【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE―   作:春風駘蕩

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『理屈じゃないのさ!
 その糸を持っちまった奴はそうしちまうんだ。
 大切だから…』

          ―――うみのイルカ


3.無垢な迷い子

 呼び出しは突然だった。

 花屋に向かっていた春野サクラのもとに、担当上忍のはたけカカシと、同じ班のサイが姿を現したのだ。

「サクラ。綱手様から召集だ、来てくれ」

「え…、今からですか?」

「ああ」

 いつもは抜けている雰囲気のカカシが、今日は引き締まっている。隣のサイも読み取りづらいが、真剣な表情だった。

「第七班に緊急の任務だ。まずはナルトを探すのを手伝ってくれ」

「あの、バカ……。分かりました。すぐに行きます」

 これで休みはパーか、とため息をつきながら、サクラは二人と一緒に跳び立った。

 屋根の上をはねながら、サクラは顔をしかめる。

(何やってんのよ、あのバカ……)

 能天気に笑っている顔が脳裏に浮かび、思わず拳に力が篭る。

「先が思いやられるよねぇ……」

「まぁ、いつものことですが」

 呆れた顔のカカシに対して、サイはいつもと同じ無表情。戦争を間近に控えているとは思えない、いつもと同じ風景に、サクラは深くため息をついた。

 ものの数秒で、三人はとある一軒の店の前に辿りつく。

 ナルトが常連となっているラーメン屋『一楽』だ。

「……ま、探すならここが無難かね?」

 そう独りごち、カカシは戸を開けた。

 すぐに店主のおっちゃんことテウチが振り向き、「へィ、らっしゃい!」と威勢よく迎えた。

「おっと、カカシさんかい」

「むぐ? ははひひぇんひぇい(カカシせんせい)?」

 見ると、案の定カウンター席にナルトは座り、ズルズルと勢いよく麺をすすっていた。

「さっそくいたし……」

 カカシは呆れ果てながら、ナルトの方に近づく。

「お前なー、忍者ならいつでも動けるように召集とか気にかけてお……」

 言いかけたカカシは、ふいにナルトの隣に座っている人影に目を向けた。ぱちぱちと目を瞬かせたあと、彼は「…誰!?」と声をあげて飛び退いた。

「どうしたんで…………はぁ!?」

「え?」

 何事か、と覗き込んだ二人も、そこにいた者の姿に目を瞠り、硬直した。

 長い金髪の少女が、ナルトと同じ服を着て、カウンター席に座っている。

 慣れない箸に苦心していた少女は、二人の声に振り返り、深い海のような碧眼を向けた。麺を口にくわえたまま、「むぐ?」と声を漏らすその姿は、隣に座る少年にどうしようもないほどそっくりだった。

 

