【完結】LOST GENERATION ―NARUTO THE MOVIE― 作:春風駘蕩
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その時、赤い炎と青い風が吹き抜けた。
二人の少女を烈火と疾風が包み、真紅と群青の鎧を生み出していく。
片や、龍の顔を模した鎧を。
片や、蝙蝠の翼を模した鎧を。
「…アケビ、レン……お前ら……!!」
力の息吹に目を瞠りながら、ナルトが二人を凝視する。
だが、聞こえてくる雄叫びに、その視線の向きが変わった。
「ウオオオオオオオオオオオオ!!」
異形と化したアビスの体を、大量の水が覆っていく。ごぼごぼと渦巻く激流がアビスと混じり、一つの巨大な形を成していく。
流線型の体に、尖った鼻先。三角形のひれに、鋭く並んだ牙。
凶悪で巨大な姿の鮫が口を大きく開いて吠え、ナルト達に襲い掛かった。
だが、そこへ二人の騎士が立ち塞がった。
「オラアアアアアアアァァァァァァァ!!」
凄まじい怒号とともに、二人の騎士が拳を突き出す。炎と風を纏った一撃が鮫の鼻先に突き刺さり、ズンッという強烈な衝撃が走る。
一瞬の拮抗の後、鮫の体が大きく吹き飛んだ。
巨大な体が宙を舞い、湖の中に派手な水飛沫を挙げて沈む。しかし、すぐに湖面に巨大な背びれが飛び出し、水を切りながら再び接近し始めた。
二人の騎士、アケビとレンは目を鋭くし、さらにチャクラを昂らせる。
炎と風が二人の体を包み、巨大な何かの形を成していく。
炎は太く長い蛇のような姿をとり、途中から爬虫類の四肢が生える。アケビを中心として顔が形成され、鋭く長い角と、並んだ牙が生える。そして全身を、紅色の鎧が覆い始める。
風は二つの竜巻を発生させ、それらの間に身体が生まれる。風の渦を翼に宿し、ビュウビュウという轟きと共にその体に鎧を纏っていく。
『シャオラァァァァァ!!』
『カァァァァァァ!!』
烈火の龍と、疾風の蝙蝠。
黄金の不死鳥より力を授かった二体の騎獣は、
二体が巨体を浮かせ、大鮫に向かって突進する。ダークウィング改めダークレイダーのはばたきが衝撃波を生み、湖に巨大な波を立てる。龍騎の巨体がくねり、風を切って加速する。
ザブン、と盛大に水をまきたて、大鮫が水中から二体に向かって飛び出し、並んだ牙を限界まで開いて威嚇する。
ドガン!!
三体の騎獣は、そのまま空中で激突して轟音を挙げる。
衝撃が互いを吹き飛ばし、大鮫がもう一度水中に沈んだ。だが、すぐに水中から水の弾丸が放たれ、龍騎とダークレイダーの周囲で炸裂した。
『ッ!!』
龍騎は巨体をくねらせて回避し、ダークレイダーは上昇して躱す。
龍騎の輝くチャクラの中で、アケビが素早く印を結び、大きく息を吸い込んだ。
「火遁・火炎流星弾!!」
竜の顎から、無数の火の球が放たれ、水の弾丸を迎え撃ち、相殺していく。何度も炎弾と水球が激突し、衝撃と水蒸気が生じる。
ダークレイダーは高く飛翔し、翼に宿した竜巻を高速で回転させ始めた。
「風遁・扇衝壁!!」
竜巻が巨大化し、水弾を防ぐ壁となる。
そこへ、頭の先端から巨大な刃を生やした鮫が飛び出し、ダークレイダーとレンに襲い掛かる。
ギラリと光る刃が迫るが、唐突にその体が空中で静止した。
大鮫の尾に食らいついた龍騎が、力尽くでその巨体を止めたのだ。龍騎はそのまま、喰らいついた大鮫の体を振り回し、壁に向かって放り投げた。
だが、反撃とばかりに刃が振られ、逆に龍騎も吹き飛ばされた。
二体とも壁に激突し、辺りにばらばらと瓦礫の山を降らせる。ダークレイダーもその余波を食らい、体中に少なくないダメージを負う。
大鮫はすぐに水中に戻り、大きな咆哮を放った。
『クァァァァァァン!!』
咆哮が水中で渦を巻き、塊となって湖上に突き出していく。
ダークレイダーは旋回してそれを躱すが、何十発も突き出してくる水の槍に徐々に追いつかれ始める。
ついに直撃しようとした瞬間、突き出た水の柱に大きな火の玉が炸裂して弾けた。
火球を吐いた龍騎は大きく吠え、水中に頭から飛び込んだ。
水中を自由に泳ぐ大鮫を追い、体をくねらせて水を切る。水上からもダークレイダーが魚影を追い、挟み討つ散弾を整えていく。
だが、泳ぐために進化した鮫の形状に勝てるはずもなく、龍騎はすぐに回り込まれてしまった。
手痛い尾の一撃を食らい、龍騎は再び水上に弾き出された。
しかし、それはレンの読み通りだった。
「風遁・鳴響止水閃!!」
ダークレイダーが水中に潜り、ガパッと鋭い二本の牙が生えた口を開く。
ギィィィィィィィィィィィィィ!!
