【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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『サスケはぜってーオレが連れて帰る!
 一生の約束だってばよ!!』

          ―――うずまきナルト


4.思わぬ波紋

 木の葉の門に向かって歩きながら、ナルトは眉をひそめて唸っていた。

「や~っぱ変だよなぁ、綱手のバーちゃんのあの変わりよう……」

「綱手様には綱手様の考えがあるのよ。あんたが気にする話じゃないわ」

 頭の後ろで腕を組んで悩むナルトを、サクラが小突く。

「それより、アレをどうすんのよ?」

「ん?」

 首を傾げたナルトを、無理矢理後ろに向かせる。

 キョロキョロと、木の葉の町を興味深そうに見渡す、碧眼の金髪少女。

 その目はキラキラと輝いていて、目に映るもの全てに釘付けになっている。

 サクラはその様子に、軽くめまいを覚えた。

「里が預かる、とは綱手様はおっしゃったけど、ちゃんと見ておいてくれる人は、私たちで探しておかないと……」

「放っとくとナルトの後をずっと追いかけてくるかもよ?」

「いやいや…、いくらなんでも」

 会話する三人の後ろで、アケビはひらひらと舞う蝶の姿をとらえた。

「ま、なんにせよ言い出しっぺのお前が責任持たなきゃねー」

「わ、わかってるってばよ! これから、イルカ先生に頼みに行こうと思ってたんだってばよ」

「ちょっと、イルカ先生だって忙しいんだからね?」

「じゃあ、エビス先生! 木の葉丸たちと一緒に面倒見てもらえばいいってばよ!」

「子供というくくりに入れちゃうわけか……」

 アケビは飛んでいる小さな蝶に夢中になり、触れてみたいと必死に手を伸ばす。蝶はそれを小馬鹿にするようにヒラヒラと舞い、アケビをあっちへこっちへふらふらと誘い始めた。

「ちゃんと考えなさいよ! 放っとくとあの子、その辺に飛んでる虫にでも目がくらんでどっか遠くに行っちゃうわよ?」

「いやいや、それはさすがに……ん?」

 そう思ってナルトが振り向くと、アケビは蝶を追いかけて、すでに随分と遠くまで離れていた。

「…って言ってる傍から!!」

「んぁ!?」

 慌ててナルトが駆け寄り、その華奢な肩を引きとめた。

「頼むからうろうろすんなってばよ!」

「う〰〰…」

 アケビは恨めしそうにナルトを見ながら、渋々手を引かれて戻ってくる。

(妹に手を焼く兄貴か、はたまた娘に手を焼く親父か……)

 カカシは必死にアケビを宥めるナルトと、ぷうっと頬をリスのように膨らませるアケビを見ながら、呑気にそう思った。

 微笑ましく思うべきか、呆れるべきか迷いながら。

 

 ナルトとアケビを見つめる視線は、もう一組あった。

「…どう思う?」

「どうともいえない。なぜなら、判断材料が少なすぎるからだ」

「…………」

 電柱の陰に身を隠し、キバ、赤丸、シノ、ヒナタはナルト達の様子を覗いていた。

「んー、今朝の奴とは匂いが違うし、嫌な匂いはしねーから敵じゃねーとは思うけど……」

「同感だ。なぜなら、俺の蟲達も全く騒がないからだ」

「わん!」

「…………」

 そう言ったキバたちだったが、その目は鋭く尖ったままだ。

「けど、素性がわかんねーってのは、確かに不気味だわな……」

 すると、頬を膨らませていたアケビが、何故かサクラに叱られているナルトがおかしかったのか、ふわりと柔らかく笑った。

 その愛らしさに、頬をほんのりと赤く染めるキバとシノ。

「…でも、可愛いな」

「…うむ」

 一方でヒナタは、悲しげな目で二人の様子をうかがっていた。

 アケビがナルトにぴったりとひっつき、うれしそうに笑っている。

 もし、自分があの中にいたなら……。

 あの隣にいるのが自分なら……。

 そんなことを思い、今のヒナタは嫉妬の塊になっていた。

(……うらやましい)

 電柱に置いた手に、思わず力が篭る。

 ビシィ!!

 途端にひびが入った電柱の表面に目を見開き、キバとシノは思わず飛び退いた。

 