「…………で、つまりどういう事だ?」

 デスクの上で腕を組みながら、五代目火影・綱手はナルトに問うた。

 その前には、苦笑しながら頭をかくナルトと、きょとんとした様子のアケビ、そして信じられないといった様子で二人を凝視するカカシ達がいた。

「え〰〰と、その―…」

 ピクピクと震えている綱手にビビりながら、ナルトは質問の答えを探した。

 下手なことを言えば、タダじゃすまなそうだ。最悪の場合、殺される。

 そう思ったナルトが出した答えは。

「拾ったってばよ」

 だった。

 その瞬間、綱手の剛拳がナルトに飛んだ。

「馬鹿者ぉおおおお〰〰〰〰!!」

「ゲフッ!?」

 外野の予想通り、ナルトはきれいな弧を描いて飛んでいき、扉をぶち開けて壁にへばりついた。怯えて震えていたアケビが、慌ててナルトの傍に向かった。

「もっとマシな報告をせんか、お前は!!」

「いや、だって…。ホントに拾ったんだってばよ」

 ピクピクと痙攣するナルトに、アケビが健気に寄り添う。そのあまりの親密さに、周りからの誤解の視線がさらに濃くなった。

「お前……、その子に何やったのさ?」

 カカシがニヤつきながら聞いた。

 サクラはナルトとカカシに軽蔑の目を向け、サイはナルトとアケビを興味深そうに見つめていた。

「なんかやだってばよその言い方!! てゆーかホントに俺ん家の前に倒れてたのを見つけただけで……」

「そのままお持ち帰りって?」

「だーから違うって!!」

 明らかに面白がっているカカシに、ナルトが怒鳴る。

 埒の開かない会話にしびれを切らし、綱手は深くため息をついた。

「…ナルト、今の状況が分かっているのか? 戦争を前にしたこんな時に、身元不明で記憶喪失の女を連れ込むなど……」

 綱手の厳しい叱責の言葉に、僅かにたじろぐナルト。だがその顔は、何故か困惑を含んでいた。

「…分かっちゃぁ、いるけど。でも、気になる事があんだってばよ」

「何?」

 思わず綱手が聞き返す。

「アケビ、お前、ちょっと腹見せてみ?」

 ナルトがそう促すと、アケビは「うん」と頷いて上着を少しめくってみせた。

 そこには奇妙なものがあり、その場にいた全員の目が鋭くなった。

 白く透き通るようなアケビの腹部、へそのあたりを中心に、炎のような紋章が浮かび上がっている。白い円を中心に、その周りを炎が踊りながら取り囲む図形が刻まれていた。

「……これは、封印紋か?」

 綱手が困惑した様子で呟いた。

「これ、よく見たら俺の八卦封印とよく似てるんだってばよ」

「……なにか、自分と関係があるはずだ。だからここに置いておく、と?」

 綱手が厳しい表情で尋ねると、ナルトはまっすぐに見つめ返し、「ああ!」と答える。綱手はしばらくの間唸っていたが、唐突に「分かった」と答えた。

「ソイツはしばらく木の葉の監視下に置く。暁との関連が不明である以上、信用することはできないからな」

「……アケビ」

「ん?」

 険しい表情の綱手の耳に届いたのは、ナルトの傍らにいた少女の声だった。

「私は、アケビ。……ナルトがくれた名前」

「…………そうか」

 何故か、綱手は若干表情を和らげ、肩をすくめた。

「ナルト、アケビは預かる。お前は任務へ行け」

「ん? お、おう」

 急に丸くなった綱手の様子に戸惑いながらも、ナルトは素直に頷いた。

 綱手は不安げにナルトを見つめるアケビに気付くと、恐がらせまいとするような優しい声をかける。

「大丈夫だ。安心してナルトの帰りを待て」

「……うん」

 怖いと思っていた者の思わぬ優しい言葉に触れ、アケビはほっとしたように微笑んだ。

 

 遠くなっていく五人の背中。

 火影亭を出ていく五人を見下ろし、綱手は付き人のシズネに尋ねた。

「どう思う?」

 急にふられたシズネは、慌ててアケビを観察して思ったことを告げる。

「…なんていうか、幼い、ですね。見た目と中身が一致してないというか。逆行でも起こしちゃってるんでしょうか?」

「……実際、幼いのかもな」

「え?」

 シズネは思わず聞き返した。

「生まれたての雛鳥が、初めて見た者を親と思い込む刷り込み(インプリンティング)のように……。記憶を失くして、まっさらな状態になったアケビが、ナルトを最初に見たらどうなると思う?」

「……だから、あんなに懐いて?」

「かもしれん」と、綱手は答えた。確信はないが、的を得ているように思う。

「…ナルトには、少々悪いことをしたな」

「頼れる人が、ナルト君しかいないんですね」

 二人はしばし、遠くなる小さな背中を見送った。

「…刺客にしては不自然で、あまりに無謀。例えどこかの忍だったとして、あそこまでの演技はできんだろう」

 自嘲気味に眉根を下げながら、綱手はシズネに振り向いた。

「あいつを信じてみたい。…そう思うのは火影としておかしいか?」

 そう聞いた綱手に、シズネはにっこりと笑った。

「いいえ? ちっとも!」


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