【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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第二章 望んでいた繋がり
1.仮面の忍


 不審な忍の目撃があったのは、深い森の奥だった。

 大樹の枝の上を飛び、目的の場所へ急ぐ。

 柔らかい日差しが、木の葉の間から漏れる中を、軽々と飛びながら行く。

 全員が前方をまっすぐ見据え、進んでいく中、ナルトだけがちらちらと何度か後方を振り返り、眉間にしわを寄せていた。

 それに気づいたサクラが、呆れた顔になった。

「ちょっとナルト! よそ見してたら危ないわよ!」

 サクラの言葉にはっとなり、ナルトはばつが悪そうに頭をかいた。

「いや、俺ってばそんなドジさすがに踏まないってば……」

 そう言いかけたナルトの顔面に、飛び出て生えていた枝がぶち当たり、「んがっ」と悲鳴を上げてひっくり返った。

 一行は足を止め、落下寸前に枝にぶら下がったナルトを無言で見下ろした。

「…………」

「…完っ全に集中が乱れてるね。帰った方がいいんじゃない?」

 何とも言えないサクラの表情と、サイの悪気のない一言が、ナルトの心にグサリと突き刺さる。ナルトはがっくりと項垂れた。

 ヤマトもジト目でナルトを見つめ、大きくため息をついた。

「ナルト、そんなに自分で置いてきた子が気になるのなら、班編成を見直した方がよかったかい?」

 ヤマトの言葉を、ナルトは「へっ!」と笑って返した。

「みんな任務に入ってんのに、俺だけ留守番なんざしてられっかよ!」

 威勢のいい返事に、またも頭を押さえる第七班。

「そうは言っても…………!」

 言いかけたヤマトと、腕を組んでいたサイが同時に身構えた。

(誰かいる……!?)

 視線を感じた二人は、それぞれ印と巻物を備えた。

 元暗部(暗殺部隊)の二人のただならぬ雰囲気に、ナルトとサクラもワンテンポ遅れて、苦無を取り出して構えた。

 一陣の風がその時軽く吹き、木々の葉がざわめく。

 冷や汗を流しながら、息を殺す、ひたすら長い時間―――。

 ふいにヤマトとサイは、その構えを解いた。

「……気のせい、か?」

 暗部の勘を以てしても、一瞬感じたと思われた存在は、感知できなかった。

 二人が忍具を降ろし、ナルトとサクラもようやく息をついた。

「…っはー、ビビったー」

「脅かさないでくださいよ、ヤマト隊長」

 二人の非難に、ヤマトは「すまない」と短く謝罪し、サイもゴメンと頭を下げた。しかしその間にも、二人の目は訝しげに後ろの方に向けられていた。

 ヤマトは警戒を続けつつ、再び前方へ向き直った。

「さ、時間を食ってしまった。先を急ごう」

「オウ!」「はい」と返事が続き、四人は再び大樹の森の中を進んだ。

 

 ナルト達が去った場所から離れた、大樹の陰。

 そこに身をひそめていた人影は、じっと彼らの背中を覗いていた。

「…………」

 風に金の髪を流すその人影は、ただ無言でその後を追った。

 その双眸に輝く、碧眼とともに。

 

 枝の上を飛んでいたヤマトは、しばらくして急に立ち止まった。

 後ろにつくナルト達を促し、その周囲に散らせる。

 さらに高い位置に上ったナルトは、気配をできる限り殺しながら、真下に目を向けた。そして、思わず眉をひそめる。

 大樹の根元にいたのは、全身を黒い鎧で覆った奇妙な戦士。いくつもの鉄片が隙間なく繋がれ、人型を成している。右腕には大型の籠手が装着され、顔までものっぺりとした仮面で覆われている。節だったその形状は、昆虫に似ていた。

「……なんだァ、アレ」

 つい口に出てしまったが、その感想はみんな同じだった。

「忍かどうかも判別できないね。もしかしたら、マダラが寄越した新型の人間兵器かも知れない……気をつけよう」

 ヤマトの指示に、一斉に頷く。

 鎧の男は、木々の間をキョロキョロと見渡しながら歩いている。気だるげな様子で、何かを探しているようだった。

 鎧の男から注意をそらさぬように気を配りながら、ナルトはふと気づいた。

「…アレ?」

(そういや、この場所って…)