凄まじい音波がダークレイダーの口から放たれた。
空気よりも遥かに強く音を伝える水中において、超音波によるこの一撃は強烈だった。
『ギャアアアア!!』
ビリビリと震える水中で、大鮫は苦痛に暴れまわる。
ダークレイダーは音波を発したまま大鮫に下に潜り込み、再び翼の竜巻を暴れさせる。
「風遁・風來砲!!」
ドンッ!!
竜巻の一撃が、大鮫を水中から弾き飛ばす。
そこへ、龍騎が体を回転させながら突っ込んでいった。
「火遁・
炎を纏った龍騎が、螺旋の竜巻となって大鮫に向かう。
凄まじい熱量の一撃が大鮫の横っ腹に突き刺さり、巨体を吹き飛ばした。
ズン、という衝撃波に耐えながら、ナルトは感嘆の表情を浮かべた。
「……すげぇ」
(感心してる場合か、ナルト……)
「!!」
すると、ナルトの視界は、一瞬で精神世界のものに切り替わった。
振り返れば、不機嫌そうな九尾がナルトを見下ろしている。
「なんだってばよ。どういう意味だ?」
『まだわかんねーのか。あのガキどもの様子をよく見ろ』
九尾に促され、ナルトはアケビとレンの方に向き直る。
アビスと同等の力と、完璧なコンビネーションの結果、アケビとレンはアビスを圧倒しているように見える。
だが。
「ハァ……ハァ……」
「っ……くっ……」
ナルトは気づいた。二人は既に、息が切れるほどの疲労に襲われていることに。
愕然とするナルトに、九尾が説明する。
『リンクが完璧じゃねーのに、初っ端から飛ばしすぎてんだよ。限界なんぞとうに超えてるっつーのにな。…大して野郎は理性が飛んでるせいか、自分が死のうがお構いなしだ。今は勝ってても、長期になれば負けんぞ』
「……クソ、どうすりゃ…」
仲間のピンチに気付けなかったナルトが、悔し気に歯噛みする。
そんな様子を見ていた九尾が、ふと口を開いた。
『……ナルト、鍵を開け。ワシのチャクラを貸してやる』
九尾の提案に、ナルトはフッと鼻で笑って見せた。
この最強の尾獣は、何度も自身のチャクラを使わせて、封印を緩めようとしてきた。そのために何度も暴走し、味方すら傷つけることもあったのだ。
今回も、そうだと思い断ろうとした。
「…その手には」
『まぁ、聞け』
だが九尾は、ナルトの拒絶を遮った。
『ナルト。あのアビスって野郎はかつてのうちはマダラと同等かそれ以上の屑だ。…そんな野郎に使われる奴らが情けないと思っただけだ。……それに』
「…………」
無言で見上げるナルトに、九尾は続ける。
『ただでさえ憎い世界を目の前で潰されちまったら、ワシはこの憎しみをどいつにぶつけたらいい?』
そういって、九尾は嗤う。
要は、自分の獲物を奪われてたまるか、ということか。
しばし考えていたナルトは、やがて顔ににやりと笑みを浮かべた。
「……良いぜ、どうせ暴れんなら」
ナルトは九尾に背を向け、腹に指を立ててぐっと回した。
ガシャン!! と大きな音とともに封印が開き、九尾を閉じ込めていた巨大な檻が音を立てて開き始めた。
「テメーと一緒にとことんやってやる!!」
『ケッ!!』
互いに悪態をつき、一体の尾獣と人柱力が、一時限りのタッグを組んだ。
一度だけって決めたはずなのによ、と自分に皮肉を呟きながら。
「ハァァァァァ!!」
『シャオラァァァ!!』
雄叫びと共に、龍騎とアケビが紅蓮の火を吐く。
だが紙一重で躱され、外れた火球が湖面で爆発する。
