【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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『忍の才能で一番大切なのは、持ってる術の数なんかじゃねェ…。
 大切なのは、あきらめねェど根性だ!!』

          ―――自来也


2.折れない剣

「ナルトは、アケビが守る」

 小さな、けれどはっきりとした声で、目の前の少女が言う。

 鎧の男は目を細め、アケビを睨みつけた。

「…なんだァ、てめえは」

 不機嫌さを隠さず、男は頬をヒクリと震わせながら剣を構えた。

 この場で最も混乱しているのは、きっとナルトだろう。

「アケビ…、なんで」

 その問いに、アケビは答えない。代わりに、無言で自らのベルトに手をかけ、バックルとして嵌まった箱の中から、一枚の札―――カードを抜いた。

 そして左手に装着した腕当てのような器具の一部をずらし、その隙間にカードを挿入した。

SWORD VENT(ソード・ベント)

 鎧の男のベルトの物とよく似た、低い声が響き、アケビの手元に一振りの剣が飛来する。

 飾りも何もないその剣を構え、アケビは鎧の男を睨みつけた。

 その目に、鎧の男が殺気立った。

「なんなんだよ、その目はぁ!!」

 怒号とともに、鎧の男はアケビに襲い掛かった。

 ブゥン、と風を切って振り下ろされる剣を、ナルトとアケビが枝から跳んで躱す。鎧の男は舌打ちし、アケビの方を追った。

「ウラァ!!」

 唾を吐き散らしながら、男は剣を振るう。苛立ちをぶつけるように放たれる剣筋からは、冷静さが失われていた。

 対してアケビは落ち着いていた。

 大ぶりな斬撃を見切り、枝の上ですいすいと体を運ぶ。最低限の体運びで、流れるように斬撃を躱していく。

 そして、一瞬の隙をついて、鳩尾に一撃。

「ぐっ……」

 腹を押さえてよろめく鎧の男。

「クソがっ!!」

 男は激昂し、剣を横薙ぎに振るう。

 ブゥン、と風を唸らせて迫る刃を前にし、アケビは少しも慌てず身構える。刃が直撃する寸前、アケビはバネのように足をしならせ、高く跳ぶ。

 目を見開く男。呆然となったまま持っていた剣の上に、アケビが降り立った。

 ジャキン

 その手に持つ一振りの剣が音を立てる。

 アケビの目が、激しい怒りに燃える。

 凍りつく鎧の男。成す術もなく固まる男の面に向かって、アケビは剣を振るった。

 

 バキィィィン!!

 

