ラグーン商会のメンバーは足取り重く、ホテルモスクワへと向かっていた。
中でももっとも足取りが重いロックはベニーに耳打ちしてていた。
「なぁ、あんたはなにか心当たりがあるかい?ラグーン全員でしかも互いにボディチェックをさせられたなんて俺の記憶が正しければこれが初めてだ」
「残念ながら僕の頭の中で巡っている疑問も君と全く同じものだ。そして、僕からの答えは一つ、「I don't know 」だ」
ベニーがロックに答える。
ロックの足取りが一段と重くなった。その様子は落胆という言葉がもっとも相応しかった。
今、ラグーン商会が持っているのはレヴィのソードカトラス一丁、そして、ダッチの財布のみであった。他には一切も持つことが許されず、レヴィもポケットに手を突っ込み、肩を振りながらだらだらと不服そうに歩いていた
呼び出したのは言うまでもなくバラライカ。用件は到着し次第伝えるとだけ言われていた。
「なぁ、ダッチ。姉御は何の用事で私らを呼んだのさ?」
「さぁな。ただ、銃を持ってくるなってわざわざ言うくらいだ、きっと楽しいピクニックが待ってるさ」
「姉御とピクニックなんて丸腰でベトナムのジャングルに放り出されるのと変わらねぇよ」
「ちげぇねぇ」
レヴィとダッチはロック達、常識人組の数歩前を歩きながらジョークを交わしていた。
これから起こる悲劇など知らずに。
「さぁ、Boys & Girls、地獄の門が近づいてきたぜ。ちゃんと小便は済ませてきたか?それと、教会に行きたいやつは今のうちにいっておきな。キリスト様に会える最後の機会かも知れねぇからな」
そう言ってダッチはいつものように大きく口角を上げ、いつものように黒い肌に映える白い歯を見せた。
「この近くに神社はありますか?」
御伽が手を上げながら申し訳なさそうに尋ねた。
「残念ながらタイラー、神道は日本独自のものだから神社はないだろうね」
ベニーがタイラーの問いに答える。
それを聞いた御伽は肩を落としとぼとぼと歩きだした。
「そうだな。物事に諦めって言うのは必要なもんだ。特におっかない生物の前ではな」
御伽に続き、ダッチが歩み始める。そして、他のメンバーも足を引き摺りながらも一歩、一歩と地獄へと歩を進めるのであった。
ホテルモスクワにつくと、まず、ボディチェックを受ける。許されたもの以外持っていないことを確認されると、最後にレヴィのソードカトラスさえも取り上げられてしまった。
「ダッチ、どう思う?」
ベニーが心配そうにダッチに尋ねた。
荒事専門の運送屋と言っても身内であるはずのホテルモスクワに、そして、バラライカに警戒されるなどはじめてのことだ。
特にダッチはバラライカからこの町で最もとも言えるほどの信頼を勝ち取っていたはずである。
「さぁ?一つ言えるのは歓迎されてねぇってことくらいか?」
ダッチがそうベニーに耳打ちすると、ベニーの足取りが一段と重くなった。
バラライカの部屋の前につく、ロックは人生で最も短く、長く感じる時間に顔の筋肉を締め付けられたかのように表情筋が痙攣を起こしていた。
ダッチが扉をノックし入る。
それに続いて他のメンバーもゆっくりと入っていった。
「やぁ、姐御さん。何か御用ですかな?」
「ダッチ、私は今、すごくイライラしているの。メキシコの悪ガキ共を掃除したいくらいにね」
「是非ともお願いしたい……と、言いたいところだが、今の標的はジャックさんじゃねぇのか?」
「そうよ、ジャックを見つけるために部下達をそれこそロアナプラ中に配備して警戒させていたわ。で……」
「情報は一切ないってことか」
「一つ大切なことがわかったのよ」
「ほぅ……」
「警備を完璧に掻い潜ることのできるって言うことがわかったわ」
「それは素晴らしい情報だな」
バラライカは加えていた煙草を灰皿に強く押し付けた。小気味いいさくさくという音が部屋に響く。
「そこでロックにお願いがあるの」
バラライカがレヴィの横で目立たないように振る舞っていたロックへと視線を動かす。
ロックはバラライカの視線を受け入れ、「もしかして……」とだけ小さな声で呟いた。
「流石ね。察しのいい男は好きよ」
そういったバラライカは頬杖をついて微笑み、
そう言われたロックは額にてを当てて苦痛の表情を漏らした。
そして、額にてを当てた状態で少し考えたロックは顔を上げた。
「バラライカさん、いくら俺でも19世紀の亡霊を見つけることなんて出来ません。ジャックについて知っていること、今段階で推測していること全て教えていただきたい」
「ロック。やはりお前は小悪党の水兵なんて似合わないな」
バラライカは肩を弾ませながら、これからのロアナプラの行く末を楽しみにしていた