【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

8 / 38
『君には大切な人はいますか?
 人は…、大切な何かを守りたいと思った時に、本当に強くなれるものなんです』

          ―――白


3.涙の理由

「―――バカヤロー!!」

 痛々しい傷痕を残した森の中、ナルトの声が響いた。

 目の前で怒鳴られたアケビは、ビクッと体をすくませ、俯く。

「何でついてきたんだってばよ!! 待ってろって言ったじゃねーか!!」

「…………」

 ナルトの叱責に、アケビは答えず、俯いたままだ。

「…何となく感じていた気配は彼女のだったのか。暗部育ちの僕でも気付けないなんて……」

 ナルトの横で、サイは感心した声をあげていた。微妙に論点の間違っている彼を、無言で睨むサクラも、難しい顔でアケビを見つめる。

 ヤマトもまた、無表情のまま思案しているようだった。

「さっきだって、助けてくれたのには礼を言わなきゃだけど! 出しゃばってあぶねー目にあってたのは許せねーぞ!!」

「アンタが言うな!!」

 真面目に叱っていたナルトの脳天に、サクラの拳骨が炸裂した。ゴガッと音がして、ナルトの頭がガクンと揺れた。

「ぐっ…、ヒデーってばよ、サクラちゃん……」

「頭に血が上って飛び出したアンタには言われたくないわよ、アケビだって」

 涙目になって睨んでくるナルトに、サクラは正論で返す。

 そんな時だった。

「……っく、ヒック……」

「!」

 聞こえてきた嗚咽に、思わず振り向くナルトとサクラ。

 声の主は、アケビだった。俯いたまま膝の上で拳を握りしめ、目からぽろぽろと雫を零し、震えていた。

 ナルトは慌てた。焦った。

「……え!? あれ!? 俺ってば、そんな怖かった!?」

「あーあ、泣かした」

 オロオロするナルトに、サクラは冷たい目を向ける。

「…ナルト、ひどいよ。女の子を泣かせるなんて」

「火影になるには、もう少し配慮が足りないんじゃないかな?」

「ヤマト隊長まで!?」

 味方を失くしたナルトは、慌ててアケビに駆け寄った。

「えっとー、えっと―……。もう泣くなってばよ!! 俺が悪かったから!! もう怒ってないから、頼むからもう泣くなってばよ!!」

 冷や汗を流しながら、ナルトは必死にアケビを宥めた。声をあげて泣くまでいってないことには安心したが、このままでは仲間に何と言われるか分からない。

 慌てふためくその姿からは、木ノ葉を救った英雄としての姿など欠片も見えなかった。

 オロオロするナルトの前で、アケビは震えながら口を開いた。

「……恐かった」

「!」

 その言葉に、ナルトはアケビを凝視した。

 アケビは目に涙をためながら、震える体を抱きしめ、ナルトを見つめていた。

「…ナルトが…、いなくなるんじゃないかって……」

「…………!」

 ナルトは目を見開き、アケビを見つめていた。

 そして、ふとその姿に見覚えを感じた。

 これは、自分だ。

 ここで泣いているのは、昔の自分だ。

 九尾の化け物と呼ばれ、拒絶され、誰からも認めてもらえず、ずっと孤独の中で泣いていた、かつての自分(ナルト)。誰かに認めてもらいたくて、見てもらいたくて、里でバカみたいないたずらを繰り返していた子供。どんな方法でもいいから、自分を見てほしかった、認めてほしかった。

 アケビも、同じだ。

 頼る者も、家族もいない、孤独の存在。だから、認めてもらいたくて、自分(ナルト)たちの後を追い、戦いに身を投じた。

 誰かに認めてもらう方法。アケビにとってそれは、戦うことだけだったのだ。

「……ゴメンな」

 ナルトは、唐突にそう言った。

「一人ぼっちのあの苦しみは、俺が一番分かってるはずなのにな……」

 ナルトもまた、苦しみの表情で過去を思い出し、アケビに言った。

「ナルト……」

「…………」

 サクラが思わず声を漏らし、サイとヤマトも静かにナルトを見つめた。

 アケビも、いつの間にか泣き止み、潤む目でナルトを見つめる。

 ややあってから、ナルトはニッと笑った。

「大丈夫だ!」

「?」

 ナルトのいきなりの言葉に、アケビは目を丸くして首を傾げた。

「俺はもう、お前を一人ぼっちにはしねーってばよ!」

 小指を出し、アケビに差し出す。

「約束だってばよ!!」

 アケビは目を瞠り、ナルトの顔を凝視する。

 そして、ふわりと柔らかく微笑むと、その小指に自分の指を絡めたのだった。

 

 

 その夜、ヤマトは綱手の元に赴き、報告を終えた。

「…以上が、事の顛末です」

 書類をしまったヤマトがそう締めくくると、綱手は険しい表情で唸った。

「……口寄せを主体とした、見たことのない術式に、鎧の獣か……」

 机の上で腕を組み、その上を睨む。置かれているのは、鎧の男から回収した札の入った箱と、アケビが持っていた箱の二つだ。

「まったく同じ、というわけでもなさそうだが、関係しているのは確かだな」

「どうなさるおつもりですか?」

 ヤマトの問いに、綱手は深くため息をつく。

「…アケビには、暗部の監視をつける。そして、ナルトには常に傍にいるように言っておけ」

「! 大丈夫なんですか?」

 眉をひそめたヤマトに、綱手はニヤリと笑う。

「今回はアイツが自分から、保護者役に名乗り出たんだ。面倒は最後まで見てもらうとしよう」

「…分かりました」

 ヤマトは一礼し、退出する。

 誰もいなくなった火影室で、綱手は机の引き出しを開く。中にあった紙切れと新聞紙の一部を見て、さらに深いため息をついた。

「…さて、これは相当縁起が悪いな」

 綱手の見つめる物。

 それは、賭けに弱い自分が今朝確認した、番号の一致した宝くじの一枚だった。

 

 

 夜の里に、灯るオレンジ色の灯り。

 一楽には、二人の男女がいた。

 ホカホカと立ち上る湯気、温かいラーメン。ナルトとアケビは互いに笑いあいながら、少し遅い晩飯を、共にとっていた。

 そんな二人の姿を、店主のテウチは、赤い火を出すコンロの前で微笑みながら見つめていたのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。