「ハァッ……ハァっ……」
アケビは荒い呼吸のまま、水中のアビスを目で追う。疲労のためか視界がかすみ、体がぐらぐらと揺れて気分が悪くなる。限界などとうに超えていた。
『…アケビ、無理をしすぎだ。死ぬぞ!』
「……何の、これしき……」
見栄を張り、無理やり笑みを浮かべるアケビだったが、一瞬意識が乱れ、体がぐらりと傾ぐ。そして、龍騎の体も少しよろめいた。
その隙を見逃さず、水飛沫を立ててアビスが飛び出した。ハッと気づいたアケビが身構えるも、まったく力が入らない。
「アケビ!!」
レンが向かうも、アビスに追いつけない。
鋭い牙が、龍騎の喉笛に食らいつこうとした、その瞬間だった。
「――――させるかってばよ!!」
待ち望んでいた声が、アケビの耳に届いた。
そしてその直後、青く輝く巨大なチャクラの塊が、アビスの腹に炸裂した。
―――超大玉螺旋丸!!
九尾のチャクラを纏い、金色に染まったナルトがアビスを吹き飛ばした。アビスは吠えながら、再び水中に沈む。
ナルトは宙を飛び、龍騎の頭の上に乗り移る。
「! 先生……!」
疲労困憊のアケビが、ナルトを見上げる。
対してナルトは、見るものが安心するいつもの笑みを浮かべた。
「大丈夫か、アケビ!!」
「は……、はい!」
「オッシャ! こっからは一緒にやるってばよ!!」
パンと拳を掌に叩きつけ、ナルトが宣言する。
すると彼の中から、九尾が言った。
(オイ、トカゲ。苦労しているようだから、ワシも力を貸してやろう。ありがたく思え)
(…………)
龍騎は九尾の物言いに、イラッと血管を浮きだたせた。
(……確かに礼は言っておこう……だが、オレをトカゲと呼ぶな)
ぎりぎりと歯を食い縛って言うと、九尾はニヤッと笑った。
そこへレンとダークレイダーが合流し、ナルト達の隣で静止した。
『なると、このままではこちらが消耗するだけだ。一気に片をつけねばならん』
「どうすんだ!?」
ナルトが尋ねると、今度はレンが答えた。
「すでにアビスは、サバイブの力と融合……いや、呑み込まれている。奴を止めるには、チャクラを消耗させたうえで内側から分散させるほかにない!」
「なるほど……で、どうやんだ!?」
上げてから落とされたレンが、半目になって肩を落とすも、やれやれと頭を振ってからアビスに向き合う。
「ギリギリまで奴を引きつけた上で、奴に大技を使わせてチャクラを削る。奴のチャクラが回復する前に……」
「一気にこっちの大技を叩き込む!!」
アケビがレンの続きを横取りし、ぐっと拳を握る。
レンは若干恨めしげな視線を送り、キッと代わりにアビスを睨みつける。
「タイミングを逃すな! 奴の一撃を食らったら即お陀仏だ、いいな!!」
「オウ!!」
ナルトが答え、拳を握る。
『シャアアアアアアアアアアアアアア!!』
焦れたのか、アビスが牙を剥き出しにして水中から飛び出した。
それと同時に、龍騎とダークレイダーも動いた。
「行くぜ!!」
「ッシャア!!」
宙を舞う龍騎に、その時、九尾がぼそっと言った。
『しくじんなよ、トカゲ』
『だからトカゲと呼ぶなァァァァァァァァァァ!!』
洞窟内に、龍騎の咆哮が響き渡った。
龍騎は怒りを力に換えると、アビスに向かって一気に突っ込む。向こうも迎え撃とうと大きく口を開けて接近してくるが、ぶつかる寸前にナルトが拳を突き出した。
九尾チャクラが巨大な腕となり、アビスの体を殴り飛ばす。