 ナルトが気付いた時、鎧の男はやれやれというふうに肩をすくめ、近くにあった岩の方に向かった。

 その岩を見て、ナルトの雰囲気が変わった。

 丸めの岩に、三本のクナイが突き立てられ、糸で繋がれている。真っ白な紙でできた花束が供えられる岩には、『師』と彫られていた。

 鎧の男はあろうことか、見るからに神聖と分かるその場所に割って入り、紙の花束と苦無を蹴り飛ばすと、岩の上にどっかりと座りこんだ。

 一瞬で、ナルトの頭は沸騰した。

 ギリッと歯が軋み、手に力が篭る。

「―――ふっっっざけんなぁ!!」

 自分でも経験がないほど低い怒りに満ちた声で、ナルトは吠えた。

 怒りに任せて、ナルトは鎧の男に向かって突っ込んでいく。

「ナルト!」

 ナルトの咆哮と、サクラたちの声に気付き、鎧の男はようやく頭上を見た。

 男が危機を理解するよりも早く、ナルトの拳は男の顔面にめり込んだ。男は声をあげる暇もなく、軽々と体が吹っ飛び、大樹の幹に激突した。

 鼻息荒く、ナルトは鎧の男を睨みつける。

「てんめぇ……! 俺の師匠の墓に何してやがんだ!!」

 すると、幹から体を引っこ抜き、鎧の男も仮面の下からナルトを睨みつけた。仮面と鎧には、傷一つ付いていない。

「…墓だァ?」

 ガラの悪い、くぐもった声が聞こえた。不機嫌そうに首を鳴らし、舌打ちする。

「うっとうしいガキが……。ただの石に座ってただけで俺様を殴りやがって!!」

 男は悪びれる様子もなく、口汚くナルトと、師匠自来也を罵った。

「てめぇ……ぜってー許さねェ!!」

 苦無を抜き、ナルトが斬りかかる。

 男はフンと鼻で笑うと、鋼鉄の籠手で軽々とあしらった。

 しかしナルトは諦めず、拳を、掌底を、蹴りを次々に男に放っていく。そのうちのいくつかが、鎧の男にヒットして、男は何度もよろけた。

「このっ……クソガキぃ!!」

 男は隙をついて一旦ナルトから離れると、腰に巻いたバックルから、札のようなものを取り出し、籠手に挿入した。

SWORD VENT(ソード・ベント)

 籠手から発せられた声に、ナルトは警戒して身構えた。

 すると、どこからともなく一振りの剣が飛来し、鎧の男の手に収まった。

「!?」

 目を見開くナルトに、鎧の男は仮面の下で、ニヤリと下卑た笑みを浮かべた。

「さぁ、遊んでやるよ……クソガキ」

 

 ナルトが単独で飛び出して、戦闘が否が応無く始まり、ヤマトは頭痛を感じて頭を抱えた。

「ハァ…、まぁでも自来也先生の墓にあんなことされりゃしょうがないか……」

「とりあえず、加勢しましょう」

 そう言ってサイは、巻物と墨を取り出した。

 だが、その時。

「や…、ヤマト隊長、サイ……!!」

 震えるサクラの声に、振り向いた二人。サクラは顔を青ざめさせながら、「アレ、アレ…」と何度も頭上を指差していた。

 つられて、顔を上げるヤマトとサイ。そして、二人の目に映ったのは。

 巨大な、蜘蛛の大群だった。

 人の数倍ほどはある、鋼の体を持った蜘蛛が、辺りに糸を張り巡らせて蠢いている。よく見れば頭があるべき部分には、巨大なハサミを備えた人型の上半身が生えていた。

「…………」

 ヤマトとサイは、普段よりさらに無表情で硬直し、巨大蜘蛛が迫り来るのに、咄嗟に動くことができなかった。

 

 キン、と苦無と剣が火花を散らす。

 怒りと、持てるすべての力で、ナルトは鎧の男にぶつかっていく。

 最初はナルトをなめきっていた男も、その気迫に徐々に押され始め、体勢が崩れ始めた。

 拳、蹴り。凄まじい攻撃が、男の防御を崩す。

「ウォラァァ!!」

「コイツっ……!」

 ガシン、と強烈な蹴りを籠手で受け、鎧の男は大きく跳ぶ。

 タン、タンと軽やかに跳ね、大樹の幹にピタリと張り付いた。

「待ちやがれ、テメェ!!」

「待てと言われて待つバカがどこにいやがる!!」

 男は鼻で笑うと、腰のバックルからもう一枚の札を取り出した。それを籠手に入れると、今度は幹に手のひらを叩き付けた。

ADVENT(アドベント)

