「で、二挺拳銃様が教会になんのようなんだ?」
エダの声がチャペルに響いた。
「うっせぇぞ、エダ。客なんだから酒くらい出せよ」
レヴィが声を荒げた。
話は一刻前に戻る。
今日は仕事もなく、ロックを飲みに誘おうとレヴィはロックの部屋を訪れた。
「おいロック、そろそろにらめっこにも飽きただろ?飲みにいこうぜ」
「あ、レヴィさん。今、ロックさんはお風呂に入っているので少し待っていてください」
照由御伽がいた。御伽は部屋の整理をしながら、レヴィにロックが忙しいことを伝え、穏便にレヴィの誘いを断った。
レヴィは面白くなかった。
ロック本人に断れるのならまだしも、ロックに会うことも許されず、一方的に断れたのだ。
レヴィは面白くなかった。
メイドが二度目にこの町に現れたとき、ロックは同じように自身を削るようにしてメイドの行き先を推測していた。
そのときは部屋に籠り、誰にも会おうとしていなかった。そのときは、警告を無視したロックの単独行動だったのでそれも仕方ないと思っていた。
しかし、照由御伽は難なくロックの部屋に入り込んでいた。
「けっ、ジャップ同士仲良くしてたって言う訳か。面白くねぇ」
「そうですね。中はよかったですね」
「は?」
「冗談ですよ。私がここにいるのはただの好奇心からですよ。お手伝い以上のことはしていません」
御伽が笑っていると、ロックが風呂から上がってきた。
「ん?なんだレヴィ、来てたのか」
レヴィの顔が真っ赤に染まる。もちろん怒りで……
……
「で、ここに来たって訳か……」
「わりぃかよ」
レヴィが机に突っ伏して顔だけをエダに向けて呟いた。
「それがよくねぇんだよ。今日はNPOから豚共が視察に来るんだよ。で、私は今、倉庫の整理。シスターはこの町でまともなやつらを何人か集めてミサを開く準備をしてる。何で急に来るんだよ。いつもは前以て報せる癖に……」
エダはぼやきながら倉庫の方へと向かっていった。
「武器隠しはキッチリやれよ。ここがばれたら私らも仕事がしにくくなるからな」
「わーってるよ」
レヴィの忠告に対し、エダは左手を挙げて応えた。
レヴィはシスター・ヨランダから仕事をを押し付けられることを恐れ、静かに教会を離れた。
「教会がダメならどこにいくかな……」
暴力教会から逃れたレヴィは市場を歩いていた。
暇なときにレヴィがいく場所は限られている。
暴力教会でエダとポーカーをしながら酒を飲むか、イエローフラッグに行き、他の客と飲み競べをするかである。
暴力教会は無理だった。
イエローフラッグにも行ったが、バオの話では最近のリッパー騒動のせいで週末は客足が遠退き、店を開けないことにしているらしい。
何処に行くか、どこで暇潰しをするかを考えていると、見知った顔がレヴィの前を通った。
「ヘイ、ロットン!」
男が振り返り、銀髪が揺れた。かけられたサングラスから男の表情は読めない。黒いマントをはためかせ、男はサングラスに手を掛けた。
「二挺拳銃ではないか。どうした?」
男は落ち着いた声でレヴィに答えた。
「シェンホアはいねぇのか?」
「今は別行動中だ。最近、安息日を悪夢に陥れる不届きな輩がいるからな。こうやって悪を殲滅せんと見廻りをしているのだ」
男はサングラスを軽く持ち上げた。
「あいつが動くってことは、賞金でも出たのか?」
男の意味のない行動に突っ込むこともなく、レヴィは話を続ける。
「知らなかったのか?今やRipperⅡの首には黄金が掛かっているような状態だ。国家の犬共も姿の見えぬ暗殺者に苦労しているらしい」
そう言って、手配書のコピーをレヴィに見せる。
不思議な手配書であった
WANTED /DEAD OR ALIVE /''RipperⅡ NO.NAME ''
[指名手配/生死問わず/切り裂きジャック二世(本名不明)
手配者の名前が載っていない。そして、顔写真、もしくは似顔絵が載る欄には、黒塗りの人の型をした記号が載っており、''No Image ''とだけ書かれていた。
「こんな手配書意味あるのか?」
「わからん。国家の犬共もこれで本物が釣れるとは思っておらぬのかもしれぬ。あわよくば、力なき市民が警戒すれば……」
「なるほどな……」
男は情報を持たぬ手配書を懐に直し、マントをはためかせながら振り返った。
「それでは、俺は悪を見つけるため、行かせてもらう。女よ、夜道には気を付けることだな」
そう言って男は歩いて行った。
悪を決して許さぬ男。ロットン・ザ・ウィザードは夜の道を歩く。悪を殲滅するため、力なき市民たちを守るため、今日もどこかで悪と戦うだろう。
頑張れロットン!頑張れウィザード!