龍騎はアビスの横を通り過ぎると、大きく体をしならせて尾の先端の刃を振るう。刃が火花を散らせ、アビスの体を切り裂く。
反対側からもダークレイダーが滑空し、両翼の風の刃でアビスを切り裂く。
アビスは激昂して吠え、空中で旋回する。そしてナルト達に向き直ると、今度は目の部分を横に伸ばし、無数の水の弾丸を放ってきた。
龍騎とダークレイダーは、降り注ぐ弾丸の雨の中を飛翔し、紙一重で躱していく。
無差別に放たれる防雨の中、二体の騎獣は示し合わせたように宙を舞い、アビスの猛攻を躱していく。
『シャアアアア!!』
焦れたようにアビスが吠え、今度は自ら二体に接近する。
至近距離で浴びせようと口を開くが、その奥から水流が放たれるよりも早く、龍騎とドラグレッダーが懐に入った。
龍騎が火炎を、ダークレイダーが風を溜め込み、同時に打ち出す。
―――火遁・業火絢爛!!
―――風遁・風來砲!!
二体の咆哮が、アビスの目前で一つとなり、その威力を倍増させて襲い掛かる。
―――灼遁・炎帝無双!!
風で威力を増した火遁の一撃が、アビスの口内で炸裂する。
ボウン!!
と爆炎が上がり、煙が両者の間で生じる。
煙の中で、アビスの目がギラリと光った。
「!!」
ハッと気づいたナルト達に向かって、煙の中から巨大な水の砲弾が放たれた。
「のわっ!?」
咄嗟に二体の騎獣は飛翔し、アビスの一撃を躱す。
だが放たれた砲弾は、真っ直ぐに飛んでいく。その先には、傷ついた王蛇が膝をついていた。
「!! やべぇ!!」
ナルトが気づくが、もう遅い。
王蛇は目を見開き、迫ってくる砲弾をただじっと凝視することしかできなかった。身動きすらできず、死の予感を肌で感じていた。
その、刹那。
一つの影が躍り出た。
―――朝孔雀!!
男の声が耳に響き、王蛇がハッと顔を挙げる。
無数のチャクラの塊が、孔雀の尾を形作って王蛇の前に飛び、砲弾を防ぐ盾となった。
「!? なっ……」
王蛇は目を見開き、背後に降り立った男を凝視した。
第六景門を開いた、ガイだった。
「…なに、してんだ?」
呆然と呟く王蛇に、凱はビッと親指を突き出して振り向いた。
「一度拳を交えた俺たちは……もはや友!! 友を救うのに、理由はいらん!!」
「……は?」
王蛇は本気で困惑し、きらりと歯を輝かせるガイを見つめる。
そこへ、先ほどの水の砲弾をはるかに上回る大きさの瓦礫が飛来し、二人の周りを影で覆った。「ぬぉぉっ!?」とガイが驚きながら身構える。
「しゃーんなろおおおおお!!」
しかしそれよりも早く、サクラが飛び出し、金剛の如き鉄拳で瓦礫を粉砕した。
ドゴンッと衝撃が走り、細かくなった瓦礫が辺りに四散した。
「……!!」
「見事だ!!」
サクラの勇姿に、ガイがサムズアップを贈って称賛する。
サクラは王蛇の目の前に降り立ち、ちらりと横目を向けた。
「…ここでアンタたちに死なれると、後味悪いのよ」
「……チッ」
王蛇はサクラの目を見つめ、舌打ちとともに目をそらした。
その間にも、アビスの攻撃の余波が騎士と忍達に襲い掛かる。瓦礫や水弾が飛来し、凶器となって降り注いでくる。
「牙通牙!!」
「倍化の術!!」
「八卦掌回天!!」
だが、それら全てを木ノ葉の忍達が防いでいく。もはや、騎士と忍の間に敵意はなかった。一度相対した相手を守ることに、何の異存もなかった。