 空中に、鋼の破片が舞う。だがそれは、鎧の男の面ではなく。

 アケビの剣の方だった。

「!?」

 さすがに目を見開いて表情をこわばらせるアケビ。

 侮辱のような状況に、鎧の男の顔が一気に紅潮した。

「ふざけんなクソガキ!!」

「うあっ!?」

 激昂した男はアケビの左足を掴み、驚異的な力で振り回し、投げ飛ばした。小さく悲鳴を上げ、アケビは吹っ飛ばされ、その先の大樹に激突した。

 怒りが収まらない男は、また新たにカードを出そうとバックルに手をかける。

 しかしその寸前、青いチャクラの球体を手にしたナルトが死角から現れた。

「螺旋丸!!」

 キィ―――ンと甲高い音を立てるチャクラの塊が、鎧の男の腹部に炸裂した。

「ぐおおおおおお!!」

 バチバチと火花を散らし、螺旋丸と鎧がせめぎ合う。

「ぐぐっ…」

 歯を食いしばり、ナルトは反発に耐える。

 すると、接触していた力と力が弾け、双方が互いに逆方向に吹き飛ばされた。

「だああ!?」

「ぐおわァァ!!」

 鎧の男は大の字になって大樹に激突し、ナルトは宙に投げ出される。

 が、落下の寸前、黒と金の影が跳び、ナルトを攫って着地……しようとして枝の上に墜落した。

「うきゃん!!」

「でっ!」

 二人して転がって、うめき声を漏らした。

「…いって―。大丈夫か、アケビ」

「う、…うん。なんとか」

 ナルトの上から退きながら、痛む足を抑えるアケビ。

 ナルトは不機嫌そうにそれを睨んだ。気付いたアケビも、気まずそうに目をそらした。

「…取りあえず、説教は後だってばよ」

 そう言って、苦無を手に体を起こす。

「お前は、ここにいろってばよ」

 跳ぼうとしたその時、上着がキュッと掴まれた。

「!」

「…………」

 思わず振り向くと、アケビがまっすぐにナルトを睨んでいた。困惑するナルトに向かって、アケビは口を開く。

「…一人では、ダメ」

「バカ!! お前はもう出てくるんじゃね……」

「ナルト」

 叱ろうとするナルトの頬に手を当て、真っ直ぐに自分と目を合わせる。少女の深い蒼の瞳に、自分の姿が映った。

「アケビを、信じて」

 アケビは、ただ一言、そう言った。

 ナルトはその真っ直ぐ差に一瞬見入り、すぐに顔をしかめる。

「…………」

 うんうん唸って、しばらくして、ナルトは小さく頷いた。

 

 

 ビシュッ、ビシュッと巨大な蜘蛛が糸を吐く。

 サクラとサイは、同時に枝の上から跳び立つ。サクラはクナイを抜き、蜘蛛に向かって投擲する。

 カキンッと刃は弾かれ、蜘蛛は怒りの咆哮を上げる。

「なんなのよこいつら!」

 サクラは目を瞠りながら、吐き出される蜘蛛糸を避ける。

 蜘蛛はギチギチと顎を蠢かせ、辺り一帯に糸を張り巡らせていく。

 蜘蛛は一体ではなかった。数体の蜘蛛が数か所から、三人に向かって襲い掛かってくるのだ。

 サクラ、サイ、ヤマトは、背中を合わせ、巨大蜘蛛に対峙した。

 

 

 大樹に張り付けになっていた鎧の男は復活し、苛立たしげに幹を殴りつけた。

「だあああ!! クソガキどもがぁ!!」

 怒り狂う鎧の男は、一気に何かがキレたのかメチャクチャに剣を振り回し、ナルトとアケビに迫った。

 大樹を叩き折るほどの威力の斬撃を、二人は別々に跳んで躱した。

 空中で一回転しながら、ナルトは印を結び、三人の影分身を作る。二人が足場になって、本体ともう一体の影分身が蹴り、一気に男に接近する。

「ウラァ!!」

「どりゃあ!!」

「うぜぇんだよ!!」

 渾身の力を込めて殴りかかると、男は剣で受け止め、振り払った。

「ぐあっ」

 そのまま斬りつけようとする男の背後に、アケビが飛ぶ。

SWORD VENT(ソード・ベント)

 新たに呼んだ剣を手に、刺突を放つ。だが、男が腕で防いだだけで、簡単に折れてしまった。

 顔をしかめたアケビは、男が斬りかかるよりも前に顔面を蹴り、離脱を図る。

SWORD VENT(ソード・ベント)][SWORD VENT(ソード・ベント)

 その際、さらに二本の剣を召喚し、男に向けて投擲する。両方命中するが、粉々に砕けて破片が舞った。

「くはははは、何がしてえんだ?」

 男は笑いながら、アケビを追う。

 アケビは無言のまま、後方に跳びながら剣を躱す。

SWORD VENT(ソード・ベント)][SWORD VENT(ソード・ベント)][SWORD VENT(ソード・ベント)

 一瞬の隙を突き、複数召喚した剣を鎧に向かって投擲する。剣は一か所に連続して命中し、砕けた。

「ウラァァ!!」

 大きく振られた剣を、男の頭上に向かって跳んで躱し、さらに剣を召喚する。そして、男が降り抜いた瞬間に、剣を投擲した。

 剣は同じ場所に当たり、また砕けた。

 それを見て、男は笑う。

「だーから無駄だって……」

 だが、その目が突如見開かれる。

 

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 男の周囲に、無数の剣が浮かび、今もなお数を増やし続けていた。