「ナルト兄ちゃん!」

 悩んでいたナルトを、呼び止める声があった。

 愛すべき後輩にて、技を継ぐ一番弟子・木ノ葉丸だ。

 長いマフラーをなびかせて、元気いっぱいに駆け寄ってくる。

「任務か、コレ?」

「ん? ああ。帰ったら、しっかり修行付けてやるってばよ!」

 二カッと笑ってサムズアップをする。ふとその時、ナルトは思いついた。

「…そうだ、いっそ頼んでみっか…」

 ひとりごちると、ナルトは木ノ葉丸の前にしゃがみ込んで手を合わせた。

「なー、木ノ葉丸? 悪いんだけど、ちょっと頼まれてくんねーか?」

「ん? 何か困ったこと…で……も……」

 木ノ葉丸は、そこでようやくナルトの背後の少女の存在に気が付いた。

 綺麗な金髪に碧眼、整った顔立ち。そして、ナルトとまったく同じ服装。

 その瞬間、木ノ葉丸の脳天を雷鳴が貫き、石のように硬直させた。

 愛弟子の様子にも気づかず、ナルトは説明を続けている。

「…んでさ、アケビを預かってくれる奴探してんだけどもよー」

「……大変だコレ」

「え?」

 木ノ葉丸は、驚愕のあまり大気が震えんばかりの咆哮を上げた。

「ナルトの兄ちゃんが、知らない間に彼女作ってんぞコレ―――――!!」

 その叫びで、とある少女にピシりとヒビが入った。

 ナルトは茫然となっていたが、ややあってから誤解に気付き、大きく首を振った。

「でっ……いやいやいやいや、違うってばよ!! そんなんじゃねーって!!」

「とぼけんなよコレ! それペアルックってんだろ!! 羨ましいぞコラ――――!!」

 木ノ葉丸は泣きながらそう抗議した。

 木ノ葉丸の言葉の意味が分からないのか、アケビは首を傾げた。

「…彼女?」

「…そういえばアケビの服って、ナルトがいつも着てる奴よね、ソレ」

 ギャンギャンとうるさい会話は、サクラのその言葉でいったん終息した。

 ナルトはほっとしながら、目を細めた。

「え? だって俺ってば、女物なんて持ってる訳ないし」

「そりゃそーだけど…。そのままなんて、サイズも合ってないし可哀そうよ」

 サクラはナルトを睨むと、アケビに向き直った。

「しょーがない。一度うちに来なさいよ、アケビ。あたしの服貸してあげるから」

「や」

「なっ…!? 何でよ!?」

 思わぬ拒否に、声を荒げるサクラ。アケビは服の襟を頬に寄せ、顔を赤らめながら、小さくぼそりと呟いた。

「……ナルトとお揃い」

「やっぱ彼女か、コレ!?」

 再度炎上した木ノ葉丸に睨まれ、ナルトはまた弁解を強いられることとなった。

 

「んじゃ、ヤマト君あとよろしくね〰〰」

 カカシは気の抜けた顔で、現第七班隊長ヤマトに手を振った。

 ヤマトは悲壮な顔でため息をつく。どうにもこの〝先輩〟には逆らえる気がしない。

「何よ、結局カカシ先生来ないんじゃないの」

「いや、悪いね。俺は綱手様から別任務を言い渡されてるのよ」

 その顔が、急に微妙に気まずそうに歪んだ。

「…それよりあれ、どうすんの?」

「聞かないでください」

 カカシ、サクラ、サイはカカシの指差した方に顔を向けた。

 進もうとするナルトの上着の端を握る、少女の手。

「…………」

「…………」

 いやそうな顔でナルトが振り向くと、そこには未練がましくナルトを引き留めようとする、アケビの姿がった。

「だぁ〰〰〰〰っもうっ!! いい加減にしろってばよ!!」

「う……」

 ナルトがそう怒鳴ると、アケビはビクッと震えて上着を離した。

 だがすぐに、その目はうるうると涙で溢れ始めた。

 思わず「うっ」とたじろぐナルト。

 周囲から生暖かい目線を感じて、ナルトは苦い顔になると、ため息をついて項垂れる。

 次に顔を上げた時には、ナルトは微笑を浮かべていた。

「…んじゃ、ほれ」

 ナルトは右手の小指を立てると、アケビに差し出した。

「…なに?」

「ちゃんと帰ってくるって、約束だってばよ」

 アケビは目を丸くして、その小指を見つめる。そして、戸惑いながらも、おずおずと自らの小指を差し出し、ナルトのそれと絡めた。

 ナルトはアケビを元気づけるようにニカッと笑い、その指を固く握り返した。

 

 里を離れていく背中は徐々に小さくなり、やがて見えなくなった。

 見送ったカカシも、やれやれと肩をすくめながら火影邸に戻っていく中、アケビは未だ未練がましく門の向こうを見つめていた。

 そわそわと落ち着きなく、何度もナルトが去った方を見つめる。

「……じゃ、俺達も行くか、コレ!」

 木ノ葉丸に誘われ、「うん…」とか細く答えるアケビ。

 それでもなお、ちらちらと背後を振り返り、立ち止まる。

 動く気配が感じられなかったので、木ノ葉丸は安心させようとグッと親指を立てた。

「大丈夫だコレ! ナルトの兄ちゃんは絶対、約束は守る男だから……」

 そう言った木ノ葉丸は、そこに誰もいないことを理解できず、固まった。

「…アレ?」

 ひゅ~、と虚しい風が吹いて、マフラーが少し暴れた。

 ダラダラといやに粘っこい汗が噴き出し、背中がジットリとしてくる。

「たっ…」

 頭を抱えて、木ノ葉丸は天を仰いだ。

「大変だコレ〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰〰!!!」


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