同じように、騎士達も動いていた。傷ついた体に叱咤し、鋼鉄の鎧を備えなおしてアビスの凶刃を迎え撃つ。
もう敵は、一人だけだった。
「……みなさん」
アケビは龍騎の中で、目を潤ませていた。
ぶつかり合った相手と手を取り合う姿に、胸を熱くする。
ナルトは同じ気持ちになりながら、アビスを再びにらみつけた。
「行くぜ、アケビ!!」
「……はい、先生!!」
『シャオラァァァァァァァ!!』
雄叫びと共に、龍騎が空を舞う。火炎を纏いながら、水流が飛び交う空間を雄々しく泳ぐように飛翔する。
空中で水弾が弾け、水飛沫が降りかかるも、凄まじい熱気が瞬く間にそれらを蒸発させてしまう。むんとした熱気が辺りにこもり、蜃気楼のように龍と蝙蝠の体を揺らがせた。
『シャァァァァァァ!!』
その時、アビスがひときわ大きい咆哮を挙げた。
そしてその口内に、大量の水が生成され始めた。湖の水まで溜め込んでいき、巨大な水の球体を形作っていく。水はその中で、嵐のように荒々しく渦を巻いていた。
アケビとレンは互いに頷き合い、一気にアビスに向かって突き進む。
チャンスは、一瞬だ。
巨大な水球の影になるように真っ直ぐに飛翔し、その間にチャクラを練り溜める。
アビスが超巨大水球を口から打ち放った瞬間、龍騎とダークレイダーも同時に術を放った。
―――灼遁・炎帝無双!!
火と風の融合が、水弾と激突する。
次の瞬間、高熱により水弾が一気に蒸発し、アビスの視界を完全に塞いだ。だが、アビスはさしたる反応も見せなかった。
水蒸気を隠れ蓑に、下から龍騎が顎を開いて接近する。だが、それを予想していたのか、アビスはそれを躱し、逆に龍騎の身に噛みついた。
『ぐああああっ!!』
アケビとレンは激痛の苦悶の悲鳴を上げ、逃れようと身をよじった。
だがアビスの牙は、そのままメリメリと龍騎の鎧を破り、深く食い込んでいく。
『かっ……ガハッ……!!』
「龍騎!! くっ……ぐぅぅ!!」
龍騎と痛覚を共有するアケビも、痛々しく表情を歪める。
めきめきと、耳に残る嫌な音が響き始めた、その時。
残っていた水蒸気の中から、もう一体の騎獣が飛び出した。
「ここだぁっ!!」
空高く飛翔するダークレイダーの背には、高速回転する風の刃を宿した手裏剣―――風遁・螺旋手裏剣を携えたナルトの姿があった。
水蒸気の隠れ蓑の中で乗り移ったナルトが、秘かにチャクラを練りこみ、待機していたのだ。龍騎の一撃は、アビスの注意を引き付ける囮だった。
全ては、この一瞬のために。
「いっけぇぇぇぇ―――――――――!!」
気合とともに、ナルトが螺旋手裏剣を投擲する。キィィィィンと甲高い音を立て、疾風の手裏剣がアビスに向かって飛ぶ。
龍騎に食らいついたままのアビスに、その刃が突き刺さらんとした、瞬間。
『シャアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――――――――――――――!!』
突如、アビスの咆哮が響き渡った。
それと同時に、アビスの体がまるで爆発のように膨れ上がり、はじけ飛んだ。
「うわあああ!!」
「ぐあっ……!!」
「キャアア!!」
あまりのも突然の事態にナルト達は反応できず、吹き飛ばされ、螺旋手裏剣もかき消されてしまう。凄まじい衝撃波で空中に撥ね飛ばされる中。
ナルト達を包んでいたチャクラの衣が、火の粉のように四散していった。