 異様な光景に、男の動きが一瞬止まる。

 アケビはその隙を見逃さず、空中に佇む剣を取ると、一気に数本を投擲する。鎧に弾かれて砕けるも、アケビはその手を止めない。右へ左へと飛びながら剣を振るい、鎧の男に向かって投擲していく。

 鎧の男がムキになって斬りかかるも、剣でそらされて失敗する。

「クソがあああ!!」

 やけくそで大きく振り下ろした斬撃を回避し、アケビは一点に向かって突きを放つ。

 バキッ

 甲高い音が響く。が、今度は剣は砕けなかった。

 代わりにその音が聞こえてきたのは、男の鎧の方だった。

 最後の一撃を、アケビが二本同時で放つ。今度も剣は砕けず、嫌な音は、男の方から聞こえた。

 バキンッ

 鎧の一部に、決して小さくないヒビが入る音だ。

「!?」

 仮面の奥で、男の顔が驚愕に歪むのが分かる。

 その隙を、意外性No.1の男は見逃さなかった。

 キィィィィィン!!

 甲高い音を立てて、ナルトの手の中で青いチャクラが高速回転を続ける。

「ぅおおおおおおおおおお!!」

 雄叫びとともに、手の中の螺旋丸が一回り以上大きくなる。

 師より受け継いだ技で、弟子は不埒者を討つ。

「大玉螺旋丸!!」

 先程よりも大きく、激しい音と閃光が弾ける。強力になった螺旋丸が、ヒビの部分に命中して鎧を抉っていく。

 球体が埋まった瞬間、強烈な衝撃が鎧の男の体に走る。

「ギャアアアアアアアアアアア!!」

 悲鳴を上げた男の面が、衝撃で割れる。凶悪な顔面で白目を剥き、そして吹き飛んでいった。

 バキバキバキバキッ

 男の体は大樹の枝を砕いていき、最後には一本の幹に激突した。

 沈黙した男の腰で、バックルが砕け散った。

 

「忍法・超獣戯画!」

 筆と墨と巻物を持ったサイの手が素早く動き、白紙に唐獅子を描いていく。

 すると、完成した画が浮かび上がり、立体化して巨大蜘蛛に立ち向かう。

 大したダメージは与えられないが、足止めにはなる。その隙に、さらなる大物を描き始める。

「風神、雷神!!」

 二体の巨神が浮かび上がり、巨大蜘蛛に組みつく。

 剛腕とオオハサミがしばし拮抗し、ギシギシと軋む。

「木遁・太棍戒!!」

 ヤマトが印を結ぶと、左腕が大樹へと変化し、巨大蜘蛛に向かって伸びていく。蜘蛛が抵抗する隙も与えず、縛り上げていく。

 ヤマトが力を込め、縛り上げた蜘蛛を大地に向かって叩き付ける。

 ズン! と音を立てて沈んだ蜘蛛の上に、サイの墨絵の巨神が投げ飛ばした蜘蛛が次々に重なって沈んだ。

「サクラ!」

 叫んだヤマトの上で、影が躍る。そこにいたのは、拳を大きく振り上げた、里一番の怪力使い。

「しゃ―んなろおおおおおおおおおおお!!」

 独特の怒号を上げ、サクラは剛拳を蜘蛛に向かって叩き付ける。

 ズドォオォォォォオォオォン!!

 娘一人が出したとは思えない音を立てて、拳の周辺の地面が大きく陥没した。

 蜘蛛は一瞬ピクリと震えると力尽きる。

 かと思った直後、蜘蛛は真っ赤な炎を吹き上げ、爆発炎上した。

 爆風を受け、ヤマトとサイは思わず顔を手で覆う。

「ぐっ……」

「迷惑な最後ですね……」

 ぼそりと、サイが感想を漏らすと、ヤマトは苦い顔になった。

 そんな中、煙の中にピンクの髪がちらつく。

「…獲物にやられてちゃ、世話無いわよね」

 握っていた拳を開き、息をつくサクラだった。


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