「口寄せの術!!」

 無機質な声とともに、どこからかガラスの割れるような音がした。

 そう思った時、突如頭上から真っ黒な何かが襲い掛かった。

「うわっ!?」

 無意識に、ナルトはそれを蹴り飛ばした。

 黒いコオロギを擬人化したような異形は、唸り声を上げる。空中で回転し、ドンと地面に降り立った。すると、異形に向かって男が命じる。

「行け、サイコローグ」

「ギチチチ……!!」

 サイコローグは顎を鳴らすと、節立った足を折り曲げ、一気にナルトの方へジャンプした。

「うわわわ!? な、なんだってばよ、コイツ!?」

 鋭い爪を躱しながら、ナルトはクナイで応戦する。

「俺もいるのを忘れんなよ!!」

「!?」

 いつの間にか背後に迫っていた鎧の男に殴り飛ばされ、ナルトは地面に転がった。

「どうした? 許さないんじゃなかったか?」

「……てんめぇ……」

 悔しさに顔を歪ませながら、ナルトは十字の印を結んだ。

「影分身の術!!」

 ボン、ボンといくつもの煙が弾け、その中からナルトの分身が現れた。

「だらああ!!」

「ウオラァ!!」

 怒号をあげながら、一斉に鎧の男に殴りかかるナルト軍団。

「へっ、単純な奴の動きは読みやすいねっ……!!」

 しかし、男は軽い最低限の動きで、それらを避ける。

 そして、またバックルから札を抜き、籠手に挿入した。

FINAL VENT(ファイナル・ベント)

 その瞬間、暴れていたサイコローグがビクンと震え、男の元へと飛んだ。

 すると、その体が見る間に変化していく。

 手足が折りたたまれ、車輪が生え、ハンドルが出る。

 瞬く間に機械の二輪車に変化したサイコローグに、鎧の男が飛び乗る。

 疾走を始めた二輪車が独楽のように回転を始めた。落ちた木の葉がバラバラになるほどの勢いで、ナルトに向かって突っ込んでいく。

「風遁・山嵐!!」

 回転する凶器となった敵は、固まるナルト軍団に突っ込んだ。

 ボボボン!

 たちまち煙となって消滅していくナルト達。

 ついには、その中に混じっていたオリジナルのナルトも撥ね飛ばされた。

「ぐあっ!!」

 高く放られ、気の幹に激突する。

 激痛が走ったが、何とか意識は保った。

 しかし、そんな状態のナルトに、敵は非情にも再び迫っていく。

「死ねェ、クソガキ!!」

 躱そうとするものの、激痛で動けない。

「くっ……」

 ナルトは思わず、目をそらした。

 が、その時、ふわりと柔らかい感触が、ナルトを現実に引き戻した。

「!?」

 直後に掴みあげられる感覚を、大樹に激突する鎧の男を見下ろしながら感じる。

 ナルトはそのまま枝の上にドン、と押し付けられ、うめき声を漏らした。

「……!!」

 そして、掴みあげた張本人を見て、目を瞠る。

 長い金髪に、オレンジ色の服を着た少女。

 アケビがいたのだ。

「……お前っ、なんでっ……!?」

 困惑しながら、ナルトはアケビを凝視する。

 すると、アケビは懐に手を入れ、何かを取り出す。

 ビッ

 ナルトに向かって、手を突き出した。

 思わず目を瞑るナルトだが、何もないことに気付き、困惑気味に目を開く。そして、アケビが持つものに目を見開いた。

 アケビが突き出した手にあったのは、模様も紋章もない、黒い箱のようなものだった。鎧の男が持っていたそれに似た箱を、アケビはナルトの額当ての前にかざし、その表面に映し出す。

 途端に、ナルトの額あてに映ったアケビの腰に、一本のベルトが出現する。そのまま鏡の外へと飛び出して、アケビの腰に巻きついた。

「!」

 驚くナルトの前でアケビは立ち上がり、箱を片手で高く掲げた。

 凛とした横顔に決意を滾らせ、敵を見据える。

「―――変身」

 小さく呟き、箱をベルトのくぼみの中に差し込む。

 すると、ベルトがガラスの割れるような甲高い音を立て、上部の赤い宝玉が輝く。

 そして、アケビの体を、いくつもの虚像のような影が覆い、一つの鋼の鎧を生み出した。

 顔には、ヘッドギアのような鉄仮面。タンクトップの前に銀の胸当てが張り付き、腰からは黒い腰布が揺れる。

 最後に首元から黒いマフラーが現れ、風にはためく。

 アケビは眉を寄せ、瞳を光らせた。

「…ナルトは、アケビが守る」

 決意を呟き、アケビは拳を構えた。


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