場所で発見された。
狙いがわからない
動機がわからない
人々は切り裂きジャックを怖れ、夜の町を出回る頻度が減った。銃声と悲鳴で埋め尽くされていたロアナプラの夜は静まり返り、『悪の中の悪が集う闇よりも黒いロアナプラ』は夜の間だけではあったがその姿を潜ませていた。
安息日が過ぎればブルーマンデーを迎え、誰が殺されたのか耳に入る。そして、噂を聞いた悪漢は『明日は我が身』と自分に言い聞かせ、裁きの順番が自分に回ってこないことを祈りながら床に着く他なかった。
「この町は平和になった。ロック、君もそう思わないかい?」
根を詰めすぎ、やつれていく様子を心配した御伽から外出命令を出されたロックは町をさ迷い、買い出しに出ていたベニーに拾われた。
そしてその帰り、タバコを吹かせながらベニーはロックに訪ねた。
「そうだな。このままだと日本よりも平和になる日が来るかもしれないな」
助手席の窓から虚ろな目で空を眺め、煙を吐きながらロックは答えた。
ベニーは笑った。
「それはいいや。いつか僕やダッチ、更にはレヴィまで君みたいにスーツを着こなす日が来るかもしれないね」
ロックはアイロンの綺麗にかけられた、真っ白なスーツを着こなし、左手には暑さから脱いだジャケットをかけ、右手には黒く、飾り気のない携帯電話を持ち、取引先からの一方的な怒りの声を右耳に受け、何度も頭を姿の見えぬ取引先に下げるダッチを想像し、苦笑いを漏らした。
「この町の観測者である僕からすればそれはとても面白そうだけど、同時に死ぬほどつまらないものだ。君もそうだろ?」
「この町を観測するには所属する集団の影響力が強すぎる」
「誰しも僕達の名前を聞けばラグーン商会をイメージする。そしてバラライカと密接な関係を持つダッチを想像する」
観測者は安全でなければならない。そう付け足しながら、ベニーは白煙をはいた。
外出の際、財布と煙草を持つように拳銃の携帯が必要なこの町では生き残るために何でもする。
自らも拳銃を携え、大きなグループに所属する。
どんな汚い仕事であってもこなし、小金を稼ぐ。
「マリア様はこの町の存在を忘れてしまったんだ。弱者は地面に近いところを歩くしか術はない」
「弱者は地面の中へ、強者は天国へ、貧民は貧民の血に汚れたピストルを拾い、富豪は人が付属されたピストルを買う。全くをもって公平な町だよ、住民全てが拳銃を持つことになるんだから」
ベニーはそう言いながら口角を上げる。
「あんたは平和が好きか?」
「僕のことを誤解しているようなら訂正するよ。僕は面白いことを眺めているのが好きなんだ。君の雇い主と同じ考えさ。そこで平和を求めるつもりはない」
平和を嫌う理由もないけどね。
そして、ベニーは三本目の煙草に火を着けた。
ロックが笑った。
顔に手を当て、天を仰ぎ、高らかと、悪を抹殺する悪の如く。
「ベニー、あんたに最後の質問だ。最近、ハッキングした、もしくはされた記憶は?」
「そうか、終わったのか。それはいいことだ。気分はさながらニアかい?」
「いいや、俺はキラが畏れた唯一の人物……Lだ」