【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE― 作:春風駘蕩
人は…、大切な何かを守りたいと思った時に、本当に強くなれるものなんです』
―――白
「―――バカヤロー!!」
痛々しい傷痕を残した森の中、ナルトの声が響いた。
目の前で怒鳴られたアケビは、ビクッと体をすくませ、俯く。
「何でついてきたんだってばよ!! 待ってろって言ったじゃねーか!!」
「…………」
ナルトの叱責に、アケビは答えず、俯いたままだ。
「…何となく感じていた気配は彼女のだったのか。暗部育ちの僕でも気付けないなんて……」
ナルトの横で、サイは感心した声をあげていた。微妙に論点の間違っている彼を、無言で睨むサクラも、難しい顔でアケビを見つめる。
ヤマトもまた、無表情のまま思案しているようだった。
「さっきだって、助けてくれたのには礼を言わなきゃだけど! 出しゃばってあぶねー目にあってたのは許せねーぞ!!」
「アンタが言うな!!」
真面目に叱っていたナルトの脳天に、サクラの拳骨が炸裂した。ゴガッと音がして、ナルトの頭がガクンと揺れた。
「ぐっ…、ヒデーってばよ、サクラちゃん……」
「頭に血が上って飛び出したアンタには言われたくないわよ、アケビだって」
涙目になって睨んでくるナルトに、サクラは正論で返す。
そんな時だった。
「……っく、ヒック……」
「!」
聞こえてきた嗚咽に、思わず振り向くナルトとサクラ。
声の主は、アケビだった。俯いたまま膝の上で拳を握りしめ、目からぽろぽろと雫を零し、震えていた。
ナルトは慌てた。焦った。
「……え!? あれ!? 俺ってば、そんな怖かった!?」
「あーあ、泣かした」
オロオロするナルトに、サクラは冷たい目を向ける。
「…ナルト、ひどいよ。女の子を泣かせるなんて」
「火影になるには、もう少し配慮が足りないんじゃないかな?」
「ヤマト隊長まで!?」
味方を失くしたナルトは、慌ててアケビに駆け寄った。
「えっとー、えっと―……。もう泣くなってばよ!! 俺が悪かったから!! もう怒ってないから、頼むからもう泣くなってばよ!!」
冷や汗を流しながら、ナルトは必死にアケビを宥めた。声をあげて泣くまでいってないことには安心したが、このままでは仲間に何と言われるか分からない。
慌てふためくその姿からは、木ノ葉を救った英雄としての姿など欠片も見えなかった。
オロオロするナルトの前で、アケビは震えながら口を開いた。
「……恐かった」
「!」
その言葉に、ナルトはアケビを凝視した。
アケビは目に涙をためながら、震える体を抱きしめ、ナルトを見つめていた。
「…ナルトが…、いなくなるんじゃないかって……」
「…………!」
ナルトは目を見開き、アケビを見つめていた。
そして、ふとその姿に見覚えを感じた。
これは、自分だ。
ここで泣いているのは、昔の自分だ。
九尾の化け物と呼ばれ、拒絶され、誰からも認めてもらえず、ずっと孤独の中で泣いていた、かつての
アケビも、同じだ。
頼る者も、家族もいない、孤独の存在。だから、認めてもらいたくて、
誰かに認めてもらう方法。アケビにとってそれは、戦うことだけだったのだ。
「……ゴメンな」
ナルトは、唐突にそう言った。
「一人ぼっちのあの苦しみは、俺が一番分かってるはずなのにな……」
ナルトもまた、苦しみの表情で過去を思い出し、アケビに言った。
「ナルト……」
「…………」
サクラが思わず声を漏らし、サイとヤマトも静かにナルトを見つめた。
アケビも、いつの間にか泣き止み、潤む目でナルトを見つめる。
ややあってから、ナルトはニッと笑った。
「大丈夫だ!」
「?」
ナルトのいきなりの言葉に、アケビは目を丸くして首を傾げた。
「俺はもう、お前を一人ぼっちにはしねーってばよ!」
小指を出し、アケビに差し出す。
「約束だってばよ!!」
アケビは目を瞠り、ナルトの顔を凝視する。
そして、ふわりと柔らかく微笑むと、その小指に自分の指を絡めたのだった。
その夜、ヤマトは綱手の元に赴き、報告を終えた。
「…以上が、事の顛末です」
書類をしまったヤマトがそう締めくくると、綱手は険しい表情で唸った。
「……口寄せを主体とした、見たことのない術式に、鎧の獣か……」
机の上で腕を組み、その上を睨む。置かれているのは、鎧の男から回収した札の入った箱と、アケビが持っていた箱の二つだ。
「まったく同じ、というわけでもなさそうだが、関係しているのは確かだな」
「どうなさるおつもりですか?」
ヤマトの問いに、綱手は深くため息をつく。
「…アケビには、暗部の監視をつける。そして、ナルトには常に傍にいるように言っておけ」
「! 大丈夫なんですか?」
眉をひそめたヤマトに、綱手はニヤリと笑う。
「今回はアイツが自分から、保護者役に名乗り出たんだ。面倒は最後まで見てもらうとしよう」
「…分かりました」
ヤマトは一礼し、退出する。
誰もいなくなった火影室で、綱手は机の引き出しを開く。中にあった紙切れと新聞紙の一部を見て、さらに深いため息をついた。
「…さて、これは相当縁起が悪いな」
綱手の見つめる物。
それは、賭けに弱い自分が今朝確認した、番号の一致した宝くじの一枚だった。
夜の里に、灯るオレンジ色の灯り。
一楽には、二人の男女がいた。
ホカホカと立ち上る湯気、温かいラーメン。ナルトとアケビは互いに笑いあいながら、少し遅い晩飯を、共にとっていた。
そんな二人の姿を、店主のテウチは、赤い火を出すコンロの前で微笑みながら見つめていたのだった。